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投稿日:2025年09月02日

投稿日:2025年09月02日

【実務家教員が語る】AI時代に幸せなキャリアを実現するMBAの学び

AIやテクノロジーの進化によって、ビジネス環境はかつてないスピードで変化しています。価値観や働き方が多様化する今の時代においては、変化を的確にとらえ、新たな価値を生み出す力がこれまで以上に求められています。

では、そうした力を発揮できるビジネスパーソンとなるためには、どのようなマインドやスキルが必要なのでしょうか。そして、急速に変わる時代において、MBAの学びはどのような価値を持つのでしょうか。

グロービス経営大学院の教員は、実務の第一線で活躍するビジネスリーダーであると同時に、次世代のリーダー育成を担う教育者として、日々この問いに向き合っています。

今回のセッションでは、

  • メガバンク、戦略コンサルティングファームを経て、複数企業の代表取締役・役員を歴任し、現在は株式会社PKSHA Technology執行役員 経営企画室長 兼 グループ会社 株式会社アイテック 代表取締役社長を務める 前川 卓志 氏
  • PwC税理士法人で会計・税務コンサルティングに従事し、現在は税理士法人カマチ代表社員、蒲地公認会計士事務所代表などを務める 蒲地 正英 氏
  • 戦略コンサルティングファーム、ロンドンの教育ベンチャーを経て、現在はグロービスでグローバルリーダーの育成や組織におけるコンパッション/ウェルビーイングの研究を行う 若杉 忠弘 氏

以上の3名を迎え、「AI時代のビジネスパーソンに求められるマインドやスキル」「実務と教育の両面を担う教員だからこそ語れる、MBAの真の価値」について、パネルディスカッションを行いました。

※動画版はこちらよりご覧ください。

変化の時代、ビジネスパーソンに必要なのは「〇〇力」

未来を妄想し、「なぜ?」と問い続ける思考力

君島:最初に、今の時代に起きている環境変化や、これからのビジネスパーソンに求められる力について、お話を伺いたいと思います。

前川:私は今、駐車場の機器メーカーの社長を務めていますが、実はこの業界にはまったくの未経験で入りました。それまで「車止めがあるのが当たり前」とされていた世界が、今やその前提ごと変わろうとしている。また、キャッシュレスの普及により、硬貨を入れて精算するという行動自体が減ってきている。こうした変化の中では、もはや“経験”や“勘”だけでは経営判断が追いつかない時代だと感じています。

こうした時代に必要なのは「未来を妄想する力」だと思っています。10年後の世の中はどうなっているのか、それを自分なりに想像し、先手を打つ。これが重要です。加えて、その未来を他の人にも伝え、巻き込みながら動いていく力も求められます。

そのためには、日常の中で「なぜ?」と問い続ける姿勢が欠かせません。例えば「なぜこのやり方でやっているのか」と尋ねると、「昔からこうやってるからです」と返ってくることがあります。でもそれが今の環境に適しているかは、まったく別の話です。だからこそ、考える力、つまり「クリティカル・シンキング」が求められているのだと思います。

私が教えている「テクノベート・ストラテジー」では、ノキアとApple、NetflixとBlockbusterのような事例を扱います。私も昔、アメリカ留学中によくBlockbusterでビデオを借りていたんですが、当時はそれがなくなるなんて想像もできなかった。でも、Netflixの台頭によって、一瞬で世界が変わった。つまり、今の“当たり前”が未来には存在しないかもしれない。その想像力を持てるかどうかが、今後の競争力を左右するのだと思います。

また、自分が業界の“よそ者”だったことが、実は大きな強みになっていると感じています。前提や常識に染まりすぎていないからこそ、「本当にそれ、今も必要ですか?」と問い直せる。異質な視点に触れることが、新たな発想や変革の起点になる。そういった意味で、経験の有無よりも、“視点の柔軟さ”が問われる時代になってきていると強く感じています。

未来を妄想し、「なぜ?」と問い続ける思考力

人や組織を動かすための「感情を理解する力」

君島:それでは、蒲地さんにもお話を伺いたいと思います。さまざまな企業の役員を務められてきたご経験から、今の時代に求められる力についてどう感じていらっしゃいますか?

