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投稿日:2019年08月01日

投稿日:2019年08月01日

「会社の成長=労働者の数」の時代は過ぎた。その中で我々がすべきこととは? ――グロービス経営大学院・公認クラブ「労働集約型ビジネスクラブ」 幹事インタビュー

クラブ活動
労働集約型ビジネスクラブ 活動レポート

グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。

日本の総人口は2008年をピークに減少。15〜64歳の生産年齢人口は1995年にすでにピークを迎えており、2018年で約7,543万人(総人口の約59.8%)、2029年には7,000万人を下回ると推計されている。

労働力不足はどの産業においても深刻な課題だが、なかでもひときわ危機感を抱いている産業がある。サービス業・流通業・第一次産業をはじめとする、人間の労働力への依存度が高い「労働集約型産業」だ。

そんな中、2018年に公認クラブとして産声をあげたのが、労働集約型ビジネスクラブだ。コントラクトフードサービス(給食事業)の世界的グループの日本法人にてビジネストランスフォーメーションに携わる古賀謙一氏(グロービス経営大学院2006年入学)を筆頭に、同じ課題意識を持つメンバー125名(2019年4月時点)で構成されるクラブである。今回は幹事団へのインタビューと、2019年3月に行われた記念すべき第1回目のイベントレポートをお届けする。

労働集約型ビジネスに携わる人を集めた勉強会からスタート

労働集約型ビジネスクラブの発足は、2018年8月に開催された勉強会に端を発する。勉強会の発案者は古賀氏。現在の会社への転職を機に、労働集約型産業に対する危機感をよりいっそう強く抱いたという。

「弊社は全国1,800店舗のオペレーションを、2万人のパートで支えています。近年は人件費の上昇に伴い採用が難しくなり、食材費も高騰。生産年齢人口が減少し、このままでは非常にまずいと感じていました。そこで労働集約型ビジネスに携わるグロービス経営大学院の学生を集めて、近況や取り組みを共有する場がつくりたいと考えました」

勉強会には15〜20人ほどが集まり大いに盛り上がったが、「みんな話したいことがたくさんあり、時間が足りなくて(笑)。この活動を継続するためにクラブ活動にしようと考えました」と古賀氏。

副代表幹事の藤善秀昭氏(グロービス経営大学院2018年入学)もまた、勉強会に参加した一人。「私は医療業界のサービス業に従事しており、労働集約型ビジネスの課題や業界の人材不足を解決したくてグロービスに入学しました。この勉強会も、仕事が多忙な時期でしたが無理やり参加して、『俺にも喋らせてほしい!』とPCを勝手にプロジェクタにつないで喋りました(笑)」と、自身の熱の入れようを明かした。

同じく副代表幹事の大出友美氏(グロービス経営大学院2016年入学)は、商業施設のデベロッパー勤務。

「私は仕事上、人件費の割合が高いビジネスに携わる機会が多く、『労働集約型ビジネス』という切り口がおもしろいと思い勉強会に参加しました。外部環境の課題は同じだけど業界が違う、という人が集まることで、業界の常識を超えて新しい気づきを得られると思ったのです。また私のお客さまは、テナントである小売サービス企業。人材が減ると苦しい業界です。会社では、販売スタッフの人材不足に対する新規事業提案もしているので、そのヒントを得たいという思いもありました」

幹事の後藤康成氏(グロービス経営大学院2014年入学)は、建築に関わる製造業の事業継承者。

「もともと人手不足や高齢化が続いている業界。中小企業は中途採用に頼らざるを得ません。さらに東日本大震災以降は社会全体で仕事量が急激に増え、お金のある企業に人材が流れてしまう状況が続いています。人口全体が減少している今、他社ではどのような対策を講じているのか知見を広めたいと考え参加しました」とコメント。幹事になった理由としては、「在校中もクラブには入っていましたが、知識などをインプットすることが多かったので、アウトプット側にまわりたいと思ったのです」と述べた。

「みんな喋りたいことを好きに喋って終わった」と古賀氏が評する勉強会だが、各々の事例共有は参加者たちの糧になった様子。「アウトプットすることで思考がクリアになった(藤善氏)」「まずはテナント側の利益構造を把握しなければいけないと気づいた(大出氏)」「我が社の取り組みを共有することで、新たな方法に気づいてもらえてよかった(後藤氏)」といった声があがった。

