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投稿日:2017年08月18日
投稿日:2017年08月18日
自分を100万分の1のレアカード化させよ――藤原和博氏が語るAI時代にも価値を創出する働き方
- 藤原 和博
- 「朝礼だけの学校」校長/教育改革実践家/元リクルート社フェロー
藤原和博氏(以下、敬称略): 情報処理側にいきましょうというのは、「みんなが同じほうに行っちゃうと価値を失いますよ」ということ。それぞれ一人ひとりのほうに行かないとダメだよねという話です。これをちょっと違う面から確かめましょう。
ここでは日本人の時給を比較した図で説明します。なぜ時給で比較するのか。皆さんはよく年収や月給のお話をするじゃないですか。でも、たとえば「月給が3割あがった」と言っても、仕事の時間が5割以上増えたのなら効率は下がってますよね。なので、これからは自分の時給、つまり時間あたりの付加価値で語って欲しいんです。自分が1時間あたりどれほどの付加価値を生み出せているのか、と。その前提でないとワークライフバランスなんて言ってられないですから。
そんなわけで、日本人が普通に働いたときのさまざまな職業の時給を、左から右へいくにしたがって高くなるという横軸上で並べてみました。すると、まず左側のハンバーガーショップやコンビニの店員さんは時給800円ぐらい。一方、コンピュータを使えて、プログラミングがちょっとできるということになると2000円ぐらいになります。
面白いのは、サラリーマン、公務員、そして教員の時給はほぼ2000円から5000円ぐらいのあいだになる点。ちょっと今テストしてみましょうか。皆さんのなかで昨年度の年収を言える人はどのぐらいいますか? …9割以上、手が挙がってますね。じゃあ、昨年度、自分が1年間に何時間働いたか分かりますか? 年間総労働時間または年間総仕事時間。100時間単位でもいいので、だいたい分かるという人は? …会場でも1割か、2割いないですね。こういう感じです。
これじゃ困るわけです。時給換算しなきゃいけないから。一応、目安で言っておきますと、1日8時間とすれば週5日で40時間だから、年間50週とすると40時間×50で2000時間。この辺を基準にして考えてみると、たとえばデンマークやスウェーデン並みのワークライフバランスで働いている人は1600時間ぐらいかもしれない。
でも、普通、日本でマネジメントをしてる人であれば、おそらく最低でも2400時間ぐらいだと思います。土曜も出てるだろうしね。3000時間ぐらい働いてる人も珍しくないと思います。経営者や起業家だったらもっと多いでしょう。1日10時間×365日働いている人が3650時間ですから。
というわけで、2000時間、2500時間、または3000時間ぐらいで割ってみましょう。ずっと1日10時間、とにかく病気になる直前まで働いてるような起業家なら4000時間で割ってもいいです。暗算してみて。それで「自分の時給は2000~5000円のあいだだな」となった人は手を挙げてみてください。…はい、ほとんどの人がその筈ですよ。今手が挙がってない人はたぶん計算が遅い人じゃないかと思います(会場笑)。
ということで、部長だろうと課長だろうとあまり関係ないんです。年収1500万円だって3000時間働いていたら時給5000円ですから。400万円の年収で2000時間なら2000円ですよね。そういった感じで、だいたいこのあいだに入ってきます。
で、それより多いのが、僕が「エキスパート」あるいは「プロ」と呼ぶ領域です。たとえば大工さんであれば、家一軒を丸ごと建てられる人なら時給にして1万円ぐらい課金してきます。庭師でも、ランドスケープまで分かる人は1万円ぐらい課金してくる。弁護士はどうか。今は弁護士になったって、食えません。余っちゃってるから。ただ、客が付いてる弁護士はだいたい時給3万円ぐらいで課金してきます。
