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投稿日:2025年12月09日

投稿日:2025年12月09日

危機感を力に変える。事業承継者が語る、挑戦と覚悟。

登壇者
渡辺 雄輝        渡辺鉄工株式会社(第4回アトツギ甲子園 ファイナリスト)
木梨 桃子        株式会社木梨ふぐ九州店(第5回アトツギ甲子園 ファイナリスト/グロービス経営大学院 2025年卒業)
古本 貴子        古本建設株式会社(グロービス経営大学院 2024年入学)

モデレーター
山岸 勇太          一般社団法人ベンチャー型事業承継 事務局長

家業を持つ若手事業承継者にとって、既存事業の「守り」と、新規事業への「挑戦」は、常に両立の難しいテーマです。「このままではいけない」という危機感を持ちながらも、社内の壁や自身の経験不足に悩み、一歩を踏み出せない人は少なくありません。

今回は、家業を継ぐ立場にある同世代の後継者たちが集まり、それぞれの立場での課題や葛藤、それを乗り越える挑戦のストーリーを語り合いました。

本記事は、グロービス経営大学院福岡校と、中小企業庁主催「アトツギ甲子園」が合同で開催したパネルディスカッションを記事化したものです。

※アトツギ甲子園:全国の後継者が新規事業を競うピッチイベント


経営環境の変化と、後継ぎの危機感

一度は縮小した建築事業。だが再び取り組むことを決めた

山岸 勇太氏(以下、敬称略):本日は、後継者の挑戦をテーマに、お話を聞いていきたいと思います。まずは皆さんの家業やその現状についてお聞かせください。

古本 貴子氏(以下、敬称略):私は福岡県田川郡で、祖父が創業したコンクリートブロックの製造や販売、また建築施工を営む家業で働いています。18歳で入社し、現在は副社長を務めています。

幼少期に父を亡くしていたので、いつかは自分が継ぐものだと早くから考えていました。まだ先だと思っていた家業への関与が現実味を持ったのは、16歳くらいの頃、高齢の祖父だけで経営している状況に危機感を覚えたことがきっかけです。入社直後は経理からはじまり、社内の仕事を少しずつ覚えていきました。働きながら出産もしましたので、思うように働けないもどかしさや悔しさもありましたが、後継ぎとして認められたい、自分が会社を支えねばならないという想いで今までやってきました。

山岸:いまはどのような事業に取り組まれていますか。

古本:一度は縮小した建築事業を、改めて拡大することに取り組んでいます。先代は建築事業を女性である私が継ぐ難しさも考えて、建築事業を縮小する判断をしていました。ですが、既存の資材事業は国の法令や公共事業の動向に左右されやすいものですし、安定した成長は難しい。そうして考えた末、やはり自社の強みは施工にあると気づいたんです。そもそも、古本建設は建てることから始まった会社です。その先代の想いを大切にしたいという気持ちもありました。

そうした経営の舵取りの中で、古参社員とのコミュニケーションはとても難しい問題です。自分が生まれる前から働いてきた社員も多い中で、「創業者の孫」ではなくひとりの経営者として認められるなんて‥、そう簡単なことではないと日々痛感しています。

危機感ともどかしさ。「昔はすごかった」を覆したい

渡辺 雄輝氏(以下、敬称略):渡辺鉄工という、創業140年を迎える鉄工所の後継者です。本社工場は福岡県の博多にありまして、機械装置や生産装置をオーダーメイドでつくるというような事業です。主力としては、鉄のタイヤホイールを生産する装置であったり、ロボットインテグレーションや、あとは戦時中に軍需産業もやっていましたのでそのような事業もあります。2020年、20代半ばで家業に戻って、今は製造の現場から、購買、経理、DXなど、複数の領域を担当しています。

入社して直面したのは、売上が年々落ちている現状と、将来的に市場で勝てる技術や資産が果たしてあるのだろうかという不安です。また、中期経営計画を見せてもらったところ、「既存事業への注力」「防衛産業などの維持」といった内容しかなく、明確な成長戦略があるわけではありません。実は当社は、戦時中は従業員が2万5000人もいたという歴史があります。一方で現在は90人規模で、社内で「昔はすごかった」という言葉を聞かされると、とても悔しいですし、このままではまずいと強い危機感を持っています。

