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逆境こそイノベーションの源泉!就労困難を乗り越えられる4つの理由

2020年05月11日

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  • 変革
成澤 俊輔 社会起業家 NPO法人FDA前理事長
難波 美帆 グロービス経営大学院 教員

障がい者、ひきこもり、ニート、ホームレス、うつ、シニア、ワーキングプア――特定非営利活動法人FDA(Future Dream Achievement)は、働きづらさを抱えるすべての人に「大丈夫だよ、働けるよ」というメッセージを発信し続けている。理事長として活躍してきた成澤俊輔氏は、事務局長就任後、わずか半年で黒字化を達成。利用者の強みを引き出し、高い就職定着率を実現することに成功した。雇用のイノベーションを生み出し続ける風雲児の横顔とは。(聞き手=難波美帆 グロービス経営大学院 教員)(全2回前編・後編はこちら

どんな人でも働ける――仕事は人生をいい方向に導く

難波:成澤さんは2011年12月に特定非営利活動法人FDA(Future Dream Achievement)の事務局長に就任され、2013年8月からは理事長を務められています。2018年には「人を大切にする経営学会」で「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」、「実行委員会特別賞」を受賞されました。設立8年での受賞は、史上最速だったとか。FDAについてどんな団体なのか教えてください。


成澤:働きづらさを抱える人と支援したい企業が集える環境と仕組みを提供する団体です。活動内容は大きく分けて2つ。「就労困難者の強みを探し、長く働き続けられる職場とつなげる」「就労困難者の人生そのものを豊かにできるよう、お手伝いする」ですね。平日の就労支援活動だけでなく、週末や休日にはさまざまなアクティビティを開催しています。


難波:利用者の方はどんな働きづらさをお持ちなのですか?


成澤:障がい者、ひきこもり、ニート、ホームレス、うつ病の方、シニア、それにワーキングプアの方もいます。リストラに遭遇し、社会復帰できなくなってしまった方も。


人は仕事を通していきいきと生きられますし、豊かな体験を得られる。FDAのパートナー企業にはSoup Stock Tokyoなどを展開する株式会社スマイルズがあるんですが、同社に就職したクローン病の男性が面白いことを言っていました。「会社は高度なデイケア(リハビリに特化した介護サービス)だ」と。障がい者向けのデイケアにはさまざまなトレーニングのほか、「利用者の居場所」としての機能がある。でも、利用者にとっては居場所があるだけじゃダメなんですね。「世の中の役に立っている」という実感が得られないと。


役割がある会社というのは、働きづらさがある人にとって間違いなく高度なデイケアなんだと僕も思います。仕事があると、人生全体がいい方向に向かいます。そこで、FDAではトレーニングや実習などを提供し、就労先を紹介するだけでなく、就労後も長く活躍できる仕組みをつくっています。

「4つの心配」を解決し、「6つの仕事のベストマッチ」を見つければ就労はうまくいく

難波:働きづらい方を、どのような就労先とつなげ、その後のフォローをするのですか?


成澤:今どきの企業は人手不足に直面しているだけでなく、多様性が重要な時代であることもちゃんとわかっている。ですので、働きづらさを抱える人の雇用について、総論としてみなさん賛成なんです。では何を心配しているのかというと、大きく分けて、次の4つがあります。


1つめは「どれぐらいの時間働けるのか」。生活リズムが合わないのではないか、勤怠は大丈夫かという心配です。2つめが「どんな仕事ができるのか」。3つめが「うちの会社との相性はどうか」。人間関係やコミュニケーションの問題ですね。そして4つ目が、「せっかくなら続いてほしいが……」。つまり、リテンションです。


1つ目の問題についてですが、人事の人が「週5日働けますか」と聞くと、働きづらさを抱える人はたいてい「頑張ります」と答えます。そうすると、人事の人は「そういうことじゃなくて……」と。意気込みを聞きたいわけではなく、リアルな状況を知りたいんですよね。そこで、「直近3カ月は毎月140時間、FDAに通っています。ただ水曜の午後はだいたい寝ています」と伝えると、具体的な稼働時間を知り安心できる。だから、FDAではまずFDAに通って作業してもらうことで、生活リズムを整え、定量的な実績をつくってもらいます。


2つ目の「どんな仕事ができるか」という問題ですが、職務経歴書を見る意味があるのかなって思うんですよ。だって、それでうまくいかなかったから辞めたりしているわけですから。


大事なのは仕事の組み合わせです。仕事って6種類しかないんですよ。パソコンを使うもの・使わないもの/1人で自分のペースでやるもの・みんなで和気あいあいやるもの/マニュアルがあるもの・臨機応変のもの。これら6つをどう組み合わせるかがミソなんです。


たとえばひきこもりの人なら、「パソコンを使って自分のペースでやれて、マニュアルありの仕事なら合っているだろう」とみんな思うじゃないですか。でも、そういう仕事が10割だと嫌になって辞めてしまう。だから8割におさえ、人とコミュニケーションする仕事を2割入れる。朝と夕方の30分ずつ、オンラインで打ち合わせするとか。


難波:ベストな組み合わせはどうやって見つけるのでしょうか。


成澤:FDAでは企業からさまざまなBPO(業務プロセスの外部委託)を受託して、FDAでのトレーニングに組み込んでいます。そこで実際に作業して組み合わせを試すわけです。「今月は6時間、1人でデータ入力の仕事ができた」「今週はスキャニングの仕事を3人のチームでできた」という具合に、「今、ここ感」を大切にしながら自分のペースを確認してもらっています。


難波:具体的なベストマッチな事例をお聞かせいただけますか?