さらに見てみると、皆さんご存知マッキンゼー・アンド・カンパニーのシニアコンサルタントクラスだと、時給がマックスでだいたい80000円。つまり日本で働いてると、いろんな仕事はありますが、800円から8万円まで、だいたい100倍ぐらいの差があるということなんですね。これが10倍ぐらいなら運や勘という話でもいいんだけど、100倍の差となると、これはなんとか原因を突き止めたい。なぜ、稼ぎにそれだけの差がつくのか。そこで何がカギになるのかを突き止めたいじゃないですか。それが、稼ぎを上げるコツになります。
ちょっと聞いてみていい? 「今よりもっと稼ぎたい」という人は素直に手を挙げてみて欲しい。…全員ですね。それなら、なるべくこの図の右側に行かなきゃいけない。じゃあ、そのカギは何か。これについて小学校や中学校で出前授業やると、元気良く「大変さ!」とか答えてくれたりする。でも、大変さで言えばマクドナルドの夜中のバイトだって大変だよね。「年齢!」とか答えてくれる子もいるけど、コンサルタントや専門家にも若い人はいます。
で、だいたいの人は今頭のなかに「技術」というキーワードが出てきてると思うけど、技術といっても、プログラマの技術と庭師の技術は比較不能です。その意味では、技術も時給の高低を表した横軸を支配するカギではないんです。技術や熟練度があるとすれば縦軸。ITプログラミングの技術者にだって時給1000円の人から2万円の人までいる。ゲームのプログラミングなんかができたらもっと高いかもしれない。となると、縦軸は技術や熟練度かもしれません。
じゃあ、横軸を支配するのは何か。これを議論してもらいたい。ちなみに今は時給が高くなるにしたがって左から右に配置していますが、これは「偉い」とか「尊い」という話では、まったくありません。1時間あたりの付加価値で比較してるだけ。その証拠に、一番左側、時給800円よりもさらに時給が少ないところに大変尊い、マザー・テレサに代表されるような有償無償のボランティアワークが数多くあります。NPOの仕事もこちらに多いと思います。さらに言えば、8万円よりも右側にはそもそも時給を問えないような、起業家で、もうすでに公開しているような人だったり、配当のほうがぜんぜん多いような人もいたりする。時給を問うような人じゃない、起業家やスタープレイヤーの仕事があったりもします。
なのでそれは除いて、「日本で普通に仕事をするとき、800円から8万円まで差がつくのはなぜなの?」と。左から右へのシフトするカギは何か。これを1分半ぐらいで議論してください。3、2、1、はいどうぞ。
~ブレスト~
はい、そこまで。これは正解があるので言っちゃいます。希少性です。「レアさ」という風に答えていただいてもいいんですが、実はここ(壇上のホワイトボード)に3文字分の丸印がヒントとして書いてありました。(会場笑)そういうのに気付くのが情報編集力なんだけどね(会場笑)。とにかく、希少性です。
左側の仕事はマニュアルワークなんです。皆さんがやったとしても誰がやったとしても同じ。だから取り替えられちゃう。もしマーケットがつながっている場合、そういう仕事は世界で一番安いところに揃っていきます。それが右側へいくにしたがって、かけがえのない仕事になっていく。そして最後、一番右側は指名買いの世界。「あなたじゃなきゃ嫌だ」と、カルロス・ゴーンが言うかどうかっていうことです。
ということで、仕事というのも実は商品の値段と同じように、需要と供給の関係で決まるということを示してるわけなんです。そういう風に学校では教えないから、なかなかこれが理解されない。でも、実際には皆さんも需要がどんどん膨らむ分野で、かつ供給が少ない仕事に自分を振るということがすごく大事になります。
あるいは、需要はそれほど膨らまなくてもいいから、地域やコミュニティにそのサービスを提供する人が一人しかいないような仕事。それで、たとえば佐渡ヶ島に一人、淡路島に一人、杉並区に一人という状態なら、それは仕事も入ってきますよ。この2つ以外はないと思います。だから自分の希少性をいかに高めるか。
で、もしこの話を皆さんのお子さんにするときはどうするか。「希少性」という言葉は小学生には難しいですよね。でも…、小学生でも中学生でも、実は大学生でも同じですが、ポケモンのカードゲームで遊んだことのある子は残らず、あるキーワードですぐに理解します。分かりますよね? では言ってみましょうか。僕が「どうぞ」と言ったら皆さんが言ってみてください。なんていう言葉で例えたらいいですか? どうぞ!
