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投稿日:2025年07月28日

投稿日:2025年07月28日

キャリアの選択肢が増える!「未来の幅」を知るシナリオ・プランニング入門~~迷いが確信に変わる!MBAコンセプト式キャリアアップ術 #3

中村直太
グロービス経営大学院 教員

変化が激しく、将来が見通しにくい時代。「このままでいいのか…」「予想外のことが起きたら…」と、漠然としたキャリアへの不安を抱えることはありませんか?

私たちはしばしば、現在の延長線上に1本のキャリアパスを描きがちです。しかし、何が起こるか分からない現代ではもっと未来を幅広にとらえたほうがいいかもしれません。

この連載では、MBA(経営学修士)で学ぶ知識をあなたのキャリアを考えるヒントとしてお届けします。第3回となる今回は、未来の不確実性に備えるための経営手法である「シナリオ・プランニング」を、個人のキャリアに応用して考えていきましょう。

「シナリオ・プランニング」って何?

今回のコンセプトは「シナリオ・プランニング」です。

シナリオ・プランニングとは、未来の不確実性を前提に、ただ1つの未来に依存するのではなく、現時点で想定し得る複数の未来のシナリオ(可能性)を検討し、それに基づいて適切な意思決定を行う戦略策定手法です。確定的な未来を予測するのではなく、不確実性を織り込んだ「未来の幅」を提示する点に特徴があります。

もともとは軍事戦略として開発されたものですが、1970年代に石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルが石油市場の大きな変動(石油危機)に備えるために活用し、成功を収めたことで注目を集めました。その後、パンデミックへの備えや技術革新への対応など、さまざまな分野で活用が進んでいます。

シナリオ・プランニングの実践プロセスは多様ですが、簡易的には次の手順で行われます。

重要なポイントは、「予測ではなく準備にある」ということです。単一の未来予測に依存するのではなく、不確実な要因を考慮しながら複数のシナリオを検討することで、組織が直面し得るさまざまな事態に備えるのです。

たとえば、「AI技術が飛躍的に進歩した未来」「規制が厳格化した未来」「労働観が180度転換した未来」など、異なる前提条件に基づく複数の未来像を想定します。これらはあくまで仮説であり、確率的な予測ではありません。重要なのは、こうしたシナリオの検討を通じて、将来を形作る要因や不確実性の本質を理解し、複数の未来に対応可能な戦略を、いまどのように構築すべきかを考えることです。

未来が完全に予見できるのであれば複数の未来像を描く必要はありません。従って、未来の不確実性が大きい今の時代ほど、シナリオ・プランニングの必要性は高まると言えるでしょう。

あなたのキャリアにも「シナリオ・プランニング」を

企業だけでなく、私たち個人もまた、先の読めない社会で生きています。筆者がキャリアセミナーで「5年後に今と同じ環境で同じ仕事を続けていると思う人は?」と聞いても、手をあげる人はゼロです。それなのに、私たちはつい、今の仕事の延長線上に1つのキャリアプランだけを描きがちではないでしょうか。

だからこそ、キャリアにもこの「シナリオ・プランニング」を取り入れるのがおすすめです。複数の未来を考えてみることで、どんな状況になっても柔軟に対応できる自分をつくるヒントが見えてきます。

キャリアのシナリオ・プランニングは、次のようなステップで考えてみましょう。

キャリアのシナリオを考える4つのヒント

実際にキャリアのシナリオ・プランニングをやってみるためのヒントを4つご紹介します。

1.長期的な時間軸でゴールを設定する

まずは思い切って、5年あるいは10年後といった長期的な視点でシナリオのゴールを設定しましょう。「10年後の〇歳のとき、自分はどんな仕事をして、どんな生活を送りたいか?」という問いから始めることで現在の延長ではない非連続な選択肢が視野に入るようになります。

