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投稿日:2022年03月23日  更新日:2024年10月01日

投稿日:2022年03月23日
更新日:2024年10月01日

経営戦略とは?~基本や流れ、優れた戦略事例まで~

著者

三井 敬二
グロービス経営大学院 スチューデント・オフィス/研究員
前平 和輝 
グロービス経営大学院 オペレーション・ファカルティ・オフィスチーム

経営戦略とは?その意義と戦術との違い

経営戦略とは「企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位を確立すべく設定された大局的な方針」とグロービス経営大学院では定義しています。

企業を成長・存続させるためには、企業が進むべき方向性を示す必要があります。その方向性を示す方針こそが「経営戦略」なのです。

経営戦略とは、「企業あるいは事業の目的を達成するために、持続的な競争優位を確立すべく設定された大局的な方針」のこと

経営戦略の意義

持続的な競争優位性を築くためには、明確な経営戦略を打ちだすことが極めて重要です。なぜならば、企業の持つ資金や人材リソースなどの経営資源には常に限りがあり、「選択と集中」が必要になるからです。経営戦略を策定することで、「自社のどのような強みを磨くべきか?」、また「何を行い、何を行わないか?」などを明らかにできます。

さらに、企業としての方向性をはっきりと示すことで、従業員の事業環境の理解が促され、能力を十分に引き出すことが可能になります。また、企業活動を支えてくれている社外関係者の共感や理解を得られ、さまざまなサポートを受けやすくなります。

限りある資源を適切に配分すること、企業活動を支える社内外の関係者からの共感や理解を得ることが、経営戦略を策定する意義です。

「戦略」と「戦術」の違い

「戦略」と「戦術」は、異なる概念のため混同しないよう注意が必要です。

戦略は、「比較的長い時間軸での方向性を示す方針」です。対して戦術は、「戦略を実現するための、局所的で短い時間軸での対応策(アクション)」になります。

例えばサッカーの場合、攻めに徹するチームもあれば、守りを固めるチームもあります。こうした大局的な方針は、チームの「戦略」にあたります。一方、試合の際に、誰にどのような順番でパスをつなぐのか、誰が誰をマークするのか、そういった具体的な対応策(アクション)は戦略を実現するための手段であり、「戦術」と言えます。「戦略」がなければ、各々の選手の目指す方向がバラバラになり、チーム全員が意思を統一して同じ方向を向くことはできません

戦略策定の際には、「戦略」と「戦術」の違いを認識し、切り分けて考え言語化することが大切です。

なぜ今、経営戦略が重要なのか?

環境変化の激しい昨今、将来の事業環境の変化を見据えて、経営戦略を策定することに疑問を呈する意見も見られます。しかし、変化が激しい時代だからこそ、経営戦略を策定することの重要性が高まっているのです。

2010年以降、日本の人口は減少の一途をたどっており、今後もこのトレンドが継続すると予想されています。消費は落ち込み、経済規模は確実に縮小していくでしょう。また、生産年齢人口も減少するため、企業にとって重要な経営資源である人材の確保が難しくなります。

また近年は、スマートフォンなどのモバイル端末の普及や通信技術の革新により、私たちの生活様式は大きく変化しました。ビジネスにおいても、デジタル技術を活用してビジネスモデルや組織の変革を促すデジタル・トランスフォーメーション(DX)が注目されるなど、テクノロジーによってあらゆるイノベーションがもたらされています。そこに、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が重なり、さまざまなビジネスにおいて想像していた以上のスピードでデジタル化が進展しました。

先ほども触れましたが、過去に例のないスピードで環境が変化する時代においては、戦略を策定している間に環境変化が生じてしまい、戦略の必要性が低下しているように思われるかもしれません。しかし、どのような時代においても、戦略がなければ、最適かつ効率的な資源配分はできないのです。皆さんに認識しておいてもらいたいことは、戦略そのものが不要になったわけではなく、環境変化に応じて戦略を軌道修正するサイクルが速くなっているだけなのです。

環境変化が少ない時代であれば、筋の良い戦略を立てれば、5年~10年といった長期に渡って競合に対して優位性を維持できたかもしれません。しかし、現在は優位性を構築する前に大きな変化が起こり、一瞬にして競争優位性が崩れる可能性があります。

このような環境下では、仮説構築と検証を繰り返し、スピーディーに戦略を軌道修正することが欠かせません。この点を理解していないと、過去の成功体験に引きずられ、新しいチャレンジを試みたり、組織に大胆な行動変容を促したりすることが難しくなり、自社の経営資源を見当違いの方向に割いてしまう可能性が高まります。その結果、資金が枯渇するだけでなく、従業員が疲弊し、競争力を失ってしまいます。

