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投稿日:2025年11月10日
投稿日:2025年11月10日
薬局DXの可能性――カケハシCEO×グロービスキャピタリストが語る医療の未来と起業のリアル
スピーカー
- 中川貴史
- 株式会社カケハシ 代表取締役CEO
モデレータ
- 福島智史
- グロービス・キャピタル・パートナーズ キャピタリスト/パートナー
日本の医療は、超高齢化や少子化に伴い、医薬品の安定供給や地方医療の維持など、多くの課題に直面しています。こうした課題の解決に向け、薬局向けソリューションを起点に医療業界全体の変革を目指しているのが株式会社カケハシ(以下、カケハシ)です。創業9年目の同社は薬局向けSaaS事業で市場シェア20%超を獲得し、未上場ながら資金調達やM&Aを積極的に展開しています。
今回はカケハシ代表取締役CEO・中川貴史氏が、グロービス・キャピタル・パートナーズのキャピタリスト・福島智史氏と対談し、創業の背景や医療におけるテクノロジーの役割、日本の医療が進むべき方向について語りました。
※本記事は、グロービス経営大学院の学生主体のクラブ活動である「グロービスヘルスケアビジネスの会」「スタートアップクラブ」と、グロービス・キャピタル・パートナーズが合同で主催し、2025年7月14日にグロービス東京校で開催された対談を記事化したものです。
社会課題のど真ん中に飛び込む
福島氏: 中川さんとは7~8年の仲ですが、カケハシは創業9年目ですよね。そもそも、なぜこの領域をやろうと思ったのですか?
中川氏: 創業前はマッキンゼーで製造業やハイテク産業などを担当し、医療とは縁遠い場所にいました。
起業をするなら、医療・介護・社会保障という最も重たい社会課題に真正面から取り組みたいと思ったんです。誰もが飛び込める分野ではないからこそ、「じゃあ自分がやるしかない」と、青臭くも決意し、日本の医療をより良くするためにカケハシを始めたという感じです。
福島: 共同創業者の中尾さんは製薬会社出身で業界知識があった一方、中川さんは専門外の挑戦だったわけですね。実際にやってみて、予想通りだったこと、予想外だったことは何がありますか?
中川: 予想通りというか、良かったなと思ったのは、カケハシのバリューである「高潔」が大事だということですね。
医療というドメインでは、倫理観が絶対に重要です。「間違ったことをして稼ぐなら会社を潰したほうがマシだ」という強さを組織として持ち続けられたことは良かったと思います。
予想外だったのはポジティブな驚きです。やる前は、厚生労働省や国の規制を壁だと思っていました。でも実際は、厚生労働省も真剣に医療を良くしようと考えていて、「仲間」でした。規制やルールは、一緒に変えていくものなんだという考えに至ることができました。
高潔な理念と事業の両立ーーエクイティファイナンスの意義
福島: 会社の社会的な理念を実現することと、VC(ベンチャーキャピタル)から出資を受け収益を明確に出していくことの両立に難しさはありましたか?
中川: 社会に良いことを成し遂げる夢のために、エクイティファイナンス(新規発行株を投資家が購入して資金を提供する方法)という武器を使わせてもらっている、という感覚でいます。
正しいことをしながら利益を出すことが、自由に夢を追求するための基盤になると捉えています。
福島: カケハシは創業9年目を迎えましたが、これからの未来を見据えたときに、日本の医療の課題は?
中川: 国民皆保険制度は持続可能性の岐路にあります。ドラッグラグやジェネリック供給不足、負担額増の議論も出ており、制度をどう維持するかが大きな問いです。また、離島や僻地の医療をどう担保するかも重要な課題です。
福島: それらの課題に対し、カケハシの持つデータはどのように役立ちますか?
中川: 我々のデータは治験ほど厳密ではありませんが、臨床環境におけるリアルワールドデータとしては非常に面白いデータ群です。たとえば、服薬を薬剤師がフォローできるアプリ「Pocket Musubi」は現在300万人以上の方にご利用いただいており、患者さんの訴えに基づく薬の効果や副作用を収集することができます。検査値や医科側の診療データとあわせていくことで、最終的には、「どれくらい効果があったか」に基づいて価格がつけられる、アウトカムベースの診療報酬のような世界を目指すことができるかもしれません。
「PMF」を超えて、組織と顧客との協創で達成される成長
福島: カケハシの事業が「これで成功する」と感じた瞬間はありましたか?
