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投稿日:2026年04月14日

投稿日:2026年04月14日

なぜ今、新規事業と「志」を考えるのか――思考と行動を変えるヒント

田久保 善彦
グロービス経営大学院 特任副学長
池田 桃香
グロービス コンテンツオウンドメディアチーム
なぜ今、新規事業と「志」を考えるのか――思考と行動を変えるヒント

新規事業に携わる人同士が、立場や会社を越えて集まり、率直に悩みや試行錯誤を語り合う。そんな場をつくりたいという思いから開催されてきた「越境Lab~新規事業~」も、本記事でご紹介する第3回をもって最終回を迎えました。

第1回・第2回では、卒業生による対談や参加者同士の対話を通じて、新規事業に向き合う上での視点や姿勢が問い直されてきました。最終回のテーマは「志」。登壇したのは、グロービス経営大学院 特任副学長の田久保善彦です。能力を開発し、ネットワークを広げることは大切です。しかし、進む方向が定まっていなければ、せっかくの力も活かしきれない。当日はそうした問いを軸に、一人ひとりが自分の「志」と向き合う時間となりました。その結果、志・能力開発・人的ネットワークという3つの要素が相互に影響し合うことへの気付きが生まれ、新規事業に必要な思考と行動を変えるヒントが得られる場となりました。

本記事では、当日の内容をレポートします。第1回・第2回の内容とあわせてご覧いただくことで、この企画が目指してきた価値をより深く感じていただけるはずです。

第1回・第2回開催レポート:こちら

大企業で新規事業に挑戦する卒業生に聞く:こちら

本記事の要点

  • 新規事業のアイデアが行き詰まる原因の多くは、視点・視座・視野が固定されたままであることにある。主語を変え、時間軸を変えるだけで、発想の可能性は広がる。
  • 志とは「一定の期間、自分の人生をかけてコミットできること」。大きい・小さいの優劣はなく、最初から美しい動機がある必要もない。
  • 志はサイクルを描きながら変わり、終わり、また始まる。今の自分がそのサイクルのどの段階にいるかを意識することが、次の一歩につながる。
  • 新規事業を前に進めるために必要なのは、能力開発だけではない。志・人的ネットワーク・能力、この3つが相互に影響しながら育っていく。

「主語や時間軸を変える」だけで、アイデアは広がる

田久保:新規事業に取り組む中で、「何度考えても同じようなアイデアしか出てこない」という経験はないでしょうか。その原因の多くは、視点・視座・視野が固定されたままであることにあります。主語を変え、時間軸を変える。それだけで、まったく違う発想が生まれる可能性が高まります。

「主語や時間軸を変える」だけで、アイデアは広がる

田久保:では、視点・視座・視野とは何か。この話を、組織に置き換えて考えてみましょう。「うちはフラットな組織だ」と言っても、3人集まればピラミッドができます。そのピラミットのどの高さで考えるかが「視座」、どの方向から見るかが「視点」、どの範囲を見渡すかが「視野」です。

よく「視座は高いほうがよい、視野は広いほうがよい」と言われますが、それは誤解です。高いところからしか見ていないリーダーは「現場が分かっていない」と言われる。かといって現場に降りたまま経営の批判をするのも、組織にとってプラスにはなりません。本当に必要なのは、現場に降りて空気を吸い、感じたことを携えてもう一度自分のポジションに戻り、判断すること。視座を上下に動かせる能力こそが、リーダーに求められるものです。

視野も同様です。まだ見えていない領域を探るときは、広く光を当てながら前に進む。方向が定まったら、ピンポイントに絞って深く掘る。その使い分けが大切です。

とくに新規事業においては、お客さんの立場に立っているか、サプライヤーの視点を持てているか、「グローバル展開」と口にしながらその実態を具体的にイメージできているか、マーケティング出身であればエンジニアの視点に立っているか。こうした問いを常に持ち続けることが、人を巻き込み、新しいものを生み出す起点になります。

例えば大企業では、既存事業の社員が新規部門に対して複雑な感情を持つことが少なくありません。「自分たちが稼いだ利益を使われている」という思いは、心のどこかで抱いている。それでも同時に、「既存事業だけでは、会社の将来は厳しい」という現実も分かっている。そんな複雑な思いを抱えた人たちの視点・視座・視野に立ったときに、どんなコミュニケーションができるか。それを考えられるかどうかが、周囲を巻き込む力の差になります。