経営戦略のレベルについて

経営戦略は、全社的な視点(全社戦略/企業戦略)、個別事業の視点(事業戦略)能別の視点(機能戦略)の3つのレベルに分けて策定されます。それぞれのレベルの特徴をみていきましょう。

全社戦略(企業戦略)とは、どの事業領域(事業ドメイン)で戦い、何を競争力の源泉とし、どのような事業の組み合わせ(事業ポートフォリオ)を構築し、どのように経営資源を各事業に配分するかを決定する大きな方針です。

事業戦略とは、個別の事業分野において他社との競争に勝ち抜くための方針です。全社戦略では多数の事業を対象とするため、事業ごとに競合企業や顧客が異なる場合があります。これに対して、事業戦略では個別の事業分野を扱うので、特定市場における企業間の競争を詳細に分析します。そして、その分析結果をもとに、より具体的な方針を策定します。

機能戦略とは、営業戦略・財務戦略・人事戦略などのように、事業戦略を実現させるための施策を機能別に落とし込み、機能別の視点から戦略をいかに実施していくかを考えます。

事業戦略と機能戦略は、以下の図のような関係になります。


経営戦略は、全社的な視点(全社戦略/企業戦略)、個別事業の視点(事業戦略)、機能別の視点(機能戦略)の3つのレベルに分けて策定されます。

ここで、戦略と経営理念ビジョンとの関係性についても触れておきたいと思います。

経営理念やビジョンは、経営者の意志や社員のありたい姿を表したものであり、各種の戦略は企業理念やビジョンを具現化するための方針という位置づけになります。多くの場合、経営理念やビジョンと現実との間にはギャップが存在します。経営戦略は、そのギャップを埋めるための具体的な方法論とも言えるでしょう。各レベルの戦略策定においては、経営理念やビジョンとの一貫性および他の戦略レベルとの整合性を持たせることが重要になります。

戦略策定の基本プロセスについて

戦略策定の基本的なプロセスは、以下の図のようになります。しかし、戦略策定は必ずしも矢印の流れに沿って、一方向に進むわけではありません。各プロセスにおいて、仮説・検証を繰り返し、ときには前のステップに戻り見直すこともあります。

以下は、各プロセスの内容について簡単に解説します。


経営戦略の基本プロセス:1.経営理念・ビジョンの策定、2.外部分析、3.内部環境分析、4.戦略オプションの立案、5.戦略の選択(経営資源配分)、6.戦略の実行、7.戦略のレビュー

1.経営理念・ビジョンの策定

まずは、「経営理念」「ビジョン」を具体化します。

経営理念」は、企業の存在意義や使命を普遍的な形で表したものです。経営者は「会社や組織は何のために存在し、どういう目的で、どのような仕組みで経営を行うのか」についてステークホルダーに示し、従業員に対して行動や判断の指針を与える必要があります。一般的に経営理念は、経営者の意志や社員の夢など、時代の流れを超えた長期的な視点で考えます。

ビジョン」は、経営理念で規定された企業の存在意義や使命に基づき、ある時点までに「こうなっていたい」という到達点です。つまり、自社が目指す中期的なゴールイメージを、投資家や従業員や社会全体に向けて示したものになります。

経営理念・ビジョンを具体化することで、戦略目標を設定するための思想的な土台ができます。

2.外部分析

次に、現実を正確に把握するために環境分析を行います。

環境分析では自社を大きく取り巻く「外部環境」を分析します。外部環境分析は、自社が直接コントロールできない外部環境の大きなトレンドや変化の兆しを明らかにします。市場のニーズや競争環境を把握することは、市場における機会と脅威の発見につながります。

外部の環境分析が完了したら、市場や競争環境における事業を成功させるための成功要因(Key Success Factor、以下KSFを抽出します。この際、何が事業のKSFなのか十分に検討しておくことがポイントです。

3.内部環境分析

KSFが導きだせたら、内部環境分析を行うことで自社の強みや弱みを整理し、KSFに対する自社の機会を見つけだします。

内部環境分析は、自社でコントロール可能な経営資源が分析の対象です。経営資源や自社の構造上の強みや弱みを冷静に把握することにより、自社にとってのビジネスチャンスを見つけられます。

KSFと強み、弱みが適合していない場合には、KSFそのものを変えるため外部環境に働きかけて業界のルールを変えるか、自社の構造を変革しKSFとのフィットを高める必要があります。

