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投稿日:2025年07月25日
投稿日:2025年07月25日
【GLOBIS Learning Insights】
限られた時間で、最大のリターンを実現する。
~グロービスが重視する「授業前後の時間」とは?~
- 天野慧
- グロービス経営大学院 教員
- 松永正樹
- グロービス経営大学院 教員
- 鈴木由理
- グロービス経営大学院 事務局スタッフ
こんにちは。グロービス経営大学院(以下、グロービス)事務局の鈴木です。
グロービスでは、単なる知識習得に留まらない、実践的な学びをとても大切にしています。そのため、独自の学習メソッドや仕組みを数多く取り入れています。
この連載コラムでは、教育工学やコミュニケーション学の博士号を持つお二人の教員に登場してもらい、「なぜグロービスの学び方が、”仕事で成果を出す力”の向上につながるのか?」をさまざまな角度から深掘りしていきます。
グロービスで学んでいる方にも、これからグロービスで学ぼうと思っている方にも、学習への不安や疑問を解消する一助になれば幸いです。
今回のテーマは、「予習と復習」です。
「予習→授業→復習」サイクルが、「実践力」を鍛える。
グロービスの1科目は、6回の授業で構成されていますが、学びは授業時間だけにとどまりません。グロービスでは、授業前の「予習」と授業後の「復習」を重視しています。予習や復習は「任意」ではなく、これらは学びに不可欠なプロセスとして定義されていて、成績にも影響します。
予習では、シラバスに沿ってテキストや動画で基本的な概念を理解した上で、課題に対する自分の考えをまとめます。忙しい中でも、早朝や通勤時間を活用して予習に取り組む学生が多いのは、授業が予習を前提に進められるからです。
グロービスでは、授業後の復習もとても大切にしています。授業後に配布されるスライドの見直しはもちろん、学生同士の自発的な勉強会も活発に行われています。授業で「わかったつもり」になっても、改めて振り返ってみると、新たな疑問や発見が生まれてくると思います。グロービスでは、この予習・授業・復習のサイクルを通して、学びを実務で活かすための「実践力」を養います。
ここからは、忙しい時間を割いて取り組む予習や復習が「実践力の強化」にどう繋がるのか、専門的な知見を持つ教員のお二人に解説していただきます。
なぜ「予習」と「復習」を重視するのか?
天野慧
グロービス経営大学院教員。博士(学術)。「クリティカル・シンキング」や「ビジネス・アナリティクス」の教鞭を取る傍ら、研究基盤チームのリーダーとしてグロービスの研究戦略や制度設計を主導する。教育工学の研究拠点である熊本大学大学院教授システム学専攻の客員准教授を勤め、理論や科学的な知見を応用した効果的な学習デザインの研究及び、専門家育成に取り組んでいる。
Carroll, J. B. (1963). A model of school learning. Teachers College Record, 64(8), 723–733. https://doi.org/10.1177/016146816306400801
グロービスでは、限られた授業時間だけに頼るのではなく、予習と復習の課題を設けています。これは、学習者一人ひとりが自分に合ったペースで、必要なだけ時間をかけて学びを深められるようにするためです。
予習に取り組むことで、授業の「入口」に立つ
授業には、さまざまなバックグラウンドを持つ学生が集まります。たとえば、経理部なのでアカウンティングには自信があるけれどマーケティングはまったく触れたことがない、という方もいれば、その逆の人もいるでしょう。このような多様な学生が、準備なしで同じ授業に臨むと、当然のことながら議論の質や理解の深さに差が出ます。
グロービスではそのギャップを埋め、全員が同じスタートラインに立てるよう、事前に予習課題を設けています。自分にとって必要な部分を事前に重点的に学び、授業で有意義なディスカッションに参加できるよう準備することを求めているのです。
予習と復習が、授業時間を“最大の学びの場”に変える
予習と復習は、限られた授業時間を最大限に活かすための鍵です。自分に合ったやり方で工夫しながら取り組むことで、より深く、より確実に学びを身につけることができるでしょう。グロービスが採用しているディスカッション形式の授業は、こうした学生の皆さんの主体的な取り組みを通じて、よりよい学習機会となっているのです。
学び方で成果は変わる。実務につながる学習設計
松永正樹