成澤:たとえば太陽光パネルの会社から営業の仕事を請け負ったことがあります。高齢者施設に対して太陽光パネルを設置しないかと施設に営業電話をかけるのですが、その提案をする前に、まずは「Google Earthで高齢者施設の屋根をチェックして設置面積のアタリをつける」という仕事がありました。元エンジニアや発達障害の方、パソコンが好きなひきこもりの人にとってはまさにぴったりの仕事でした。


こんな風に業務の切り出し方、振り方次第で新しい仕事がうまれたり、意外に自分に合うものがあることがわかるので面白いですよ。

長いインターン期間を設け、わざとでも失敗してもらう理由

難波:3つ目、「会社との相性」は入社前にわかりますか?


成澤:今どき、お見合いだけで結婚することってないじゃないですか。まずは同棲しますよね。やはり、事前に現場でインターンシップしてみないと。でも、3日間とか5日間の短期インターンシップじゃダメ。採用に直結すると思えば、それくらいの期間は頑張れてしまいますから。


だから、このまえインターンシップ中の人が「順調ですよ」と報告してきたので、「順調じゃ困るんですよ」と言いました。「遅刻してくれます?」って。会社の人にも同じことを伝えました。「今のうちに彼を遅刻させてください」と。でないと就職してから遅刻したとき、会社側も両親に電話すべきか、スルーしたほうがいいのかわからないじゃないですか。利害関係がないうちにちゃんとトライアンドエラーしておかないと。ということで、FDAでは長めのインターンシップを行うようにしています。


難波:おおいに納得です。流れを整理すると、FDAに通うことで生活リズムと体力がわかって、BPOの仕事で今の自分にできる仕事がわかって、インターンシップで会社との距離感、人間関係がわかる――ということですね。


成澤:はい。そのうえで4つ目の「長く働き続けられるか」という悩みに応えるべく、定着支援のフェーズに入ります。会社の人は親切に「何かあったら言ってね」と声をかけるんですが、入社5日目に嫌なことがあったとしても、言えますか?もうちょっと我慢してみようと思いますよね。1週間、10日たっても、もうちょっと。1カ月経っても、2ヵ月経っても言うタイミングがわからず、結局、抱え込んでしまい、精神障害の人だと6割が3カ月で辞めてしまいます。だからFDAでは「何かあったら」ではなく、「毎日、毎週、毎月話す」というルールを決めています。


ちょっとしたことを日々話すだけで解決する問題がたくさんあるんですよ。あるとき、発達障害の人が「今日、私だけランチミーティングに呼ばれませんでした」って報告してくれたんです。僕が企業の人に「なぜ誘わなかったんですか」と聞いたら、その子をどうサポートするかについて話し合っていた、と。彼女に伝えたところ、「気に掛けてもらえてるんだ」と安心したみたいです。離職の原因は、ほぼコミュニケーションエラーなんですよね。思い込みとか誤解とか。

働きづらさを抱える人が企業にもたらす新しい視点

難波:お話を聞いていて4つの問題といい、6種類の仕事の組み合わせといい、普遍的なテーマだと感じました。今、働きづらさを抱えていると自覚していない人が、ため込み続け壊れてしまうことも多いのではありませんか?


成澤:そうなんです。だから、働きづらさの問題はダイバーシティ&インクルージョンの視点で考えるべきなんですよ。


FDAでは企業向けに障がい者雇用のコンサルティングも行っているのですが、みなさんが聞きたがるのは、「障がい者の人たちが苦手なことは何ですか」ということばかり。でも、弱みを回避する対策をいくらとったところで、マイナスをゼロにするだけの話ですよね。「強みは何か」「好きなことは何か」「どうやったらそれを生かせるか」と考えれば、もっとずっといいマネジメントができる。人ってやりたいことをやらせてもらったほうがエンパワーメントされますから。


弱み・強みは実は表裏一体です。たとえばトヨタの工場には聴覚障害の人がたくさんいますが、その理由は、工場の騒音が気にならないし、周囲がうるさくても手話でコミュニケーションをとり合えるから。


あらゆる仕事がAIに置き換わるこれからの時代を生き抜くには、それぞれが自分の強みを生かさないといけません。働きづらさをもつ人々は、企業に「強みを生かせているか」「弱みを受け止める素直さを持っているか」という視点をもたらす存在でもあります。


未知の人と初めての仕事をするときはすごく勉強するし、総合力でぶつかろうとします。先入観がないから、常識や慣習を捨てて大胆に行動できますしね。これこそがイノベーションの原点ではないでしょうか。


文=西川敦子 撮影協力=ローランズ

成澤 俊輔社会起業家 NPO法人FDA前理事長

難波 美帆グロービス経営大学院 教員

大学卒業後、講談社に入社し若者向けエンターテインメント小説の編集者を務める。その後、フリーランスとなり主に科学や医療の書籍や雑誌の編集・記事執筆を行う。2005年より北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット特任准教授、早稲田大学大学院政治学研究科准教授、北海道大学URAステーション特任准教授、同高等教育推進機構大学院教育部特任准教授を経て、2016年よりグロービス経営大学院。この間、日本医療政策機構、国立開発研究法人科学技術振興機構、サイエンス・メディア・センターなど、大学やNPO、研究機関など非営利セクターの新規事業の立ち上げをやり続けている。科学技術コミュニケーション、対話によるイノベーション創発のデザインを研究・実践している。

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