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投稿日:2019年04月25日

投稿日:2019年04月25日

なぜ「思考の型」を学ぶ必要があるの?ロジカルシンキングの基本<DAY1>

岩越 祥晃
グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員

このコラムでは、「ロジカル・シンキングに関心はあるものの、どうも近寄り難い」と感じている。もしくは、「論理思考に関する書籍を読んだものの、仕事でうまく使えない」と感じている若手ビジネスパーソンに向けて、そういった“壁を乗り越えるための基礎ポイント”を全10回に渡ってお伝えしたいと思います。

“ややこしくて面倒くさい考え方”といった印象を持たれがちな「ロジカル・シンキング」ですが、エッセンスを抽出すると、実はとてもシンプルな考え方なのです。日常のビジネスシーンで常に意識すべき重要なポイントは限られています。あれもこれもと、たくさんのポイントを頭に入れても、脳のメモリーは限られていますので、同時に大量の知識を用いて仕事に取り組むことなどできません。このコラムでは、「これだけは外してはいけない」という極めて重要なポイントに絞ってご紹介したいと思います。初回である今回は、「思考の型」について考えていきましょう。

思考を「型」として身につける

「考える」という営みには、原理原則ともいうべき「型」が存在します。ゴルフやテニスのスイング、水泳のストロークなど、どんなスポーツにも体の動かし方の基本となる「型」があります。「考える」という行為にもスポーツと同じように「型」があるのです。「型」とは、言い換えると「何をどのように考えればよいのか」という頭の使い方のルールです。

ビジネスにおいて「考える」という言葉とセットで語られるものに「ロジカル・シンキング」や「クリティカル・シンキング」など、一般的に「論理的思考」と捉えられている言葉があります。読者の中にはこれまでに、これらの言葉がタイトルに含まれた書籍を手に取ったことがある方がいらっしゃるかもしれません。そうした書籍には、「ピラミッド・ストラクチャー」「ロジック・ツリー」「MECEに分解する」「So What?」「Why? True?」などなど、若手ビジネスパーソンにとってあまりなじみのない言葉が並んでいます。これらもすべて「思考の型」の一部を表現したものです。

ではなぜ、こうした「思考の型」を学ぶ必要があるのでしょうか。ここでは、2つの観点から確認しておきたいと思います。

思考のスピードと質が上がる

みなさんは、ビジネスでなんらかの問題に取り組んでいる際に、今自分が「悩んでいる」状態なのか、「考えている」状態なのかを区別することができているでしょうか。

さまざまな定義ができると思いますが、ここでは「悩む」とはうんうんと唸っているだけで、思考が前に進まず停滞している状態のことを。一方で「考える」とは、思考が結論に向って前に進んでいる状態のことを指しています。

「悩んでいる」状態をブレイクスルーするには、「人と意見交換する」「時間をおいて、あらためて考える」「場所を変えて考える」「新たな知識に触れる」など、さまざまな方法がありますが、それ以上に重要なことは、自分が今「悩んでいる」のか「考えている」のかに気づけるかどうかです。

皆さんも経験があると思いますが、人間は「悩み」続けると多くの場合、考慮する範囲が次第に狭くなっていきます。外部からなんらかの刺激がない限り視野は広がらず、思考が前に進んだとしても大抵の場合、自分に都合よく考えただけの結論となってしまいます。ゆえに、スピーディかつ質の高い結論を出すためには、「悩んでいる」ことに早めに気づくことが重要になります。

では、この区別をつけるにはどうすればよいのでしょうか。「思考の型」に当てはめて、自分の状態をチェックすればよいのです。自分をチェックすると言葉でいうのは簡単ですが、実際にやろうとするとどうすればよいのかわからないものです。「思考の型」を押さえることで、客観的な目線で自分の頭の中を確認し、何につまずいているのかを認識できるようになります。その結果、思考が停滞している時間を減らすことができ、結論を出すまでのスピートが早まります。加えて、独りよがりな結論を導いてしまうことを避けることができるのです。

直感や経験だけに頼らなくなる

私たちは日頃、さまざまな問題に対して直感や経験だけに頼って解決策を出したり、意思決定をしたりしています。「無意識」のうちになんとなく頭を回し、考えたつもりになっている場合が多いのです。なぜこうなってしまうのでしょうか。大きな要因のひとつは、ビジネスの現場では常に時間に追われているからです。決められた期日までに答えを出し、成果を上げることが求められるため、一つひとつ丁寧に時間をかけて考える猶予を与えられていないのです。

ゆえに、直感や経験に基づいた問題解決や意思決定を真っ向から否定するつもりはありません。すべての問題に対して時間をかけて緻密に考えてしまい、結果的にあらゆる仕事が期日までに終えられない状況は、当然許されるものではありません。

ただ、ここで認識しておきたいことがあります。確かにこれまでの仕事の延長線上にある問題であれば、直感や経験に基づいて仕事を進めても、大きなミスを犯す確率は低いかもしれません。しかし、例えば昇格や異動、転職や出向などで置かれた環境が変化した場合、直感や経験に頼った仕事の進め方でこれまでと同等の、もしくはそれ以上のパフォーマンスを発揮することができるでしょうか。仮に置かれた環境に変化がなかったとしても、市場環境や競争環境など外部環境が刻々と変化する現代において、これまでの経験に依存した考え方で、この先もずっとパフォーマンスを維持することができるでしょうか。

グロービスで「クリティカル・シンキング」を受講する皆さんに受講動機をお聞きすると、多くの方がこうした危機感を上げられます。受講生の方々の多くは、環境が変わっても「持ち運びが可能で、汎用性のある頭の使い方」を得たいという期待を抱いているのです。

次回(DAY2)以降は、直感や経験だけに頼り「無意識」のうちに頭を回すことから脱皮し、「意識的」に頭を回すための具体的な方法について触れていきます。

岩越 祥晃

グロービス経営大学院教員/グロービス・マネジメント・スクール教員

担当科目は「クリティカル・シンキング」「ビジネス・プレゼンテーション」「ファシリテーション&ネゴシエーション」。同志社大学法学部政治学科卒業、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(MBA)。エンタテインメント関連企業を経て、グロービスに入社。現在は、グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールの教員及び教材の開発を担当するとともに、株式会社グロービスにてマーケティング業務のマネジャーも務めている。