蒲地:10年ほど前までは、情報をいかに整理するかが、非常に重視されていたと感じます。業界の構造や競合の動向など、あらゆる情報を集めてきちんと整理し、そこから何らかの“解”を導き出すことが、当時のビジネスパーソンにとって大きな価値でした。

しかし、今は少し状況が変わってきています。情報の整理整頓は、AIや各種ツールが驚くほどスムーズにやってくれる時代です。だからこそ、それを見て「で、これからどうするのか?」という次の問いを立て、答えを考えられる人が求められている。つまり、“その先”を意味づけできる力が、これからのリーダーには必須だと感じています。

もうひとつ、最近特に大事だと感じているのが、「感情を理解する力」です。論理的思考力はもちろん必要ですが、それだけでは人は動きません。AIがいくら筋の通った提案をしても、それを受け入れるかどうかは、相手の感情や背景によって大きく左右されます。

未来を構想すること、そしてそれを実現に移す過程では、必ず人を動かす必要が出てきます。だからこそ、相手が何を感じ、何を不安に思っているのかを読み取り、丁寧に対話を重ねながら信頼を築いていける力――いわば“感情の文脈”を読み取る力が、今後ますます重要になってくるのではないかと思います。

人や組織を動かすための「感情を理解する力」

幸せに働き続ける人に共通する「学ぶ力」

君島:人の感情に関するお話が出てきたところで、若杉さんにお聞きしたいと思います。リーダーシップやマネジメントをご専門とされていますが、最近の環境変化をどのように捉えていて、どんな力が必要とされていると感じていますか?

若杉:ひと言で言うなら、「幸せに働き続ける力」ですね。今、リーダー層を中心にバーンアウト(燃え尽き症候群)になる人が増えています。例えば、コンプライアンス対応、ハラスメント対策、1on1の実施、組織変革、部下の育成……今はリーダーにとってやるべきことが多すぎる状況なのです。

さらに、AIの進化。これが人を幸せにしているかというと、実は逆なんです。最近の研究では、AIの導入が進めば進むほど、人々の幸福度は下がっているというデータが出ています。理由は主に2つ。ひとつは「仕事がなくなる」こと、もうひとつは「人間関係が希薄になる」こと。便利になっているように見えて、実はみんな疲弊している。孤独感が増して、お酒の量が増えたり、不眠症に悩んだり、家族に当たってしまったり…。そんな話もよく聞きます。

つまり、今は“何もしなければ不幸になりやすい時代”なんです。特にリーダー層は、その負担が重くのしかかっています。だからこそ、「幸せにパフォーマンスする力」が求められている。これは、現代に生きるビジネスパーソン全員に関わるテーマだと思っています。

でも一方で、そうした中でも前向きに活躍している人もいるんですよね。その違いは「学ぶ力」を持っているかどうかです。実は、AIが進化する中でも、元気に活躍している人たちがいます。彼らに共通しているのは、「私はAIを学べる」と信じていること。「どんなAIが来ても、私は学んで使えるようになる」という確信があるんです。その前向きな姿勢が、不安やストレスから自分を守っている。

そのために、グロービスでは「テクノベート(※)」科目を通して、AIを学び、実務に活用する練習を早い段階から取り入れています。AIに“使われる側”ではなく、“使う側”に立つ。そのマインドセットが、これからのビジネスパーソンの幸せと活躍のカギになると考えています。

※テクノベート…"テクノロジー(Technology)"と"イノベーション(Innovation)"を組み合わせたグロービスの造語。

幸せに働き続ける人に共通する「学ぶ力」

AI時代のリーダーが直面する“不安”と“幸せ”

「分からない」が生む“不安”を乗り越えるには

君島:先ほど皆さんに挙げていただいた力は、どうしたら身に付けられるのでしょうか。リーダーが幸せに働くためにはどんなことが必要だとお考えですか。

前川:先ほど若杉さんが「幸せになりにくいのは不安があるから」とおっしゃっていましたが、まさにその通りだと思います。人が不安になるのは、“分からない”からなんです。

例えば、山を登っている途中で雲に覆われて頂上が見えないと、とても不安になる。でも実際に登りきってみると「あれ、意外と高尾山レベルだったな」「半分は登れていたんだ」と分かるわけです。

