

GLOBIS Articles
投稿日:2025年09月26日
投稿日:2025年09月26日
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは?策定のコツや浸透させる方法、事例を紹介
- 吉峰史佳
- グロービス コンテンツオウンドメディアチーム
企業を力強く成長させるための羅針盤となるMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)。VUCA時代と呼ばれる現代において、組織が向かうべき方向を指し示し、従業員一人ひとりの力を最大限に引き出すMVVの役割は、ますます重要性を増しています。
本記事では、グロービス経営大学院が考えるMVVの本質から、具体的な策定・浸透・活用のノウハウまで、わかりやすく解説します。
MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは
MVVは、企業の存在意義や未来像、そして組織で働く人々が共有すべき価値観を言語化したものです。それぞれが有機的に結びつき、組織の「何のために存在するのか」「どこに向かうのか」「どう振る舞うべきか」を包括的に定義します。
ミッション(Mission):企業の存在意義
「私たちは何のために存在するのか?」という根源的な問いに対する答えです。自社の事業活動を通じて、社会にどのような価値や影響を与えたいのか、その存在意義を明確にします。例えば、「世界中の人々に幸せな食卓を届ける」といった、社会に対する貢献や使命を表現します。
ビジョン(Vision):目指すべき未来像
ミッションが実現した先に、どのような世界が広がっているのかを具体的に描く、未来のあるべき姿です。例えば、「〇〇領域で世界一のシェアを獲得する」といった定量的な目標や、「〇〇の分野でなくてはならない存在になる」といった定性的な目標が設定されます。ビジョンは、組織全体がワクワクするような、挑戦的な目標であることが重要です。
バリュー(Values):共有すべき価値観・行動原則
ビジョンを実現するために、組織のメンバーが共通で持つべき考え方や、取るべき行動を明文化したものです。例えば、「顧客第一主義」「挑戦と失敗を恐れない」「徹底的に議論する」といったものが挙げられます。このバリューが、日々の業務における従業員の意思決定や判断の基準となります。
企業理念・経営理念・行動指針との違い
MVVは、企業理念や行動指針と混同されがちですが、それぞれ異なる役割と階層性を持っています。この違いを理解することで、MVVをより効果的に活用できます。
- 企業理念は、その企業が掲げる哲学や信念であり、一般的にはMVVを包含する上位概念として位置付けられることがあります。
- 経営理念は、企業理念を具体的な経営方針として落とし込んだものです。
- 行動指針は、バリューをより細かく、具体的な行動レベルまで分解したものです。
MVV、企業理念、経営理念、行動指針は、それぞれがバラバラに存在するのではなく、相互に影響し合う関係にあります。MVVが組織の「軸」となり、その他の要素がMVVを補完する形で機能するのです。MVVが中心にあり、そこから派生して行動指針が生まれるという構造になっています。
策定のタイミング
MVVは、一度策定すれば終わりではありません。組織が成長し、環境が変化する中で、定期的な見直しと再定義が求められます。MVVの策定・見直しを行うべき代表的なタイミングは以下の通りです。
- 創業期: 企業のアイデンティティを確立し、初期メンバーが同じ方向を向くための羅針盤を定める最も重要なタイミングです。
- 事業転換期: 新しい事業領域に挑戦する際、既存のMVVが通用するかどうかを検討し、必要に応じて再定義します。
- 組織の拡大期: 従業員数が増え、組織文化の統一が難しくなる時期です。MVVを再確認し、新メンバーにも深く浸透させる必要があります。
- 合併・買収時: 異なる文化を持つ組織が一つになる際に、新しいMVVを共通の旗印とすることで、統合を円滑に進めることができます。
- リーダーシップの交代時: 新しいリーダーが就任する際、MVVを再定義することで、組織に新たな活力を与えることができます。
MVVが企業にとって重要な理由3つ
MVVは単なる言葉ではなく、企業の競争優位性を生み出すための強力な経営ツールです。MVVを明確にすることが企業にとって重要な理由は、多岐にわたります。
重要な理由1:組織の「軸」がブレなくなる
MVVは、すべての活動の根幹となる判断基準です。日々の業務における大小さまざまな意思決定において、「この行動は私たちのMVVに沿っているか?」という問いを投げかけることで、組織全体の一貫性を保つことができます。これにより、市場の変化に迅速に対応し、一貫性のある事業活動が可能になります。
