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次世代リーダーに必要な「BTCスキル」
リンダ・グラットン著『ライフ・シフト』が発売されて1年半。人生100年時代は、ビジネスパーソンにとって新常識となりつつある。「生きる」と「働く」が同義に近い時代において、働き方や求められる能力は、どう変化していくのか。
「NEXTOKYO Project」を通じた新しい街づくりへの関わりやクールジャパン機構社外取締役なども務める、世界的コンサルティング会社 A.T.カーニー日本法人会長の梅澤高明氏と、ハーバード・ビジネススクールに学び、 アメリカのデザインファームでのインターンなども経て、現在はVCとしてさまざまなスタートアップに詳しいグロービス・キャピタル・パートナーズのパートナー、高宮慎一氏に聞いた。
──今世界で起きている変化を受けて、ビジネスパーソンの仕事はどのように変わっていくとお考えですか。
梅澤高明氏(以下、梅澤氏):「人生の3毛作」が標準になると思います。場合によっては、4毛作・5毛作の人も出てくるでしょう。フルタイム、パートタイムにかかわらず、ずっと同じ仕事をしているのではなく、例えば10年ごとといった節目を持ちながら次のキャリアをつくっていくスタイルが当たり前になるということです。
技術進化の中で、AIによる仕事の代替も進んでいくので、この考え方は大前提。同じ仕事を続けたいと思っていても、叶わないかもしれません。そうすると、王道は人生の選択肢を増やすことを意識して、キャリアをつくっていくことです。
今は副業制度がある企業も多いので、うまく活用して今の自分の仕事の隣にどのような新しい選択肢をつくるかを、コンスタントに考えていく。これができれば、大きなリスクを取らずとも、2つ目のキャリア(=2毛作)・3つ目のキャリア(=3毛作)へとシフトしていけます。
「新しい選択肢をつくる」のではなく突然ジャンプをするのは、大きなリスクを背負うことと同義です。多くの人が3毛作を実践しようとしたら、ジャンプではなく、今の仕事の近くからキャリアを発展させていく方が取り組みやすいと思います。
高宮慎一氏(以下、高宮氏):まさに私がそうなのですが、76世代(1976年前後に生まれたネット起業家やエンジニアを指すことが多い)はインターネットバブルという大きなテクノロジーの波を大学時代に経験した一方で、卒業するときは就職氷河期。76以降の世代は、名だたる大企業が業績不振に陥ったり、買収されたり、不祥事を起こしたりするのを目の当たりにしてきました。
社会全体が金銭的に豊かになり、個人としても物質的に豊かになっていくのが幸せの尺度だという、高度成長期の価値観の崩壊です。大企業に就職したところで、将来はわからない。
高度成長期の価値観に添うこと自体がリスクであり、「自己実現」という新しい価値観で生きたほうが、実はリスクが少ない。そういう考え方にシフトしている人も多いと思います。結果としての物質的豊かさではなくて、旅路そのものに幸せを感じる価値観を持っているのではないかと思います。
梅澤氏:「未来からバックキャスト(未来のある時点に目標を設定しておき、そこから振り返って現在すべきことを考える)」と、今でもまだ安易に言う人がいますが、10年後の業界の姿や自分のポジションを、精度高くピン留めできるわけがありません。
イマジネーションを鍛えるという意味では大事ですが、やはり自分のスキルや知識・経験といった、カードをたくさん持つことです。カードの掛け合わせがまさに、自分の選択肢になります。
高宮氏:第2次産業革命からIT革命まではギリギリ、リニアな成長をしてきたと思うので、まさにバックキャストでの将来像を描きやすかったはずです。ですが、今は次々にディスラプティブ(破壊的)な新技術が出てくる時代。
例えばAIやIoT、ブロックチェーンみたいなものです。これらは、かつては想像できなかった未来をもたらします。そのとき、まさにカードの掛け算の勝負になるのです。
梅澤さんは世界的なコンサルティング会社の日本法人会長を務めながら、東京の街づくりなどにも提言をしている。
そういった変化の中で、ビジネスパーソンにとって今後重要になる能力は何だと思われますか。
高宮氏:確実なことがない世の中に対して唯一できることは、今最大限に得ることができる情報で、精度30%でもいいから意思決定して前に進む。そしてまた新たな情報を得て、その精度を40%に上げていく力は必要だと思います。
梅澤氏:キャリアのアジャイル開発(小さな単位で実装とテストを繰り返すシステム開発の手法)と言えますね。
高宮氏:これまでは、T字(1つの専門分野に加えて幅広い知識を持つ人材)やπ字(幅広い知識を持った上で、2つの専門分野を持つ人材。T字の進化形)といったように、ビジネススキルと専門性の2軸で語られることが主流でした。それが三次元になってきていると捉えています。
「経営的な視点」とテクノロジーやマーケティングといった「ファンクショナルな専門性」。そしてもうひとつが「クリエイティブ」です。
クリエイティブとは、いわゆる「デザインマインド」「デザイン思考」といった要素。これは、デザイナーやクリエイターだけに求められるものではありません。自分のキャリアのグランドデザイン(全体の構想)を描くときにも、事業を構想するときにも必要なスキルです。
ビジネス(B)、テクノロジー(T)、クリエイティブ(C)のすべてを持つ人材をBTC型人材と呼んでいます。
「今、スタートアップという文脈で言うと、ベルリンが熱いんです」と高宮さん。写真アプリの「EyeEm(アイエム)」などカルチャーとイノベーションをかけ合わせたスタートアップが生まれている。
梅澤氏:12人のイノベーター集団で活動する「NEXTOKYO」でも、まさに感じていることです。これまでの街づくりを振り返ると、結局のところ、どんな建物をどのくらいの容積率でつくって、賃料がいくらで、どんなテナントが入って、投資採算は取れるのかどうかということに行き着きます。その先を考える余裕がない。しかし、街づくりは産業づくりであり文化づくりです。