これは授業でも同じです。私がファイナンスを教えると、学生の皆さんは「正解が分からない」と不安になります。でも実際は、現場の経営者たちも完璧に分かっているわけじゃない。むしろ“ある程度分かっていれば十分”という感覚のほうが大事なんです。

だから「ここまで理解できれば十分」と全体像を掴むと、一気に不安が和らぐんです。体系的に学んでおくことで、「あ、こういうレベルで考えればいいんだな」と見通しが立つ。これが、幸せに働き続けるための大事なステップだと思います。

「分からない」が生む“不安”を乗り越えるには

感情豊かなコミュニケーションが、リーダーの幅を広げる

君島:先ほど「そこから先を考える力」や「人を動かす力」、特に「人の感情を読む力」が必要だというお話がありました。これは最近、特に重要性が増しているのでしょうか。

蒲地:そうですね。皆さんもパソコンに向かっている時間が増えていると思いますが、その分、人とのコミュニケーションは希薄になりがちです。意識せずに日々の仕事をしていると、なかなか相手の感情を読み取ることが難しくなってきているのではないでしょうか。

だからこそ私は、意識的に人とコミュニケーションを取り、感情豊かに関わるようにしています。そうしないと、相手の気持ちが見えにくくなるからです。時代的にも、AIが多くのことを代替できるようになっている今、ますます人間同士の感情のやりとりを意識する必要があると感じます。AIは自分が思った通りに動いてくれますが、人はそうではない。このギャップを理解し、埋めていくことが、物事を前に進める上で欠かせないと思います。

また、人の感情を理解するには「多様な人と会うこと」が大切です。居心地の良いメンバーだけで過ごしていると、どうしても同質的なやりとりになってしまい、視野が広がりません。新しい人と出会い、異なる考え方や価値観に触れる。その積み重ねで「こういう人もいるのか」というパターンが頭に蓄積されていく。そうすると、相手に応じたコミュニケーションの取り方ができ、人を動かす力にもつながっていくのです。

だからこそ、会社の外に出て人と会うことや、同じ会社の中でも異なるマインドを持つ人に目を向けることが重要です。いろいろな人と触れ合う経験が、感情を理解する力を高め、リーダーとしての幅を広げてくれるのだと思います。

感情豊かなコミュニケーションが、リーダーの幅を広げる

リーダーは「罰ゲーム」なのか?

君島:先ほど「今は幸せになりにくい時代だ」というお話がありましたが、私たちの“幸せになる力”自体は変わらず存在しているのでしょうか。それとも、幸せに働けるリーダーが減ってきているのでしょうか。

若杉:私はリーダーが幸せに働けるケースは確実に減ってきていると思います。今では「管理職は罰ゲームだ」とよく言われますよね。なぜそんな言葉が広がったかというと、昇進するとかえって不幸になる、という実感を多くの人が持っているからではないでしょうか。

ただ、ここで大事なのは全員がそうではないということです。キラキラと生き生き働いているリーダーも、確かに存在します。その人たちは何をしているのか。そこから学べることがあるんじゃないでしょうか。

求められるのは、AIを使いこなして付加価値を出せる人材

AIを使いこなす専門職のニーズが急増

君島:これまでのお話で、変化に応じた必要な力が見えてきました。では人材の観点ではどうでしょうか。経営者や社外役員として採用に関わる中で、今どんな人材が不足しているのか、これからはどのような人材が求められるのかについて、お聞かせいただけますか。

AIを使いこなす専門職のニーズが急増

蒲地:人材ニーズも外部環境の変化に合わせて大きく変わってきていると感じます。私の専門領域で言えば、公認会計士や税理士、弁護士といった専門職は、10年前から「AIに代替される」と言われてきましたが、実際にここ数年でその傾向が強くなってきました。

最近は「AIを使える専門家」のニーズが急速に高まっています。逆に、従来型の「契約書を書ける」「文書を整理できる」といったスキルだけの専門家は、もはや数を揃えて雇う必要がなくなっています。実際、ある会社では弁護士を7〜8名雇っていたのを、今はたった1名に減らしました。その他の部分はAIの活用で十分カバーできるようになったからです。その1名はもちろん非常に優秀で、専門知識に加えてAIを使いこなし、さらにビジネス全体も理解している。今は、そういう人材が求められているのです。

