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投稿日:2021年11月24日

投稿日:2021年11月24日

マーケティングの巨匠による待望の書 『MARKETING 5.0』

河村 有希絵
グロービス経営大学院 教員

進化するデジタル環境に着目

マーケティングの巨匠コトラーの『MARKETING X.0』シリーズの最新書である。同シリーズを通して、コトラーはマーケティングのテーマを、

1.0 製品主導
2.0 顧客中心
3.0 人間中心(顧客価値、社会貢献)
4.0 オンラインとオフライン

と定義してきた。本書『MARKETING 5.0』ではさらなる進化が語られている。

着目されているのは、デジタル環境の進化と成熟である。インターネットが高速化し、デバイスの性能も向上、ビッグデータの活用が進んだ。AI(人工知能)、NLP(自然言語処理)といったテクノロジーも目覚ましく進化している。

これらを背景として、消費者も大きく変わってきた。消費者の世代交代を考えるとき、インターネットを当たり前のツールとして育ったZ世代(1997年~2009年生まれ)とアルファ世代(2010年以降生まれ)の台頭は見逃せない。デジタルネイティブと言われる彼らの価値観や消費行動は、それ以前の世代のものとは異なっており、彼らを顧客として対応していかねばならないマーケティングの現実がある。

また、この世代はデジタルがもたらす恩恵と不安をともに享受する。仕事や生活の利便性が向上する一方で、デジタルを大いに活用する富裕層とそうでない層の格差が生まれ、分断が起きている。

このような時代の流れの中で、マーケティングも変化する。様々な分野で、機能的な差別化の余地が縮小し、体験や情緒といった顧客価値に重きをおく流れはマーケティング3.0時代からの潮流だ。そして今、若い世代を中心に、人間は日々、リアルと同じかそれ以上にデジタルを通して“体験”し、“感じる“ようになっている。デジタルは人間に寄り添い、近づいている。しかし、あくまでも主体は人間であってデジタルではない。デジタルを使うのは人間だ。デジタルは人間の戦略に従うのである。

マーケティング戦略においても、人間の能力に近づいている(或いはある部分では超えている)テクノロジーを使って、いかに顧客価値を向上させていくのかということがテーマとなってきた。MARKETING5.0はまさにこうした世界を語っている。テクノロジーをどう応用していくべきか、それによってどう顧客価値を向上させていくことが出来るのか、是非、この書を伴走者として思いを馳せてほしい。テクノロジーの進化と、世代の変化について詳細に語られているのは興味深く、頭の整理にも役立つだろう。

なお、こちらは洋書で邦訳は現時点で出版されていないが、テクノロジー及びマーケティングを多少かじった人であれば、見慣れた単語が多く、読み進めることができると思う。

Marketing 5.0: Technology for Humanity

著者:Philip Kotler,Hermawan Kartajaya, Iwan Setiawan 発行日:2021/2/3 発行元:Wiley

河村 有希絵

グロービス経営大学院 教員

東京大学法学部卒業、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院修了。

大学卒業後、ボストンコンサルティンググループにて17年間、様々なマネジメントコンサルティング業務に携わる。この間、内閣官房国際広報室に国際広報戦略アドバイザーとして出向、風評被害対策などを担当。

その後、株式会社チェンジウェーブに共同代表として参画し、企業の変革サポートと変革リーダーの育成に取り組む。

2015年 株式会社コギト・エデュケーション・アンド・マネジメント設立、マネジメントコンサルティング及び教育事業に従事。2017年より、三菱鉛筆株式会社 顧問を務める。