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投稿日:2019年05月31日
投稿日:2019年05月31日
自ら「問い」を設定するにはどうすればよい?ロジカルシンキングの基本を学ぶ<DAY6>
- 岩越 祥晃
- グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員
どの象限から取り組むべきなのかは、立場や置かれている状況によって変わりますが、ここでは若手ビジネスパーソンの皆さんに、留意してもらいたいポイントを伝えておきたいと思います。
緊急度も重要度も低い第三象限に位置づけられた「問い」の優先順位が低いことはすぐに判断がつきますね。では、残りの3つの象限のどこから手をつけるべきでしょうか。若手ビジネスパーソンの皆さんは、短期的な目線に偏りがちで、どうしても緊急度が高い第一象限や第四象限の「問い」に着目しがちです。もちろん上司や取引先に設定された期日がある場合がほとんどだと思いますので、緊急度を優先したくなる気持ちはよくわかります。周囲の信頼を得るためには、こうした「問い」にまず答えを出す必要があるでしょう。
一方で、皆さんの中長期のキャリアを考えた際には、第二象限の「問い」に優先的に取り組むほうがよい場合があります。答えを出すまでに時間や相当な努力を有するかもしれませんが、その後、長きに渡って組織や個人にリターンをもたらす「問い」が第二象限に含まれていることが多く、冷静に確認するようにしてください。
若手の皆さんであれば、どの象限のどの問いに優先的に取り組むべきかを検討した上で、ぜひ上長と認識合わせをしてみてください。皆さんの中長期的な成長を考慮してくれるリーダーであれば、第二象限の「問い」の優先順位を上げてくれるはずです。
このあたりの考察を深めたい方は、スティーブン・R・コヴィー著『7つの習慣』(キングベアー出版)の「第三の習慣(重要事項を優先する)」を参照してみてください。
さて、ここで先ほど紹介したマトリックスに、前々回のコラム(DAY4)で例示した通販会社の会話から抽出した「問い」を当てはめてみましょう。二人のやり取りだけでは判断が難しいですが、例えば以下のように整理したとしましょう。
このように「緊急度」「重要度」という2つの軸で「問い」を整理した後は、前回のコラム(DAY5)で確認した通り、「実現可能性」のチェックに進みます。
ここで改めて、「実現可能性」をチェックするための3つのポイントを確認しておきましょう。
- 問いの内容が抽象的で何を意味しているのかわからない状態になっていないか?
- 自分でコントロール可能なリソースで答えが出せるのか?
- 答えを出すことができる大きさの「問い」になっているか?
では、通販会社の事例で洗い出した「電話対応オペレーターの育成方法を見直すべきか?」という「問い」ついて、上記のポイントに沿ってチェックしてみましょう。
まずは、「抽象的な内容になっていないか?」について確認しましょう。「電話対応オペレーター」という言葉ですが、例えば「今、勤務しているすべてのオペレーターなのか?特定のオペレーターなのか?」などを確認したくなりますね。また、「育成方法」とは、「お客様との会話についてなのか?端末操作についてなのか?その他なのか?」など、何を対象とした育成方法なのかが気になります。こうした抽象度の高い言葉を具体化することで、精度の高い答えを出せる可能性が高まります。
続けて、「自分でコントロール可能なリソースで答えを出せるのか?」についてみてみましょう。今回の「問い」は自身が直接携わっている業務に関することで、答えを出すために必要な情報は集めやすいでしょうし、現時点では専門家に任せないといけないような統計解析手法を用いた分析が必要とは思えないですね。
最後に「問い」の大きさについて検討してみましょう。「育成方法を見直すべきか?」という「問い」は、「今、何が問題になっているのか?」「それはなぜ生じているのか?」「発生原因を解消するには育成方法見直し以外の方法はないのか?」といった「問い」にブレイクダウンしてから考えると、精度の高い答えを出しやすいでしょう。
ビジネスパーソンとしてのバリューを上げるために
一般的に、若手ビジネスパーソンは上長から「答えを出すべき問い」を与えられる場合が多いでしょう。その「問い」に対して適切な答えを導き出せるスキルを養うことは、上長や取引先の担当者をはじめ、仕事で関わるすべての人との信頼関係の構築に大きく寄与しますので、極めて重要です。次回以降のコラムでは、適切な答えを出すための基本スキルについて考えていきますが、ここでは、「与えられた問いだけ考えていればよいのか?」という問題意識を提示しておきたいと思います。
与えられた「問い」に対して答えているだけでは、ビジネスパーソンとしてのバリューはなかなか上がりません。環境変化の激しい今の時代においては、過去の延長線上でビジネスを展開できる範囲が日々狭まっており、上長や取引先の担当者が適切な「問い」を設定できる確率は下がっていく一方といえるでしょう。
むしろ現場に近い皆さんのほうが、また取引先のビジネスを外から見ている皆さんのほうが、既存の考えに縛られず価値のある「問い」を設定できる可能性が高いかもしれないのです。ここでお伝えしたいことは、「問い」に対して答えを出すスキルを磨くだけでなく、与えられた「問い」に対して疑いを持ち、自ら「問い」を設定できる力も養っていただきたいということです。
問題意識を高め続ける
では最後に、自ら「問い」を設定する力を養うための方法をひとつご紹介しておきたいと思います。それは、日頃から以下のような「問い」を自分に投げかけ、携わっている事業や業務に対する問題意識を高め続けることです。
- なぜそうなったのか?
- 自分(自社)ならどうするのか?
- ●●さん(社長や上長、取引先や競合の担当者)だったらどう考えるだろうか?
ネットやテレビ、書籍、雑誌、新聞などの各種メディアを通じてなんらかの情報に接している際には、ぜひこれらの「問い」を自分に投げかけてみてください。こうした「問い」について考える過程で、取り組むべき「問い」が新たに浮かんでくる機会が増えるはずです。
次回(DAY7)以降のコラムでは、「問い」に対する「答え(主張と根拠)」を考える際に押えておくべき基本スキルに触れたいと思います。
岩越 祥晃
グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員
担当科目は「クリティカル・シンキング」「ビジネス・プレゼンテーション」「ファシリテーション&ネゴシエーション」。同志社大学法学部政治学科卒業、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(MBA)。エンタテインメント関連企業を経て、グロービスに入社。現在は、グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールの教員及び教材の開発を担当するとともに、株式会社グロービスにてマーケティング業務のマネジャーも務めている。