このように、単純作業に近い仕事は、採用市場でどんどん厳しくなっています。もちろんサービス業など、人間が不可欠な領域もありますが、頭を使って付加価値を出す専門職の中では「AIに置き換えられる人」と「AIを使いこなせる人」の二極化が進んでいる。結果として、採用の現場でも応募は多いのに「本当に採りたい人」は極端に少ない、という状況が顕著になっています。

特にここ1年ほどでAIの性能が大きく伸びたことで、この変化が一気に加速しました。AIを導入すれば、人材を複数雇うより安価で、かつ精度高く仕事をこなしてしまう。経営判断としては当然そちらを選びます。だからこそ、専門知識が文字化されてマニュアル化できる領域は、今後ますますAIに取って代わられていくでしょう。

クリエイティブ人材の希少価値が高まる

前川:私が銀行にいた頃を思い出すと、昔の調査資料はすべて手書きで、本当に時間をかけて丁寧にまとめられていました。今はパソコンでグラフや回帰分析など、複雑な処理も一瞬でできてしまう。昔は算盤や暗算など速く計算できるといったスキルが重宝されていたのに、それがITによって一気にディスラプトされたわけです。

同じことが今まさに起き始めています。蒲地さんのお話にもあったように、ここ半年から1年ほどでAIの進化が加速し、多くの企業が「どこまで代替できるのか」を真剣に見極めている段階にあります。

そうした中でニーズが高まっているのが、経営企画人材です。かつて経営企画といえば、経営会議に上げるための資料を整える“事務局”のような役割でしたが、様相が変わってきています。新規事業を立ち上げ、周囲を巻き込みながら推進できるようなクリエイティブな力が強く求められている。実際、経営企画でそうした人材を探そうとしても、ほとんど見つからないのが現状です。

これは人事の領域でも同じです。労務管理のようにルールで処理できる部分は自動化が進みますが、その会社の文化や業界特性を踏まえた人事制度を設計できる人材は極めて少ない。だからこそ、経営を理解し、全体を見渡しながらクリエイティブに制度や事業をつくれる人には非常に高い価値がついています。

結果として、そうした人材の給与水準は大きく跳ね上がり、企業側も「募集要項の金額と違っても、他にいないから採用せざるを得ない」という判断を迫られる時代になってきていると感じます。

MBAは「知識」ではなく「使える力」を育む場

MBAで「幸せに働き続ける力」を育む

君島:こうした大きな変化の中で、MBAはどのように役立つのでしょうか。単なる知識やスキルならAIが代替できてしまう時代に、MBAの価値をどうお考えですか。

若杉:幸せに働き続けるためには、3つの要素が必要だと考えています。

1つ目は「成長実感」です。これまでの仕事人生を振り返って、成長していると感じたときは、やはり幸せだったのではないでしょうか。人の能力開発そのものが幸せにつながる。成果を出すために学ぶスキルは、実は幸せの源泉でもあるんです。

2つ目は「人間関係」です。幸せに最も強い影響を与える要因は、人とのつながりです。良い仲間や友人がいるかどうか。MBAは単なるスキル習得の場ではなく、ネットワークを築く場でもあります。例えば仕事で直面する課題も、すでに解決経験のある仲間がいれば相談できる。ディスカッションボード(※)に質問を投稿したらすぐに返答が来る、そんな環境があるのは大きな力です。成果を出しながら友情を深め、ネットワークを広げていける。これこそMBAの大きな価値だと思います。

※ディスカッションボード…教員や学生間のコミュニケーションの場として、クラスごとに利用できるWeb上のコミュニケーションツールのこと。

MBAで「幸せに働き続ける力」を育む

若杉:そして3つ目は「自分で意思決定すること」です。やらされ仕事はつらいですが、自分で「これをやる」と決めた仕事は楽しく取り組めます。人生やキャリアで何を成し遂げたいのかを真剣に考え、自ら選ぶこと。それ自体が幸せにつながります。こうした3つの要素を満たす場として、MBAは非常に意味のあるものだと思います。

