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投稿日:2026年05月14日
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リーダーはなぜつまずくのか──視座・視点・視野を変えるための5つのレンズ
- 久保 彩
- 株式会社フライヤー 執行役員CCO カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー
※本記事は、グロービス経営大学院公認クラブ「グロービス・アントレプレナーズ・クラブ(GEC)」が経営層や起業家を招いて行うセミナーの1つで、2025年9月1日に行われた「経営目線のリーダーへしなやかな組織づくり」をもとに編集しています。
正論を言っているのに、なぜ人は動かないのか
「正しいことを言っているのに、なぜか動いてもらえない」——リーダーになってしばらく経つと、多くの人がこの壁にぶつかります。私自身も、何度も経験してきました。
私は現在、本の要約サービスを提供する株式会社フライヤーでCCO(Chief Customer Officer)を務めています。ジョインしたのは2020年、社員数が25名ほどのタイミングで、会社はちょうどIPOに向けてアクセルを踏み始めるフェーズでした。
私のミッションは「新規事業の立ち上げ」。
新規事業といっても、実態は1つの事業で固まってきた組織を、内側からガラリと変えていくということを意味していました。
コンサルティング会社で事業開発をやってきているため、「事業企画や事業作り込みは多数経験している」という自負がありました。
でも、いざ転職したばかりの会社で新規事業の提案をすると、なかなか思い通りにいきません。代表やプロジェクトメンバーと一緒に作ってきた事業プランに対して、他のメンバーから不安が出てきます。「なぜ伝わらないんだろう」と、ずいぶん悩みました。
「正しい」だけでは伝わらない。「頑張り」だけではカバーできない。組織のリーダーになって、それを痛感しました。
この記事では、その「伝わらない壁」を越えるために私が実際に気づいたこと、つまり、「見方」を変えることの大切さを、具体的なフレームワークとともにお伝えしたいと思います。
グロービス経営大学院で学んできた方には、見覚えのある理論も出てくるかもしれません。でも、「知っている」と「できる」はまったく別物。今日はその違いについても一緒に考えてみてください。
「つまずき」は成長サイン——視座・視野・視点の変化
まず大前提として伝えたいのは、「人が動かない」「正論が通じない」という経験は、あなたのスキル不足が原因ではない、ということです。
もちろんスキルを磨くことは大事です。でも、この問題は、「構造的な問題」なのです。リーダーとしてポジションや役割が変わると、見える景色が変わります。見えるものが増え、気になることが増える。でも周囲のメンバーには、まだその景色が見えていない。そのギャップが摩擦を生んでいるのです。
視座・視野・視点の変化
このギャップの正体を、「視座・視点・視野の変化」として整理しましょう。
視座(どこから見るか)
役職や立場が変わることで変化します。執行役員やマネージャーになると、以前は見えなかった経営課題や全体像が見えるようになります。
視野(どこまで見えるか)
担当範囲が広がるにつれて広がります。自部署だけでなく、他部署の動きや会社全体の成果が気になり始めたら、視野が広がったサインです。
視点(何を見るか)
物事のどの側面を切り取るかの違いです。メンバー時代は「目の前の課題」を見がちですが、リーダーになるほど「なぜ動かないのか」という、人との関係性や文脈へと視点を移すことが重要になります。
こうした視座・視野・視点が変化すると、言葉にならず、最初は「もやもや」とした悩みとして現れるのです。
自分のつまずきを知る3つのパターン
リーダーの壁にぶつかった時、それは大きく次のような3つの「モヤモヤ」として現れます。
視座のもやもや
自分で全部やってしまう・どこまでメンバーに任せるべきか迷う・自分が決めなければというプレッシャーがある
視野のもやもや
他部署の動きが気になる・全体の成果が出ていない・価値観の違いにイライラする