グロービス経営大学院教員兼グロービス教育科学研究所副所長。Ph.D. in Communication Arts & Sciences (Pennsylvania State University)。九州大学ビジネススクール准教授、株式会社Relicプロジェクトリーダー等を経て、グロービスに着任。2021年Academy of Management Best Papers Award(Organizational Behavior Division)をはじめ、学会賞・論文賞受賞多数。『Employee Uncertainty over Digital Transformation』(Springer Nature)著者。個人事業主としてコンサルティング活動も行っており、アントレプレナーシップ教育スタートアップのタクトピア株式会社アドバイザリーを務める。
理解にかかる時間も、学びやすい方法も、人それぞれ
松永:こんにちは。ここからは認知科学や組織行動論の観点から、グロービスの授業で予習と復習が重視される理由を考えていきましょう。
グロービスが、授業前の予習と授業後の復習、さらに学生同士の勉強会を重要視することには、ほかにもいくつかの狙いがあります。まず、予習に関して言うと、授業の学びの質を高水準に保つと同時に、できる限り多様な認知スタイルを受け入れ、誰もが学びに集中できる環境を整えるための仕掛け、という側面があります。
認知スタイルと聞いてもピンとこないという方もいるかもしれませんが、要は「最適な情報処理の方法とスピード感は、人それぞれ」ということです。デュアルコーディング理論(Dual-Coding Theory; Clark & Paivio, 1991)といって、ヒトは一般的に、言語情報だけでなく画像や動画といった視覚情報など複数の形態を組み合わせた形で学習に取り組んだほうが、より効果的に理解を深められるとされます(グロービスが動画教材の充実に力を入れている理由の一つでもあります)。
Clark, J. M., & Paivio, A. (1991). Dual coding theory and education. Educational psychology review, 3, 149-210.
また、適切な学習の速度にも個人差があります。たくさんの情報を一気に取り入れて全体像のイメージをまず掴んだほうが理解しやすいという人もいれば、一つひとつの情報を丁寧に吟味しながらステップを踏んで考えを深めたいという人もいます。
予習を前提に議論するのではなく、授業内で教員が講義を行ってから議論に入る形式だったら、どうなるでしょうか。口頭での説明をパッと頭の中で写しとれる認知スタイルの人にとっては、さほど問題ではないかもしれません。一方、文字や動画を視覚的に確認したほうが理解しやすいという人や思考を深めるには一度情報をじっくり咀嚼する時間があったほうがいいという人にとっては、非常に学びにくい環境になってしまいます。
結果として、グループディスカッションの密度、ひいては授業全体での学びの質が低下するため、学生の誰にとっても望ましくない状態が発生してしまいます(グループディスカッションの重要性については、『正解のない問いに挑み、行動する力を育てる。~グロービスが「グループワーク」を重視する理由とは?~』もぜひご覧ください)。
復習についても同様です。授業後に配布されるスライドや自分のメモを見返すほうがいいという人もいれば、授業の内容に関連する動画を視聴するほうが効果的だと感じる人もいるでしょう。目的は授業で学んだ内容に関する理解を深めることであり、そのための手段は自分に合ったものを選べばいい。認知スタイルの多様性を受けとめつつ、全ての学生が質の高い環境で学びに集中できるようにするための要として、予習と復習は欠かせない仕組みになっています。
学びを知恵に昇華させる。勉強会が広げる成長の可能性
学生同士の自発的な勉強会については、どうでしょうか。グロービスでは、学生と担当教員だけが使えるクラス専用SNSを運用しており、そこにわざわざ勉強会のセッティングと参加者募集のためのタブまで作るほど、勉強会というものを重視しています。
こうした背景には、「ヒトは一人で学びを深めることはできない」という理論と信念があります(Vella, 2002など参照)。ヒトが何かを理解するとき、特にビジネスや組織の構造といった目には直接見えない抽象的概念を捉える際には、単にそれらに関する情報を記憶すればいいというものではありません。それが具体的にどのような場面に関連し、実務にどのような影響をもたらすのかといった、文脈に根づいた知恵として自分の中で確立できてはじめて意味を持つからです。こうした深い理解がなければ、ビジネスの現場で学びを活かすことはできない。グロービスでは、そう考えています。
Vella, J. (2002). Learning to listen, learning to teach: The power of dialogue in educating adults. John Wiley.
