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投稿日:2019年01月17日
投稿日:2019年01月17日
急成長したイノベーションエコシステムをボストンに訪ねる
- 難波 美帆
- グロービス経営大学院 教員
イノベーションエコシステム――科学技術とビジネススタートアップに関係がある人なら、誰でも一度は聞いたことがある言葉だろう。しかしこの言葉の意味することを実態として見たり感じたりしたことがある人は、日本では多くないのではなかろうか。
筆者は、2018年11月のボストンで、初めて「スタートアップの集積地」を歩いた実感を持ち、「イノベーションエコシステム」とはいったいなんなのかを理解できた気がした。このレポートでは、これから数回に分けて、筆者が歩いて、訪ねて、実際に見ることができたイノベーションエコシステムを紹介したい。
筆者がボストンを訪れたのは、2008年と2013年に次いで3回目だ。過去2回とも学会参加を目的としていたため、市内を散策するチャンスはあまりなかったが、2008年の滞在中には隣のケンブリッジ市にあるMITにも足を伸ばした。しかし当時、10年後ケンブリッジのブロードウェイの1番地がこんな場所になるとは想像もしなかった。10年の間に、MITの敷地があるケンブリッジ市の一角ケンダル・スクエアは、「世界で最もイノベーティブな1 mile square」と呼ばれるスタートアップと投資の集積地になっていたのだ。
現在ボストンは、資金だけでなくネットワークや密度などの観点でイノベーションエコシステムを評価している全米25年のランキングで1位(The 2017 Innovation That Matters by US Chamber of Commerce Foundation)、世界のスタートアップ都市のエコシステムを評価したランキング(Global Ecosystem Startup Rankings 2017)で5位にランクされている。
場所を提供することで大きく貢献したのがCIC(Cambridge Innovation Center)である。CICは1999年にMITの卒業生であったティム・ロウらが設立した。1999年当時ケンダル・スクエアではベンチャー投資額が約1億ドルだったのが、2016年には140億ドルに達している。うち半分の約70億ドルは、CICを拠点とする企業に投じられたという。今回のツアーはCICが主催、見学先をアレンジしてくれたものであるから、CICを中心としてみたボストン地域のイノベーションツアーと言えるかもしれないが、間違いなくCICはボストン地域、特にMITの門前に広がるケンダル・スクエアを今日の活況に導いた中心的な装置である。
ツアー初日、集合場所となったのは、CICが持つスタートアップのための貸しオフィスの中でも最大のブロードウェイ1番地のビルの1階であった。この建物のうち6フロアーに大小様々なスタートアップ企業がオフィスとして部屋を借りている。この他にケンブリッジ市メインストリートには2つのビルの合計8フロアー、ボストン市には1つのビル10フロアー、マサチューセッツ州のこの4拠点に1200社が入居している。
筆者がボストンを訪れたのは、2008年と2013年に次いで3回目だ。過去2回とも学会参加を目的としていたため、市内を散策するチャンスはあまりなかったが、2008年の滞在中には隣のケンブリッジ市にあるMITにも足を伸ばした。しかし当時、10年後ケンブリッジのブロードウェイの1番地がこんな場所になるとは想像もしなかった。10年の間に、MITの敷地があるケンブリッジ市の一角ケンダル・スクエアは、「世界で最もイノベーティブな1 mile square」と呼ばれるスタートアップと投資の集積地になっていたのだ。
現在ボストンは、資金だけでなくネットワークや密度などの観点でイノベーションエコシステムを評価している全米25年のランキングで1位(The 2017 Innovation That Matters by US Chamber of Commerce Foundation)、世界のスタートアップ都市のエコシステムを評価したランキング(Global Ecosystem Startup Rankings 2017)で5位にランクされている。
場所を提供することで大きく貢献したのがCIC(Cambridge Innovation Center)である。CICは1999年にMITの卒業生であったティム・ロウらが設立した。1999年当時ケンダル・スクエアではベンチャー投資額が約1億ドルだったのが、2016年には140億ドルに達している。うち半分の約70億ドルは、CICを拠点とする企業に投じられたという。今回のツアーはCICが主催、見学先をアレンジしてくれたものであるから、CICを中心としてみたボストン地域のイノベーションツアーと言えるかもしれないが、間違いなくCICはボストン地域、特にMITの門前に広がるケンダル・スクエアを今日の活況に導いた中心的な装置である。
ツアー初日、集合場所となったのは、CICが持つスタートアップのための貸しオフィスの中でも最大のブロードウェイ1番地のビルの1階であった。この建物のうち6フロアーに大小様々なスタートアップ企業がオフィスとして部屋を借りている。この他にケンブリッジ市メインストリートには2つのビルの合計8フロアー、ボストン市には1つのビル10フロアー、マサチューセッツ州のこの4拠点に1200社が入居している。
初日のミーティングが始まる前30分ほどで、各フロアーの作りを案内してもらった。各フロアーはそれぞれ大小様々の小さな部屋に分かれており、机とコピー機を置いたらいっぱいで定員1、2名の小さな部屋から、10名ほどの会議用の丸机が置かれている部屋、窓がある部屋、ない部屋など、レンタルフィーも様々で、各企業のニーズに合わせて借りることができる。スタートアップの企業は短期間で社員の数が増えたり、業務が拡張していくが、それに合わせて同じフロアーで、または他のフロアーの部屋へと引っ越していくことも可能だ。最終的に部屋の間借りだけでは間に合わなくなれば、近隣のビルのより大きなスペースへ引っ越していく企業もいる。
特徴的で、初日の午前中で若干時差ボケ気味の参加者たちの関心を引いたのが、軽食が用意されているカフェスペースだ。ソーダー類、M&Mなどのスナック、バナナやリンゴなどのフルーツ、冷蔵庫にはミルクやフレッシュジュースも入っている。これらの軽食を入居者はいつでも自由に飲食してリフレッシュすることができる。ビルから出なくても軽食が手に入るのは、根を詰めて作業する入居者には重要なインフラサービスだ。
日本のイノベーションエコシステムの現状は?