重要な理由2:優秀な人材を獲得・定着できる
企業理念やMVVに共感する人々は、単に条件が良いという理由だけでなく、その企業で働くことに「意味」や「やりがい」を感じるようになります。
採用活動において、MVVを積極的に発信することで、企業の存在意義に共感する人材を引きつけ、入社後のミスマッチを減らすことができます。結果として、エンゲージメントの高い従業員が増え、離職率の低下にも繋がります。
重要な理由3:従業員の自律性を育み、生産性を向上させる
MVVが明確であれば、従業員は上司の指示を待つだけでなく、自らの判断で行動することができます。例えば、「顧客に最高の体験を提供する」というバリューがあれば、顧客対応で困った際、マニュアルにない対応であっても自らの判断で最善を尽くそうとします。このように、MVVが従業員の行動を促し、組織全体の生産性を高めます。
MVVを策定する5つの手順
MVVの策定は、戦略的なプロセスを経て行うことが重要です。以下に、その具体的な手順とフローを解説します。
手順1:自己分析
MVV策定の出発点は、創業者や経営陣の「なぜこの事業を始めたのか」という強い想いを深く掘り下げることです。創業時の困難や、社会に対して成し遂げたいと願った原体験を言語化します。
手順2:現状分析
自社の強みや弱み、市場における立ち位置、顧客からの評価などを客観的に分析します。従業員へのアンケートやインタビューを通じて、組織の現状を多角的に捉えます。
手順3:議論と共創
MVVは、経営陣だけで決めるべきものではありません。各部門の代表や若手社員を巻き込み、ワークショップ形式で徹底的に議論します。これにより、多様な意見が反映されるとともに、従業員が当事者意識を持ってMVVを理解し、受け入れる土壌が育ちます。
手順4:言語化と草案の作成
議論を通じて出てきたキーワードやフレーズを整理し、わかりやすく、簡潔な言葉に落とし込みます。複数の草案を作成し、社内でフィードバックを募ります。
手順5:MVVの定義と最終化
集まった意見を参考に最終版を確定し、正式なMVVとして発表します。
MVVを上手く策定するためのポイント4つ
MVVを単なるスローガンに終わらせないためには、以下のポイントを意識することが重要です。
策定のポイント1:シンプルで覚えやすい言葉を選ぶ
MVVは、日々の業務で頻繁に参照されるものです。誰でもすぐに理解でき、記憶に残りやすい言葉を選びましょう。専門用語や難解な言葉は避け、直感的で心に響く表現を心がけます。
策定のポイント2:ビジョンは未来志向でワクワクする表現を用いる
ビジョンは、組織全体が同じ夢を共有するためのものです。現状の延長線上にあるような平凡な目標ではなく、挑戦的でスケールの大きな目標を設定しましょう。また、従業員が「この会社で働いていることが誇らしい」と感じられるような社会的価値のわかりやすさも意識しましょう。
策定のポイント3:バリューは具体的な行動に結びつく表現にする
抽象的な言葉では、具体的な行動に移すことができません。例えば、「革新性」というバリューであれば、「常に新しい方法を試し、失敗から学ぶ」といった具体的な行動指針をセットで定義します。
策定のポイント4:唯一無二のオリジナリティを追求する
競合他社が掲げているような当たり障りのないMVVでは、差別化が図れません。自社の強みや信念を深く掘り下げ、他社にはない独自の価値観を表現することが重要です。
MVVを浸透させるための対策4つ
MVVは、策定するだけでなく、組織の隅々まで浸透させてこそ、その真価を発揮します。
対策1:社内広報の徹底
イントラネットや社内報、SNSなどを活用し、MVVを継続的に発信します。MVVをテーマにした記事や、MVVを体現する社員のインタビュー記事を掲載することで、MVVを身近なものとして感じさせます。
対策2:評価制度との連動
MVVに沿った行動や貢献を、人事評価や報酬に反映させる仕組みを導入します。これにより、従業員はMVVが「会社の建前」ではなく、「真の行動指針」であることを理解します。
対策3:定期的な研修・ワークショップの開催
新入社員研修や階層別研修にMVVを組み込み、その意味や重要性を深く学びます。定期的にMVVについて語り合うワークショップを開催し、メンバー間の理解を深めます。
対策4:ストーリーテリング
MVVを体現した成功事例や、失敗から学んだ例をストーリーとして語り継ぎます。物語は人の心に残りやすく、MVVをより深く理解し、記憶に留める手助けとなります。
MVVを根付かせるコツ5つ
