GLOBIS Articles
- キャリア
- イベント
投稿日:2025年12月03日
投稿日:2025年12月03日
家業を継ぐ葛藤と覚悟――若手事業承継者が語る、挑戦のリアル
登壇者
大森 玲弥 岡崎竜城スイミングクラブ 取締役(第5回アトツギ甲子園 ファイナリスト)
柴田 佑紀 柴田酒造場9代目蔵元(グロービス経営大学院 2021年卒業)
高瀬 直幸 株式会社高瀬金型 営業部部長/DX推進責任者(グロービス経営大学院 2024年卒業)
モデレーター
山岸 勇太 一般社団法人ベンチャー型事業承継 事務局長
「経営を担っていく力が、自分にあるのだろうか」
「先代の想いを継ぎながら、時代の変化にどう挑むのか」
「家業の未来を、自らの手で切り拓きたい」
ビジネス環境の目まぐるしい変化により競争が激化し、事業承継を取り巻く環境がますます複雑化する時代。その中でも、受け継ぐ暖簾の重みと未来を創る責任を胸に、新たな挑戦をはじめている後継者たちがいます。
今回は、家業を継ぐ立場にある同世代の後継者が集まり、事業承継者ならではの葛藤や挑戦のストーリーを語り合いました。
本記事は、グロービス経営大学院名古屋校と、中小企業庁主催アトツギ甲子園が合同で開催したパネルディスカッションを記事化したものです。
※アトツギ甲子園:全国の後継者が新規事業を競うピッチイベント
家業に至るまでの、思いと葛藤
祖父の介護が、そのまま家業のサポートに
山岸 勇太氏(以下、敬称略):まずは、家業に入るまでのストーリーを聞かせていただけますか。
大森 玲弥氏(以下、敬称略):私はスイミングスクールの三代目です。母から娘への事業承継という点が少し珍しい点かもしれません。家業である岡崎竜城スイミングクラブは、母方の祖父が創業したもので、私も小さい頃はそこに通って泳げるようになりました。
母と一緒にダラスに住んでいた高校生の頃、岡崎でスイミングスクールを営む祖父が難病にかかってしまったんです。母はまだ幼い弟の世話があったためにダラスを離れることができなかったので、私が祖父のそばにいるために日本に帰ることを決めました。そこから、介護のために日本の大学に進学し、岡崎で祖父と二人暮らしをしていました。そのときにはまだ家業を継ぐという意識よりも家族として祖父のサポートをするという側面が強かったのですが、祖父の生活はスイミングクラブと切っても切り離せないものだったので、家業との関わりは自然と濃くなっていきました。
祖父の死後、進学して自然と家業からも距離ができましたが、母が2021年にダラスの現地法人をM&Aし、スイミングクラブのダラス校を立ち上げた時期から、母の手伝いをするかたちでまた少しずつ家業に関わるようになりました。そこから日本の事業にも関わるようになり家業のいろんな課題や危機的な状況が見えてきて、一気に事業承継者としての当事者意識ができてきたという感じです。
人の命を救う。自分のビジョンと家業のものづくりが重なった
山岸:ご家族の状況に応じて家業との関わり方が変わってきたんですね。高瀬さんにもお聞きしたいと思います。高瀬さんは、大学を卒業してからすぐに家業を意識したキャリアを進まれているように思います。どのような思いから家業に入ることになったのでしょうか。そこに至るまでの悩みや葛藤などはありましたか。
高瀬 直幸氏(以下、敬称略):愛知県稲沢市で、1982年に父が創業した高瀬金型という会社で働いています。プラスチック用の金型と、その金型から作るプラスチックの部品の製造を一貫して行う事業です。領域としては、水回りや医療、半導体など、影ながら生活を支えているような、部品作りの会社になります。私は、大学卒業後、後継ぎ修行がしたくて静岡の中小企業へ入社した後、2019年に家業へ入りました。家業へ戻れと直接的に言われたことはなかったのですが、やらないといけないんだろうなという思いは昔から持っていましたね。
葛藤がないわけではなかったですよ。本当は医学や薬学とか、医療領域で人命を救うような仕事がしたかったんです。家業を意識して大学は工学部に進みましたが、あまり面白くないと感じ、中退しようと思っていた時期もあって…。そんな中、東日本震災の影響で大学が休学になって実家に戻っていた時期があったのですが、改めて家業の仕事を見てみると、医療機器部品や人工透析機のバルブ部品など、ものづくりを通して人の命を救う仕事をしているということに気づいたんです。そのときをきっかけに、自分がやりたいことと、家業を継ぐということが、根本的な軸の部分でしっかり一致していった感じですね。
結婚を機に妻の家業へ。歴史ある酒蔵を継ぐ、新たな一歩
山岸:その経験があったからこそ、今は納得感を持って家業にまい進できているんですね。柴田さんはいかがでしょうか。
柴田 佑紀氏(以下、敬称略):柴田酒造場は、私ではなく妻の家業なんです。以前は自動車関係の業界でアメリカに駐在し、会計などの仕事をしていました。2017年にアメリカから帰任したのを機に前職を辞め、婿入りして妻の家業である柴田酒造場に入りました。柴田酒造場は1830年に創業しており、私が9代目になります。