グロービスの学生が47人の社内アントレプレナーにインタビューした研究でも、上手くいっている人には共通して既存事業へのリスペクトがありました。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、この視点を本当に持てているかどうかが、新規事業の最初の一歩を踏み出す上でとても重要なのです。

「意味付け」で仕事への姿勢が変わる

田久保:次に、仕事の「意味付け」について考えてみましょう。

有名な例として、ドラッカーの「レンガ積み」の話があります。同じレンガを積んでいる3人の職人に「何をしているのか」と聞くと、1人目は「レンガを積んでいる」、2人目は「壁を作っている」、3人目は「教会を建てている」と答える。同じ作業でも、意味付けによってまったく異なる仕事になるわけです。

この意味付けを、自分自身のキャリアや仕事に重ねて考えていくと、「志」という話につながっていきます。

皆さんは今、新規事業に携わっています。その動機は人それぞれでよいですね。強い社会課題への問題意識から飛び込んだ方もいれば、「このままのキャリアではまずい」という漠然とした不安から始めた方もいる。あるいは、会社から突然任されてやむなく取り組んでいる、という方もいるかもしれません。

最初から美しい動機がなければならない、ということはまったくありません。大切なのは、新規事業に取り組む中で自分なりの仕事の意味、「志」を少しずつ考え、育てていくことです。

志とは、人生の時間をどう使うか

田久保:では「志」とは何か。私は15年ほど前に『志を育てる』という本を出版する際に、数十人にインタビューしました。そこから導き出した志の定義は、「一定の期間、自分の人生をかけてコミットできること」です。

「一定の期間」とは、短くても数ヶ月から1年程度のイメージです。数年単位で、自分の時間・エネルギー・関心の半分以上をそこに注ぎ込んだ状態。それが「コミットする」ということです。「仕事に半分、家族に半分」という方もいるでしょう。大切なのは、自分の人生の中で「これに情熱を燃やしていた」と言えるものが、これまでにあったかどうかです。

このように考えれば、今ここにいる皆さん全員が、すでに人生の中でいくつかの志を積み上げながら生きてきているはずです。例えば中学・高校時代、試験期間も食事中も入浴中も、頭の中が部活のことでいっぱいだった、大学受験に熱中した、つい最近あるプロジェクトにとにかく懸命に取り組んだという方もいるでしょう。それが志です。

志に「大きい」「小さい」はありません。バスケ部、サッカー部、野球部――では、どれが一番高い志ですかと言われても、比べようがないですよね。一定の期間、人生をかけてコミットしたことであれば、何でもよいのです。

志とは、人と比べるものでも、優劣がつくものでもありません。別の言い方をすれば、志とは「自分の人生の時間をどう使うか」ということです。20代・30代・40代は、体力的にも精神的にも、人生でもっとも充実した時間を過ごせる時期です。その時間を何に使いたいか。そこに意図のある人生と、意図のない人生、どちらがよいか。新規事業という、ある意味で自由に動ける特別な環境にいる今こそ、その問いと向き合ってみてほしいと思います。

志には「サイクル」がある

田久保:志を詳しく分析していくと、一定のサイクルがあることが分かります。

志には「サイクル」がある

田久保:例えば、野球で日本一を目指してひたすら練習した高校生がいたとします。その志は、高校3年の夏に強制終了します。部活の規則上、3年生以上は所属できないからです。高校4年生が甲子園でホームランを打つことがないように、志にも終わりが来る。

大切なのは、終わった後にどうするかです。志は変わり、終わり、また始まる。日本人は「諦めた」「気が変わった」と思われることを恐れて、自分を縛り続けることが多い。でも、終わりをちゃんと受け止めることが大切です。

志のサイクルをうまく回せる人は、終わりを迎えた時点で自分の実力を客観的に評価しています。「この実力でスポーツ推薦を狙えるか」「プロのドラフトに引っかかる可能性はあるか」を過去のデータと照らし合わせながら冷静に見極め、次の目標を設定してまた取り組んでいく。数十人にインタビューした結果、志を持って生きている人たちは皆、このサイクルをぐるぐると回しながら生きてきていました。

