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投稿日:2019年05月16日

投稿日:2019年05月16日

「取り組むべき問い」はどれか?ロジカルシンキングの基本を学ぶ<DAY4>

岩越 祥晃
グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員

今回も前回(DAY3)同様、とある通販会社での課長と部下の島崎さんとの会話について考えてみましょう。島崎さんは「課長から何を求められているのか(=問い)」を意識しながら読んでみてください。

課長:最近、電話対応オペレーターの人数が増えてきて、育成や管理が大変になってきたな。

島崎:そうですね。派遣社員の増員とともに取引する派遣会社の数もかなり増えたので、各社の営業担当者との打合せも増えています。新人研修にもかなり時間が取られるようになって、時間がいくらあっても足りない状況です。

課長:君もなかなか大変だね。そろそろ自前で採用することや派遣社員の正社員化を考えたほうがいいかもしれないね。派遣社員は、契約条件の交渉が派遣会社経由になってしまうので、育成も含めて本人とのコミュニケーションがなかなかスムーズに運ばないからね。

島崎:そうですね。そのあたりは、派遣会社の営業担当者によるというのが実態ですけどね。仕事が回らなくなる前に手を打ちたいと思っています。

課長:そういえば、ライバルのB社はAIを活用したコールセンターを新たに沖縄と金沢に設立すると新聞に載っていたけど、うちも受注システムの更新時にどんなテクノロジーを導入するべきか、そろそろ答えを出さないとね。

島崎:最大手のC社はユーザーの購買履歴やウェブサイトでの行動履歴などに応じて、顧客ごとにウェブサイトの表示内容をかなり細かく変えていくと発表していましたね。

課長:そうなんだよ。他にも大量のデータをAIに投入して、電話対応オペレーターが見ているPCの画面で「どのような商品を勧めればよいのか」「どのようなコメントを言えば、お客様が買い増ししてくれるのか」といったアドバイスをAIが提案してくれる機能を実装するらしいんだよ。

島崎:それはすごいですね。まさにビッグデータ・マーケティングですね。

課長:来月には来年度に向けての最初の予算検討会があるから、君の意見をまとめておいてくれよ。この件も含めて、別途2人で打合せの時間を取ろう。あと、そろそろ歓送迎会のことも考えないとな。いろいろあって大変だが、諸々早めに頼むよ。

島崎:はい、わかりました。

「問い」の優先順位はどう決めるか?

さて、課長から求められていることを「問い」で表現すると、どのような内容になるでしょうか。

「派遣会社や派遣社員のマネジメントを今後どのように変えていくべきか?」
「電話対応オペレーターの直接採用をすべきか?」
「派遣社員の正社員化を推進すべきか?」
「電話対応オペレーターの育成方法を見直すべきか?」
「派遣会社の数を絞るべきか?」
「今後、自社ではどのようなテクノロジーを採用すべきか?」
「来年度の予算検討会において、どのような提案すべきか?」
「歓送迎会をどうすべきか?」

といったさまざまな「問い」が浮かんでくるのではないでしょうか。さて、あなたが島崎さんなら、この後どのように仕事を進めていくでしょう。

1つの方法は、前回のコラムで紹介した通販会社のケースでお伝えしたように、上司に優先すべき「問い」を確認するという方法です。しかし、「優先順位付けも含めて、君に任せるよ」と言われてしまう場合もあるかもしれません。こうした場合は、どのように対応すればよいのでしょうか。

まず考えるべきことは、「答えるべき問い」の優先順位をどのようにつけるかです。置かれている状況に応じて、優先順位をつけるための判断基準となる項目やその重み付けは変動しますが、ここでは特に若手ビジネスパーソンにとって外せない、そして汎用性のある項目に絞って確認しておきたいと思います。

「問い」の優先順位をつける際に、最低限押さえておくべきことは、

  • 今、答えを出すべきなのか?(緊急度)
  • 担当業務の目標やミッションに対して大きなインパクトを与え得るのか?(重要度)
  • 答えを出せるのか?(実現可能性)

の3つです。この3つの問いについて考えた上で、「取り組むべき問い」の優先順位を付けましょう。

「今、答えを出すべきなのか?(緊急度)」とは、答えを出すまでに残された時間がどれだけかあるのかを考慮し、すぐに答えを出さなければいけない「問い」なのかを判断することです。

「担当業務の目標やミッションに対して、大きなインパクトを与え得るのか?(重要度)」とは、「問い」に対して答えを出した際に、皆さんが上長と握っているMBO(Management by Objectives:目標管理制度)の項目(例えば、売上目標やコスト削減額、身につけるべきスキルを養えるのか、など)に対してどれだけ大きなインパクトを与えられるものなのかを考慮し、答えを出すことの価値の高低を判断することです。

これら2つの点を考慮して答えを出すべき「問い」の優先順位を付けた後は、「答えを出せるのか?(実現可能性)」について確認します。

次回(DAY5)は、最後に触れた「答えを出せるのか?」について、考えてみたいと思います。

岩越 祥晃

グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員

担当科目は「クリティカル・シンキング」「ビジネス・プレゼンテーション」「ファシリテーション&ネゴシエーション」。同志社大学法学部政治学科卒業、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(MBA)。エンタテインメント関連企業を経て、グロービスに入社。現在は、グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールの教員及び教材の開発を担当するとともに、株式会社グロービスにてマーケティング業務のマネジャーも務めている。