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投稿日:2026年03月24日
投稿日:2026年03月24日
【GLOBIS Learning Insights】
AI時代を生き抜くキャリア設計
~環境変化にしなやかに対応する普遍的なスキルとは?~
- 松永正樹
- グロービス経営大学院 教員
- 鈴木由理
- グロービス経営大学院 事務局スタッフ
こんにちは。グロービス経営大学院(以下、グロービス)事務局の鈴木です。
この連載「Learning Insights」は、学びの現場の視点から感じた疑問を提示し、それに対して専門性を持つ研究者教員が、学術的エビデンスに基づいて解説するというコラムシリーズです。
「一つの道を極めるスペシャリストを目指すべきか、それとも多角的な視点を持つゼネラリストを目指すべきか」これは、多くのビジネスパーソンがキャリアの節目で直面してきた古典的な問いのひとつです。これまで、この議論は、どのような形のスキルを目指すべきかというスキルモデルによって整理されてきました。
- T型: ひとつの深い専門性(縦棒)を軸に、周辺分野への広い知見(横棒)を併せ持つ
- π(パイ)型: 二つの異なる専門性を持ち、それらを広い視野の橋渡しで繋ぐ
- 櫛(くし)型: 複数の深い専門領域を「櫛の歯」のように持ち、変化への適応力を最大化する
これらのモデルは、専門性と幅を組み合わせたスキル構築の重要性を示しており、多くのビジネスパーソンのキャリア開発に示唆を与えてきました。
近年、ここにAIという巨大な一石が投じられたことで、今までは一定の参考となる指針が存在したスキル開発議論に混乱が生じているのではないかと感じています。
AIは、スキルとしての「専門性」も「幅」も代替しうる能力を持ち、これまで評価されてきたさまざまなスキルの市場価値を脅かしています。そういった中で、多くのビジネスパーソンが、スキルのポートフォリオを描き直す必要性に迫られていることは想像に難くありません。
今後のキャリア開発において、「専門性」や「幅」をどのように捉えてスキル開発に注力していくかは、AIの台頭によってもたらされた混乱により、極めて難しい問題になっています。今回は、AI時代におけるスキル開発をテーマに、お話をお聞きしていきましょう。
自分の市場価値を高めるために欠かせない第三の観点
松永正樹
グロービス経営大学院教員兼グロービス教育科学研究所副所長。Ph.D. in Communication Arts & Sciences (Pennsylvania State University)。九州大学ビジネススクール准教授、株式会社Relicプロジェクトリーダー等を経て、グロービスに着任。2021年Academy of Management Best Papers Award(Organizational Behavior Division)をはじめ、学会賞・論文賞受賞多数。『Employee Uncertainty over Digital Transformation』(Springer Nature)著者。個人事業主としてコンサルティング活動も行っており、アントレプレナーシップ教育スタートアップのタクトピア株式会社アドバイザリーを務める。
松永:今回は、近年のビジネス環境の複雑化やテクノロジーの急速な発展を背景にとらえつつ、ビジネスパーソンとしての価値を高めるうえで「専門性」と「幅の広さ」がどう影響してくるのか、さらに、それらを向上させるためにビジネススクールで学ぶことが具体的にどうつながるのかについて考えてみます。
ちなみに、本記事冒頭で鈴木さんが触れている「AI時代にどう価値発揮すべきか」というテーマに関して、グロービス経営大学院における研究活動の一環として昨年発表した論考があります。よろしければ本記事と合わせてご覧ください。(下記リンク先で公開されており、無償でダウンロードできます。)
- 松永正樹(2025)「『知能』は一次元か、多次元か:AIを巡る誤認と、ヒトが果たすべき役割に関する一考察」『グロービス経営大学院紀要』 第4巻、pp. 18-31。
「専門性」と「幅の広さ」だけで勝負するのが難しい理由
それではさっそく、「専門性を深めるのか、それとも幅の広さで勝負するのか、どちらのほうがよりビジネスパーソンとしての価値を高められるのか?」という問いについて検討してみましょう。結論から申し上げると、身も蓋もないようですが、答えは「どちらも必要」となります。加えて、このコラムでは、「専門性」と「幅の広さ」に加えて必要な、「第三のスキル」についても言及していきます。
ひとつずつ考えていきたいと思います。まず、分かりやすいのは、「幅を広げる」――つまり、個別のテーマについてそれほど深く知悉しているわけではないけれど、多彩なトピックについてある程度のことは知っている状態を目指す――という方向性。これはまさしく生成AIの得意分野です。AIは、膨大な情報をもとに、ありとあらゆるテーマについて一般解となりうる答えを即座に示してくれます。つまるところ、「幅の広さ」だけで価値発揮をしようと試みるのはスポーツカーと100m走で競争するようなものであり、合理性に欠けると言わざるをえません。
