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MBA用語集

カテゴリー:人材マネジメント

ピーターの法則 Peter Principle

ピーターの法則とは、南カリフォルニア大学教授で教育学者のローレンス・J・ピーターがレイモンド・ハルとの共著『ピーターの法則(Peter Principle) 』において1969年に提唱した、階層型の組織において人材が無能化することを説明した概念を言う。  

 

ピーターの法則によると、階層型の組織においては、どんな人も、昇進を繰り返すことでいずれは能力の限界に達し、十分に職責を果たせなくなって無能化する。その結果、「あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる」という。  

 

例えば、営業担当者として有能でも、昇進して主任になった場合に有能であるとは限らない。有能な主任であったとしても、さらに昇進して課長となった場合、有能であるとは限らない。このように、あるポストで有能であるためのスキルや能力が、次のポストでも同様とは限らない。そのため、昇進を続けると、どんな人も、いずれは自身の限界の能力に達してしまい、能力を発揮できなくなる。無能となった人材は、それ以上の昇進はなく、その時点のポストにとどまることになる。 

 

ピーターの法則によれば、組織内に十分な階層があり、かつ十分な時間があれば、すべての人はいずれどこかの階層で「無能化」する。現実には、すべての社員が無能化した組織は少なく、何らかの仕事が行われている場合がほとんどであり、こうした場合、「仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている」としている。 

 

ピーターの法則は、年功序列型で、成果ではなく個人の保持能力で評価しがちな日本の企業にあてはまりやすく、職務内容が明確に規定され、成果によって評価される欧米では起こりにくい、とされることがあるが、これには注意が必要である。 

 

ピーターの法則は、もともと、実力によって昇進がきまる階層型の組織全般で起こる現象をまとめたものであり、過去の成果によって昇進が決まる成果主義にとりわけあてはまりやすい。年功序列の場合、能力が十分でない者が昇進する可能性がある一方で、能力が十分でありながら年数が足りずに次のポストには昇進できず、結果として現在のポストで長く有能であり続ける、ということも起こりうる。この場合、「昇進による人材の無能化」は起こりやすいが、ピーターの法則が言うような「あらゆるポストは無能な人間で占められる」という状態にはなりにくい。年功序列などの評価制度には、組織や人材の無能化を引き起こす側面もあるが、これらは「ピーターの法則」とは分けて考える必要がある。 

 

「ピーターの法則」は、社会においてよくある傾向についてユーモアを交えて書かれたもので、実証研究によるものではないため、社会科学上の普遍的法則とはみなされていない。しかし、社会の様相を捉え、わかりやすい形で示した点で広く支持され、同名の書籍はベストセラーとなったほか、階層型システムや組織マネジメントを考える上で重要な視点を提供したという点で功績が認められている。 

 

なお、著者のローレンス・J・ピーターは、書籍で扱った分野を「階層社会学」(Hierarchiology)と名付け、社会科学の新しい一領域と称している。 この訳語から、日本においては社会学における一法則としてピーターの法則が紹介されることがあるが、これはピーター自身による(ユーモアも交えた)創作領域であり、社会学の一分野として確立した領域ではない点にも注意が必要である。  

 

ピーターの法則については、その真偽を検証したものや、回避方法の検討など、多くの後続研究がある。中でも注目された研究は、2018年にハーバード・ビジネス・レビューで発表されたベンソンら(2018, Benson, Li, and Shue)によるもので、214の企業で5万人以上のセールスパーソンを対象に、管理職への昇格についての調査を行っている。この調査からは、管理職への昇格の殆どは過去の営業成績によるもので、管理職としての適性は考慮されていないことや、昇格後の管理職としての成果は高くないことが明らかになっている。 

 

同研究では、ピーターの法則を回避するために企業でとられている対処策の例が紹介されている。代表的なものは以下のとおりで、いずれも、過去の成果と昇進を分けて考えることがポイントとなっている。 

 

・成果に対し、昇進ではなく金銭的インセンティブを与える 

成果に対し金銭的に報いることで、昇給のために昇進させる必要がなくなり、管理職に適した人材を昇進させる余地が生まれる。 

 

・マネジメント能力と担当職務の遂行能力を分けて評価する 

管理職としての能力(チームマネジメント等)と、当該職務の遂行能力(営業実績等)を分けて評価し、管理職に対しては前者を重視する。 

 

・昇格後の可能性を評価としてとりいれる 

評価の際、過去の実績だけでなく昇格後のポテンシャルの高さについても評価する。ポテンシャルが高いと判断された候補者は昇格させ、ストックオプションなど中長期的なインセンティブを与えてポテンシャルの実現を促す。過去の実績の評価が高い者には金銭的報酬で報いる。 

 

 

「無能な人が昇進する」という点で、ピーターの法則と合わせて取り上げられるものに「ディルバートの法則」がある。これは、職場の様子についてシニカルに描いたアメリカの人気漫画「ディルバート」の作者であるスコット・アダムズが1995年に発表した見解で、1996年には同名の書籍が出版されベストセラーとなっている。 

 

ディルバートの法則によると、「最も無能な社員は、最も実害の少ないポスト、つまり管理職へと異動させられる」。アダムスは、顧客と接して話をする、製品を実際に改善するといった、主に組織の下位層が行う仕事こそが根幹業務であるとし、こうした業務がうまくできない者は、根幹業務の邪魔をしないよう管理職となり、ビジョンを描いたり改善プランを作ったりといった「根幹ではない業務」に付く、としている。 

 

ピーターの法則が「前のポジションで有能であった者が昇進する」としているのに対し、ディルバートの法則は、「前のポジションで無能だからこそ管理職に昇進させられる」としている点に大きな違いがある。 

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