MVVを組織文化として定着させるには、継続的な努力と工夫が必要です。
根付かせるコツ1:リーダーが率先してMVVを体現する
MVVが形骸化する最大の原因は、リーダーがMVVに沿った行動をしていないことです。経営陣やマネージャーが、日々の意思決定や行動でMVVを体現し、従業員の手本となることが最も重要です。
根付かせるコツ2:MVVに沿った行動を称賛する
MVVに紐づいた良い行動をした従業員を、全社で称賛する機会を設けます。例えば、社内表彰制度や四半期ごとの発表会などで、具体的なエピソードとともにMVPを表彰します。
根付かせるコツ3:日常のコミュニケーションに組み込む
朝礼やミーティングで、MVVに関連する話題を意図的に取り上げます。「今回のプロジェクトは、私たちのMVVのうち、〇〇を特に体現しているね」といったように、会話の中で自然にMVVに触れるようにします。
根付かせるコツ4:失敗から学ぶ文化を醸成する
MVVに沿って挑戦した結果、失敗に終わったとしても、それを責めずに称賛し、そこから得た学びを共有する文化を作ります。これにより、従業員は安心して挑戦できるようになります。
根付かせるコツ5:MVVを体現する人材を育成する
MVVを体現する行動ができるように、従業員にスキルや知識を習得する機会を提供します。研修やeラーニング、メンター制度などを活用し、MVVに基づいた行動を促します。
MVVの事例2選
MVVを経営の根幹に据え、独自の文化と競争力を築き上げている企業の例は数多く存在します。ここでは、MVVの要素を企業活動に反映させている代表的な企業を紹介します。
事例1:Google
Googleは、世界的なテクノロジー企業として、明確に定義されたミッションと価値観を持ち、これを経営と企業文化の根幹に据えています。
- ミッション: 「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」
創業以来一貫して掲げ続けている使命であり、検索エンジンをはじめとする多様なサービスの基盤となっています。 - ビジョン: 公式なビジョンは明示されていませんが、ミッションを実現する過程で、「情報の整理やアクセス改善を通じて、人々の生活をより便利にするための革新的なサービスを創り続けること」という姿を目指していると言えます。
- バリュー: 初期には「Don’t be evil.(邪悪になるな)」が企業文化を象徴する重要な行動規範でした。2015年のAlphabet再編後は、「Do the right thing(正しいことをしよう)」に置き換えられました。また、社員の行動規範としては公式の「10の事実」が広く浸透しており、「ユーザーに焦点を合わせれば、他のことは自然についてくる」「一つのことをとことん極めれば、それが一番うまくいく」といった原則が、その代表例です。
Googleは、このミッションに基づき、検索エンジンを絶えず進化させ、GmailやGoogle Maps、Androidといった革新的なサービスを生み出してきました。バリューは、技術革新を追求しながらも、ユーザーの利益を最優先するという文化を醸成する上で重要な役割を果たしています。
事例2:トヨタ自動車
トヨタは、創業以来の理念と「モビリティカンパニー」への変革を反映したMVVを掲げています。
- ミッション: 「わたしたちは、幸せを量産する」
これは、単に車を販売するだけでなく、人々に移動の自由と喜びを提供することで、社会全体の幸せに貢献するという、トヨタの存在意義を示しています。 - ビジョン: 「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」
単なる自動車メーカーではなく、人や物の移動に関わるあらゆるサービスを通じて、社会の可能性を広げる未来像を描いています。 - バリュー: 「トヨタウェイ」として知られる、トヨタ独自の行動指針です。具体的には、「ソフト」と「ハード」を融合し、「パートナー」とともにトヨタウェイという唯一無二の価値を生み出す、としています。
トヨタは、このMVVを経営の根幹に据え、「トヨタ生産方式」に代表される現場改善の徹底や、EV(電気自動車)開発への積極的な投資など、ミッションとビジョンを実現するための具体的な活動を推進しています。また、バリューは、社員一人ひとりの日々の行動を支える羅針盤として機能しています。
MVVの概念は個人の目標設定にも役立つ
MVVは、企業だけでなく個人の人生にも応用できます。キャリアプランや人生の目標を考える上で、自分自身のMVVを定義することで、「何のために働き、どう生きるか」という軸を持つことができます。
個人のミッション:あなたが人生で成し遂げたいことは何ですか?
