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プロダクトマネージャーが持つべき3つのマインドセット #4

2020年02月20日

  • 研究プロジェクト
  • テクノベート
  • 創造
  • 変革
  • リーダーシップ

監修

田久保 善彦 グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

執筆・調査

阿世賀 淳 tryangle株式会社 取締役
芝先 恵介 株式会社トラベルテックラボ 代表取締役/PaylessGate株式会社 取締役
吉田 稔 NTTフィールドテクノ関西支店 ビジネス推進部 ビジネス開発部門 担当課長

日本においては、テック企業のキーマンとなるPDMの数は限られ、歴史も浅い。そのため企業としてPDMを育てていく、あるいは個人として優秀なPDMへと成長していくことが重要であり、第3回では出身キャリア別にPDMに必要な知識を説明してきた。第4回から第6回にかけては、優秀なPDMとなるためにPDMが持つべき力、強化すべき力を解説していく。

PDMが持つべきリーダーシップの8要素(全体像)

今回の研究は、ビジネスサイド(セールス、マーケ等)からPDM、テクノロジーサイド(エンジニア)からPDMを問わず、テック企業のリーダーが発揮すべきリーダーシップが変わってきているのではないかという仮説を元に始めた。特に現場の要となるPDMへのインタビューを通じ、PDMのリーダーシップの取り方やあり方を検討した。そのインタビュー結果から、PDMが持つべき力を8要素にまとめた。今回は、その中からPDMが持つべき3つのマインドセットについてお伝えする。

1. HRTの原則を持つ

まず1つ目は、HRTの原則である。HRTとは、謙虚(Humility)、尊敬(Respect)、信頼(Trust)の3つを合わせた単語である。これは、Brian W. Fitzpatrick『Team Geek -googleのギークたちはいかにしてチームを作るか』(Brian W. Fitzpatrick, Ben Collins-Sussman)で紹介されており、開発チームが大切にしているマインドである。PDMは、エンジニアはもちろん、多くの方と密接に仕事をするため、PDM自身もHRTのマインドを持つ必要がある。


では、なぜHRTの原則が重要なのだろうか。現役PDMへアンケートした際も、HRTに関する言及が多かった。例えば次のようなコメントである。


「自分の役職を理由に偉そうにしてはいけない。役割が違うだけで、もっとリスペクトしあうことが重要だ」
「テクノロジーへの理解の前に、エンジニアへの理解と敬意がいる」


こういったHRTに関わる言及が多い理由は、主に次の3つが考えられる。


(1)対等ではなく、受発注関係という誤った認識がある
これまでの開発手法は、プロジェクトマネージャーが要件定義をしてエンジニアへ依頼する受発注関係が当たり前だった。しかし、スマホ、クラウド活用など技術進歩が著しく、競争環境も激しくなるなか、顧客の要求の変化や追加にすばやく柔軟に対応しながら、短いスパンで開発を行うアジャイル開発へと変わってきている。そのため、これまでの受発注関係ではなく、エンジニアチームも含めて、一枚岩となって顧客の心理やプロダクトの価値を考えて作り上げることが求められる。今でも受発注の関係で、発注側の立場で上から目線でエンジニアへ作業依頼しているPDMは、すぐに、マインドセットをHRTにする必要があるのだ。


(2)技術進歩が早いため、メンバーの方が専門性が高い
営業部門、マーケティング部門にしても、マネージャーがその分野を熟知していて専門性が高いことが多い。しかし、エンジニアリングにおいては、技術進歩が早いために、自分より現場のエンジニアの方が技術に長けていることが多い。そのため、尊大にすることなく、謙虚でいて、彼らを尊敬し信頼しなければエンジニアとの良い人間関係は成り立たず、誰もPDMについてきてくれない。


(3)プロダクトを成長させるために必要な知識や技術が広範囲である
プロダクトに関わるのは、エンジニアリングだけではない。デザイン領域や、ユーザーを理解するために、セールスやカスタマーサポートなどの部門との連携も必要となる。PDMはプロダクトに関わる幅広い業務分野に対するスキルや知見が求められるが、実際には1人で全領域を理解することは難しい。そのため、各分野の専門メンバーに協力を得ることが必要となり、うまく連携するためにHRTのマインドが求められる。