(会場一斉に「レア」)。そう、レアカードです。自分自身をレアカード化することが、皆さんにとっても皆さんのお子さんにとっても、これから生きていくうえですごく大事です。
ここで改めて確認しますが、とにかく成熟社会では情報編集力側に行かなきゃダメ。情報処理力側に行っちゃうと、みんなと一緒に行けば行くほど価値を失っちゃう。ただ、そこで大事なことがあります。それぞれ一人一人で進んでいくと、ちょっと後ろを振り向いたときに誰もいないということで寂しくなっちゃう。でも、それで「え!? 誰も来てない! みんなどこにいるの!?」みたいなことになったらアウトということ。自分のユニークさを磨いて希少性を高めるということは、振り向いたときに誰もいないってことなんです。あるいは遥か遠くにしか見えない。その点をぜひ覚えておいてもらいたいと思います。
では、もうほとんど最後になりますが、その希少性を100万分の1に高め、皆さんが一世代に自分1人しかいないという状態となるためにはどうしたらいいかという話をしたいと思います。これはすごく簡単な理屈です。3つのキャリアを掛け算して、いわば三角形をつくるような感じ。それで自分の希少性を高めましょう。
もちろん1つのキャリアだけで…、相撲でも体操でも会計でもいいですが、1つの仕事だけで100万分の1の希少性を確保する力がある人は、それでやったらいいと思います。ただ、それで勝負するのはかなり大変。99万999数人を倒さなきゃいけないし、さらに言えば、それで屍みたいな人も出ると思うんです。そのリスクが結構あります。
でも、皆さんは今まで積み上げてきたものを左足の軸としてベースにしつつ、もう1つぐらい何か積み上げてきたものがあればそれを右足の軸としてベースにする。そうして左右両足のベースをしっかり踏みしめながら、次にもう一発勝負をかけて三角形を大きくする。それによって自分の希少性を最大限まで高めることができる筈なんですよ。その三角形の大きさが…、のちほど「クレジット」という言い方をしますが、その面積が希少性の大きさになると理解してもいいです。
どういうことか。たとえば経理でも販売でも、人間はだいたい1万時間やるとマスターします。1万時間が1つの目安。1万時間なんていうと多いと思うかもしれないけど、1日3時間取り組んだら365日で1000時間。それが10年ですよね。1日6時間取り組んだら5年。だから5~10年で、人間っていうのはだいたいどんな仕事であれマスターできる。そういう脳を持ってるわけです。
皆さんもそのようにして、20代では片足を踏み固めてきたと思うんですね。で、30代や40代の人は、それに加えてもう1つ、合わせて2つぐらいを踏み固めてるかもしれない。それは、もしかしたら営業と販売かもしれないし、営業と広告、あるいは経理と財務かもしれない。そういう関連の深いものかもしれないけれど、2つの軸が出来あがっていれば「1/100×1/100」の掛け算が成り立ちます。その意味で、30~40代の皆さんの多くは、現時点で1/1万のレアさを確保できてるってことになります。
そうすると、あとは3つ目。これがすごく大事。たとえば経理と財務で足場をつくっていたとすると、たとえば何か会計の会社を興してみたりして、ついつい2つの軸のそばに3つ目を置こうとする。でも、それだと三角形の面積が広がらないからリスクが分散されてないの。強みを活かすという意味では3歩目も近くに踏み出すという考え方はあるかもしれない。でも、そのクレジット量、つまり他者が自分に共感したり信頼してくれる総量が小さいので、いざというときの揺れに弱い。
なので、できたら3歩目はジャンプ。両足で踏みしめていた2点を結ぶ線が横軸だとしたら、縦方向に大きく踏み出せば三角形の面積が広がりますよね。もちろん30~40代のときは、僕もここで相当に試行錯誤しました。僕の場合、まず1歩目はリクルートで営業とプレゼンだった。それで100人に1人。それから27歳から37歳まではリクルート流のマネジメント。それも1万時間はやったから、その掛け算で1/1万にはなった。
それで僕は一時期ロンドンやパリにもいたんだけど、日本に戻ってから会社を辞めました。1/1万のレアさがあれば「まあ、食ってけるかな」という感じで楽観的に。でも、「営業・プレゼン×リクルートのマネジメント」で1/1万のレアさをつくっても、そういうレアさに関しては、あとからあとから若いやつが出てきます。しかも若い世代からは、中国語と英語がぺらぺらだったり、ITがばっちりでプログラミングもできたりするような、もっと掛け算ができちゃってるようなやつが続々出てくるわけです。
そうすると僕の1時間あたりの価値は漸減していきます。だから47歳のときに公教育分野へと踏み出した。皆には「止めたほうがいい」と言われました。「リクルート流の営業・プレゼンやリクルート流のマネジメントは絶対に通用しない」っていう人が9割でした。ただ、私はそこで「そうかな…」と思っていたので勝負をかけてみた。そうしたら三角形がすごく大きくなりました。それによって、講演の依頼を数多く受けたり「学校を経営して欲しい」と言われたりするほど、クレジットが広がったということになります。