山岸:その課題意識が、アトツギ甲子園で発表された新規事業プランにつながったのでしょうか。

渡辺:まさにそうですね。ただ、皆さんよくご存じの通り、歴史のある企業で新規事業に取り組むことはさまざまなハードルがあります。まずは、いきなり新しい分野に飛び込むのではなく、既存事業のコア技術を転用した新規事業の計画を進めています。将来的には、こういった技術転用によって得た利益を研究資金に回し、新規性の高い事業にも取り組んでいくことを目指していますが、そこはまだ自分の中での目論見に過ぎず、社内の巻き込み方の難しさは、先ほどの古本さんのお話にも通じる部分があると思います。

コロナ禍で芽生えた経営者としての危機感

木梨 桃子氏(以下、敬称略):私の家業は、大分県にあるトラフグ専門の加工業です。家業は1954年に創業し、私が3代目として事業承継を予定しています。家業に入ったのは2009年の頃で、23歳のときですね。いつか継ぐという認識はあったものの、入社してから10年以上経営には一切関与せず、ひたすら現場、つまりフグを捌く仕事をしていました。

そのマインドが変わったきっかけは、コロナ禍です。コロナで出荷量が減り、急激に経営状況が悪くなっていく中で、このまま経営知識のない自分がいつか会社を継ぐことが、心から怖いと思ったんです。それをきっかけに、経営を学ぶためにグロービスに飛び込みました。

いまの自分の役割としては、社長が得意ではない分野を担うというような役割分担で、新規事業として海外販路の開拓にも力を入れています。

最大の難所「社内の巻き込み」とコミュニケーション

自分の弱さを認め、社員に頼る

山岸:どれだけ良い新規事業プランがあっても、それを実行するのは「人」ですよね。先ほどのお話にもありましたが、歴史ある家業では、古参社員や親世代の経営陣とのコミュニケーションに苦労する後継者は多いです。皆さんはどう向き合っていますか?

古本:ずっと、「後継者として強くありたい」と気負っていました。社員に対しても、自分の正しさを押し付けようとして空回りしていたところがあったと思いますね。ある時、グロービスの学びの中で「自分の弱さを認めろ」という言葉に出会ったんです。悩みましたが‥、思い切って社員に「私にはこれまでの経験がないから、助けてほしい。力を貸してほしい」と伝えました。そうすると、社員の意識や動きが、目に見えて変わってきたんですよね。命令じゃなくて、「なぜこの事業をやりたいのか」という想いや目的を丁寧に伝えて、その上で「自分ではできないから力を貸してほしい」と。そうやって丁寧に何度もコミュニケーションを図り続けることで、少しずつ状況が変わってきたと思います。

やっぱり、「社長の右腕」と言われるような存在が、先代にはいたけれども自分にとってはいないという状況も苦しいですよね。いつかは私も同世代の仲間たちとやっていけるようになりたいです。でも、だからこそ今は、次の世代にいくためのDNAを、前の時代を知る社員からしっかり受け継ぐことを大切にしています。

木梨:社員を尊重して粘り強く向き合う姿勢が素晴らしいです。私はそこまで社員を巻き込めてはいないのが現状です。実際、取り組んでいるのは海外販路の拡大ですので、社員の業務は変えず今の仕事に集中してもらい、販路を拡大してくる仕事は自分が担う分担が成り立っているということもあります。でも、将来的に自分が経営を担っていく中で、話し合える相手がいないということはいずれ課題になってくるのだろうなと思います。

渡辺:周囲に頼るという大切さには、私も共感するところがあります。私も一時期は、「全部自分でやったほうが早い」と思って、勝手にオーバーワークに陥ってしまったんですよね。そこで、周りに相談したら意外とすんなり受け入れてくれたんです。

あと私の場合は、新規事業を一種のコミュニケーションツールとして使っている部分もあると思っています。新規事業の構想をベースにした中期経営計画を策定し、それを示すことで後継ぎとしての自分への信頼や安心を獲得していくという感じでしょうか。

また、会社としても、挑戦している姿勢を社員に見せていくというのは大切なことだと思います。目指している未来や、一緒に豊かになろうというメッセージは、根気よく発信し続けていきたいですね。

