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投稿日:2022年05月24日
投稿日:2022年05月24日
「科学的」な英語学習で成果を出すための3つのポイント――英語がなかなか上達しないあなたへ(後編)
- 谷原 英利
- グロービス ファカルティ本部 グロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)研究員
さて、先の前編では、英語を「科学的に」学ぶ意味を前置きとして解説しました。今回の後編では、第二言語習得理論に基づく英語学習とは具体的にどうすれば良いのかをご紹介します。
英語学習に影響を与える3つの要因
またいきなりの質問ですが、皆さんは英語学習には何が重要だと思うでしょうか。第二言語習得理論の研究者であるケース・ウェスタン・リザーブ大学の白井恭弘教授はこの問題に対し、「学習開始年齢」、「動機付け」及び「適性」の3つが主に影響すると自著の中で説いています※1。
まず「学習開始年齢」は、低ければ低い方が英語学習において高い成果が出やすいとされています。この記事を読まれている方に多いであろう社会人の方からすると、今更いかんともし難いと思われるかもしれません。いつ学びを始めても無駄ではありませんが、どうせ学ぶのであればまさに「いつやるか?今でしょ!」です。
次に、強い「動機付け」の下で英語学習を長く継続的に行うことです。必ずしも英語を好きになる必要はありません。実利的な動機でも十分です。動機の内容を問わず、自分なりの目的・目標をきちんと設定した上で、それに向けて習慣的に絶えず学び続けることが重要です。英語学習におけるモチベーションの自己管理は仕事のそれと全く同じ原理原則です。
最後に、実は語学には「適性」があり、「適性」を測るテストも複数存在しています。例えば代表格としてアメリカの国務省が開発・運用するMLAT(Modern Language Aptitude Test)では、「音に対する敏感さ」、「文法に対する敏感さ」、「意味と言語形式との関連パターンを見つけ出す能力」及び「丸暗記する能力」の4つの能力がそれぞれ測定されています※2。言い換えれば、「適性」とはこれらの能力値の合計値を意味しており、いわゆる語学の向き・不向きは幸か不幸か先天的な要素が多いと言えます。
とは言え、不向きだからと決して諦める必要はありません。だからこそ、その分の後天的な要素を補える方法をしっかりと身に付ければ良いに過ぎません。
効率的な英語学習のための3つのポイント
これまた前置きが長くなりましたが、そろそろ今回の本題である、質が高く客観性があり、科学的という意味で「正しい」英語学習方法のキーポイントをお伝えします。
1.基本から順番を守り学ぶ
第一に、学習の順番です。英語を話せるようになりたい・書けるようになりたいと思うあなた、スピーキング・ライティングばかりひたすら毎日練習していませんか?その気持ちはよくわかりますが、英語学習においてはホップ・ステップ・ジャンプの3つの学習ステップを順に踏むことが重要です。すなわち、ホップとは単語・文法等の基礎知識、ステップとはリーディング・リスニング等の受容スキル(インプット)、そしてスピーキング・ライティング等の産出スキル(アウトプット)です。
日本国内では受験英語の弊害からか、単語・文法はとかく軽視されがちです。しかし実際には、インプットにしてもアウトプットにしても単語と文法はいわゆる英語4技能(書く、読む、聞く、話す)全ての基本中の基本となります。単語・文法→リーディング・リスニング→スピーキング・ライティングの順番通り、一歩ずつ着実に学びましょう!
2.適切なインプットとアウトプットのバランスを保つ
加えて、第二に、学習のバランスです。具体的には、先述の白井教授が同著にて提唱していますが、「大量のインプットと少量のアウトプット」が必要です。まずはひたすら単語・文法・読む・聞くを学習のメインメニューとして学び、その合間に時折話す・書くをサブメニューにする、これがシンプルな鉄則です。
もしかすると一見直感に反するように感じるかもしれませんが、これまでの研究成果が端的に物語っているのは、アウトプット自体は知識を新しく習得するにはあまり役立たず、また残念ながらそもそもの言語能力の改善・向上にも繋がりにくいという驚くべき事実です。ただし、アウトプットに決して意味がないのではなく、できることとできないこととの違いに気付く、あるいは自分の仮説(自分が正しいと考える言い方・書き方)を実践的に試す場としてはその価値があります。アウトプットがうまくいかなかったことをそのまま放置せず、次に同様の場面・状況に出会った際にうまくいくにはどうすれば良いのかを常にイメージしながら、その都度学び直しインプットしましょう!
3.繰り返し学び、無意識に使える知識を目指す
その上で、第三に、学習の繰り返しです。英語の知識には、「宣言的知識」と「手続き的知識」の2つがあります。「宣言的知識」とは、知識としては持っているものの、いざという時にすぐ使えない知識であり、「手続き的知識」とは、無意識の状態でも瞬発的に使える知識です。子供の頃に自転車の乗り方を覚えた時を思い出してみて下さい。自転車の乗り方を理解しただけではなかなか乗れず、何度も何度も転倒しても繰り返し練習する中で、ようやく頭で考えずとも身体が自然に反応するようになった体験があるのではないでしょうか。
英語学習でも何度も反復を行うことにより初めて、「宣言的知識」が「手続き的知識」に転化する「自動化」と呼ばれる現象が生じます。反復学習の効用を念頭に、同じ教材・マテリアルを基に、何度も繰り返し学び続けましょう!
キーポイントを押さえ、英語を改めて学んでみよう
いかがでしたか?学んでもなかなか上達しないと感じている方は、これら3つのキーポイントをいずれも押さえた上で、英語をもう一度学習してみてください。なお、第二言語習得理論についてもっと知りたい方は、この記事でも参照している『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』をぜひ一読することをオススメします。皆さんの今後の英語学習が真に実のあるものとなることを心から応援しています!
<参考>
※1 白井恭弘著『外国語学習の科学: 第二言語習得論とは何か』岩波新書(2008年)p. 182
※2 同上 p. 54
谷原 英利
グロービス ファカルティ本部 グロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)研究員