では、「専門性」に活路を見出すべきか。これは、部分的には可能性のあるアプローチとなりえます。AIはその構造上、きわめて高度な厳密性や正確性が求められる作業を苦手としています。プロンプトや作業手順の工夫などで多少カバーできはしますが、それでも職人レベルの成果物を安定的につくれるようになるまでにはまだまだ時間が必要なのが現状です。したがって、AIでは出せないクオリティでアウトプットが出せる水準にまで知識やスキルを磨く、もっと言うとAIすらも使いこなして自分のアウトプットの質を高められるように自分の専門性をアップグレードしていくというのは、ひとつの方向性として考えうるものだと思います。
ただし、これにはふたつの相互に関連し合う留意点が伴うため、現実問題として「専門性を高める」という手筋一本に、これからの自分のキャリアを賭けるのは、リスキーな選択となります。
まず、AIでも追いつけないレベルにまで専門性を磨くのは、一朝一夕に成しうることではありません。一般的に、どのような分野・領域においても、「専門家」といえるレベルにまで知識やスキルを向上させるためには、まとまった期間にわたる鍛錬、それも単に時間をかけるだけでなく、洗練された指導を高密度に受けながら高い意識と集中力を保って継続的にトレーニングに取り組むプロセスが不可欠であることがさまざまな研究で示されています(サイド 2022; Hoffman et al., 2013; Nichols et al., 2017など参照)。
- サイド、M.(2022)『才能の科学:人と組織の可能性を解放し、飛躍的に成長させる方法』 河出書房新社
- Hoffman, R. R., Ward, P., Feltovich, P. J., DiBello, L., Fiore, S. M., & Andrews, D. H. (2013). Accelerated expertise: Training for high proficiency in a complex world. Psychology press.
- Nichols, C., Tandstad, T., Lowrance, W., & Daneshmand, S. (2017). Ten thousand attentive hours, rapid learning, dissemination of knowledge and the future of experience-based care in germ-cell tumors. Annals of Oncology, 29(2), 289.
そして、専門性を高めることを考えるうえで看過できないもうひとつの留意点が、昨今のビジネス環境です。元々は冷戦時代の軍事用語だったVUCAという概念が経営に関する文脈で語られるようになって20年近くになりますが、ビジネス環境の複雑さや変化の激しさは収まるどころか年々その度合いを増してきています。それに伴い、高い価値があるとされる知識やスキルもまた、絶えず更新され続けています。さらに、環境が複雑化し、さまざまな分野にまたがる領域横断的な課題が存在感を増している現代のビジネスシーンにおいては、単独のスキルによる「一本足打法」だけですべての課題解決を行うことはほとんどありません。
そのため、なにかひとつの専門スキルをどれだけ高めても、それを活用できる機会が限定的であり、しかも活用するためには他の知識やスキルも掛け合わせないと実質的な価値が出せない、という事態に直面することになります。
優秀な人に共通する「第三のスキル」
専門性を高めるだけでは活躍の場が限られるうえに陳腐化のリスクが拭えない。かといって幅を広げたとしてもAIに取って代わられる…ビジネスパーソンとしての価値を高めるには、どうすればいいのでしょうか。その答えのひとつとして挙げられるのが、「掛け合わせる」というスキルです。
つまり、複数の知識やスキルを単独ではなく、相互に関連し合うものとしてとらえ直し、そこから見出される独自の観点で専門性を深化させると同時に、見識の幅を広げていくというアプローチが、現実的かつ効果的なものとなります。こう述べると到底マネできない、難しいことのように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。きっと読者の皆さんの周りでも、優秀だと目される人は多かれ少なかれ、この「掛け合わせる」スキルを発揮しているはずです。
たとえば、優秀な営業パーソンは単に商品知識や営業トークのスキルに長けているだけでなく、提案先の戦略目標実現に自社製品がいかに貢献しうるかを構想したり、初期投資とランニングコストのバランスをふまえて最適な購買オプションを提案したりすることができます。これは、商品知識や営業のスキルに、戦略的思考や財務的知識など複数の知識・スキルを「掛け合わせて」いる好例です。
また、エンジニア職であれば、プログラミングスキルだけでなく、顧客やチームメンバーとのコミュニケーション、マーケティングやデザインの観点からのUI/UX提案などが、「掛け合わせ」によって価値を発揮する代表的な例になるでしょう。このように、「掛け合わせ」のスキルは、職種や職位にかかわらず、現代のビジネスシーンにおいて重要さを増しています。