実は義理の父である8代目までで、蔵を閉じる予定だったんです。ただ、妻には「自分の代で家業を絶やしたくない」という強い想いがありました。その想いを尊重して、夫婦で相談した結果、私が婿入りして家業を継ぐ決断に至りました。
後継ぎとして直面した数々の課題。自分の使命は何か
閉鎖寸前からの回復。9代目としての覚悟が生まれた
山岸:奥様の家業をお手伝いされる方は少なくありませんが、婿として籍に入って歴史ある酒蔵を継ぐというのは大変な決断だったと思います。当時の環境について、もう少し詳しく教えてください。
柴田:義父は、私たちの決断をとても喜んでくれました。ただ、蔵を閉じるつもりだったこともあり、経営状態は健全とは言い難く…。先代までは、売上が前年を上回ったことが過去30年間のうちで一度もなかったそうです。また、コロナ禍でも相当な打撃を受けました。しかし、その危機感が後継ぎとしての自分の覚悟を固めてくれたとも思います。
私の入社当時は安価に量販する普通酒の割合が多く、販路は市内が9割でした。私が入社して最も力を入れたのは、量から品質重視へのシフトと、ブランドコンセプトの作り直しです。酒造りの水質を核としてブランドを作り直した結果、県外や海外にもマーケットを拡大することができました。また、敷地内でのカフェ事業や一棟貸しの宿泊施設など、酒以外の新規事業にも挑戦の幅を広げています。
父の作った大切な会社で、未来のための土台を作ることが自分の使命
山岸:厳しい環境の中で覚悟を持って挑戦されていることがとても印象的です。高瀬さんにも、家業の課題やご自身の役割についてお聞きしていきましょう。
高瀬:うちの場合は、大変ありがたいことに、ここ15年くらいで社員数も売上も倍増する成長を遂げています。金型から成型まで一貫でできることと、ニッチな領域なのですが他社には真似できない技術力で差別化もできていますし、医療や半導体、住宅など市場も安定しています。一方、組織としては、父がトップダウンで作ってきたものなので、技術やオペレーションが属人化しているなど、組織として十分に機能していない部分があるのも事実です。この課題に向き合い、技術をしっかり次の世代に残していくこと、属人化してしまっている技術やオペレーションをデジタル化して、組織として継続していけるような文化や仕組みを構築していくことが私の使命だと思っています。そういった背景から会社の基幹システムの構築に取り組んでいるのですが、同時にそのシステム自体を新規事業として外販展開することも考えており、とてもやりがいのある課題に取り組んでいると感じています。
後継ぎだからこそ、目の前にある課題は全て自分の仕事
大森:私は、本格的に日本の事業に携わるようになってからは、とにかく目の前にあるたくさんの課題を解決するために「なんでも屋」にならざるを得ませんでした。でも、後継ぎだからこそ、社内でできないことがあってはいけないという気持ちで取り組みました。プール衛生管理士や送迎バスの運転免許など、必要な資格も全部取りましたし、実際に指導員としてプールに入ることも珍しくありません。部分的な仕事だけではなく、このスイミングクラブに関わることはなんでも自分の仕事だと思ってがむしゃらに取り組んだことは、事業承継者としての覚悟や自信につながっていると思います。
会社の外に出て挑戦することの意義
経営者として、視座や思考を高めるための場へ
山岸:さまざまな課題に向き合う中で、高瀬さんと柴田さんはグロービス経営大学院で学ぶという選択をされています。そこに至るまでの課題感や、学んで得られた手応えを教えてください。
高瀬:家業に戻ってきて、後継ぎとして会社の経営に携わるという自覚はあったのですが、いざ自分の役割というか、経営者として何をしていかなければいけないかというのは、正直よくわからなかったんですよね。そこで、しっかり経営を学びたいと思ってグロービスに入りました。普段仕事をしていると目の前の課題のことだけ考えてしまいがちですが、グロービスで学ぶことで、様々な経営者の立場で考える機会を得られて、自分の視座や思考を高める経験ができたと思っています。また、例えば会計の分野は今の業務では必要ないのですが、経営者としては絶対に必要になります。そういった、目の前の業務に限らない様々な疑似体験の場を得られるというのはとても良かったですね。
他にも、授業以外のクラブ活動やコミュニティも活発で、同じ後継ぎとして課題を共有できるような出会いもありました。グロービスは、自分が能動的にやればなんでもできる柔軟で多様性のある環境だと思います。
外の世界で自分を磨く
柴田:私も、どうしても酒造の事業だけだと閉じた世界になってしまうので、外の空気に触れるためにグロービスを選びました。強制的に自分を外の世界にさらして自分を磨いている感覚ですね。家業という独自環境でありながら、外でしっかり成果を出していかなければいけない。この立場だからこそ、外に学びに行くことは絶対に必要だと思います。