中川: 実は、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)を実感したことはないまま、市場の20%超を獲得しました。
カケハシの事業は薬局の業務基幹システムなので、プロダクト単体の良さだけでは顧客の意思決定を動かせません。良いプロダクトを作るだけでなく、営業・オンボーディング・教育・サポート体制・セキュリティなど、すべてが揃って初めてトータルとしてのソリューションを形成します。これを私は「オーガニゼーション・マーケット・フィット」と呼んでいます。
福島:当初の営業戦略は中小の薬局が対象でしたが、現在は大手向けに大きく広げています。その変化の中で、ご自身や組織の変化、「ナイスジャッジだった」と思えることはありますか?
中川: 大手薬局への営業は当初失敗しました。大手には、ガバナンスやセキュリティといった非機能要件がたくさんあり、当時の我々では対応しきれなかった。2年間撤退し、体制を整え直して再挑戦したところ、導入してもらえるようになりました。顧客のセグメントごとに、マーケットのエントリー条件をしっかり見極めることの重要性を学びました。
また、創業初期のユーザーさんには本当に感謝しています。当時は多くの機能が不足していて、使い勝手が良いとは言えない状態でした。それでも、「君たちのビジョンと想いを応援するために使ってあげるから、お金は払うよ」と言ってくれたユーザーさんがたくさんいたんです。その方々の支えのおかげで、今の我々があると思っています。
1兆円企業へ:非連続な成長の実現に向けて
福島: 今回の大型資金調達も含めて、さらに非連続な成長を目指す中で、M&Aも積極的に行っています。M&Aの際に重視していることは何ですか?
中川: 当社は、M&Aで買収した会社を放置するのではなく、「一緒に夢を実現させる仲間」としてガチンコでPMI(経営統合)を行っていくスタイルです。 一緒になることで、新しいシナジーや価値が生まれることをどうデザインしていくかを重視しています。
たとえば、最初にM&Aした医薬品の二次流通を扱う「Pharmarket」は、倉庫での検品オペレーションのノウハウが非常に優れていました。このノウハウをゼロから自社で積み上げるには10年かかります。そういった知見やノウハウを持つ仲間をグループに迎えることで、爆発的な成長を遂げていこうと考えています。
福島: 日本でヘルスケアIT企業で時価総額1兆円を超えたのはエムスリー以降ありません。カケハシの価値が1兆円になるために、あとどのようなアクションが必要でしょうか?
中川: 薬局の中だけではダメです。薬局を起点に、病院、クリニック、在宅医療のケアマネジャー、施設の看護師まで含めたトータルプラットフォームとして展開する必要があります。
たとえばですが、ゼロから自社でカルテを作るのは非常に大変ですよね。それだったらカルテを持つ良い会社さんと一緒になって、この大きな夢を作っていく方が圧倒的に速い。こういった施策を、どれだけの速度で実行できるかが重要だと考えています。
そのためには、人材も必要です。今はM&Aでグループ会社が増え、組織図を作ると兼務ばかりで、同じ顔が5つくらい出てくる状況です。超イケてるシリーズAやB(の段階にいるスタートアップ)のCEO、COO、CRO、VPoE、CTOのような方々が何組も必要です。
実は、勘違いされがちなんですが、必ずしも医療バックグラウンドが必要なわけではありません。多くの方々が、初めて医療の領域にチャレンジし、業界知識を持つメンバーと共に、これまで他業界で培われたノウハウやビジネススキルをもちいて、思いっきり活躍していただいています。
大事なのは、むしろ「本当に日本の医療や社会を変えたい」という思いに強く共感いただけるかどうか。事業を一緒にドライブしてくれる事業推進者を多様なポジションで求めています。
質疑応答
質問者A: VCとの対話について教えてください。調達する際は、医療に詳しいプロフェッショナルなVCを狙うべきでしょうか?
中川: 株式を入れるということは結婚みたいなものなので、相性を重視して投資家を選びます。事業をピッチした時の質問内容で、事業理解の深さが分かります。
バリュエーション(企業評価価値)や条件の良さではなく、「この人と一緒になれば事業を伸ばしていける仲間になれるか」という観点で選ぶことが重要です。 私自身、調達前に業界内の評判を聞き、「この人だ」と思ったキャピタリストにアプローチしてきました。カケハシの投資家陣は本当に良い人ばかりです。
質問者B: 医療分野の中でも、なぜ調剤薬局というドメインを選んだのですか?