2.意外な選択肢を積極的に織り込

「まさか自分が?」と思うような意外な選択肢も意図的にシナリオに加えてみましょう。たとえば、全く異なる業界への転職や、大胆なキャリアチェンジなど思考の枠を外すことで、新たな可能性が見えてくるかもしれません。

3. シナリオの解像度を徹底的に上げる

それぞれのシナリオにおける「具体的な自分の状況」を詳細に描写することが重要です。「仕事内容」「やりがい」「必要なスキル」「収入」「働く時間」「家族との関わり」など、自分にとって大切な要素を具体的にイメージしましょう。可能であれば「○○社の△△職」のように、固有名詞まで落とし込むと、リアリティが増し、必要な準備も明確になります

4.複数の未来に共通して有効な戦略をあぶり出す

複数のシナリオを検討したら、それらに共通する要素に注目します。 たとえば、「どの未来でもITリテラシーやリーダーシップが求められる」「ビジネスというフィールドで活躍したいことに変わりはない」といった共通項が見つかれば、それが今投資すべき対象です。どんな未来でも有効な汎用的なスキルや人的ネットワークの構築などに注力することが、あなたのキャリア戦略をより強固なものにします

キャリアのシナリオ・プランニングの実践例

ここからは、これまでに整理してきた手順やポイントを踏まえながら、実際にキャリアのシナリオ・プランニングを考えてみましょう。いずれも、筆者がMBAの学生やコーチングのクライアントから伺った事例を参考にしています。

ケース1:大手製薬会社の管理職(40代前半)のシナリオ・プランニング

ケース2:ベンチャー企業のエンジニア(20代後半)

本来であれば、各人にとって重要な要素に基づき、シナリオの未来像をより高い解像度で描くことが望ましいですが、今回はあくまで仮の例として簡潔にご紹介しました。

とはいえ、みなさんが描くことのできる「未来の幅」は、本来、果てしなく広がっているはずです。ぜひ、ご自身のケースで深く考えてみてください。

シナリオ通りになるわけではない。それでもなぜ重要か?

ここまで述べてきたように、シナリオ・プランニングの本質は、確定的な未来を予測することではなく、不確実性を織り込んだ「未来の幅」を提示することにあります。描いたシナリオは、あくまでその幅を可視化した仮説であり、必ずしも現実になるとは限りません。

だからこそ重要なのは、そこから導き出される「どのような備えが可能か」という問いです。さらに言えば、それを深く考え抜き、先回りして行動に移していく姿勢こそが、シナリオ・プランニングをキャリアに活かす鍵となります。

シナリオごとに備えの内容は異なりますが、どのような未来にも柔軟に対応する力を養う手段として、MBAプログラムは非常に有効です。以下では、その具体的な内容について紹介します。

多様なシナリオに対応する能力と自信を得る

MBAプログラムでは、戦略、マーケティング、会計、財務、組織論、リーダーシップなど、ビジネスに必要な視点を体系的に学びます。これはすなわち、どのような業界や組織にも応用可能な「汎用的な“思考のフレーム”」を身につけることに他なりません。

不確実な未来において、仮に新たな業界や役割にキャリアを移すことになったとしても、この汎用的な思考フレームがあれば、新しい環境にも適応しやすくなります。

また、ビジネス全体を俯瞰できる視点や、「まったく知らない領域がない」という状態は、どのようなシナリオにも対応できるという根本的な自信を生み出します。不確実で変化の激しい状況に対しても、臆することなく挑戦できるかどうか。その自信の有無は、キャリアの選択において極めて大きな差となります。

シナリオのプランニングを拡張する

まず何より、シナリオを描くこと自体が決して容易ではありません。なぜなら、自分の現在地からは見えない未来が数多く存在するからです。だからこそ、自分にとって未知の領域に意識的に足を踏み入れる必要があります。

それを後押ししてくれるのが、社外の多様なネットワークです。他業界のリアルな現実を知る。異なる世代の価値観に触れる。グローバルな視点を持つ。起業家や研究者が見る未来像を聞く。こうした接点から得られる知見や視座が、自分自身のシナリオを拡張・修正していくための貴重な材料になるのです。MBAはまさに、このような多様なネットワークと出会える場です。