グロービスでは、「志」領域の科目が特に良かったです。自分が経営者としてやっていく覚悟を育むというのでしょうか。しっかり自分と向き合える貴重な時間でした。
山岸:グロービスは、経営学を学ぶということだけでなく、事業承継者特有のネットワークや、自己内省の場でもあるのですね。
自分の事業構想が、社会から評価を得られた
山岸:日常的に家業の現場のフィジカルな課題に向き合っていると、一歩引いた視点で自分や家業のことを考えるというのは簡単ではありませんよね。外に挑戦の場を作ることの意義はそういう部分にあるのだろうなと思います。大森さんの場合は、アトツギ甲子園に昨年出場されていますが、これも挑戦ですよね。どういった思いがあったのでしょうか。
大森:最初のきっかけは、コーチを採用しなければならないという課題感からPRのために興味を持ったという経緯なんです。スイミングクラブでは人数あたりに必要なコーチの数が決まっており、コーチを増やさなければ会員を増やすこともできません。そういったきっかけから出場を決めたものの、実際に新規事業のピッチに挑戦してみると、自分の考えを第三者の方に評価していただくということが、とても重要なことだとわかりました。私は、「特別支援教育向け学校水泳カリキュラム」をテーマにプレゼンを行いましたが、自分の事業構想が社会からどのように評価を受けるか、直接的な手応えを得られたのは貴重な経験でした。
私のモットーは「すべての人に水泳を」「命を守る訓練を」です。スイミングクラブは今、建物の老朽化という大きな課題に直面していて、このままでは業界全体が縮小してしまうかもしれません。だからこそ、事業承継と社会課題解決を両立させることが私の使命だと、アトツギ甲子園の経験を経て気づくことができました。
山岸:いままでたくさんの事業承継者とお話する機会がありましたが、今日のお話では特に、立場は違えど共通している、気概や自己成長の姿勢が印象的でした。後継ぎは既存事業も新規事業も両方全力でやらなければいけない大変な立場であることが多くあります。そういった環境の中で挑戦されている皆さんのストーリーや悩みは、まさに事業承継者ならではの喜びや大変さを体現しているものだと感じました。
編集後記
今回のイベントでは、3名の事業承継者に登壇いただき、直面した課題や挑戦のストーリーについてお話をお聞きしました。家業という独特な環境の中でも、自己成長の場を能動的に設定して行動している姿が印象的でした。
仲間との出会いや、自分の志と向き合う経験こそが、経営者としての糧になっていく。この記事が、未来の経営者としての成長戦略を考えるきっかけになれば、嬉しく思います。
グロービス経営大学院では、事業承継者を支援する様々な仕組みを用意しています。
体験クラス&説明会日程
体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。
「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。
STEP.3日程をお選びください
体験クラス&説明会とは
体験クラス
約60分
ディスカッション形式の
授業を体験
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスならではの授業を体験いただけます。また、学べる内容、各種制度、単科生制度などについても詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。
説明会のみとは
学校説明
約60分
大学院・単科生の概要や
各種制度について確認
グロービスの特徴や学べる内容、各種制度、単科生制度などについて詳しく確認いただけます。
※個別に質問できる時間もあります。なお、体験クラスをご希望の場合は「体験クラス&説明会」にご参加ください。
オープンキャンパスとは
MBA・入試説明
+体験クラス
大学院の概要および入試内容の
確認やディスカッション形式の
授業を体験
卒業生
パネルディスカッション
卒業生の体験談から
ヒントを得る
大学院への入学をご検討中の方向けにグロービスMBAの特徴や他校との違い、入試概要・出願準備について詳しくご案内します。
※一部体験クラスのない開催回もあります。体験クラスの有無は詳細よりご確認ください。
※個別に質問できる時間もあります。
該当する体験クラス&説明会はありませんでした。
※参加費は無料。
※日程の合わない方、過去に「体験クラス&説明会」に参加済みの方、グロービスでの受講経験をお持ちの方は、個別相談をご利用ください。
※会社派遣での受講を検討されている方の参加はご遠慮いただいております。貴社派遣担当者の方にお問い合わせください。
※社員の派遣・研修などを検討されている方の参加もご遠慮いただいております。こちらのサイトよりお問い合わせください。

