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- 日本国内MBAの概況
MBAとは
日本国内MBAの概況
1.従来の年功序列型社会では異質だった日本におけるMBA
2000年以前、欧米でMBAは社会に広く浸透していましたが、日本における状況は大きく異なり、MBAホルダー(MBA取得者)はまだ希少な存在でした。その理由は、経営幹部の育成・登用に関する日本独特の慣習が大きく影響しています。終身雇用制度が多くの日本企業に浸透しており、経営人材は年功序列的に内部から登用されることが多く、経営人材育成もOJTを中心とし、ジョブローテーションで複数領域の実務経験を積ませながら、時間をかけて行うのが一般的でした。そのため、経営人材を社外で短期間で育成するMBAのニーズは欧米ほど高くはありませんでした。
2.2000年代、大きく変化する日本社会で注目され、国内MBA検討者数は増加
2000年代に入り、日本国内のビジネス環境は大きく変化しました。グローバル化が進み規制が緩和され、インターネットが普及し、ITやAIなどの技術が進化する中で、ビジネスモデルやルールが大きく変化しました。その結果、積み重ねた経験や専門知識だけでは解決できない課題に直面することが増え、急激な環境変化に対応できる意思決定のスピードも要求されるようになりました。こうした中で、短期間で効率よく経営の幅広い知識やマネジメントスキルを身に付けられるMBAが、日本でも注目されるようになったのです。
2000年代初頭までの日本では、MBAといえば海外のビジネススクールへ企業から派遣されて取得するか、もしくは私費で一定期間(2~3年)の休職、または仕事を辞めて留学し、取得するのが主流でした。しかし2003年からは、海外でMBAを取得する日本人が減少する一方、国内でMBAを取得するビジネスパーソンが急増しました。正確な数は不明ですが、多くの海外ビジネススクールが採用している試験であるGMAT(図1の下の用語説明参照)の日本人の受験回数が減少していることが伺えます。GMATは、ひとりが年に何度か受験しますが、日本人のGMAT受験者が平均して年3回受験すると仮定すると、受験者数は2002年から2006年の5年の間に約2,500人から約1,200人に半減したことになります。これとは対照的に、国内MBAを目指す学生数は増加しました。具体的には2003年に1,184人であった国内MBA(MOT含む)志願者は、2006 年には2,736人と、2.3倍に増加しました。入学者数も同じ期間で3.4倍に増えています(出典:2007年9月21日開催文部科学省中央審議会大学分科会大学院 部会配布資料)。
その後、2007年ごろからインターネット環境の進化により、オンライン上での教育プログラムが増加し、2015年ごろからは、録画した動画やライブ中継される動画を視聴するだけの受講スタイルではなく、オンライン上でリアルタイムでディスカッションできる(参加者同士が会話しながら授業を進めることができる)仕組みを導入することで、オンラインでも教室で学ぶのと変わらないクオリティーのMBAプログラムが展開されるようになりました。
オンラインでの学習は学ぶ場所の制約がなく、転勤する可能性が高い人や産休・育休、介護などライフスタイルの変化でビジネススクールへの通学が難しい人、ビジネススクールが近くにない地方に住んでいる人、海外に居住する人もMBAの取得が可能です。
国内志願者数:専門職大学院修士課程のみ(MOT含む)
出典:文部科学省中央教育審議会大学分科会大学院部会配布資料国内専門職大学院修士課程ピジネス・MOT志願者数
海外志願者数:GMAT日本人受験回数より1人の受験回数を3回と仮定してグロービスが算出
出典:Graduate Management Admission Council 資料
用語説明
【 GMAT Graduate Management Admission Test 】
GMATとは英語で行う学力判定試験のひとつで主に欧米の1,000以上のMBAスクールが採用している。試験は作文力(Analytical writing assessment)、数的能力(Quantitative section)、語彙力(Verbal section)の3つから構成されている。アメリカの教育団体ETSの傘下にあるGMAC(Graduate Management Admission Council)によって開発、管理されている。MBA取得を目指して海外のビジネススクールに出願する際このGMATのスコアを求められる場合が多い。GMAT受験者の大半は海外MBA志願者であるため、GMAT受験回数から海外MBA受験者数のトレンドを類推することができる。
3.さまざまな特徴を打ちだす国内MBA。定員をはるかに上回る志願者を集める人気のビジネススクールから、定員割れのスクールまでさまざま。
国内でMBAを取得できるビジネススクールは、提供するMBAカリキュラムや科目、実務家教員の割合、授業形式、開講形態、立地、人脈形成などにおいてさまざまな特徴を打ちだしており、実際に得られる内容はそれぞれまったく異なると考えたほうがよいでしょう。故に、国内の全てのMBAプログラムを提供するビジネススクールが、学生や企業、社会から同じ評価を得ているわけではありません。社会人や企業のニーズを捉えられず、定員割れが生じているMBAプログラムもあれば、ビジネス環境の変化や次代を見据え、実践性を重んじるだけでなく、常にカリキュラムを見直すMBAプログラムを提供することで、学生数を伸ばし続けているビジネススクールも存在しています。外部環境の変化により、企業経営が複雑性を増しており、日本国内においてもMBAは、一定の認知や評価を得るようになりましたが、国内MBA各校の内情はさまざまなため、MBA取得検討者は各校の提供しているMBAプログラムの内容をしっかり吟味する必要があります。