後継者だからこそ、外に出て学ぶ

学んだことを即実践できる場が家業

山岸:社内でさまざまな課題に日々向き合っているからこそ、社外での学びや刺激も必要だと思います。古本さんはグロービス、渡辺さんはアトツギ甲子園、木梨さんはその両方に挑戦されていますね。外に出て学ぶことの意義について、それぞれの目線からお話いただけますか。

古本:入学を考えたきっかけは、とにかく自分自身の経験不足への不安感でした。実際に学びはじめてみると、いままでの感覚的な考え方からロジカルな思考ができるように変わってきたことでかなり自分の判断に自信が持てるようになってきたと思います。また、地方の中小企業において、MBAを学んでいると、周りの社員からは少し距離を感じてしまうこともあると思うんです。ただ私の場合は、学んだことを即実践するのが家業という場なので、学んだことをすぐに社員にも共有すること、またその際に、社員に伝わる平易な言葉を使って丁寧に話すことを心がけています。

また、グロービスの価値はネットワークですね。同じ目線、同じ熱量で考えられるクラスメートの存在は、卒業後に必ず自分の財産になります。最初は、子育てをしながら学べる柔軟な受講スタイルでグロービスを選びましたが、ネットワークや学び方の面でも、とても自分に合う環境だったと思っています。

言葉にすることで、事業が前に進む

渡辺:私も実はいま、大学院に進んでMOTを学んでいます。一昨年にアトツギ甲子園に出た頃は、新規事業を作るにも作り方がわからず、ずっと毎晩がむしゃらに調べたり、思いつくことをノートに書き出したり、我流の苦労をしていました。いま思うと、体系的に学ぶのはゴールへの近道なんだということを痛感しますね。とはいえ、アトツギ甲子園にチャレンジした苦労は自分にとって必要な経験だったことは間違いありません。いろんな方に事業をプレゼンしてフィードバックしてもらったり、アトツギ甲子園を通じて事業アイディアを発信することで協業のお声かけをいただいたり。あとは何より、経営者として自分がどうありたいかを考える貴重な機会になったと思いますね。

木梨:グロービスに関しては、時間をかけてでも通う意味があったと思っています。財務、経営戦略、業界分析など、総合的に経営を考えられるようになりました。また古本さんと同様、仲間がいる安心感も大きいです。また、グロービスの雰囲気として、積極的に挑戦することが当たり前のカルチャーがあるというか、皆色んなイベントなどに積極的にエントリーするなど行動を起こしているんですよね。その環境にいたこともあって、私の場合は挑戦してみようと思ったのがアトツギ甲子園でした。アトツギ甲子園に出てよかったと思うのは、思っていた以上に事業を進めるエンジンになったことです。アトツギ甲子園を通じて海外事業をやると宣言したことで、協力や応援が得られたこともありますし、実際にシンガポールで取引が決まるなど、事業が前に進んでいる手応えがあります。エントリーすることは難しくありません。行動を起こしたり仲間を見つける良い機会になると思うので、ぜひ参加してみてはと思います。

山岸:皆さんのお話を聞いて、それぞれ環境は違うにも関わらず、危機感を持って、自ら環境を変えに行く点で共通していることが印象的でした。アトツギのイノベーションは新規事業だけではありません。木梨さんの場合はマーケット・イノベーションでしたし、他にも生産方式や効率性を追求するプロセス・イノベーション、またサプライチェーンもイノベーションの対象になり得ます。外部だけでなく、組織を変えていくこともイノベーションです。後継者の皆さん自身が家業や自分の可能性を信じ、積極的に行動を起こしていくことを応援していきたいと思います。

編集後記

自身の課題意識とビジョン、それに外の世界で得た学びや仲間が掛け合わさることで、可能性は大きく広がります。家業という環境で日々戦っていると、孤独を感じることも多いかもしれません。しかし、それぞれに環境は違っても、同じように戦っている後継ぎが日本中にたくさんいます。この記事が、後継ぎの皆さんの可能性を拓くきっかけになれば、嬉しく思います。

グロービス経営大学院では、事業承継者を支援する様々な仕組みを用意しています。

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