君島:ありがとうございます。まさにグロービスの教育理念そのものですね。能力開発、ネットワーク、そして志。この3つが、幸せの研究でも裏付けられているとは心強いです。

変化を捉えながら「全体を理解する力」を鍛える

蒲地:私は、MBAは十分に役立つと思います。むしろ“当たり前に持っていた方がいい知識”が数多く得られるのがMBAだと思うんです。

この「当たり前」というのは、例えば幸せに働くこともそうですが、ビジネスの現場では外部環境の変化が激しく、複雑な要素が絡み合う時代になっています。昔なら人事部にいれば人事だけを考えていればよかったかもしれません。でも今は会社全体の戦略を理解した上で、「だから人事はこうあるべきだ」と議論できなければ、良い方向には進めません。

情報そのものは誰でも手に入れられる時代です。だからこそ重要なのは、それらを組み合わせ、変化を捉えながら考えられる力です。営業担当者であっても、ただお客様に会えばいいわけではなく、相手がどんなツールを使っているのか、どんなIT環境で仕事をしているのかを理解して会話できる必要があります。そうでなければ成果を出せない時代です。

つまり、専門分野に限らず、経営全般をある程度理解していることが必須になっている。MBAで学ぶ内容は、まさにその基盤になると思います。

君島:なるほど。つまり、弁護士や会計士といった専門職だけでなく、人事や営業など幅広い職種でも「全体を見渡す視点」が求められる時代になっている、ということですね。

蒲地:そう思います。以前なら専門知識さえあれば良かったかもしれませんが、AIに取って代わられる領域も増えています。だからこそ、会社全体や社会全体を理解した上で、それを自分の専門分野に生かせる力が欠かせない。その意味で、MBAは今の時代にますます役立つものだと思いますね。

「普遍的な問い」を考える枠組みを身に付ける

前川:まず1つ目は「カリキュラムが常にアップデートされている」という点です。例えば昔はそろばんが必須だったけれど、今は不要になっている。もし不要であれば外される。逆に今のグロービスでは、テクノロジーやエンタメといった新しい領域がどんどん組み込まれています。AIが発達していくからこそ「人に感動を与えるビジネス」が求められる。その最先端を学べるのがMBAなんです。

「普遍的な問い」を考える枠組みを身に付ける

前川:2つ目は「問いの重要性」です。答えは時代によって変わるけれど、「我々はどの業界で戦うのか」「顧客は誰か」「競合とどう差別化するのか」「いくらかけて、いくら儲かるのか」「そして、それは本当にやりたいことなのか」という問いは変わりません。その問いに向き合うために、戦略・マーケティング・人材マネジメント・アカウンティング・ファイナンスといった枠組みを横断的に活用できる。MBAは、そのための“考える枠組み”を身につける場だと思います。

3つ目は「グローバルスタンダードとの接続」です。海外の経営陣はMBAを持っているケースが多く、彼らとビジネスを進めるとき、「MBA的な文脈」を理解していないと話がかみ合わないことがある。相手の前提を理解し、こちらの立場を再定義して伝える。そのためにもMBA的素養は必要だと感じます。

私はよくMBAを「運転免許」に例えるのですが、教本を読んでルールを覚えるだけでは運転できない。教習所で教官と走り、公道に出て数をこなして初めて身につく。同じようにMBAで学んだ基礎を、仲間との議論や実務で活かしてこそ、本当に使える力になる。卒業後に「ペーパードライバー」にならないよう、実践で走り続けることが大事だと思います。

蒲地:前川さんの「運転免許の例え」は確かにしっくりきますね。私は2011年入学生で、グロービスの卒業生でもあります。当時、学んでいて強く感じたのは、「できる」と「使える」は違う、ということです。勉強したら“分かったつもり”にはすぐなれますが、それを実務で活用できるかどうかは別問題なんです。

グロービスでも基礎科目からさまざまなクラスを受けますが、それを自分の会社に持ち帰って使えるようにするには、やはり2年間しっかり学び、その後も実務で繰り返し活用していくことが欠かせません。MBAではケースを通じて繰り返し考え、議論し、ようやく自分のものになっていくと実感しました。