環境分析の漏れや重複を防ぎつつ、必要な要素を押さえるフレームワークに「SWOT分析」があります。SWOT分析を行うことにより、当該事業を成功させるためのKSFや自社にとっての事業機会を導きだしやすくなります。

4.戦略オプションの立案

KSFを導きだし、KSFに対する自社の機会が見つけ出せたら、事業目標に到達するための戦略オプションを複数考えます。

5.戦略の選択(経営資源配分)

上記の戦略オプションごとに予想される結果や必要となる資源、実行の難易度などを検討し、実行すべき戦略を絞り込みます。

6.戦略の実行

戦略が絞りこめたら、それぞれの遂行度合いを示す指標を設定し、どの程度実行されているかを把握できるようにします。また、戦略と戦術の整合性をとるために、評価・報酬制度、コミュニケーション・意思決定のルールなども整理します。

7.戦略のレビュー

設定した期間終了後に、期待した効果が上がったか確認します。うまくいかなかった場合は、その原因を究明し、必要に応じて修正案を考えます。場合によっては経営理念・ビジョンに立ち戻り、環境分析から再スタートすることも必要です。

以上が、戦略策定の基本プロセスです。

経営戦略に関連するキーワード

ここでは、経営戦略を策定するにあたって昨今、欠かせないキーワードについて紹介します。

コア・コンピタンス

コア・コンピタンスとは、「企業の中核となる強み」のことであり、以下の三つの条件を満たします。

  1. 顧客に利益をもたらす能力
  2. 競争相手に模倣されにくい能力
  3. 複数の商品・市場に推進できる能力

イノベーション

イノベーションとは、「革新あるいは技術革新」を意味します。企業活動において、従来と異なる非連続的な発想や技術の導入によって、それまでになかった問題解決の手法を生みだすことを指します。

イノベーションの代表的なタイプは以下の通りです。

  • 破壊的イノベーション:

新たな技術革新より生み出された製品・サービスが、新たな消費者市場の開拓を可能とすること

  • 持続的イノベーション:

自社の高い技術力により製品・サービスに高付加価値を付けることで、既存市場で求められている価値を向上させること

  • オープン・イノベーション:

自社の技術だけでなく、業種や分野を超えた他社の知識・技術を集約させ、新たな製品開発や事業開発を行なうこと

  • リバース・イノベーション:

新興国・途上国に先進国企業の研究開発拠点を移し、その国の現地ニーズをもとに新たに開発した価値や技術を、先進国市場に展開させること

昨今は、これまで以上にイノベーションが求められています。その背景には、新しい市場を開拓できれば、一定期間市場を独占できるため莫大な経済的価値が期待されることや、イノベーションにより新たな生産方式が確立できれば生産性が向上し、人手不足や労務問題といった社会課題への対応策となることがあります。

デジタルトランスフォーメーション

デジタルトランスフォーメーション(DX:以下DX)とは、「情報通信技術(ICT)の浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」という概念です。

DXは、これまで人が行っていた作業をコンピュータに任せ、コストや効率化を図るだけではありません。企業や個人が実現したいことを、ビッグデータAIなどのデジタル技術を活用してこれまでよりも解像度高く理解し、オペレーション・人・組織・制度などを組み換えながら、社会により高い価値を提供していくことです。

デジタル技術により新たな価値が生まれる一方で、既存産業は破壊されるケースもあります。例えば、Amazonの登場により、従来型の小売店(とくに書店)は顧客が減り、廃業を迫られた店舗もあります。また、AppleのiPhoneなどスマートフォンの普及により、従来型のガラケーと呼ばれるフィーチャーフォンは、市場からほぼ姿を消しました。このような産業の劇的な変化に対応すべく、企業はこれまでのやり方を脱却し、デジタル技術を活用しながら顧客に新たな価値を提供し、競争優位性を確立することが求められています。

近年の優れた経営戦略の事例

外部・内部環境の分析から事業における勝ち筋を特定し、自社の強みを生かして最適な戦略を立案・実行することはたやすくありません。多くの日本企業は、生産人口の減少やテクノロジーの進化による環境変化に直面しており、厳しい状況に立たされています。しかし、環境の変化に合わせて優れた戦略を打ちだすことで業績を好転させた企業も存在します。ここでは、2つの企業を紹介します。

株式会社小松製作所(コマツ)

