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投稿日:2019年10月03日
投稿日:2019年10月03日
クリティカル・シンキング、テクノベート・シンキング、デザイン思考とは何か ――「思考力サミット! 〜3つの“思考”系科目を体感する〜<前編>」教員・岡重文インタビュー
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- 「思考力サミット」 登壇教員・岡重文インタビュー
グロービス経営大学院・東京校で、単科生として「クリティカル・シンキング」を受講した方、または受講中の方を対象にした「思考力サミット! 〜3つの“思考”科目を体感する〜」が開催された。
グロービスでは、「クリティカル・シンキング」「テクノベート・シンキング」「デザイン思考と体験価値」という3つの思考系科目を開講している。いずれも、AIなどが進化する現代において人間の価値を確立するためには欠かせない思考法である。これらを教える教員が、参加者とともにそれぞれの思考法を体感する場として企画された。
イベントに先立ち、「クリティカル・シンキング」「テクノベート・シンキング」の担当教員である岡重文から、3つの思考法の概要や違いについて話を聞いた。時代とともに変遷する思考法の歴史観や、使い分けのコツとは何なのか?
クリティカル・シンキングは、2016年のダボス会議でも「2020年に必要なビジネススキル」第2位となった世界的に重要視される思考法である。直訳すると「批判的思考」だが、グロービスの科目におけるクリティカル・シンキングは、「健全な批判精神を持った客観的な思考」という従来の意味に加えて「ビジネスパーソンが仕事を進めていく上で役に立つ」点にもフォーカスしている。
「物事の因果関係を考え、合理性に基づいた意思決定をするのがクリティカル・シンキング。論理的に考える点においてはロジカル・シンキングと変わりませんが、それだけでなく『情報をどうとらえるのが客観的に見て妥当か』を意識することが重要。単に合理性を追求し骨格だけを固めるのではなく、自分自身の思考に対していかにクリティカルになれるかが求められます。メタ認知のイメージに近いですね」と岡。
一方でテクノベート・シンキングは、グロービスが提唱する「テクノベート(テクノロジーとイノベーションを組み合わせた造語)」をふまえた思考法。大量データの取り扱いや、繰返し処理といったコンピュータの得意な領域はコンピュータに任せ、人間は論理設計を行うことで問題解決を目指す。AIなどテクノロジーの急速な進化にともない発展してきた思考法だ。
そしてデザイン思考とは、個人の優先する軸が「モノの所有」から「体験そのもの価値」へと変遷を遂げている昨今に必要な思考法。世界的デザインコンサルティングファームのIDEO(アイディオ)が取り入れたことで注目された。人間の体験やそこで感じることを中心に物事をとらえる考え方で、まずは顧客に寄り添い、共感するところからスタートする。
「戦後、経済が右肩上がりのころは、『がんばれば何とかなる』『良いものをとにかくたくさん作ろう』という時代でした。しかし消費者のニーズが多様化し、不確実性が高まる昨今では、『実際に利用している顧客をまずは知ろう』『いろいろ試しながらつくってみよう』というデザイン思考がフィットするケースが増えてきています」
これら3つの思考法は、それぞれを理解し使い分けることで、問題解決の可能性の幅が広がる。「同じテーマを3つの思考法で考えてみるのもいいし、分析はクリティカル・シンキング、解決策の検討はデザイン思考で考えるといったようにプロセスで使い分けてもいい。テクノベート・シンキングは大量のデータがなければ使えなかったり、デザイン思考は『人』が関わるテーマでなければ使えなかったりもするので、テーマや状況に応じてうまく活用していくことが大切です」と岡は言及した。
3つの思考法の具体的な違いとは?