蒲地:また、公認会計士の仕事では失敗できない領域が多いのですが、MBAではケースディスカッションの中で自由に意見を出し、間違えてもいい。その中でリスクを取る経験ができ、多様な業界の課題に触れることで視野も広がります。知識を「知っている」だけでなく「使える」に変える、その過程が大きな価値だと思います。そして学びを重ねるほどできることは増え、可能性も広がります。時間はかかりますが、我慢強く続けることで確実に力になる。MBAの学びはまさにその積み重ねだと感じています。

教員陣からみた「グロービスMBA」の特徴

日本最大のMBAだから実現できる「学びの広さと深さ」

君島:教員として教える立場である皆さんに、改めて「グロービスのMBAにはどんな特徴があるのか」を伺ってみたいと思います。ご自身が他校で学ばれたご経験や、卒業後に教員として学校の内側を見てこられた視点から教えていただけますか。

若杉:一番大きいのは「規模」だと思います。グロービスは国内だけでなく、世界的に見ても相当な規模を誇るMBAです。教育なのだから規模は関係ないと思われがちですが、実はMBAにおいては大きな意味を持ちます。

まず、ネットワークの広さです。規模があるからこそ、どんなにニッチな関心を持っている人でも必ず同志を見つけられる。教員の数も多いため、自分がピンポイントで相談したい分野の専門家に出会える確率が高いんです。例えば「仏教哲学クラブ」のようなビジネススクールにしてはユニークなクラブまで存在していて、授業以外の活動を通じても多様なネットワークが広がります。

もうひとつは、科目開発の質です。どのMBAも科目数そのものは似ていますが、規模が大きい分、グロービスは1科目の開発に投入できるリソースが桁違いです。新しい科目をつくる際には、複数の教員と研究員が徹底的に議論し、最新の知見やケースを取り入れて設計しています。そのため、どのクラスを受けても一定の質が担保されているんです。

規模の力があるからこそ、学びの広さも深さも確保できる。これがグロービスならではの大きな特徴だと思いますね。

日本最大のMBAだから実現できる「学びの広さと深さ」

ディスカッションと仲間づくりの場としての価値

蒲地:まず授業の特徴として大きいのは、ディスカッションベースで進むことですね。しかも受講生が多いからこそ、毎回違う人と議論ができ、多様な考え方や説得の仕方に触れられる。ときには感情がぶつかることもありますが、それ自体が大きな学びになります。私自身、学生として体験したときに「こんなに多様な人と真剣に議論できる場は他にはない」と強く感じましたし、卒業してから振り返ると、あの機会は本当に貴重だったと思います。

また、授業外でも仲間が増えていくのがグロービスの特徴です。授業後の懇親会では、その日の振り返りから人生相談まで話題が広がり、自然と人間関係が深まっていきます。そこから生まれるつながりは、ただの飲み仲間ではなく、仕事や家族の相談までできる人生のパートナーのような関係になることもあります。

さらに、教員との距離が近いのも大きな特徴ですね。私自身も受講生時代に教員の方々とつながりができ、今も関係が続いています。逆に教員となった今は、学生の方からSNSや直接の相談を受けることも多い。同じ目線で相談できる存在として関係を築けるのは、他のMBAにはなかなかない強みだと思います。

異質に触れ、働きながら学ぶ実践的な場

前川:ひとつは、蒲地さんと同じく授業の進め方です。授業では通常4〜6人でディスカッションを行い、20分ほどで一つの意見にまとめます。でも年齢や立場、バックグラウンドが違う人と一緒になると、なかなか説得できないこともあります。ところが2年間こうした経験を積むと、どんな相手に対しても説得できるようになるんです。その経験があると、自社に戻ったときにはむしろ説得が容易に感じられる。これは大きな力になりますね。

もう一つは、クラスや教員の数が多く、授業の標準化もされているので振替受講がしやすいことです。私はよく「同じ教員だけで受けるのはもったいない」と言っています。多様な教員と出会い、相性を確かめながら学べるのは、他校にはない良さです。

また、海外のMBAと比べても違いがあります。もちろん海外に行けば現地ならではの就職機会や経験がありますが、2年間仕事を離れるリスクもあります。その点、グロービスは働きながら学べるため、学んだことをすぐに実務に活かせるのが強みです。実際、どの科目でも「前回学んだことを会社でどう試したか」を共有する時間があり、それが学びを一層実践的なものにしています。