多様なシナリオの実践リソースを得る

MBAは、さまざまな業界や職種から、異なる価値観を持つビジネスパーソンが集まる場です。そこには、日々の業務を通じた関係では得られない「広がり」と、単発の講座やイベント参加では築けない「深まり」があります。

こうして形成されるネットワークは、まさに未来のシナリオを現実につなぐ“キャリアの資産”となります。例えば、あるシナリオで「転職」「起業」「地方移住」「グローバルキャリア」などを選択するとき、同じ方向を目指す仲間や、すでに経験した先行者との接点があることで、相談や連携がしやすくなります。多様で大規模かつ繋がりやすい環境は、キャリアのシナリオ・プランニングを実践に移すうえでの大きなリソースとなるのです。

志があるからこそ、シナリオが生きる

グロービスのMBAプログラムでは、「志」を非常に重視しています。志を打ち立てるということは、すなわち“揺さぶられない軸”を持つことに他なりません。数あるシナリオの中から、自分はどの道を選ぶのか? その判断において、自分の中に明確な軸(価値観や使命感など)がなければ、不安や迷いが増すばかりで、選び抜くことができません。だからこそ、「自分は何のために生きるのか」「どんなことに意義を感じるのか」といった問いに向き合い、その答えを持っておくことが重要なのです。

さらに、志は複数のシナリオを統合する“上位目的”にもなり得ます。例えば、シナリオA〜Dがあったとしても、それぞれが「教育を通じて社会を良くしたい」という志の延長上にあるのであれば、どの選択をしても自分の中に確かな納得感が生まれます。また、予想外の出来事に直面したとしても、その志という“上位目的”があれば、状況を受け入れつつ柔軟に再構築することができます。上位目的となる志があるからこそ、シナリオは単なる未来予測ではなく、自分の生き方に沿った選択肢として“生きて”くるのです。

まとめ


まとめると、シナリオ・プランニングは、未来の不確実性に対して主体的に備えるための極めて有効な思考法です。そしてこれは、企業の戦略策定にとどまらず、私たち一人ひとりのキャリア形成にも応用が可能です。

複数の未来を見据えながら、自身の価値観や志に根ざした意思決定を行うことで、不確実な時代にも柔軟かつ力強く歩むことができるようになります。大切なのは、シナリオそのものを「当てにいく」ことではなく、それを通じて自らの視野を広げ、必要な備えや行動を明確にしていくことです。

未来への準備と実践を積み重ねることで、キャリアにおける選択肢が広がり、困難な状況においても自信と希望を持って前進する力が培われます。ぜひ、「Think Unthinkable(考えることが難しい未来をあえて想像してみる)」の精神で、キャリアのシナリオ・プランニングに取り組んでみてください。


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中村直太

グロービス経営大学院 教員

慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修士課程(工学)修了。グロービス経営大学院経営学修士課程(MBA)修了。インテリジェンス(現パーソルキャリア)にて、人材紹介事業のキャリアコンサルタントや事業・サービス企画(BPRやCRMなど)を担当。その後、グロービスに入社し、学生募集チームの責任者、拠点マネジメント、アルムナイチーム設立、デジタルサービス開発などを経て、現在は学習体験企画、セミナー開発などに従事。教員としては、『クリティカル・シンキング』『リーダーシップ開発と倫理・価値観』『テクノベート基礎』の講義、志系科目のコンテンツ開発やケースライティングを担う。個人としては、利他的情熱に生きる経営人材に伴走し、パーソナルコーチやアドバイザー、社外取締役に従事。また、高校生を中心とした若者のキャリア教育、就労支援、居場所支援を行うNPO法人キャリアbaseの理事を務める。共著に『読めば3年後の未来に先回りができる 入社1年目からの「働き方」』(KADOKAWA)がある。