GLOBIS Articles

  • イノベーション
  • 卒業生の活躍
  • インタビュー

投稿日:2020年11月25日

投稿日:2020年11月25日

トップダウン型組織から抜け、理念を腹落ちさせる―石坂産業×同志サーベイ

貫洞 晴一
石坂産業 人財開発室 室長
鈴木 祐介
株式会社パラドックス 執行役員/ブランディング・プロデューサー/クリエイティブ・ディレクター/PARADOX創研 所長/東京校2014年卒業

「自然と共生する、つぎの暮らしをつくる」というミッションのもと、ゼロ・ウェイストをキーワードに産業廃棄物と向き合う石坂産業。ホワイト企業大賞、ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016情熱経営者賞など数々の賞を受賞しており、世界中からの見学者が後を絶たない。そんな同社の次なる挑戦がネクストステージに向けてトップダウン型組織からの進化だ。パラドックスの「同志サーベイ」をもとに自ら考える組織へと成長を始めた彼らの軌跡をたどる。

アウターブランディングとインナーブランディングのギャップ

鈴木:石坂産業さんの本業は廃棄物の中間処理業。創業53年目を迎えられます。どんな会社なのか、これまでの歩みを振り返りつつ教えてください。

貫洞:廃棄物処理というのは許認可事業なのですが、当社の事業は建築系廃棄物に限定されています。現在、従業員数は派遣の方も含めて約180名、正社員は110名弱です。会社が岐路に直面したのは1999年。地域のダイオキシン問題が報道され、当社は世間の批判の対象となりました。存続の危機に立たされたことで、「地域の皆さまとの共存」という原点に立ち返って自分たちの仕事を見直し、永続企業として新たな歴史を歩み始めました。

取り組んだのは、不法投棄されるゴミが散乱する地元、埼玉県三富地区の里山を生物多様性が溢れる昔の姿に戻すことでした。ゴミを一つひとつ拾っては荒れ果てたクヌギの森を再生し、公園として拡張していったのです。その結果、三富今昔村と呼んでいる今の環境教育フィールドが生まれました。

鈴木:リサイクルや減量化が難しい混合系廃棄物を扱っているということですが、どんな思いでその分野を選ばれたんでしょう。

貫洞:現相談役が当社を創業した際の事業というのが、お台場を埋め立てるための廃棄物をトラックで運搬する仕事だったのです。ごちゃごちゃの廃棄物の山を見て、「もったいない」と思い、100%のリサイクルをめざして研究を始めたのが今の事業の発端です。

混合廃棄物は、産業系廃棄物の2割を占める建築系廃棄物に区分されます。そもそも建築系廃棄物は、木材系、コンクリート系、その他の混合系に分かれています。

木材とコンクリート系は多くの会社がすでに100%リサイクルを行っていますが、混合系というのは非常に難しい分野です。業界では高くてもリサイクル率7割程度といわれます。ところが当社は今、98%までリサイクルできている。入ってくる荷物のうち、約4割ぐらいが同業者さんからの持ち込みです。当社でできなければ、最終処分場に持っていくしかない廃棄物です。

鈴木:本業では同業者も含めて見学者をどんどん受け入れていると伺っています。

貫洞:およそ世界40ヵ国から見学者が訪れ、産廃処理の意義を学んでいかれます。拠点こそ国内のみですが、おかげさまで海外との連携はどんどん広がっています。国内の見学者は昨年度4万人となりました。

鈴木:社会全体をゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)へ向けていくために、オープンにできるところはオープンにしていらっしゃる。

貫洞: おかげさまでアウターブランディングについては、徐々に世の中に知っていただけるようになりました。けれども、インナーブランディングは追いついていかない。以前はトップダウンでよかったですし、そのおかげで成長もできました。ですが、これから事業を拡大していくとなるとそうはいかない。

従業員数がこの10年でほぼ倍増したこともあり、両者のギャップが広がっているという実感がありました。代表もその課題に気が付いていて、2年前、インナーブランディングの強化に乗り出すことになりました。

同時に社員の教育体系も見直し始めました。単に業務を覚えさせるということではなく、心構えや、仕事との向きあい方といったことを学んでほしかった。特に育成の必要に迫られていたのは、組織の要であるミドルマネジャークラスです。当時役職者は28名いました。外部の協力も得ながら彼らを対象に半年間研修を行い、10名選抜しました。

同志サーベイで打ち手を考える

鈴木:そのタイミングで同志サーベイを実施したわけですね。

貫洞:はい。従業員満足度調査はもう6年ほど継続して行っていますので、課題領域はある程度、出てきていました。ただ、具体的にどんな打ち手が必要なのかは見えてこなかった。そんなとき、組織と個人の同志度を測る同志サーベイのことを鈴木さんにお聞きしまして。

価値観や強み、ありたい姿が、社員と企業の間で重なっているか、ギャップはないかなどがわかるインナーサーベイで、「相互認知、相互共感、相互貢献」をベースに測定を行うと伺いました。まさに理念経営を志している当社が求めているもので、設問が総論ではなく、価値観や貢献にフォーカスされているところに興味を持ちました。理念浸透度の度合いを測りたければ、「理念を理解していますか?」と質問すると思うのですが、同志サーベイでは、「理念に対して具体的にどういう行動を取りましたか?」という聞き方をする。これなら何か打ち手が見えてくるんじゃないかと。

鈴木:サーベイ結果を見てどう思われました?

貫洞:正直、意外でした。現場で働く生産系(プラントで廃棄物をリサイクルする仕事)とそれ以外の管理や営業部門などの非生産系だと、生産系のほうが同志度が高かったんです。これまでのサーベイでは、生産系に課題があるという結果だったので驚きました。「生産系は大変な仕事だから」と納得していたのですが、今回は真逆の結果になりました。やはり廃棄物に日々、対峙している人は意義を感じて今の職に携わっているのかもしれない、と新鮮でした。

鈴木:「仕事に誇りを持っていますか」という設問では生産系だけでなく、非生産系の人も高かったので、誇りは皆さんお持ちです。

貫洞:理念に対する共感の数字も全体的には高く出ています。今までのサーベイもそうでした。ですが、どうも現実は違うなという気がする。「理念に対してどんな行動をしてきたか」「自分の仕事をどう捉えているか」といった設問についても、十分な回答ができていません。

会社が発信していていることに対して、「良いことだし、もっともだ」とは共感しているのでしょう。ただ、自分の仕事に落とし込むところまでいっていない。実践しているとしても、会社から言われたとおりやっている状態、つまり「共感なき実践」になっているのではないかと。もしかしたら、内発的動機より外発的動機のほうが強いのかもしれません。「働きやすい環境や雰囲気というものは、会社が用意してくれるものだ」という認識もあるようです。これでは常に会社や上司が叱咤激励したりしないといけない。これからは会社からの一方的なコミュニケーションではない姿を目指します。

【関連記事】
組織と個人の思いをすり合わせれば「志あふれる社会」が生まれる
ミドルマネジャーたちが考える「これからの会社のつくり方」―石坂産業×同志サーベイ

貫洞 晴一

石坂産業 人財開発室 室長

鈴木 祐介

株式会社パラドックス 執行役員/ブランディング・プロデューサー/クリエイティブ・ディレクター/PARADOX創研 所長/東京校2014年卒業