世界的な建設機械メーカーとして広く知られるコマツは、世界1位のアメリカ・キャタピラー社に次ぐ売上を誇る世界2大建機メーカーのひとつです。日本でもいち早くグローバル化に着手した企業であり、約9割が海外売上です。

日本の建機市場が飽和状態となり、国内市場の成長が見込めなくなったコマツは、さらなる成長のために、海外市場へ進出しました。海外展開を成功させたポイントは、「コマツウェイ」をグローバル展開したことや、「ダントツ経営」と呼ばれるイノベーション戦略などがありますが、特筆すべきは「ICTによるビジネスモデルの転換」です。

建設機械にGPS情報を付加した稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」により、建設機械が盗難された場合すぐに追跡できるようになり、海外で深刻な問題となっていた盗難被害を激減させました。結果的に、盗難保険が安くなる副次効果も生みだし、海外での売上をさらに伸ばしました。

その後、KOMTRAXから得られた情報を基に、エンジンが無駄に動いていた時間や部品交換のタイミングなど、ユーザーに対して業務改善のフィードバックや販売店に対する販売促進の提案を行うようになりました。また、KOMTRAXから得た情報を活かして新しい建設機械の開発を行うなど、新たなビジネスを次々に生みだしています。まさに、DXの先駆けと言えるでしょう。

コマツが市場の変化に合わせて海外展開に戦略の舵を切ったことに加え、デジタル技術をテコに建機売り(モノ売り)から建機の稼働データを活用したサービス(コト売り)にビジネスモデルを転換した点は、戦略上非常に巧みであったと評価できます。

富士フイルム株式会社

精密化学メーカーの富士フイルムは、1990年代ごろまではカメラやフィルムなどの写真関連のイメージング事業で成長を遂げていました。

2021年現在は、ビジネスソリューション事業(複写機などのOA機器)、ヘルスケア事業(医薬品、医療機器、化粧品、健康食品)や、マテリアルズ事業(高機能化学品)など、事業の多角化を図っています。現在ビジネスソリューション事業やヘルスケア事業が売上高の60%以上を占めており、事業の転換・多角化を成功させた代表的な企業です。

1990年代、デジタルカメラが普及し始め、写真フィルムの販売が大幅に落ち込んだ富士フイルムは経営難に陥りました。その苦境を乗り切るべく、富士フイルムは自社のコア・コンピタンスを再定義し、新製品・新事業への展開に限りある資源を集中的に投資したのです。例えば、すでに保有していた高度の写真フィルム技術を利用して、特殊な液晶保護フィルム技術を開発し、この分野では独占的地位を構築しました。また、写真フィルムの乾燥を抑えるコラーゲンの技術を応用して化粧品を開発し、コンシューマーヘルスケア事業においてもヒット商品を世に送りだしています。

富士フイルムは、ゼロから新しい技術を生みだして競争優位を生みだしたわけではありません。その時々の環境の変化に対応して、既存の技術やノウハウを再構築・再利用することで持続的な競争優位を形成しています。まさに環境変化に合わせて戦略を素早く策定し直した事例といえるでしょう。

経営戦略の策定スキルは、どうすれば身に付くのか?

では、最後に「経営戦略の知識を仕事で活かせるレベルまで身に付けるためにはどうすればよいのか?」について考えたいと思います。ポイントは、以下の4つです。この4つのプロセスを回し続けない限り、経営戦略を策定するスキルが身に付くことはありません。

  1. 知識をインプットする
  2. 知識をつかいアウトプットする
  3. アウトプットに対し他者からフィードバックを受ける
  4. フィードバックを踏まえて、自分の思考を改善する

経営戦略の知識を身に着けるための4つのプロセス:1.知識をインプットする、2.知識をつかいアウトプットする、3.アウトプットに対し他者からフィードバックを受ける、4.フィードバックを踏まえて、自分の思考を改善する

経営戦略の策定スキルが身に付いている状態について、考えてみましょう。

身に付いている状態とは、

  • 戦略策定に必要な知識を「知っている」
  • それらの知識を日々の「仕事でつかえている」

という2つを満たしている状態です。

「知っている」だけで、「仕事でつかえる」ようになっていなければ、「身に付いている」とは言えません。では、「仕事でつかえる」ようになるためには、どうすればよいのでしょうか。

「インプットした知識をつかって、自分で考えアウトプットし、フィードバックを受け、考え方を改善する」という営みを繰り返すことです。

よくある学びの手段として「動画視聴」「読書」「他者とディスカッション」などがあげられます。日々忙しく過ごす皆さんにとって、時間はとても貴重だと思いますので、それぞれの学び方のメリットとデメリットを認識しておくことはとても重要です。