中川: 共同創業者の中尾が薬局に着目していたのがきっかけです。当時、医師向けのサービスはすでに多くのスタートアップが参入していました。一方で、薬局の現場は30~40年間イノベーションが起きておらず、深いペイン(痛み)を抱えていました。そこに良いシステムを提供できれば喜んでもらえるだろうと純粋に思ったんです。
また、薬局業界が国の「患者のための薬局ビジョン」で転換期を迎えていたこともありますし、オンプレミスのシステムがクラウドに移行していくという事態の潮流が来ることも見えていました。
クリニックは1店舗ずつなのでスケールが大変ですが、薬局は法人化されているため、経営的な合理性に基づいて意思決定がなされます。大きな法人と一緒にスケールを出していくことで、次のチャレンジへとつなげられると考えました。
「ロマン」(現場の課題解決)と「そろばん」(事業戦略)の両方を満たす領域だったと言えます。
質問者C: 患者さんとのコミュニケーションツールだけではマネタイズが難しいというお話がありましたが、カケハシは最初からデータの価値を見据えていたのでしょうか?
中川:正確にいえば、カケハシは、 データの価値というよりも、患者さんの行動変容、例えば、「ちゃんと服薬を続ける」という価値そのものを創出することを重視しています。ただ、事業構築のステップとしては、まず投資家から見て、SaaS事業として「堅いマネタイズ」が見えることが大前提になります。深いペインに基づき、しっかりとしたエコノミクスで成長できる事業基盤があることが、投資家にとって魅力的に映る要素です。その上で、薬局向けのソフトウェア提供という限定的な市場の先に、どんな大きな未来(TAM:Total Addressable Market)があるのかを問いかけます。
カケハシのピッチ資料は創業当初からこの順序が変わっていません。堅い事業でボリュームを出して、初めて患者さんや流通に介入することに意味があるという考えです。我々は、事業を積み重ねながら、次のスケールで初めて見えてくる新しい事業の世界を、どうやって山登りをしていくかという発想で事業構築を捉えています。
【グロービス経営大学院公認クラブ紹介(2025年度)】
グロービスヘルスケアビジネスの会: 医療・製薬・介護など幅広いヘルスケア領域の課題解決をめざし、業界を超えた人材が集まるプラットフォーム。2018年に製薬業界を中心に発足し、2025年に活動領域を拡大。会員は1,200名を超え、医療・ヘルスケア分野のイノベーション創出を目指している。
グロービススタートアップクラブ:起業やベンチャー投資に関心をもつ学生・卒業生を中心に2022年に設立。スタートアップ経営者や投資家を招いたイベントやキャリア相談を行い、スタートアップのキャリアに挑戦したい人や、現在スタートアップで働いている人がつながるコミュニティとして活動している。
体験クラス&説明会日程
体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。
「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。
STEP.3日程をお選びください
体験クラス&説明会とは
体験クラス
約60分
ディスカッション形式の
授業を体験
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスならではの授業を体験いただけます。また、学べる内容、各種制度、単科生制度などについても詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。
説明会のみとは
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスの特徴や学べる内容、各種制度、単科生制度などについて詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。なお、体験クラスをご希望の場合は「体験クラス&説明会」にご参加ください。
オープンキャンパスとは
MBA・入試説明
+体験クラス
大学院の概要および入試内容の
確認やディスカッション形式の
授業を体験
卒業生
パネルディスカッション
卒業生の体験談から
ヒントを得る
大学院への入学をご検討中の方向けにグロービスMBAの特徴や他校との違い、入試概要・出願準備について詳しくご案内します。
※一部体験クラスのない開催回もあります。体験クラスの有無は詳細よりご確認ください。
※個別に質問できる時間もあります。
該当する体験クラス&説明会はありませんでした。
※参加費は無料。
※日程の合わない方、過去に「体験クラス&説明会」に参加済みの方、グロービスでの受講経験をお持ちの方は、個別相談をご利用ください。
※会社派遣での受講を検討されている方の参加はご遠慮いただいております。貴社派遣担当者の方にお問い合わせください。
※社員の派遣・研修などを検討されている方の参加もご遠慮いただいております。こちらのサイトよりお問い合わせください。
スピーカー
中川貴史
株式会社カケハシ 代表取締役CEO
東京大学法学部卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーにて製造・ハイテク産業分野の調達・製造・開発の最適化、企業買収・買収後統合マネジメントを専門として全社変革プロジェクトに携わる。イギリス・インド・米国でのプロジェクトに携わった後、株式会社カケハシを創業。
モデレータ
福島智史
グロービス・キャピタル・パートナーズ キャピタリスト/パートナー
ドイツ証券株式会社にてM&A、ファイナンスに関するアドバイザリー業務に従事したのち、2014年にグロービスキャピタルパートナーズ入社。2007年東京大学経済学部卒。
編著『ベンチャーキャピタルの実務』(東洋経済新報社)、寄稿「年金基金のためのプライベートエクイティ」(きんざい)

