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テクノロジーを活用し進化を続けるセコム。その成功と、警備業界が抱える課題とは ――グロービス経営大学院・公認クラブ「労働集約型ビジネスクラブ」 イベントレポート

2019年08月01日

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クラブ活動 労働集約型ビジネスクラブ 活動レポート

グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。


前回の幹事インタビューに続き、先日行われたグロービス経営大学院・公認クラブ「労働集約型ビジネスクラブ」が主催するイベントの内容をお届けします。

2018年に発足したばかりの労働集約型ビジネスクラブが、このたび第1回目のイベントを開催した。2019年3月1日、場所はグロービス経営大学院・東京校。


 まずは代表幹事の古賀謙一氏から、労働集約型産業を取り巻く外部環境について解説があり、続いてセコム株式会社の常峰氏による警備事業の取り組み事例紹介、そして参加者から質問を募ってのパネルディスカッションという三部構成で行われた。30名近く集まった参加者一人ひとりの簡単な自己紹介のあと、古賀氏の講演がスタートした。

労働集約型産業の深刻な現状

新卒で電機メーカーに入社した古賀氏。業務改善コンサルティング会社などを経て、2018年4月からコントラクトフードサービス(給食事業)企業のビジネストランスフォーメーション部門に所属している。同社はパート2万人が現場のオペレーションを支える、まさに労働集約型産業だ。


参加者の前提知識を揃えるために、古賀氏からは日本社会全体と労働集約型産業の現状があらためて共有された。

「日本の生産年齢人口は減少しています。2030年には約6,700万人に減り、2050年には約5,000万人、総人口の52%ほどにまで落ち込むと推計されています。2018年の産業別就業者数約6,600万人のうち、労働集約型産業に携わる人は定義にもよりますがだいたい半数以上。また有効求人倍率は1.63倍(2019年3月)と稀に見る倍率の高さで、最低賃金の全国平均は874円(2018年)と人件費も高騰しています」


日本社会全体の人手不足と、労働力に依存せざるを得ない労働集約型産業の受ける痛手が浮き彫りになる数字だ。それを裏づけるように、飲食業・小売業各社の業績は軒並み下降。店舗オペレーションの改善や自動釣銭機の導入など、少ない労働力の中で効率的に収益を上げるための取り組みも行われている。


「こうした変革をいかに大胆に進められるかが企業競争力に関わってきます。スピーディーに変革を進めて労働生産性を高めなければ、労働集約型産業の多くが業績下降してしまうでしょう。変革=テクノロジーと安易に考えがちですが、そう簡単にできることではないので、継続的な成長のために何をすべきかよく考えることが重要です」

日本でいち早く警備業を開始したセコムグループ

今回の登壇者である常峰氏が勤務するセコムは、労働集約型産業でありながらもテクノロジーを駆使し発展してきた好例を持つ。製品開発や情報システム担当を経て、2019年1月からデジタルトランスフォーメーションに携わっている常峰氏は、自社の歴史や未来をどう見ているのだろうか。

1962年創業のセコムグループ。2019年3月期の売上は単体3,941億円、連結1兆138億円という規模で、警備契約は国内236万件、海外87万件にのぼる。セキュリティサービスが売上の6割近くを占めており、次いで防災、他にはメディカルサービス、保険、地理情報サービス、DPO、ICT、不動産などの事業で構成される。


「創業は前回の東京オリンピックの2年前。当時の日本は、その会社の社員が宿直で警備をするのが一般的だったため、ヨーロッパではすでに存在していた警備会社が日本にはまだありませんでした。そこに着目したのが弊社の創業者。最初はなかなか受け入れてもらえなかったそうですが、オリンピック選手村の警備の受注や、弊社をモデルにしたテレビドラマなどの影響により、一気に契約が増えました」


しかし契約の増加にともない困難となったのが人材確保。常駐警備であれば三交代制のためスタッフを3人抱えなくてはならない。10万件の契約をとれば30万人が必要になる計算だ。このままでは産業として発展できないと考えた同社は、1966年にオンライン安全システム『SPアラーム』を開発する。契約先にシステムを設置してセンサーを張りめぐらせ、同社が通信回線を通じて24時間監視し、異常時には駆けつける仕組みだ。


1975年には異常が生じた場所まで特定できるようになり、1980〜1995年の間に契約件数は4倍へ。1998年にはISDN回線が普及し、防犯センサーに監視カメラをつけて異常発生場所の映像を送ることに成功した。それにより現場の状況や緊急性を把握できるようになり、警備の品質が格段に向上したという。

市場が飽和し始め、次の市場へと乗り出したのが2001年。建物の外でも個人を守れるよう、GPSを活用した位置情報提供システム『ココセコム』を開発。子どもや高齢者が誤って外に出てしまった際などに活躍した。その後も、屋外巡回監視ロボット『セコムロボットX』や強盗自動検出システム『インテリジェント非常通報システム』、民間防犯用の『セコムドローン』『セコム飛行船』などを次々とリリース。テクノロジーの進化をいち早く事業に取り入れ、労働生産性の向上に努めてきたことがうかがえる。


 一方で、人の手が不可欠な部分もあるという。「警備業法には、警報を受信してから25分以内に現場に行かなければならないというルールがあります。これは他社にとっては大きな参入障壁。このルールに対応できるよう、弊社では最新技術を導入している今も国内2800拠点・6000名を配置しており、大きな強みとなっています。しかし人口減少にともない強みが弱みに変わる恐れは十分にあります」