以上3つの理由から、我々はPDMが持つべきマインドセットの1つとしてHRTを挙げた。参考までに、インタビューから得たPDMのコメントを紹介する。


「自分の至らないところを認めて助けを求めるしかない。自分が不完全であることを認めて、そのうえで周りと協力する。周りを頼って質を上げていかなければならない」


「自分がわからないことはわからないと素直に伝える。頑張って背伸びをしても、こちらの理解が明らかに足りないので、正しい意思決定ができない」

2. 学習欲と好奇心を持つ

2つ目のマインドセットは学習欲と好奇心だ。PDMは、新しい技術やスキルを常に学び続けるとともに、技術トレンドなどへの好奇心を持ち続けなければならない。BTD(ビジネス・テクノロジー・デザインの略)の幅広い知識が必要となるなか、特にテクノロジー分野は進歩が早いうえに、プロダクトへの影響度が大きい。エンジニアは狭く深く理解を深めてもらうが、PDMは浅く広くトレンドを把握しておくべきだ。


では、学習欲と好奇心がなぜPDMに必要なのか。その理由をインタビュー結果から3つにまとめた。


(1)プロダクトの価値を高めるため
PDMは、誰よりもプロダクトの価値を高めることを考えなければならない。そのうちの1つとして、技術トレンドの把握がある。世の中はこういう話題になっているが、その技術が自社ではどう活かせそうかを検討する。まずは、必要なコミュニティ、メディアから情報のキャッチアップをしておく時間を取ろう。


(2)社内メンバーと協働するための知識の習得   
PDMは、BTDの幅広い領域を理解しなければいけないが、実際幅広く理解することは相当難しい。現役PDMの多くは社内メンバーに都度教えてもらいながら社内メンバーが直面している課題や、プロダクトに関わる技術面の内容を理解している。


社内メンバーに聞くうえで、PDM自ら最低限の知識習得は必要である。不勉強だと、それくらいは自分で調べて欲しいと言われ、結果、教えてもらえなくなる失敗事例もあった。そのためにも、PDMは学習姿勢をもつことは重要である。    


(3)開発チームを成長させるために
技術トレンドの把握は、プロダクトのみならず、開発チームのためにもなる。例えば、新しい開発言語やツール導入の検討は、メンバーの生産性向上と共に新しい成長機会を用意できる。エンジニアの人材開発については、エンジニアリングマネージャーが役割を担うことがあるが、小さい組織であればPDMももつべきだろう。


以下、PDMのコメントも紹介する。


「不勉強だと、この人は理解する気がないと思われる。勉強している姿勢を見せることで『そこまで勉強しているなら教えよう』となる」
「最先端のテクノロジーと自社の技術の立ち位置や可能性を把握しておく」
「技術トレンドの把握がいる。特にその本質を理解できれば理想だろう。機械学習、IoT、React、マイクロサービス等、技術トレンドを細かく追うのは多岐にわたり難しいが、その本質やなぜそれが今トレンドになっているのか、それが自社においてどこで役立つのかを押さえる必要がある」

3. 社会的意義を持ち、それを明示する

3つ目は、社会的意義を持ち、明示することである。PDMは、困難な状況でも、やり抜くために強い社会的意義を持っておかなければならない。かつメンバーに明示しなければならない。


では、なぜ社会的意義が重要なのか。スタートアップにしても大企業においてもテックを活用した新規事業は、なかなか成果が出ないことの方が多い。資金には限度があり、経営層や投資家からプレッシャーをかけられるが、それでもやり抜かなければならない。そのためには、第一義的な動機として、強烈な社会的意義がなければやり抜けないと多くのPDMは言う。 また、厳しい局面は、自身のみならず、他のメンバーも同じ心境だ。メンバーを勇気付けるためにも、人一倍情熱がいる。


ここで、社会的意義を、誰かの課題を解決することと言い換えるとすれば、次のような2つに分解できる。1つは、まず自分自身が強烈に課題を感じること(課題への共感)。次に、その課題をなんとしてでも解決させたいと思うこと(ソリューションへの執着)だ。


