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投稿日:2018年07月24日

投稿日:2018年07月24日

なぜZOZOTOWN前澤氏はプロ野球に参入したいのか?

嶋田 毅
グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長

筆者は以前、「ビジネスモデル -日本プロ野球のビジネスモデル」で日本プロ野球のビジネスモデルの現状と進化について書いたことがある(やや長いがご興味のある方は一読されたい。実際にこの記事がきっかけで、プロ野球団の関係者から話を聞かれたこともある)。

広島東洋カープの人気や横浜DeNAベイスターズの頑張りもあって、予想通り記事中の「地域密着型ビジネスモデル」の方向性に進んでいる感があるプロ野球だが、ここにきてZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ(10月よりZOZOに名称変更の予定。以下、本稿ではZOZOと表記する)の前澤友作社長が7月17日にツイッターでプロ野球の球団を持ちたいと宣言し、話題になった。一部を引用すると、以下のようなツイートである。

【大きな願望】プロ野球球団を持ちたいです。球団経営を通して、ファンや選手や地域の皆さまの笑顔を増やしたい。(中略)#ZOZO球団

今回は、前回の記事も踏まえ、そもそも企業や個人がなぜプロスポーツ球団を持ちたがるのか、その理由をいくつかパターン化した後に、今回のZOZOの狙いを考えてみたい。

(1) 広告型
これは日本のプロ野球が典型的である。前の記事にも書いたように、30億円程度の赤字で済むなら広告費として費用対効果が高いと考える企業は多いだろう。韓国や台湾のプロ野球なども球団名に企業名を冠しており、同じ傾向が見られる。欧米では企業名を球団につける文化がほとんどないことからこのタイプは稀である。

(2) ビジネス型
これは純粋に「利益を出すビジネス」と捉え運営するもので、世界中で最も多いと思われるケースである。なお、収益は入場料のみならず、広告、テレビ放映権料、グッズ販売、飲食、選手の売却、アカデミーの運営など、多角化しているのが最近の傾向である。

(3) 投資型
これは(2)のビジネス型に近いが、「球団を安く買って高く売る」という意味で、やはり投資感覚に近い。特にアメリカのメジャースポーツでは、近年、リアルタイム性と健全性を併せ持つコンテンツとしてスポーツの人気が高まっており、放映権料はうなぎ登りである。それに伴って球団の資産価値も年率10%以上で上がっているチームが少なくない。球団の株式の一定比率をファンドが持つことが多いのもアメリカの特徴だ。

(4) 道楽型
これはお金持ち、名士がある種の道楽としてチームを保有し、所有欲を満たすものである。通常はそのスポーツに愛着を持つ場合が多い。ビル・ゲイツと共にマイクロソフトを創業したポール・アレンはNBAのポートランド・トレイルブレイザーズとNFLシアトル・シ―ホークス、MLSシアトル・サウンダーズFCのオーナーであるし、同じくマイクロソフトの前社長、スティーブ・バルマーはNBAロサンゼルス・クリッパーズのオーナーである。日本では楽天の三木谷浩史氏が、「サッカーは趣味」としてヴィッセル神戸を持っている。多少の赤字が出ても懐は痛まないし、国によっては節税対策になるケースもある。

(5) CSR
道楽ではないが、純粋なビジネスというよりは社会貢献の一環としてチームに関与するケースである。スポンサー名をチームに冠することのできない、日本のJリーグに多いケースである。

(6) 選手出身型
アスリートがオーナーの立場でそのスポーツに携わるケースだ。日本ではあまり例はないが、NBAのマイケル・ジョーダン氏、MLBのデレク・ジーター氏などが有名だ。選手の立場とは別の形での自己実現を目指しているとも言える。

大きくは上記の6パターンだ。もちろんさまざまな複合型もある。日本プロ野球では読売ジャイアンツは(1)(2)だろうし、ソフトバンクホークスは(1)(2)(4)に加え(5)の色彩も持つ。

さて、話をZOZOに戻すとどうなるだろうか。筆者は前澤社長と直接の面識はないので想像の域を出ないのだが、ウェブ上の情報などを見る限り、これまでの彼の関心は音楽バンド(元ミュージシャンであり、レコードも出している)や、アートやワインといった高級品のコレクションなどにあり、プロ野球に強い情熱を持っていたという記述は見当たらない。

一方で、すでに球場のネーミングライツ(ZOZOマリンスタジアム)を持っていることから考えると、プロ野球に全く関心がないわけではもちろんないだろう。また、東日本大震災の際には、当時の千葉マリンスタジアムの改修工事費を個人で寄付してもいる(千葉は彼の出身地でもある)。

今回の発言で気になるのは、ちょうど10月に社名を変えるという点だ。かつてオリエントリースがオリックスに社名変更した際、タイミング良くブレーブス(現在はオリックス・バファローズ)を買って、一気に知名度を増したことがある。

ZOZOの現在の成長ステージを考えれば、知名度はもっと高くしたいところである。社名変更に合わせ、(1)を主目的としていると考えるのはあながち間違った仮説ではないだろう(ただし、7月時点でこのプロジェクトを進めたとしても、水面下で話がついていない限り、来シーズンからの参入はほぼ不可能であり、その意味でタイミングは少し遅れたとも言える)。

一方で、上記のエピソードからも分かるように、彼はCSRにも積極的であり、また資産3300億円(2017年時点)を誇る富豪でもある。コレクションが趣味ということから、所有欲も強そうである。それらを考えると、(4)(5)の要素もありそうだ。また彼は優れたビジネスパーソンでもあるから、おそらく放漫経営にはならず、赤字になったとしても十分に許容できる範囲であろう。そう考えると(2)の要素ももちろんあるだろう。

もちろんこれは参入の仕方によっても変わってくる。すでに、彼の地元であり最も地域貢献意欲が高くなるであろう千葉ロッテマーリンズは球団売却の意思はないと発表しており、その場合、(5)のCSR的要素は弱まる可能性もある。

いずれにせよ、球団数の少なさもあってマンネリ気味がどうしても漂うプロ野球界において、新しい刺激が加わることは大いに歓迎すべきだろう。

嶋田 毅

グロービス電子出版 発行人 兼 編集長出版局 編集長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。

グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。