視点のもやもや
正論が通じない・どこから関わればいいか分からない・改善を提案すると逆に怒られる
どれかに当てはまると感じた方、それは「能力不足」のサインではありません。あなたの認知が変わりつつある、ポジティブなメッセージです。この「もやもや」こそが、変化の入口なのです。
私自身、フライヤーにジョインして最初に悩んだのは、代表から言われた一言でした。
「久保さんはどうしたいの?」
コンサルタントとして「お客様の要件を聞いて落とし込む」ことをしてきた私にとって、これほど戸惑う質問はありませんでした。
「市場がこう言っている」「顧客ニーズはこうだ」と説明しようとするたびに、「久保さんがやりたいことは?」と返ってくる。
今思えば、これが視座の変化を求められた瞬間でした。
実行者として動くフェーズから、事業の意思決定者として「なぜそれをやるのか」を語れるリーダーへの転換を求められていたのです。
変化に向き合うための5つのレンズ
では、この「見方の変化」にどう向き合えばいいのか。私が実際に役立てた5つのフレームワーク(レンズ)を紹介します。どれも「知っている」方も多いと思いますが、重要なのはそのレンズを自分がかけて使うことです。
私のチームでも、発足当初はモチベーション満点でした。ところがしばらくすると、「このサービス、本当に売れるんですか?」「この提案の仕方でいいんですか?」という疑問が次々と出てきました。これが混乱期です。
この時期に、リーダーが注意すべきなのは、「自分への反発だ」と受け取って引いてしまうことです。混乱期のメンバーは、リーダーに矢を向けているように見えて、実は自分自身の不安と戦っています。リーダーがここで不安になり、対話を止めてしまうと、チームは前に進めなくなってしまいます。
「あ、これはストーミングだ。一過性のものだ」と知っているだけで、ぐっと落ち着いて対応できます。チームを生き物として捉え、今どのステージにいるかを意識すること。これが最初のレンズです。
もう1つ覚えておきたいのは、事業が大きく変わるタイミングでは、どんなに成熟したチームでも、もう一度このサイクルを経ます。繰り返すものだと理解しておくと、大きな変化の前後にも慌てずに済みます。
レンズ②:制約理論(TOC)——ボトルネックを一つずつ外す
『ザ・ゴール』で有名な制約理論(TOC: Theory of Constraints)は、生産ラインの改善手法として知られていますが、人・組織にもそのまま使える強力な考え方です。
鎖(くさり)を思い浮かべてください。鎖は、最も細くて弱いリングから切れます。全体を一気に強くしようとするのではなく、今一番切れそうなところを見つけて、そこを補強する。これがTOCの本質です。
「他部署が動かない」「連携がとれない」と感じるとき、私たちはつい他の部署の課題を指摘しに行きたくなります。でも、それでは防衛反応を生むだけです。
まずは、自分の関わるチームの中にある「弱い環」を見つけて補強し、そのプロセスや成果をオープンにする。「うちのチームでこんな課題があって、こう解決した」を共有することで、初めて隣の部署に「うちもそこ、気になっていて……」という対話が生まれます。
影響の輪を少しずつ外側に広げていく感覚——これが他部門との連携をうまく進めるコツです。
また、1つのボトルネックを解消しても、必ず次のボトルネックが出てきます。これは組織の失敗ではなく、正常な状態です。「課題が尽きない」ことに焦るのではなく、「今どこが一番細いか」を冷静に見続ける姿勢が大切です。
レンズ③:ポジティブデビアンス(PD)——「できている人」に光を当てる
組織の課題を解決しようとするとき、私たちはどうしても「できていない人」「うまくいっていない部分」に目を向けがちです。でも、課題ばかりを見ていると、人は防御的になってしまいます。
ポジティブデビアンス(PD)は、同じ環境・同じ制約の中で「うまくいっている人」を見つけ、その人がやっていることを横展開するアプローチです。組織開発における「アプリシエイティブ・インクワイアリー(AI)」とも共通するアプローチです。
