GLOBIS Articles
- マーケティング
- キャリア
- 新型コロナ
投稿日:2021年01月12日
投稿日:2021年01月12日
アパレル危機、ウィズコロナの勝ち組
- 山本 知子
- グロービス・ファカルティ本部研究員
リモートワークによるオフィス需要の減少がアパレルを直撃
アパレル業界といえば、コロナによるダメージを直に受けている業界の1つ。インバウンド消費が無くなり、国内においても外出自粛の影響で、服を買う機会が減り、リモートワークが急速に進んだことで、スーツや革靴の需要が落ち込み、女性は、化粧品やバッグなどいわゆるオフィス需要が減少、業界全体が危機に直面している。
大手アパレルは、かつての旗艦ブランドを廃止する企業も出てきた。ワールドは約350店舗、TSIホールディングスは約200店舗、三陽商会は約160店舗、オンワードホールディングスは20年2月に700店舗閉鎖したばかりだが21年2月にも700店舗を閉鎖することを発表。以前から業績が低迷していたところに、コロナが追い打ちをかける結果となった。
多くのアパレルが苦しんでいるなか、好調だったのは、ワークマン。売上高前年比は、20年第一四半期22.3%増、同第2四半期14.7%増。その好調な理由は何だったのか。まず考えられるのは、ワークマンの店舗の多くが、郊外のロードサイド立地であるため、商業施設の休業や都心への外出控えの影響は最小限で済んだこと。店舗を開け続けたことで、他の店は閉まっていて買えないという人も呼び込んだ。
また、コロナ禍でも事業が止まることのない社会インフラに携わるプロ向けの商品を扱っていること、それに加えて、18年から展開している新業態ワークマンプラスの影響もあるだろう。同ブランドは、従来のプロ向けではない一般客をターゲットにしており、防寒、防風や火の粉に強いなど同社の強みである機能性をプラスしたカジュアル商品を低価格で提供。プロと一般客という重複しない需要を取り込んでいる。商品ラインナップの充実だけでなく、SNSやインフルエンサーを活用した情報発信を行い、外出自粛しているターゲット層に対して、Eコマースでの買い物体験を促した。
デイリーファッションを展開するしまむらも好調組だ。しまむらの店舗は全国に1430店(2020年11月時点)と、ユニクロ国内店舗数813店(20年8月時点)よりも多く展開しているが、ワークマン同様郊外のロードサイド店舗が多く、開け続けることができた。20年11月は売上高前年比11.4%増となり、9月から3か月連続2桁増。ルームウエアや保温等機能系商品が売れたこと、人気インフルエンサーとのコラボレーションしたトレンドアイテムをしまむらプライスで提供したこと。
さらにEコマースにも本格的に力を入れ、配送や決済方法、使用できるデバイス、商品数を大幅に見直し、利用者の利便性を向上したのもプラスに働いたのではないか。しまむらLINE公式アカウントなどの運用でSNS会員は2300万人まで拡大した。現在は、紙チラシとWebチラシの割合が逆転、SNSの動画配信やアプリなど、デジタル化を整備していたこともコロナ禍の消費スタイルにフィットしたのだろう。
一方、苦戦している企業も新たな動きを見せている。トレンド系からカジュアル系まで幅広いファッションブランドを展開しているユナイテッドアローズは、売上高(小売既存店対比)は4月以降減少が続いており、11月の売上高前年比27.7%減と厳しい状況だ。打開策として、ワンマイルウエアやヨガやアウトドアなどのウエルネス製品を拡充するとともに、同社の低価格ブランドのコーエンと中価格ブランドのグリーンレーベルリラクシングの間に新規ブランドを立ち上げる計画を発表した。イエナカ需要や健康などの用途を明確にしたラインナップの構築と中低価格帯を強化することで、新しい客層を開拓し、黒字化を目指すようだ。
消費者目線の徹底で「買いたい」と思わせる
好調組に共通しているのは、デジタル施策の徹底、機能性重視のアイテム、低価格の3軸だと考えられる。
トレンドファッションを身に着けたいが、外出の機会が減った今、そうした商品への支出を抑えたいという消費者のニーズに対し、しまむらは、気軽にトレンドアイテムを楽しんでもらえるよう低価格で提供している。混雑を避けて、家族でアウトドアやスポーツを楽しみたいといった消費者ニーズに対し、ワークマンは、防寒用、スポーツ用、部屋着など、用途が明確なものを低価格で提供している。
そして、それらのアイテムを家にいながら、購入したいと思わせるデジタル施策が、コロナ禍の鍵だ。実際にモノを見ずに購入することはハードルが高いが、「買いたい」と思わせる施策として、ワークマンもしまむらもインフルエンサーによる情報発信に注力している。多くのファッションブランドが陥りがちなのは、イメージを優先するあまり、モデルや芸能人を起用して、消費者の求めるリアリティとのギャップを作ってしまうことだが、消費者の感覚に近いインフルエンサーが商品を着用したり、紹介したりすることで、リアルな着用イメージや使い心地をイメージしやすくなるのだ。消費者目線を徹底し、「買いたい」と消費者に思わせた企業が、コロナ禍で売上を伸ばせたのだろう。
山本 知子
グロービス・ファカルティ本部研究員
英国国立ウエールズ大学院経営大学院MBAプログラム修了。日系企業や外資系企業にて、ブランド事業の企画立案から販売政策まで一連のマーケティング業務に従事。グローバルブランドにて、新しいコレクションの立ち上げも経験。グロービス経営大学院にてマーケティング領域のコンテンツ開発を担当。共著書に、『改訂4版グロービスMBAマーケティング』。