まず「動画視聴」について考えてみましょう。最近は完成度が高く、安価で分かりやすいものが数多く提供されています。動画で学ぶメリットは、読書に比べると時間あたりの情報量が多く、短時間で大量の知識をインプットできるので、「勉強したぞ!」という満足感を得られます。一方で、落とし穴もあります。それは動画を視聴するだけでは、「自分の頭で考える(思考力を鍛える)」という営みがほとんど生じないという点です。

動画学習は受動的なため、「思考力」を鍛えることは難しいです。

「読書」は、動画に比べて時間あたりの情報量が少なくなってしまいますが、筆者の思考を追体験しつつ、行間を自分なりの解釈で埋めることが必要なので、「自分の頭で考える」という時間は動画と比べて多いと言えるでしょう。本を読む際はおそらく皆さんも、「筆者がここで伝えたいことは何だろう?」「この書籍の最大のポイントはどこだろう?」などと、自分に「問い」を投げかけながら読んでいる人が多いのではないでしょうか。とはいえ、読書も動画と同様に「作者→読者」の一方通行であり、受動的に学んでいることに変わりはありません。

読書は動画学習に比べるとやや能動的ですが、他者からのフィードバックはありません。

「ディスカッション」についても考えてみましょう。誰かと意見交換するためには、学んできた知識を用いて、自分の考えをまとめて言語化し、他者に伝える内容を事前に考える必要があります。また、ディスカッションを通じて、自分の考えにフィードバックを得ることができ、そのフィードバックに対してまた自分の意見を考え伝える営みが繰り返されます。つまり、客観的な視点を意識しながら、何度も繰り返し“考えるトレーニング”ができるのです。また、この営みを通じて、自分の思考の癖にも気付くことができ、徐々に思いつきや直感、経験だけに頼った思考スタイルから抜け出せるようになります。

ディスカッションは能動的な学習であり、客観的な視点を意識しながら「考える」トレーニングが可能です。

皆さんに認識していただきたいことは、経営戦略に関する知識を「知っている」レベルから、「仕事でつかえる」レベルに引き上げるには、多様なバックグラウンドを有する人たちとのディスカッションが必要だということです。

知識をいくらインプットしても、それらの知識をつかってアウトプットのトレーニングを繰り返し、そのアウトプットに対して自分とは異なるフィールドにいる人たちからのフィードバックを得ない限り、知識を仕事に活かせるレベルに到達させることは難しいのです。

経営戦略に関する知識を「知っている」レベルから、「仕事でつかえる」レベルに引き上げるには、アウトプットのトレーニングを繰り返すことが重要です。

知識がなければ、それらを活かすことはできませんから、動画視聴や読書など知識をインプットすることは必要です。ただ、仕事で成果を出すことを常に求められるビジネスパーソンは、知識を得ることにとどまり、学んだつもりで終わってしまうという「独学の罠」の存在を知っておいてもらいたいと思います。

まとめ

経営戦略とひとくちに言っても、それぞれの企業が掲げる理念や業界・業種、置かれている環境やビジネスモデルによって取るべき戦略は変わってきます。

経営戦略を学ぶことで、「市場や企業の置かれている環境を客観的に分析できる」、「戦略立案と具体的なアクションプランにつなげられる」などのメリットを得ることができます。また、経営戦略を策定するためのスキルは、特定の業界にしか通用しないものではない汎用性の高いスキルであり、いちど身につければ長く使えるスキルともいえます。

ぜひ一度、体系的に学んでみてはいかがでしょうか。

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著者

三井 敬二

グロービス経営大学院 スチューデント・オフィス/研究員

京都大学 薬学部卒業 同大学院 薬学研究科修士課程修了、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。国内製薬メーカーで医薬品の製品化研究に従事し、グローバル開発を経験。グロービス入社後は、グロービス経営大学院のマーケティング・学生募集企画やDXの企画・推進、名古屋校の組織マネジメントに従事。その傍ら、マーケティング・経営戦略領域の教材・コンテンツ開発に携わる。講師としては、企業内研修にて「クリティカル・シンキング」を担当。

前平 和輝 

グロービス経営大学院 オペレーション・ファカルティ・オフィスチーム

立教大学 社会学部卒業、グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。新卒で人材育成会社に入社。研修部門にて人材育成事業などを経験。その後、大手小売サービス業にて店舗運営や海外店舗立ち上げに従事。2016年にグロービス入社。クラス運営や教員・講師サポート業務などに携わる。