「ソリューション提案ができない営業が多い」という課題があるとします。できない人への教育よりも、少しでもできている人を探し、その人が何をしているかをヒアリングするほうがずっと早い。「準備工程で何をしているか」「提案では、何を意識しているか」。そういった実践知を拾い上げ、チームに広めます。
できている一人を起点に「芽」を育てていく。砂漠に水をまくより、すでに出ている芽に水を与え、光を当てる。これがPDの発想です。
リーダーの役割は、問題を撲滅することではなく、うまくいっている小さな兆しを見つけて、それを「標準」に育てていくことだと私は思っています。
リーダーはどうしても「結果」から入りたくなります。
でも、関係性ができていないのに結果だけを求めてメンバーを追い込むのは、「バッドサイクル」の典型です。まず関係性、つまり率直にフィードバックし合える心理的安全性の高い組織をつくることが、すべての起点になります。
AIが業務に直結する今だからこそ、この「関係の質」がかつてなく重要になっています。
関係の質が高いチームでは、「このプロンプト使ったらめちゃくちゃ便利だった!」という個人の発見がすぐ全体に広がります。
一方、関係の質が低いチームでは、その成果は個人のものになる。AIが業務効率に直結する今、「関係の質」の格差が、そのまま組織力の格差になる時代が来ています。
実はこれは私自身も、斉藤徹さんなどから学び、ハッとさせられた大切な教訓です。私と同じように「成果が出ない」と悩むリーダーには、まず「身近な半径5メートルの関係性」から目を向けることを勧めています。
チームミーティングの熱量は落ちていないか。1on1で業務以外の話が出てくるか。そういった小さなシグナルが、関係の質のバロメーターです。
レンズ⑤:社会関係資本——チームの「関係性」は投資対象である
「人的資本」という言葉が広まってきました。個人のスキルや育成への投資が進んでいます。これは組織の成長に不可欠な両輪の1つであり、私自身も非常に大切にしています。
しかし、どれほど優秀な個人のスキル(人材投資)も、それを活かす土台となる「関係性」がなければ、チーム全体の力には変換されません。だからこそ私は、個人への投資とセットで、「関係性」への投資(社会関係資本)を重要視しています。
個人のスキルは属人的なものであり、人が辞めてしまえば組織から失われてしまいます。でも、チームの「関係性」に投資して良い状態が保たれていれば、メンバーが入れ替わっても、その文化が組織のレジリエンス(回復力)として残ります。
私は今、3つの事業組織を見ていますが、いつも「社会関係資本が目減りしているチームはないか」という目線で観察しています。会議での発言量、1on1の空気感、朝の挨拶の表情——これらは全部、関係性のバロメーターです。
もし「目減りしている」と感じたら、私は商談同行に入ったり、ランチを一緒にとったりします。1on1の議題を「業務進捗」から「最近どう?」に変えるだけで、チームが抱えているものが見えてくることが多いのです。
リーダーの工数は、個人の管理より関係性の維持に使うべき。これが私の結論です。
レンズを「かける」ことの意味——理論を持論へ
5つのレンズを紹介しましたが、最後に一番大切なことをお伝えしたいと思います。
グロービス経営大学院で多くのフレームワークを学ぶと、私たちはつい知識のコレクションをしがちです。ですが、タックマンモデルも、TOCも、成功循環モデルも知っているだけでは、棚に飾られたメガネと同じです。かけてみて、初めてそのレンズは価値を発揮します。
中原淳先生と金井壽宏先生の『リフレクティブ・マネージャー 一流は常に内省する』(光文社)に、「理論と持論」という概念が出てきます。外から学ぶフレームワークが「理論」だとすると、「持論」はそれを自分の文脈で使い込んで血肉化したものです。理論をいかに持論に変えるか——これがリーダーとしての学びの核心だと私は思っています。
私が実践しているのは、毎朝の振り返りの時間(私の場合は1時間ほど確保しています)です。前日にチームで起きたことをファクトとして書き出し、そこに「自分が持っているレンズ(理論)を通すと、どう解釈できるか」を重ねていきます。
「あの反発、タックマンのストーミングだったな」「この関係性の悪化、TOCでいうとどのリングが切れかけているんだろう」——そうやって理論を自分の日常に接続していきます。