多くの方は「志」と聞くと、「一生をかけてやり遂げるもの」という重たいイメージを持っているのではないでしょうか。だから語らなくなってしまう。不思議なもので、小さなお子さんを持つ親は「夢を持ちなさい」と子どもに伝えます。しかし、子どもに「お父さんの夢は何?」と聞き返されると、途端に答えられなくなる。会社でも同じです。部下に「あなたは何がしたいの?」と聞く上司が、自分自身の志を語れないことは少なくありません。

もっと気軽に、志を話していいと思います。子どもの頃から積み上げてきた一つひとつの経験に「志」という名前をつけてみる。それが少しずつ積み重なっていく。そのイメージで十分です。「事業を通じて、こういう世の中を実現したい。できるか分からないけれど、信じてチャレンジする」。そうしたことを、日常の中でもっと口にしてほしいと思います。

ただ、志を持つということは「これがとにかくやりたいんです」と言うわけですから、上司や組織からすればある種“扱いにくい存在”に映ることもあります。それでも、新規事業というのは、そういうことが許容される特別な場所です。志を持ち、自分の言葉で語れる今の環境を、ぜひ活かしてほしいと思います。

「能力」「ネットワーク」「志」を相互に育てる

田久保:志が見えてきたとき、ひとりでは何もできません。どんな仲間がいるかという「人的ネットワーク」が問われます。そして最低限の「ビジネススキル(能力)」がなければ、志があっても前に進めない。能力・人的ネットワーク・志。この3つをどう育てていくかが、これからの人生設計の大きなポイントになります。

「能力」「ネットワーク」「志」を相互に育てる

田久保:私は20年間、ビジネスパーソンに必要なものを考え続けてきました。結論は、ずっと変わりません。志、能力開発、人的ネットワーク。この3つです。どれから始めてもいい。志があるから必要なネットワークが見えてくる人もいる。ネットワークから刺激を受けて志が育つ人もいる。順番に正解はなく、3つが相互に影響しながら育っていくものです。

志を一つひとつ積み上げていく中で、「自分の人生をこうしていきたい」という大きな絵が見えてくることがあります。それはそれで、とてもラッキーなことです。

ただ、60代・70代の方にインタビューをしていると、多くの方が振り返りながら「結局、自分の人生はこういうものだったな」と語ります。つまり、人生の意味は後から見えてくることが多いのです。30代の方が80歳まで生きるとして、向こう50年の志を立ててバックキャスティングで今年の行動を決める、というアプローチを勧める方もいます。

しかし世の中も、テクノロジーも、自分自身も変わり続ける中で、50年先の志をキープし続けることは現実的ではありません。これまで1万人以上の卒業生と関わり、4000人以上の志を聞いてきましたが、それができた人にはひとりも出会ったことがありません。

新規事業に最初から強い課題意識や明確な志を持って臨む人ばかりではありません。むしろそれは少数派です。この取り組みの中で「自分は何を実現したいのか」という問いが芽生え、向き合い始めるところから始めれば十分です。

今の自分が志のサイクルのどの段階にいるかを考えてみてください。すでに志が明確で動いている方も、まだ見えていない方も、ちょうど新しい目標を設定したところという方もいるでしょう。今の自分がどの段階にいるかが分かるだけでも、次に何を考えればよいかが見えてきます。志をすぐにクリアにする必要はありません。まず口に出してみる。フィードバックをもらってみる。そこから小さなきっかけが生まれることがあります。

行動を変えるヒントは、自分の「前提」の中にある

田久保:今日、隣の方と7分間、志について話してもらいました。よく出てくる感想が「肩に力を入れなくていいんだな」「応援したくなった」というものです。志とはかくあるべし、などと構える必要はない。

気軽に話してほしいのには、理由があります。志を口にすると、聞いた相手が「応援したい」と思ってくれることがあるからです。そして仕事はひとりでできることがひとつもありません。誰かを巻き込まない限り、どんなにやりたいことがあっても前には進まない。言っても伝わらないことはあるでしょう。それでも、言わなければ絶対に前には進みません。

 志がなければ生きていけないのか、というとそんなことはありません。言われたことに「はい、喜んで」と応える生き方も、ひとつの選択肢です。ただ、自分がこうしたい・こう生きたいという思いがあることは、困難な状況を乗り越えたり、学び続けたりする支えになります。そして旗を立てない限り、誰も巻き込まれてくれません。何がやりたいか分からないと言っている人に、巻き込まれようがないですよね。志を持つことに関心があるなら、ぜひ発信を続けてみてください。