個人のビジョン:あなたが思い描く理想の未来像は?
個人のバリュー:あなたが仕事や人生で大切にしたい価値観や信念は?
この問いに向き合うことは、個人の目標を明確にし、キャリア選択や日々の行動をより意味のあるものにします。企業のMVVと個人のMVVが重なり合うとき、仕事へのエンゲージメントは最大化され、パフォーマンスも飛躍的に向上するのです。
グロービス経営大学院でビジネススキルを身につけよう
グロービス経営大学院では、MVVを策定・浸透させるための実践的なスキルを学ぶことができます。「マーケティング・経営戦略基礎」「組織行動とリーダーシップ」「アカウンティング基礎」といったビジネスの基礎に加え、自らの「志」を深く見つめ直すカリキュラム(「リーダーシップ開発と倫理・価値観」など)を通じて、MVVを自分ごととして捉え、組織を導くリーダーシップを育むことができます。
まとめ
MVVは、企業と個人の両方の成長を支えるための強力な羅針盤です。策定・浸透・活用の各フェーズにおいて、本記事で解説したポイントを実践することで、単なる言葉ではなく、生き生きとした組織文化を醸成することができます。これからの時代を生き抜くために、ぜひMVVを経営の根幹に据えてみてください。
体験クラス&説明会日程
体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。
「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。
STEP.3日程をお選びください
体験クラス&説明会とは
体験クラス
約60分
ディスカッション形式の
授業を体験
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスならではの授業を体験いただけます。また、学べる内容、各種制度、単科生制度などについても詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。
説明会のみとは
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスの特徴や学べる内容、各種制度、単科生制度などについて詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。なお、体験クラスをご希望の場合は「体験クラス&説明会」にご参加ください。
オープンキャンパスとは
MBA・入試説明
+体験クラス
大学院の概要および入試内容の
確認やディスカッション形式の
授業を体験
卒業生
パネルディスカッション
卒業生の体験談から
ヒントを得る
大学院への入学をご検討中の方向けにグロービスMBAの特徴や他校との違い、入試概要・出願準備について詳しくご案内します。
※一部体験クラスのない開催回もあります。体験クラスの有無は詳細よりご確認ください。
※個別に質問できる時間もあります。
該当する体験クラス&説明会はありませんでした。
※参加費は無料。
※日程の合わない方、過去に「体験クラス&説明会」に参加済みの方、グロービスでの受講経験をお持ちの方は、個別相談をご利用ください。
※会社派遣での受講を検討されている方の参加はご遠慮いただいております。貴社派遣担当者の方にお問い合わせください。
※社員の派遣・研修などを検討されている方の参加もご遠慮いただいております。こちらのサイトよりお問い合わせください。
吉峰史佳
グロービス コンテンツオウンドメディアチーム
早稲田大学第一文学部、東京大学大学院情報学環教育部を修了。HR業界紙の編集者、AI開発スタートアップでの広報を経て、現職でグロービスのオウンドメディア編集に従事。自身もグロービス経営大学院 経営研究科 経営専攻を修了している。