「掛け合わせ」のスキルは、「専門性を深め、知識・スキルの幅を広げる」というプロセスと表裏一体のものです。あるテーマについて学びを深めていくと、その過程で必然的に関連する別のテーマが視野に入ってきます。そうした周辺領域についても、積極的に学習するようにしてみましょう。すると、複数の関連するテーマを探索する中で見えてきたつながりが、もともと取り組んでいたテーマに対する理解を深めるための貴重なヒントやひらめきの源になったりします。
こうしたプロセスを繰り返すことで、最初は深さも幅もごく限定的であったとしても、着実に専門性と幅広さの双方が向上していきます。繰り返しになりますが、このとき大事なのは「掛け合わせ」を意識することです。「自分の専門は◯◯だから、△△は関係ない」などと言っていると、せっかくの専門性も他の領域とつながりません。さまざまなテーマに関する知見があっても、それだけで満足するのか、それらを統合してより一層深い洞察を探るのかでは、大きな差が生まれます。
実戦で使える力を鍛える、ビジネススクールの可能性
最後に、「掛け合わせ」で自分の専門性と幅の広さを同時に向上させていくことを考えたとき、ビジネススクールが有効な環境であることもご説明させてください。
当然ながら、個々のテーマについて「専門的」といえるレベルに到達できるまで知識やスキルを追求できることは必須です。でなければ、専門性を高めることができません。同時に、特定の分野や技能に閉じることなく、さまざまな領域にまたがって関連するテーマを探索的に学習できることも不可欠です。そして、「掛け合わせ」の観点からすると、それらの学びがバラバラのランダムな形ではなく、相互の本質的な関係性にもとづいて体系的に整理されていること、さらに言うと、学びの要所要所で目の前の課題に対して過去の経験や知識をあてはめるよう促す仕掛けや働きかけがあると、学習効果はより一層高まります。
以上の要件を満たす数少ない環境のひとつが、ビジネススクールです。グロービスの場合であれば、それぞれの専門領域で豊富な知識と経験を兼ね備えた実務家教員が揃っており、多彩なラインナップの授業を履修することで専門性の深化と幅広さの拡充を同時に追求することができます。加えて、初年次の基礎科目を土台としたカリキュラムは、さまざまな応用展開科目、特別開講科目へと枝分かれしており、一つひとつの学びを深めるだけでなく、それらを総合的にフル活用して洞察を導くことが授業の中でつねに求められます。そこで培われる専門性と幅広さ、そして「掛け合わせ」のスキルは、変化し続け、複雑性を増していく現代社会で価値を生み出すビジネスパーソンを目指すうえで欠かすことのできない、重要な武器になってくれるはずです。
まとめ
鈴木:「掛け合わせ」というのは、学習や転職市場において、なかなか言語化されることが少ないスキルだと思います。しかし、その重要性は松永さんの示した事例であったように、「確かに優秀な人はそのスキルを持っている」と感じられる部分があったのではないでしょうか。専門性か幅の広さかという二軸だけで考えていると、しばしばキャリアの先行きが不安になることもあると思います。そんな方にとって、市場価値の高い人材を目指していくための新たな示唆になっていれば嬉しく思います。
またグロービスでは、「特に二年次に成長が加速した実感がある」という声がよく聞かれます。グロービスのカリキュラムは、一年次にマーケティングや組織マネジメントなど、ヒト・モノ・カネなど特定の領域ごとの基礎をしっかりと学び、二年次には特定の領域に留まらずにこれまで学んだことを横断的に活用してビジネスの意思決定に取り組むように構成されています。これは、今回のコラムの言葉で言えば、一年次に幅広く専門性を培い、二年次でそれらを掛け合わせることを学び、その一連のプロセスによって実務で戦うスキルをしっかりと培っていると言えるのではないでしょうか。グロービスでの成長やキャリアの変化をイメージされたい方は、ぜひこちらもご覧になってみてください。
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松永正樹
グロービス経営大学院 教員
グロービス経営大学院教員兼グロービス教育科学研究所副所長。Ph.D. in Communication Arts & Sciences (Pennsylvania State University)。九州大学ビジネススクール准教授、株式会社Relicプロジェクトリーダー等を経て、グロービスに着任。2021年Academy of Management Best Papers Award(Organizational Behavior Division)をはじめ、学会賞・論文賞受賞多数。『Employee Uncertainty over Digital Transformation』(Springer Nature)著者。個人事業主としてコンサルティング活動も行っており、アントレプレナーシップ教育スタートアップのタクトピア株式会社アドバイザリーを務める。
鈴木由理
グロービス経営大学院 事務局スタッフ
グロービス経営大学院事務局スタッフ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、大手広告代理店にてメディアプランナーや営業として勤務。その後、一次産業に関わるスタートアップに転職し農産地のマーケティング支援などを行う。教育を通じた社会貢献に関心を持ち、2024年からグロービス経営大学院にて事業企画を担当。