さらに、日本ならではの教員との距離の近さも魅力です。懇親会やプライベートな交流を通じて、相談できる関係を築けるのは海外にはない特徴だと思います。こうした学びとネットワークの両立が、グロービスの大きな価値だと感じています。

「理解するだけ」で終わらないグロービスの学びとは

ファイナンスは経営陣に必須の教養に

君島:ではここからは、皆さんが担当されている科目について伺っていきたいと思います。どんな特徴があり、どんなことを重視して教えていらっしゃるのか、教えてください。

前川:私はアカウンティングやファイナンス、経営戦略の応用科目を担当しています。特に意識しているのは「実務にどうつながるか」というリアリティです。例えば、近年は資本効率やPBRといった指標が日常的に語られるようになり、アクティビストからの要求も強まっています。その結果、「従来の経営では不十分ではないか」という議論が活発化している。まさに、そうした現場の動きを踏まえながら学んでいただくことを大事にしています。

ファイナンスは経営陣に必須の教養に

実際、以前は「アカウンティングさえ学べば十分」と言われていたのが、2014年頃からは「ファイナンスも必須だ」と変わってきました。さらに2018年頃には、取締役が外国人株主から直接問い詰められるような場面も増え、いまやファイナンスは経営者にとって“教養”といえるほど不可欠な領域です。

単に理論を学ぶだけでなく、学んだ内容を実務で使ってみる、つまり“運転”してみることが重要です。ファイナンスを実際の経営判断に活かせるようになること。それこそがMBAで会計や財務を学ぶ大きな価値だと考えています。

事業承継を理論的に学ぶ「ファミリービジネス・マネジメント」

蒲地:確かに昔と比べて、数字の意味合いは大きく変わってきています。私が会計士になった2004年頃は、会計は“後処理”、つまり過去の数字を整理するためのものという認識が強かったんです。でも今は、将来を見据えるために数字を使う感覚が広がっています。

アカウンティングの授業では、最初に「カネ系の授業は好きですか、嫌いですか?」と聞くと、多くの受講生が手を挙げて「嫌い」と答えます。ところが授業が終わると「楽しかった」と言っていただけることが多い。数字が未来を描くための武器になると実感できるからだと思います。

君島:蒲地さんには、グロービスならではの科目でもある「ファミリービジネス・マネジメント」についても伺いたいと思います。事業承継や家業経営をテーマに学べるのは非常に貴重ですよね。どのような特徴があるのでしょうか。

蒲地:大きな特徴は、意思決定の時間軸がまったく違うことです。一般的な上場企業では、短期的に利益を出し続けなければ評価されません。一方でファミリービジネスは、たとえ数年赤字でも10年スパンで利益を積み上げれば良いという考え方も成り立ちます。つまり、経営の定石を学びつつも、ファミリービジネスならではの強みをどう活かすかを議論するクラスなんです。

事業承継を理論的に学ぶ「ファミリービジネス・マネジメント」

蒲地:また、この科目は学びの総仕上げの位置づけにあります。基礎や応用科目を経たうえで、自社に引き寄せて考えることを重視しています。最終回には「自社をこれからどうしていくか」をテーマにプレゼンをしていただきます。これが非常に印象深く、数年経っても学生同士で「あのときプレゼンしていたこと、どうなった?」と話題になるほどです。

学びを自社に直結させ、さらに仲間とのつながりが卒業後も続く。そうした点が、このクラスならではの魅力だと思います。

人を動かす力を磨く「パワーと影響力」

若杉:私が担当している科目のひとつは、ヒト系科目である「パワーと影響力」です。結局、人を動かすのはこの“見えない力”なんですよね。リーダーとして頭角を現す人は、必ず影響力を持っています。ただ、影響力はお金のように目に見えるものではない。それが人を動かしているのに、意外と正面から学ぶ機会が少ないんです。そこで、この力に徹底的にメスを入れるのがこの科目の目的です。