最初は書かないとできませんでした。でも続けていると、だんだん「リアルタイムでレンズをかける」感覚が養われてきます。特定の理論が「反射的に浮かぶ」ようになったとき、それが持論化した瞬間です。
組織に属していること、しかもチームを持つリーダーであることは、この持論化の機会が無限にある、非常に恵まれた環境だと思います。毎日、チームが生きた「発見と実践の場」になってくれる。その経験を無駄にしないために、ぜひ意識的に振り返りの習慣を持ってほしいと思います。
まとめ——しなやかな組織をつくるために
正論では人は動かない。
リーダーがぶつかるこの壁の正体は、自分の見方が変わっているのに、その変化に気づけていないことにあります。
5つのレンズをもう一度整理します。
① タックマンモデル: チームは生き物。混乱期は必ず来る。それを知っているだけで、揺れに動じなくなる。
② 制約理論(TOC): ボトルネックは一度解決しても次が出る。自分の影響圏から、一つずつ弱いリングを補強していく。
③ ポジティブデビアンス: できていない人より、できている人に光を当てる。芽に水をやる感覚で、成功体験を横に広げる。
④ 成功循環モデル: 成果から入らない。関係の質から始めると、思考・行動・結果の質が連動して上がる。
⑤ 社会関係資本: 個人への投資より、チームの関係性への投資。「目減りしていないか」を常に観察する。
硬い土からは芽は生えません。でも、丁寧に耕された柔らかい土には、人が育ちます。しなやかな組織とは、変化に折れない組織ではなく、変化を栄養に変えて育っていける組織のことです。
そのためにリーダーに求められるのは、正しい答えを持つ人になることではなく、チームと一緒に答えをつくれる人になることです。
それは、自分自身の見方を問い直し続ける勇気から始まります。
さらに学びを深めるおすすめ5冊
『企業変革のジレンマ』(宇田川元一) 誰も悪気がないのに組織が機能不全に陥る「構造的無能化」のメカニズムと、それを打破するための「対話」のアプローチを解説。組織のしがらみや、視野のもやもやを持つ人に特にお勧め。
『リフレクティブ・マネージャー』(中原淳・金井壽宏) 「理論を持論化する」ためのリフレクション(内省)の方法を丁寧に解説。メンバーへの関わり方に迷うすべてのリーダーに。
『謙虚なリーダーシップ』(エドガー・H・シャイン) 「教える・指示する」から「問う・一緒に考える」へのリーダーシップのシフトを説く。1on1の質を上げたい方に。
『だから僕たちは、組織を変えていける』(斉藤徹) 心理的安全性と自律型組織の作り方を実践的に解説。チームづくりの起点を探している人に最適。
『リーダーシップ・シフト』(中原淳・堀尾志保) リーダー1人がチームをつくる時代から「全員でチームを育てる」時代へ。組織を採用から作っていくフェーズの人に特に響く一冊。
【グロービス経営大学院公認クラブ紹介(2025年度)】
グロービス・アントレプレナーズ・クラブ(GEC)
「日本を代表する起業家を輩出し、相互支援を果たす」ことを目的とした、在校生・卒業生約5,200名(2026年3月23日現在)が在籍するグロービス最大のクラブ活動です。起業に関する情報共有、人材のマッチング、起業家を招いた講演、新規ビジネスの相談の場として、知恵・経験・人脈の全国に及ぶ起業家支援のプラットフォームの役割を果たしています。これまで、この活動を通じて、多くが起業し、うち数社が数十億円レベルのベンチャー企業へ成長しています。
久保 彩
株式会社フライヤー 執行役員CCO カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー
富士ゼロックス(現・富士フイルムビジネスイノベーション )でSEとして13年のキャリアを経た後、シンガポール在住中にグロービス経営大学院オンライン校第1期生として入学。2017年に卒業後、コンサルティングファームのクニエ(現・フォーティエンスコンサルティング)で新規事業専任チームに参画。2020年に株式会社フライヤーに執行役員として入社し、新規事業立ち上げ・法人事業の各種サービス開発を主導し、顧客接点の責任者としCCO就任。2025年2月の東証グロース上場。グロービス経営大学院アルムナイ・アワード2025受賞。

