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投稿日:2020年07月23日
投稿日:2020年07月23日
自信には2種類ある――自分らしいキャリアを体現する自信とは?
- 村山 昇
- キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
自らの何を信じるのか:2つの信じること
「自信」とは読んで字のごとく「自らを信じる」ことですが、自らの何を信じることなのでしょう。
今日では、何か目標や課題に対し、それをうまく処理し、具体的な成果をあげられると強く思っている──その意味で「自信」という言葉が使われる場合がほとんどのようです。つまり、信じるものは「自らの能力と成果」です。しかし、自信とはそれだけでしょうか? 自信という言葉はもっと大事なものを含んでいないでしょうか?
『広辞苑〈第七版〉』によれば、自信とは「自分の能力や価値を確信すること。自分の正しさを信じて疑わない心」とあります。そう、能力を信じる以外に、自分の「正しさ」を信じることも自信です。
ですから、たとえ自分の能力に確信がなくとも、自分に(あるいは、自分のやっていることに)価値を見出し、意味や正しさを強く感じているのであれば、「自信がある」と言い切っていいのです。そこで、自信を次の2つの種類に分けてみます。
[1]自信X:「能力・成果」への自信
[2]自信Y:「意味・価値」への自信
自信は意欲と相互作用があります。例えば、何か課題に取り組み、見事にそれをクリアして成果が出せたとき、自信Xが生まれますが、この自信Xはさらに上を目指そうという意欲を湧かせます。また、何か課題に取り組み、そこに献身する意義を見出したとき、自信Yが生まれますが、この自信Yはさらに持続しようという意欲を湧かせます。
そのように、自信Xは自分をより高くに引き上げ、自信Yは自分を静かに遠くまで行かせます。
長きキャリアの道のりにおいて基盤に置きたいのは「自信Y」
昨今のビジネス現場では、ともかく能力と具体的(特に量的)成果が問われます。そのために、「自分には十分な能力がないのではないか」とか、「他より優れた成果を出すことができるだろうか」といった不安に取りつかれ、不必要に縮こまってしまいます。そして結果が伴わないと「自分はダメだ」と精神的に追い込んでしまう。そしてついにその取り組みをやめてしまいます。
そうした状況で私が言いたいのは、長きキャリアの道のりにおいて基盤に置くべきは「自信Y」だということです。なぜなら、物事は負けたら終わりではなく、やめたら終わりだからです。その取り組みを持続さえしていれば、やがてまたチャンスが訪れます。
私自身の話を少ししますと、私は独立して17年超経ちますが、最初の10年というものは打つ手打つ手がどれも不発で、成果が思ったように出ませんでした。事業サービスも、苦労して出版にこぎつけたいくつかの著作も、潜在顧客や世の中からの反応はほとんどなく、まさに自信Xはズタズタに切り裂かれ、独立事業者として能力無しと烙印を押されているかのようでした。さっさと自営業に白旗をあげてサラリーマンに戻るという選択肢が何度も頭の中をよぎりました。
しかし結局、私を救ったのは自信Yでした。自分のやろうとする事業の意義や、自分の書く本の内容について強い想いを離さず、依怙地なまでに譲れない軸を持って、自分の表現を地道に発し続けました。
「やっていることへの自信」は、何よりも粘りを生みます。能力の不足や見込みの甘さによって事業不振の苦労は絶えませんが、自分が価値を見出している仕事であるから粘れるのです。粘れるとは、多少の失敗や無視・無反応にもくじけない、踏ん張りどころで知恵がわく、楽観的でいられる、そんなようなことです。
そうしてもがいているうちに、本当に必要な能力もついてきます、成果も出はじめます。そして何より、人数は少なくとも本当の同志・共感者に出会えます。いま振り返ると、あのとき事業をやめなくて本当によかったと思います。私は自信Yによって、しぶとく事業を持続した結果、一人静かに遠くまで来たような気がします。ここで見ている景色は、決して自信Xによって獲得した高い場所からの景色ではありませんが、まちがいなく自分だけの美しい景色です。
自分らしいキャリアに必要なのは「長けた仕事」?「豊かな仕事」?
自信Xは「有能さ」をベースにするものであり、そこからは「長けた仕事」が生み出されます。他方、自信Yは「意味」をベースにしており、そこからは「豊かな仕事」が生み出されます。
「自信X/長けた仕事」の世界は、常に競争や変化にさらされます。人生100年時代、50代、60代、70代までずっと長く働いていくことを考えたとき、いつまで「自信X/長けた仕事」を追えるのでしょう。すでに20代でもこれに疲れ、自己肯定感や自己効力感の喪失に悩んでいる人も多くいます。
働く上で、獲得すべきは「自信X/長けた仕事」のみではありません。「自信Y/豊かな仕事」も同じくらいに大切なものです。むしろ後者は、本来の自分が生き生きと献身できるライフワーク探しにつながっています。私がいま会社員のみなさんに推奨しているのが、1ヶ月の内に1日でも半日でもいいので、「自信Y/豊かな仕事」につながる活動をすることです。副業や兼業としてできるならなおいいでしょう。
自分らしいキャリアの体現場所は、能力を研ぎ澄ませ、他との競争に勝っていくというタテ方向に見出せる場合もありますし、意味を抱き、一人静かに遠くまで歩いていくというヨコ方向に見出せる場合もあります。キャリアは何十年にわたる長き旅路です。その意味で、「自信Y」というものにもっと意識が注がれてよいと思います。
村山 昇
キャリア・ポートレート コンサルティング 代表
人財教育コンサルタント・概念工作家。
『プロフェッショナルシップ研修』(一個のプロとしての意識基盤をつくる教育プログラム)をはじめ、管理職研修、キャリア開発研修、思考技術研修などの分野で企業内研修を行なう。「働くこと・仕事」の本質をつかむ哲学的なアプローチを志向している。
GCC(グロービス・キャリア・クラブ)主催セミナーにて登壇も多数。
1986年慶應義塾大学・経済学部卒業。プラス、日経BP社、ベネッセコーポレーション、NTTデータを経て、03年独立。94-95年イリノイ工科大学大学院「Institute of Design」(米・シカゴ)研究員、07年一橋大学大学院・商学研究科にて経営学修士(MBA)取得。
著書に、『キレの思考・コクの思考』(東洋経済新報社)、『個と組織を強くする部課長の対話力』『いい仕事ができる人の考え方』『働き方の哲学』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。