なので、皆さんにもこれを自分のこととして考えてもらいたい。今は1歩目という人もいると思うし、もう2歩が固まっている人もいると思う。3歩目に踏み出した人だっているかもしれない。まずは、そんな現状をさっと短く話してください。そのうえで、たとえば左足右足の軸が決まってるのなら、「もう1歩はこういうことを考えているんだけど、どうかな?」なんていう話をしてみて欲しい。
「3歩目はどんな風にジャンプすればおもろいか」と。これは、できたら意外性があるといい。さらに言うと、不利な勝負であること。不利な勝負をしたほうが味方は付きます。左右両足で固まったラインの近くに安牌で出ていくと、友人たちも「まあ、そうなるかな」という感じになって真剣に応援しようとしないと思う。結局、リスクのあるところに出ていくから世の中が味方をしてくれるわけです。そんな感覚も織り交ぜつつ…、まあ本当に3歩目を踏み出すかどうかというのはまた別の問題になるけど、まずは議論してもらえますか? 3、2、1、はいどうぞ。
~ブレスト~
はい、そこまで。皆さんの3歩目を踏み出す勇気、あるいは無謀さに、僕はエールを贈りたいし、今日の話がその役に立てれば嬉しいと思います。会場にいるすべての人にレアカードとなってもらいたい。1/100万というのはオリンピックのメダリスト級ですよ。今からオリンピックのメダリストを目指すのは大変だけど、「メダリスト級の1/100万のレアカード」にはなれると思うんですね。それは三角形の掛け算によります。
で、この考え方がすごく面白いってことで、キングコングの西野亮廣さんが大絶賛してくれていました。あと、ホリエモンもこの考え方にすごく驚いていて、彼の最新著書にもこのことが書いてあったりします。「自分のキャリアに3つのタグを付けよう」と、ホリエモン流の表現で重ねて言ってくれています。
今日の話は、『10年後、君に仕事はあるのか?』と、もう1冊の『藤原和博の必ず食える1%の人になる方法』に載っていますから、ぜひ、あとで復習していただけたらと思います。あと、これ以外にも『リクルートという奇跡』は永遠の名著と言われてるので(会場笑)。リクルートに転職する人じゃなくても、組織がどのように活性化されるか、あるいは人の力はどこまで引き出せるのかといった話に迫りたい人はどうぞ。
それと、奈良市立一条高校には“公式裏サイト”があります(会場笑)。その「一条LABO」っていうサイトで、「よのなか科」の授業、あるいは「スマホをどのように使っているか」といったことが動画で視られます。ぜひ参考にしてみてください。今一番の話題は河瀨直美監督。彼女は一条高校出身で、バスケ部のキャプテンとして国体まで行った人です。その河瀨監督が、山田孝之さん主演で『パラレルワールド』という15分の短編映画を、全編一条高校ロケで去年の夏に撮った。それが今公開されています。また、奈良に縁のある人や関西の人は、「よのなか科」の授業は公開授業でいつでも来ていただけますから、ぜひ来てください。
はい、「今日の授業で人生変わりそうだな」って人だけ、最後にちょっと拍手くれる?(会場拍手)はい、では、ありがとうございました。(会場拍手)
≫「なくなりにくい仕事の共通点とは――藤原和博氏が語るAI時代にも価値を創出する働き方」[1]
≫「ジグソーパズル型からレゴ型学力重視へ――藤原和博氏が語るAI時代にも価値を創出する働き方」[2]
藤原 和博
「朝礼だけの学校」校長/教育改革実践家/元リクルート社フェロー
1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年〜11年橋下大阪府知事の特別顧問。16年4月より奈良市立一条高校校長として生徒所有のスマホを100%活用し世界初の「スーパー・スマート・スクール(SSS)」を目指す。著書は『リクルートという奇跡』『つなげる力』(ともに文春文庫)、『藤原先生、これからの働き方を教えてください。』(ディスカヴァー)など累積133万部で講演回数も1200回を超える。人生後半戦の生き方の教科書『坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと』(ポプラ社)は12万部を超えるベストセラーに。日本の技術と職人芸の結晶であるブランドを超えた腕時計「japan」(文字盤漆塗り)や「arita」(文字盤白磁)を諏訪の時計師とファクトリーアウトレット方式でオリジナル開発し、第7弾まで完売。高校時代はバスケット部だったが、弱くてもっぱら強い女子バスケ部の相手をさせられた。いまは女子テニス部の練習に参加。3児の父で3人の出産に立ち会い、うち末娘を自分でとり上げた貴重な経験を持つ。詳しくは「よのなかnet」http://www.yononaka.net に。