4.現在の国内MBAプログラム(ビジネススクール)は実践志向が人気
これまで国内の経営大学院(ビジネススクール)の多くが、アカデミックな知見の提供を重視したMBAのカリキュラムを提供していました。しかし、現在人気を博しているビジネススクールは、プログラムの特徴に「実践力の向上」を掲げるところがほとんどです。その流れを受け、既存の経営大学院(ビジネススクール)でも、実務家教員比率の増加、ケースメソッドやフィールドワークの採用など、実践志向のカリキュラムに改編するビジネススクールが増えています。
しかし、各ビジネススクールが提供している授業を見てみると、実践力を向上させるための手法やスタンスは異なります。講義形式の授業でビジネスに関連する知識のみを大量にインプットすることにとどまっているMBAプログラム、修士論文を課すことで研究スキルやリサーチ力を高めるMBAプログラム、経営の知識を実務で成果を上げるために活用する思考法を実務家教員によるディスカッション形式の授業を通じて鍛え抜くMBAプログラム、ディスカッション形式の授業での実践力強化に加えて、リーダーとして成果を出し続けるために必要なマインドの醸成やネットワーク強化にも力を入れるMBAプログラム、テクノロジーの進化がビジネスモデルを大きく変えるこれからの時代を見据えたカリキュラムを提供するMBAプログラムなど、実践力向上の手法はさまざまです。
5.社会人の学び直しと国内MBAプログラム(ビジネススクール)
近年は「人生100年時代」と言われ、大学で得た知識だけでは社会で活躍し続けることが難しく、社会人の学び直しの重要性が高まっています。社会人の学び直しは「リカレント教育」とも呼ばれ、生涯にわたり就労と就労に活かすスキルを磨くための教育を繰り返すシステムです。従来、終身雇用制度が一般的だった日本も、転職が一般的になり雇用の流動性が高まりました。時代の変化に対応できる人材の拡充を目指し、政府も社会人の学び直しを推進し、給付金の助成などを行っています。
社会人の学び直しには多様なスタイルがあり、その学びの選択肢のひとつであるMBA取得には、主に2つの方法があります。1つ目は、仕事を退職・休職し、平日の昼間にフルタイムで学ぶ全日制でMBA取得を目指す方法。2つ目は、仕事をしながら平日夜間や週末に学びMBA取得を目指す方法です。海外ではフルタイムのMBA取得が一般的ですが、日本国内ではキャリアの中断を好意的に受け止める企業が少ないことや、費用面から海外MBAやフルタイムMBAよりメリットがあると考え、仕事と両立しながら平日夜間や土日のパートタイムで受講し、MBA取得を目指す人が多いのが実態です。
国内MBAの入試の場合は、多くのビジネススクールで面接や書類審査(エッセイ、研究計画書など)が課されています。そのほか、小論文や筆記試験が課される場合もあり、各ビジネススクールの入試内容や難易度に合わせた対策が必要です。MBAの取得方法や難易度について詳しくはこちらをご覧ください。
6.国内MBAの現状と価値
日本国内において、MBAの価値はどのように考えられているのでしょうか。上場企業の管理職の約4割がMBA取得者であるアメリカと比較し、日本では現状、大学院修了者が約1割にとどまるなど(引用:文部科学省「経営系大学院を取り巻く現状・課題について」)日本国内におけるMBA取得者数は、海外と比較して相当な差がある状態でした。
これまでは、日本のビジネスパーソンがMBA取得を検討する際には、3つのボトルネックが存在していました。「高額な学費」「仕事と勉強、家庭の両立」「上司や職場の理解がない」。 しかし近年では、学費の面では専門実践教育訓練給付金の拡充があり、実質的に学費は減額となっています。また時間の面では働き方改革で残業時間が減り、ビジネスパーソンが自分のために使える時間が増える傾向にあります。加えて、上司や職場の理解についても、働き方改革の影響で業務効率をこれまで以上に引き上げる風潮が高まる中で個人の能力開発を促進する傾向にあり、ボトルネックが解消されつつあります。
現状の日本ではまだ過渡期ですが、グローバル企業ではすでにパフォーマンスとポテンシャルの2軸で人材を評価しています。ちなみに、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の幹部はほとんどが大学院卒ですが、今後は日本でも、GAFAのような企業を輩出しなければという機運がますます高まり、個人のポテンシャルを引き上げるための学びを評価する企業が増加することが予想されます。今後、ビジネスパーソンが大学院で学ぶ姿は、ごく当たり前のものとなっていくでしょう。
また、現代は「VUCAの時代」といわれ、社会の変化が激しく、将来何が起きるか予測が難しい時代です。変化に適応し生き残っていくためには、現時点で保有する知識やスキルだけに頼るのではなく、どのような能力がこれからの自分に必要なのかを真剣に考え、学び続ける必要があります。
現在はセミナー受講や資格取得のほかにも、語学やプログラミングの習得など、多様な学びの選択肢があります。しかし、なんらかの能力開発をする際に大切なことは、質の低い教育や仕事の成果に直結しない単なる資格の学習を選ぶことは、キャリア構築につながらず、時間と費用の浪費となる可能性が高いことを認識することです。一方で、経営の知識やそれらを実務に活かす手法を体系的に学び、変化への適応力を高めるMBAは、あらゆるビジネスパーソンにとって、これからの時代を生き抜くためのベーススキルに成り得るといえるでしょう。また、スキルだけでなく成長意欲にあふれる仲間を得られるビジネススクールでの学びは、豊かな人生を送るためのネットワークの構築にも寄与するはずです。