経営戦略などで正しい方向性が見えても、「どう人を巻き込むか」で悩むことは多いはずです。その時に必要なのが影響力です。権限や予算といった表面的な力ではなく、実は別の源泉がある。これをどう活用するかを体系的に学びます。

授業では、同僚・上司・他部門・会社・社会と、影響力を及ぼす対象を段階的に広げていきます。そして最終的には「自分をどうコントロールするか」に行き着く。多くの卒業生からも「一番役立った」と言っていただける、非常に実践的な科目です。

グロービスの学びに共通しているのは、単に知識を理解するだけでは終わらせない点です。ファイナンスなら実務で使う、ファミリービジネスなら自社に引き寄せて考える。同じように、この科目では「どう人を巻き込み、実行につなげるか」まで踏み込みます。そこまでできて初めて創造と変革に挑める。私はそう考えています。

人を動かす力を磨く「パワーと影響力」

質疑応答

生成AIをどう活用するか?

君島:ここからは会場の皆さんからのご質問に答えていきたいと思います。まずは「生成AI時代に、学びながらどう活用していくべきか」についてです。

蒲地:MBAで大切なのは「AIをこう使えばいい」という正解を探すことではなく、自分が置かれている環境や状況を踏まえて考えることだと思います。どの程度AIを取り入れるかはケースバイケースです。ですので、自分の中で「この場面ではこうだ」と判断できるようになることが重要です。そのためにも、学びを通じて思考力を鍛えることが大切ですね。

ベンチャー転職後に幸せに働くには?

君島:続いてのご質問です。大企業からベンチャーに転職された方から、「どこから手をつけ、どう目線を持てばよいか?」というご相談です。前川さん、いかがでしょう。

前川:ベンチャーはリソースが限られている分、優先順位を明確にしなければなりません。だからこそロジカルシンキングやプロジェクトマネジメントのスキルが役立ちます。学んだことをすぐに試し、PDCAを回すことで成果につなげる感覚を持つことが重要ですね。また、すべてを一人で抱え込まず、人の頭を借りることも忘れてはいけません。仲間を頼ることも力の一つです。

若杉:苦しい時こそ仲間と悩みを共有することが大事です。グロービスには「安全基地」のような環境があり、同じように悩む仲間と経験を分かち合えます。ロジカルに考えることももちろん大切ですが、ときには率直に気持ちを吐き出し合える仲間がいることで、再び前を向けるのです。

学びの大変さをどう捉えるか?

君島:次のご質問です。「MBAの学びは大変だと思うが、その苦しさをどう考えればいいのか?」というものです。

若杉:最初は確かに大変です。でも繰り返すうちに必ず楽になります。スキーで最初は緩斜面も怖いのに、滑れるようになるとコブ斜面に挑みたくなるでしょう。それと同じで、大変さがやがて喜びに変わるんです。予習復習を積み重ねていけば、新幹線に乗るように一気に加速する瞬間が訪れますよ。

蒲地:私も在学中は本当に大変でした。ただ「この学びは一生使える」と考えて頑張っていました。学びは一度身につければ一生モノ。それが私の支えでしたね。

まとめ

議論を通じて浮かび上がったのは、AIに代替されにくい「人間らしい力」の重要性です。感情を理解し、人を動かす力、多様な人と触れ合う力、そして意思決定を自ら下す力。これらを育む場としてMBAが果たす役割は今後ますます大きくなるでしょう。

グロービスのMBAは、日本最大規模のネットワークと実践的な学びを強みとし、働きながら「学んで使う」を繰り返すことで確かな力を養える環境です。参加者との対話や仲間とのつながりが、単なるスキル以上の学びを生み出します。

リーダーとしての幅を広げたい人にとって、MBAはキャリアの選択肢であると同時に、人生をより幸せで豊かなものにするための大切なステップとなるのではないでしょうか。

体験クラス&説明会日程

体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。

「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。

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ご希望の受講形式と同じ形式での参加をおすすめしています。

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  • 9/6(土) 14:00~16:00

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催)
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

  • 9/10(水) 19:30~21:30

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催)
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

  • 9/20(土) 14:00~16:15

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    開催:オンライン(Zoom開催) ※卒業生スピーチあり
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

該当する体験クラス&説明会はありませんでした。

※参加費は無料。

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