ここで、筆者がこのツアーに参加するに至ったきっかけを記しておきたい。日本が国をあげて「イノベーションエコシステム」の構築に乗り出した、すなわち、施策としてイノベーションエコシステムの構築に取り組み始めたのは、2005年ごろとみて取れる。経済産業省が2005年に発行した報告書(「日本の強みを活かした元気の出るイノベーションエコシステム構築に向けて」)によれば、2005年からの「研究のトレンド」として「社会全体としての持続的な経済成長を目指す国家・市場基盤の整備を実現するために“イノベーションエコシステム”の研究が進められている」として「イノベーションエコシステム」という言葉が登場する。
日本においてイノベーションという言葉が意味するのが、「技術革新」や製品の改良、規格の標準化という狭い意味だった長い時期を抜け、ようやくイノベーションのカバーする範囲を「社会全体の変革」と捉え直し、それと同時にエコシステムという言葉が登場したのが2005年だ。それから13年、イノベーションエコシステムという言葉は、日本でイノベーションを起こすためのキーワードとしてすっかり人口に膾炙した。また経済産業省だけでなく、産学官連携による科学技術振興を推進する文部科学省からも、地域連携支援として多くの施策が打たれてきた。
しかしながら、手本として日本から多くの人が訪れるシリコンバレーのような大学を中心としたイノベーションの集積地と呼ばれるような場所は日本に存在せず、世界における国としてのイノベーションランキング(The Global Innovation Index 2017)でも、日本は7位のシンガポール、11位の韓国の下、14位にランクされている。
国をあげて日本が、創出を目指しているイノベーションエコシステムとはいったいなんぞや。イノベーションエコシステムの像をしっかり結びたく、これまでに様々な記事を読み、本を読んだ。2014年にはスタンフォード大学を擁するサンフランシスコ・ベイエリアも訪ねてみたが、「集積」というには、広々として、全容のようなものはつかみかねた。
そんな中、昨年、Venture Caféという、イノベーションを促進するための取り組みが米国東海岸のボストンから東京に進出してきた。ボストンでは、大学と地域が一体になって、スタートアップが活発に行われている。運営する団体は、ボストン市で設立され隣のケンブリッジ市に短期間で一大イノベーション拠点を築いたCICと姉妹組織のNPOである。ボストンで成功したシステムを日本にも輸出しようとNPOがやってきた。NPOはボストンで何をやっているのか?それがどのように機能しているのか?成功モデルとして日本以外の国にも進出しているというが、何が起きようとしているのか?このVenture Café 東京に筆者の同僚が参画したことで、ボストンのイノベーションエコシステムに関心を持ち、「見学ツアー」に参加することとなった。
次回からは、1 mile squareにおけるイノベーションエコシステムの詳細をお伝えする。
難波 美帆
グロービス経営大学院 教員
大学卒業後、講談社に入社し若者向けエンターテインメント小説の編集者を務める。その後、フリーランスとなり主に科学や医療の書籍や雑誌の編集・記事執筆を行う。2005年より北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット特任准教授、早稲田大学大学院政治学研究科准教授、北海道大学URAステーション特任准教授、同高等教育推進機構大学院教育部特任准教授を経て、2016年よりグロービス経営大学院。この間、日本医療政策機構、国立開発研究法人科学技術振興機構、サイエンス・メディア・センターなど、大学やNPO、研究機関など非営利セクターの新規事業の立ち上げをやり続けている。科学技術コミュニケーション、対話によるイノベーション創発のデザインを研究・実践している。