ではそれぞれの思考法を用いる際、具体的にどのようなプロセスを踏めばいいのだろうか。
クリティカル・シンキングの場合、まず行うのはイシューの特定だ。ある商品の売上が低迷しているという状況があったとき、「モノ」「人」「時間」「場所」などいくつかの切り口で分解し、「A市の店舗で18時以降の40代の消費が少ない」といった検討を経て具体的なイシューを特定する。そこから枠組みを考え、初期仮説を立て、検証・進化させながら結論を出す。
「重要なのは、原因を特定した上で解決策を考えること。ある商品に対して不満足の人が1,000人いて、そのうちもっとも多くの人に共通する不満点を見つけ出し、なぜそうした不満が生まれるのかを深堀りした上で解決策を検討することが、全体の満足度を上げる近道になります」
ただし1,000人が1,000通りの不満を持っている可能性もある。そこで活きるのが、コンピュータの力を借りて大量データを処理し、個別に対応をするという発想がテクノベート・シンキングだ。1,000人それぞれの属性や購買履歴をもとに、Aさんには○○、Bさんには△△、といった具合に個別の策を施す。
「テクノベート・シンキングでは因果関係(原因と結果の関係)は問いません。『なぜAさんは不満なのか。その原因は〇〇だから。だとするならば□□を解決策として実施しよう』や、『その不満に対してなぜ□□の解決策を実施するのか』といった理由は重視しないのです。というより、苦手と言った方が適切かもしれません。一方で、コンピュータは大量のデータから相関関係(一方が変われば他方も変わる関係)を見つけるのが得意です。
どのような事象のときにどのような解決策を実施したかというデータがあれば、今、問題が起こっている事象と類似した過去の事象を相関関係から見つけてくれます。過去の事象に対して、どのような解決策を実施したか記録が残っているので、今、何をすればいいかがわかります。そしてこのプロセスを繰り返すことによりデータがさらに蓄積されていきますので、データを処理すればするほどコンピュータは「学習」し、より解の精度も上がっていきます。」
クリティカル・シンキングでは、因果関係を導き出すための準備として「分解」というプロセスを踏むことが多い。なぜなら一番効果がありそうな対象と原因をまずは見つけて、解決策を実施することがもっとも効率的だと考えるからだ。そのため、クリティカル・シンキングではいくつかの効果的な解決策に絞り込むというプロセスがある。一方、コンピュータの力を借りるテクノベート・シンキングでは、すべての「個別」に対する解決策の実施が可能となり、結果的に「全体」の満足度を上げることができる。したがって、「分解」をして効果がありそうなところを絞るプロセスが不要となる。「テクノベート・シンキングは、むしろ個々を究極に分け切っている、とも言えるかもしれません」と岡は付け加える。
対してデザイン思考は、「共感」「課題発見」「創造的な解決策」「試作」「テスト」というプロセスで行われる。ある商品が売れないのなら、実際に売り場に行ってみる。お客さんの話を聞いてみる。使っている人を観察してみる。顧客に「共感」し、深いニーズを知ることからイシューの特定を行うのが特徴的だ。
クリティカル・シンキングにおける「仮説」を、デザイン思考ではプロトタイプという形で可視化する。まずは使ってみてもらうことで検証・改善を繰り返し、最終的にベストなアウトプットを目指すのだ。その過程でイノベーティブなアイデアが生まれる可能性が高いことも、デザイン思考の特徴である。
これらの思考法は、いくら頭で理解したところでビジネスの現場で活用できなければ意味がない。そのための秘訣について岡はこう語る。
「グロービスでは、それぞれの思考法のプロセスについて、ケース(企業事例)を通じて実践的に学べます。実務で活用できるレベルにまでスキルを磨いたあとは、所属する組織でとにかくやってみること。それなくして、経験値は積めませんし、成果にもつながりません」
ただ、企業の中で実践するにはハードルも存在するという。
「クリティカル・シンキングやロジカル・シンキングなど従来の思考法で意思決定してきた企業では、テクノベート・シンキングやデザイン思考はなかなか受け入れられにくいもの。日本のAI発展が他国に比べて遅れているのはそのせいでもあります。まずは自分自身が『このアプローチがベストである』と強く思うこと、そして最初は小規模から始めて徐々に理解者を増やしていくこと。新しい思考法や価値観を浸透させるにはリーダーシップも欠かせません」
Amazon CEOのジェフ・ベゾス氏は、20年も前から「顧客が450万人いるなら450万の店舗が必要だ」と言っている。とりわけテクノベート・シンキングに関しては、早期に導入すればするほどデータが蓄積され、解やアウトプットの精度が上がっていくという利点もある。
「実は私もテクノベート・シンキングを教える身として、教員の代わりにAIが対話するチャットボットを開発中です。授業を受ける前にチャットボットと対話し、添削を受けてもらうことで、授業開始前にも高い学習効果を得ている状態で授業にのぞむ。そうすることで、授業ではより深い学びの場になるのではと考えています。人間でなければいけない部分とAIで代替できる部分を見極めることは、従来の発想を超えたソリューションを思いつくことにもつながります」と岡。
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「思考力サミット」 登壇教員・岡重文インタビュー