行動を変えるヒントは、自分の「前提」の中にある

田久保:こういう話を聞いた直後は「そうだよな」と思うのに、なかなか行動が変わらない。それはなぜか。人間は何らかの「前提」を持って生きています。ペットボトルのキャップを開けるとき、右に回すか左に回すか考える人はいない。前提通りに動いているからです。このパターンが99パーセントはうまくいくから、脳はどんどんサボって同じ行動パターンを繰り返す。一定の行動パターンで生きていられるのは楽な反面、同じパターンから抜け出せなくなるという問題が生じます。

一歩を踏み出せる人は、日々得た刺激と真剣に向き合う瞬間を持っています。大きな出来事に巡り合わなければいけないわけではありません。リアルに体験したかどうかではなく、自分の心がどう受け止めたかが問題なのです。

新しい刺激を受け止めたとき、「この前提って本当に正しいのか」という問いが生まれることがある。そこで新しい前提と古い前提がぶつかり合い、多くの場合は古い前提が勝ってしまう。でも時々、新しい前提が勝ち、行動が変わります。

この3回のイベントを通じて、何か分かったような感じはあるけれど、行動パターンが変わっていないという方もいるかもしれません。「忙しいから」「まだ準備が整っていないから」という言葉の裏に、変わることを阻む前提が隠れているはずです。もし行動を変えたいと思うなら、「変われない自分の前提は何か」を考えてみてください。そこに気付けたとき、変わりたい先の自分に近づけるかもしれません。変わることが必ずしもよいと言いたいわけではありません。ただ、もし変わりたいと思うなら、ぜひ意識を続けてみてください。

参加者の声

当日のアンケートでは、全員が満足度5点満点と回答しました。参加者からは、こんな言葉が寄せられました。

「志について考えていると、自分がずっと同じ事業をやり続けられるのかという不安がぐるぐると出てきた。あまり不安を感じていないと思っていたが、新たな自分に気づけてよかった。考えややりたいことは変わっていいと聞いて、勇気づけられた」

「志はあるが、能力とネットワークが足りていない。そこに対応できていないということは、志がまだ足りないということに気づきました」

「志と聞くと、意識が高い言葉として敬遠しがちでしたが、ディスカッションを通じて言語化してみると、自分の中にも志があることに気づけました」

「志は一つではなく、到達するたびに変わっていくものだということに、あらためて気づきました」

新規事業に必要なのは、能力開発だけではありません。志を持ち、人的ネットワークを育てる。この3つが相互に影響し合うことで、思考と行動は変わっていきます。「志」という言葉は、ともすれば重く、遠いものに感じられます。しかしこの場で繰り返し伝えられていたのは、志は最初からなくていい、小さな経験の積み重ねでいい、ということでした。大切なのは、新規事業という自由に動ける環境にいる今、「自分はこの時間を何に使いたいのか」という問いと向き合い始めることです。その問いが芽生えたとき、志は少しずつ育ち始めます。参加者たちの言葉は、そのことを示していました。

体験クラス&説明会日程

体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。

「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。

STEP.1参加方法をお選びください

ご希望の受講形式と同じ形式での参加をおすすめしています。

STEP.2参加を希望されるキャンパスをお選びください

STEP.3日程をお選びください

絞り込み条件:

  • 5/23(土) 10:00~12:15

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催) ※卒業生スピーチあり
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

  • 5/26(火) 19:30~21:30

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催)
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

  • 6/6(土) 10:00~12:00

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催)
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

該当する体験クラス&説明会はありませんでした。

※参加費は無料。

※日程の合わない方、過去に「体験クラス&説明会」に参加済みの方、グロービスでの受講経験をお持ちの方は、個別相談をご利用ください。

※会社派遣での受講を検討されている方の参加はご遠慮いただいております。貴社派遣担当者の方にお問い合わせください。

※社員の派遣・研修などを検討されている方の参加もご遠慮いただいております。こちらのサイトよりお問い合わせください。

田久保 善彦

グロービス経営大学院 特任副学長

池田 桃香

グロービス コンテンツオウンドメディアチーム