労働集約型ビジネスの継続的な成長のために、我々は何をすべきか

クラブ発足後、第1回目のイベントは、セコム株式会社でデジタルトランスフォーメーションに携わる常峰氏を登壇者に迎えて行われた。古賀氏がグロービス経営大学院の同窓会で常峰氏と偶然知り合ったことがきっかけだったという。

「セコムは吉野家とシフト自動作成サービスをつくっています。ぜひイベントで事例を紹介してもらいたいと思い、オファーしました。イベントには30名近くが参加してくれ、まずは成功かなと思っています」と古賀氏。

常峰氏のプレゼンはもちろん、後藤氏を交えてのパネルディスカッションもイベントの質を高めたと古賀・藤善両氏は言う。後藤氏がスライドとファシリテーションを通じて議論をコントロールしたことで、常峰氏・後藤氏・参加者の三角形がうまく形成された。今回の進め方は、今後も踏襲していきたいという。

イベントは年4回ほどを予定。「労働集約型ビジネスの継続的な成長のために、我々は何をすべきか」という問いの答えを探るべく、労働生産性向上、人材採用、高齢化、テクノロジーなどをテーマに企画するほか、現場視察や他クラブとの共同イベントも視野に入れているそうだ。

「答えはすぐに出るものではないし、業界や企業によっても異なる」と後藤氏。「でも参加者一人ひとりがイベントを通じて何かを持ち帰り、新たな成功事例が生まれれば、それがまた発表材料になる。そういう連鎖が起こる場をつくっていきたいと思っています。回ごとにテーマが変わると一話完結型になりがちなので、いかに連続性を持たせるかは今後の運営上の課題です」と言及した。

最後に、幹事のみなさんが考えるクラブの価値について、一人ずつコメントをいただいた。

「2018年の産業別就業者数は全体で約6,600万人ですが、そのうち労働集約型産業を概算すると3,700万人ほど。日本ではまだまだ多い産業です。『労働集約型ビジネス』という独自の切り口で私たちが活動し続ければ、自社はもちろん、業界全体や日本全体にいい影響を及ぼせるのではないかと信じています(古賀氏)」

「クラブメンバーに加わるだけで価値を得られるようなクラブにしていきたい。いずれは実施したイベントや勉強会の内容をマッピングしていき、クラブの概念図のようなものをつくれたらと思っています。図を見れば、自分の立ち位置や課題、打ち手が見えてくるというイメージ。発表いただく事例のアーカイブ化も考えています(藤善氏)」

「私はこの活動を通じて、労働集約型ビジネスの人材不足に対するひとつの解を出したい。答えまでたどり着かなくても、打ち手の引き出しをたくさん増やし、社内外の人を巻き込んで答えに近づけていきたいです。共通の課題や危機感を抱くさまざまな業界の人が集まるこのクラブでは、それができると感じています(大出氏)」

「『労働集約型ビジネス』という切り口で語れる場は、一般的なセミナーなども含めてほぼありません。企業変革には、上層部を説得する大変さと、社員を巻き込む大変さがありますが、経営者側である私ならではの実例なども共有できればと思います。もっとも効果的なインプットはアウトプットすることだと思っているので、積極的にアウトプットして自身の成長にも結びつけたいです(後藤氏)」

現状を放置すればやがて産業は衰退する。その危惧から生まれた労働集約型ビジネスクラブは、一企業だけでなく日本社会全体を救う糸口を見出すかもしれない注目すべきクラブといえる。

「労働集約型ビジネスクラブ」が主催するイベントレポートはこちら

「労働集約型ビジネスクラブ」とは

労働集約型産業に従事している方や興味のある方を対象に、確実に減少していく日本の労働力をいかに確保していくか?“会社の成長=労働者の数”から抜け出すためにはどうするか?を議論するクラブ。『労働集約型ビジネス』という切り口で、労働生産性向上、人材採用、高齢化、テクノロジーなどをテーマにしたイベントを開催していく予定。

クラブ活動とは

社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。

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