ハードの専門家だけではダメで、 産業、文化、ライフスタイルを創っていく人たちがリードしなければいけない。未来志向で街全体のコンセプトを考え、中身を具体的にイメージし、文化や産業の担い手をつないでいく作業が重要です。
高宮氏:まさに、クリエイティブ。デザインそのものですね。
梅澤氏:しかも、始めたときは遊びに近かったけど、気がついたらそれが仕事の一部になっている。
高宮氏:VCの仕事もまさにそうです。インターネットが好きでプロダクトについてオタクのように語り合う相手との食事って、仕事なのかプライベートなのか、境目は曖昧です。面白いことをやろうとしている人を応援することが投資の仕事になるし、その人が本当に面白いことを実現できると、私自身の仕事の結果にもつながる。
梅澤氏:この人と一緒にやりたい、と思う相手と組む仕事が一番いいものができると思います。そういったネットワークを作り、自分が常に活動している状態をつくることができれば、結果的に仕事の成功にもなるし、人生の幸せにも通じますから。人生は想像以上に長いので、過程を楽しむことが大事です。
高宮氏:楽しい人と一緒に仕事をして、過程を楽しむこと。ピークアウトしない、旅路の設計とも言えると思います。
2人の出会いはグロービスの代表である堀義人氏が代表理事を務める一般社団法人G1主催のG1サミット。立場は異なるものの、これからのキャリア、生き方についてこの対談時もほぼ考えがシンクロしていた。
「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティブ(=デザイン)」のスキルは、後天的に獲得できるものでしょうか。
梅澤氏:できますよ。そもそもデザイン思考は、今までデザインの対象領域になっていなかったテーマで、デザイナーのようにものを考えるプロセスとも言われています。要は、「誰にでもできるデザイナー的アプローチ」です。
高宮氏:スタンフォードには、IDEOがデザインシンキングを用いてつくった、Institute of Design at Stanford(通称d.school)があります。それは、MBAや他のマスターとのデュアルディグリー(ある分野で学位を授与された後に、別の分野の勉強をして、一定期間に複数の学位を取得できる履修形態)でしか、d.schoolには入れないという制度なのですが、まさにカードの掛け算をつくる仕組みです。
そういう意味では、MBAとd.school、エンジニアとd.school といったように、2つの要素を学べる場は出てきつつあるのですが、3つを凝縮して学べる場はまだないですね。
高宮氏:学ぶときには目的と、意志が何よりも大切です。個人として会社や組織の中でキャリアを切り拓いていくにしても、起業するにしても、全部自分の「意志」次第という時代に入ってきているとも感じています。意志を持って、楽しめるように旅路を設計することこそがキャリア、そして人生が幸せになるコツのような気がしています。
梅澤氏:その通りです。私自身も「NEXTOKYO」をはじめ、こんなに好き勝手やるようになったのは50代に入ってから。 今は、面白いと思ったものには躊躇せずにどんどん手を出しています。自分自身の拡張とともに、本業も拡張しなければいけないタイミングです。私が拡張することが、マネジメントコンサルティングという本業拡張のプロトタイプだと思っています。
それに、「ビジネス」「テクノロジー」「クリエイティブ」という3つのピースは、何歳までに揃えましょうという話ではありません。ただ、この3つが揃っているビジネスリーダーは、ビジネスの成功確率が上がると言えます。
高宮氏:3つのスキルのうち、ビジネスだけ、テクノロジーだけ、あるいは2つだけは学べる、という学校は増えています。ちなみに弊社グループのグロービス経営大学院 のMBAプログラムでは、2016年からテクノロジーを学ぶ科目が多数開講しています。
加えて、2018年からはデザイン・イノベーション・ファーム Takramプロデュースによる、特別講座も増えました。
「クリエイティブ」の部分については、デジタルハリウッド大学大学院との単位交換によって学ぶことが可能になり、3つの領域をカバーするようになりました。
MBAはいつ取るのがベストか?と聞かれることも多いのですが、先天的にアントレプレナーマインドが強い人は、踏み出してからスキルを得ればいい。一方で、自信がなくて躊躇する人は、スキルを身につけてから一歩踏み出せばいいのです。
梅澤氏:踏み出すことで、必ず新しいものが見えてきます。
A.T.カーニー日本法人会長/パートナー
梅澤高明(うめざわ・たかあき)
日・米で20年にわたり、戦略・マーケティング・イノベーション・組織関連のコンサルティングを実施。クールジャパン、デザイン政策、知財戦略、税制などのテーマで政府委員会の委員を務める。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーター。著書に『最強のシナリオプランニング』、『グローバルエリートの仕事作法』、『 NEXTOKYO 』(楠本修二郎氏との共著)などがある。東京大学法学部卒業、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院(MBA)修了。
グロービス・キャピタル・パートナーズ パートナー
高宮慎一(たかみや・しんいち)
戦略コンサルティング会社アーサー・D・リトルにて、プロジェクト・リーダーとしてITサービス企業に対する事業戦略、新規事業戦略、イノベーション戦略立案などを主導した後、2008年9月グロービス・キャピタル・パートナーズ入社、現在に至る。IT領域の投資を担当。東京大学経済学部卒業、ハーバード大学経営大学院(MBA)修了。グロービス経営大学院教員。
BUSINESS INSIDER JAPANより転載
※肩書はインタビュー当時のものです
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