情報を知恵に昇華させるうえでは、他者との対話が不可欠です(Vella, 2002)。自分とは違う経験、ものの見方、思考の引き出しを持つ人たちと議論を重ねることで、抽象的な概念に血肉が通い始め、多面的・重層的な理解を得ることができます。もちろん、グロービスの授業ではディスカッションを重視しているため、授業内でも対話は活発に行われます。しかし、数十人が一堂に会する授業と、少人数で集中的に行う勉強会とでは、やはり後者のほうが密度も自由度も高い形で議論を進めることができます。
さらに、勉強会にはもう一つ、大きな利点があります。それは、授業外、さらには卒業後までつながる人的ネットワーク醸成の場としても機能する、という点です。
勉強会では、少ない人数で議論を深く掘り下げることができますし、検討中のケース教材から一旦離れてそれ以外のトピックについて情報交換することもできます。こうした対話を通じて、勉強会の参加者は各自の専門領域や得意分野、関心を寄せるテーマ、あるいはキャリアに対する想いなどについてお互いに理解を深めていきます。そして、このような相互理解は、授業の枠を超えた連携へとつながっていきます。
たとえば、「この分野なら◯◯さんが詳しいはずだ」「今度の企画は、△△さんなら興味を持ってくれるかもしれない」といったように、具体的な人物をイメージした現実的な可能性として学生同士のコラボレーションが検討できるようになっていくのです。実際、グロービスでは、こうした勉強会を起点として学生同士が意気投合し、新たな事業を立ち上げたという事例も珍しくありません。
予習・復習、そして勉強会という言葉だけ見ると、つい形式的な「お勉強」という印象を抱いてしまうかもしれません。しかし、これらの取り組みは単なる補助的活動ではないとグロービスでは考えています。予習・復習及び勉強会は、多忙なビジネスパーソンの学びの質を最大化するために不可欠であり、MBA取得後にまでつながる持続的なコラボレーションの種を育てる土壌ともなっているのです。
まとめ
鈴木:毎日忙しい中でも、なぜグロービスの学生の皆さんが時間をかけて予習や復習に取り組むのか、ご理解いただけたでしょうか。
授業前に知識をインプットし、自分の考えを整理する。授業では、多様なバックグラウンドを持つ人たちと真剣に議論する。そして授業後は、学びをじっくり振り返る。こうしたプロセスの積み重ねによって、知識は「実務に活かせる力」として、自分の中に根づいていきます。
限られた時間をどう使うか。それが、学びの質を大きく左右します。時間に制約がある社会人だからこそ、授業外学習の意義を知り、学びをより効率的・効果的で質の高いものにしていっていただけたら幸いです。
天野慧
グロービス経営大学院 教員
グロービス経営大学院教員。博士(学術)。「クリティカル・シンキング」や「ビジネス・アナリティクス」の教鞭を取る傍ら、研究基盤チームのリーダーとしてグロービスの研究戦略や制度設計を主導する。教育工学の研究拠点である熊本大学大学院教授システム学専攻の客員准教授を勤め、理論や科学的な知見を応用した効果的な学習デザインの研究及び、専門家育成に取り組んでいる。
松永正樹
グロービス経営大学院 教員
グロービス経営大学院教員兼グロービス教育科学研究所副所長。Ph.D. in Communication Arts & Sciences (Pennsylvania State University)。九州大学ビジネススクール准教授、株式会社Relicプロジェクトリーダー等を経て、グロービスに着任。2021年Academy of Management Best Papers Award(Organizational Behavior Division)をはじめ、学会賞・論文賞受賞多数。『Employee Uncertainty over Digital Transformation』(Springer Nature)著者。個人事業主としてコンサルティング活動も行っており、アントレプレナーシップ教育スタートアップのタクトピア株式会社アドバイザリーを務める。
鈴木由理
グロービス経営大学院 事務局スタッフ
グロービス経営大学院事務局スタッフ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、大手広告代理店にてメディアプランナーや営業として勤務。その後、一次産業に関わるスタートアップに転職し農産地のマーケティング支援などを行う。教育を通じた社会貢献に関心を持ち、2024年からグロービス経営大学院にて事業企画を担当。