■課題への共感
スタートアップ企業で起業家がPDMをする場合は問題ないが、任せられてPDMをやる場合は、課題への強烈な共感がないと厳しいだろう。これは次回解説するユーザー理解をする際も重要となる。本当に自分自身も困っていて、同じ課題を感じていなければ、どこかで自分のプライベートや睡眠時間を割いてまで取り組もうとはならないだろう。逆にいうと、PDMになった初期は、まずは自分が実体験をしてその課題を痛感することが大切と言える。


■ソリューションへの執着
次に、ソリューションへの執着である。課題に対して解決策の手法は無数にある。しかし、実現性、マネタイズなどビジネスモデル全体で考えて、何が最適な解決策なのかを見つけることは相当難しい。それでも最適な解決策を見つけ出すには、どうしても解決させたいという、強いソリューションへの執着が必要となる。


この時、気をつけなければいけないのは、「プロダクトへの執着」である。せっかく時間やコストをかけて作ってきたプロダクトでも、マーケットに出してみると、最適な解決策にならないことがあるからだ。しかし、最適な解決策と信じられるものができれば、ここからはプロダクトへの「愛着」は大切になる。プロダクトを成長させるために、自分自身が1人のユーザーとして利用することや、自分が本当に良いと思えるものにしていくために、多くのPDMはプロダクトを愛していた。


以下、インタビューコメントを紹介する。


「作る側が愛するものしか、顧客が愛することはない。新規事業の場合、不確実性が高くてうまくいかない状態で、対経営者からは常に厳しいことを言われるので、本当にそれをやりたいと心底思えなければ、困難を乗り越えられない」


「新規事業を失敗も含めて数多くやってきて、まず必要なのは、取り組むビジネスで世のなかを変えていくと強い意思と情熱を持って仕事をやり遂げる気持ちである。(リーダーのみならず)メンバーもそう。それがないと、『このプロダクト一体誰が使うのだろう』と思うようになり、頓挫する。最終的にこのプロダクトで世の中が変わっていく、世の中にとってマストハブになると信じることが重要だ」

まとめ

今回は、「PDMが持つべきリーダーシップの8要素」のうち、3つのマインドセットを紹介した。「氷山モデル」というフレームワークでは、リーダーシップは、「行動」「知識・スキル」「マインド」の3層構造となっており、リーダーとしての行動に必要な要素の根底には「マインド」がある。良いプロダクトを作り上げていくために、まずはあるべきマインドセットかどうかを定期的に内省していくことが大切だろう。


(調査協力)松浦 卓哉/石井 紀穂

監修

田久保 善彦グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所にて、エネルギー産業、中央省庁(経済産業省、文部科学省他)、自治体などを中心に調査、研究、コンサルティング業務に従事。現在グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールにて企画・運営業務・研究等を行なう傍ら、グロービス経営大学院及び企業研修におけるリーダーシップ開発系・思考科目の教鞭を執る。経済同友会幹事、経済同友会教育問題委員会副委員長(2012年)、経済同友会教育改革委員会副委員長(2013年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問、NPO法人の理事等も務める。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』(ダイヤモンド社)、共著に『志を育てる』、『グロービス流 キャリアをつくる技術と戦略』、『27歳からのMBA グロービス流ビジネス基礎力10』、『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』(東洋経済新報社)、『日本型「無私」の経営力』(光文社)、『21世紀日本のデザイン』(日本経済新聞社)、『MBAクリティカル・シンキングコミュニケーション編』、『日本の営業2010』『全予測環境&ビジネス』(以上ダイヤモンド社)、『東北発10人の新リーダー 復興にかける志』(河北新報出版センター)、訳書に「信念に生きる~ネルソン・マンデラの行動哲学」(英治出版)等がある。

執筆・調査

阿世賀 淳tryangle株式会社 取締役

グロービス経営大学院2019年卒業。tryangle株式会社にて、プロダクト開発のマネージャー、マーケティングに従事

芝先 恵介株式会社トラベルテックラボ 代表取締役/PaylessGate株式会社 取締役

グロービス経営大学院2015年卒業。2002年よりITベンチャー起業。その後も複数の会社を起業しデジタルプロダクトを企画・開発に従事

吉田 稔NTTフィールドテクノ関西支店 ビジネス推進部 ビジネス開発部門 担当課長

グロービス経営大学院2019年卒業。株式会社NTTフィールドテクノで通信エンジニアリング分野を軸にした新規事業の開発に従事

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