最新技術で、労働集約ビジネスを効率化

セコムグループのチャレンジングな姿勢は、警備領域以外にも表れている。セコム医療システム株式会社では、医療機関で撮影されたCTやMRIなどの医用画像を遠隔診断するサービスや、クラウド型電子カルテサービスを提供。セコムトラストシステムズ株式会社では、吉野家とエクサウィザーズとの共同開発で『セコムかんたんシフトスケジュール』というシフト自動作成サービスをリリースした。これはセコム社内で以前から使われていたツールを外部用に展開したものだという。


「その時々の最新技術を使い、労働集約ビジネスを効率化してきたのが弊社。人間にしかできないことと、機械に任せても大丈夫なことを棲み分け、技術をいかにサービスに変換するか、という考え方が組織に根づいています。そこには『これをやらなければセコムは存続できない』という創業者の強いリーダーシップが常にありました」と常峰氏。


2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは1万4,000人の民間警備員が必要と言われている。セコムは競合であるALSOKとともに、ほか複数社で構成される共同事業体(JV)を設立した。業界内での協働は極めて異例だが、今後の労働力不足を乗り切るためには競合同士の連携も不可欠になってくることだろう。


「2030年には市場は縮小し、労働力もさらに減少します。事業をゼロベースで見直し、IoTやビッグデータ、AIなどを駆使してデジタルトランスフォーメーションをしていかなければなりません。変革には上層部への働きかけが必須だと思いますが、それには経済産業省の『DX(デジタルトランスフォーメーション)レポート』がとても役に立つのでぜひ活用してみてください」

常峰氏・クラブ幹事の後藤氏・参加者によるパネルディスカッション

常峰氏による自社の取り組み紹介のあとは、労働集約型ビジネスクラブ幹事の後藤康成氏を交えたパネルディスカッションタイムへ。クラブのFacebookページで事前に配布された基本資料をもとに、参加者から質問を募りながら進行された。

「現在いる警備員6,000人の労働力を減らしていく可能性はあるか」という問いに、常峰氏は「警備業法がある限りここを減らすのは難しいですが、待機中にできる仕事の拡大や業界内での協働などを通じて生産性を高める必要があると思っています」と回答。後藤氏は、「人がいることで成立する業種は、機械化できない要素も多分にあります。テクノロジー導入だけでなく、オペレーションの工夫やマインドそのものを変える施策が必要で、そのためにはリーダーシップが求められる」と言及した。


セコムが『SPアラーム』を開発した当初、警備員による巡回警備の契約は2,000件ほどあった。だが、それらの取引をストップしてでも『SPアラーム』での警備にシフトするという経営判断が下され、翌年には500件から5,000件へと契約が急増したという。


「弊社の創業者は起業家一家で、居酒屋『天狗』の創業者や『オーケーストア』の創業者が兄弟にいます。その環境のせいかビジネスマインドが強く、巡回警備がなかなかスケールしない状況を見て『早く次のステップにいかなくては』という危機感を感じたのだと思います。そのマインドが組織風土にも根づいている」と常峰氏は語った。


「人を減らせない中で、人材をいかに獲得しているか」という問いには、「高齢者の再雇用には積極的です。異常時に問題がないことを確認するのが仕事の大半で、実際に泥棒に出くわすといったケースは0.5%くらい。あとは銀行ATMの故障時にメーカーが到着するまで立ち会うといった仕事のため、年齢やスキルは問わないことが多いのです。ただ、システムの修繕や設定変更などにはある程度の経験を要するので、そこを担う人材の確保や定着は課題」と回答。女性や外国人の採用については、「誰もが警備に携われる仕組みづくりや、入社したいと思ってもらえるようなPRを考えていかなければならない」と課題感を口にした。

「警備業法を変える必要があるのでは」という鋭い意見も飛び、それには常峰氏も同意。「東京オリンピック・パラリンピックの人が足りていない現状があるので、それをひとつの突破口にしてロビー活動的なことをしていかなければ、という話は業界でも出てきています」


人間の労働力が削れない部分は、一人ひとりの生産性向上や業務標準化、採用しきれていない層へのアプローチ、業界内での連携など。一方で、技術化できる部分はAIなどの導入をよりいっそう強化していく。「今後の事業運営の最大のボトルネックはやはり人手不足」と、常峰氏は警備業界ならではの深刻な現状を漏らした。


「AI化によりトレーダーが2人になったゴールドマン・サックスのように、労働集約型から知識集約型や資本集約型へシフトしている例もありますが、人が不足すると法律を守れない今の警備業界では人集めがボトルネックとなっていることがよくわかった」と後藤氏。また古賀氏は、「会社を持続するためにどうしていくべきか、このあとの懇親会ではみなさんの会社の取り組み事例も聞きたい」とディスカッションを締めくくった。

労働集約型ビジネスクラブの特徴は、さまざまな業界のメンバーが同じ課題意識を有している点にある。警備業界には警備業界の、そのほかの業界にはその業界ならではの現状や対策があるだろう。強い志とリーダーシップを持った学生がそれらを共有し合い、新たな気づきを得ることで、日本の労働力不足問題にブレークスルーを巻き起こせるかもしれない。

「労働集約型ビジネスクラブ」とは

労働集約型産業に従事している方や興味のある方を対象に、確実に減少していく日本の労働力をいかに確保していくか?“会社の成長=労働者の数”から抜け出すためにはどうするか?を議論するクラブ。『労働集約型ビジネス』という切り口で、労働生産性向上、人材採用、高齢化、テクノロジーなどをテーマにしたイベントを開催していく予定。

クラブ活動とは

社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。


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