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アグリテックの新たな成長戦略

2020年02月05日

  • イベント
  • あすか会議
  • テクノベート

モデレーター

岩佐大輝氏 株式会社GRA代表取締役CEO

パネリスト

生駒祐一氏 テラスマイル株式会社 代表取締役
木内博一氏 農事組合法人和郷園 代表理事/株式会社和郷 代表取締役
佐々木伸一氏 株式会社ルートレック・ネットワークス 代表取締役社長

※あすか会議とは

「あすか会議」(ASKA=Assembly for Synergy, Knowledge and Ambition)は、グロービス経営大学院の教育理念である「能力開発」「志」「人的ネットワーク」を育てる場を継続的に提供するために、グロービス経営大学院の在校生・卒業生および教員、各界のトップランナーが一同に会する合宿型のカンファレンスです。第1回あすか会議は2005年、奈良県飛鳥荘にて80人の参加者を迎えて開催。第15回目となる2019年のあすか会議には、東京、大阪、名古屋、仙台、福岡、オンライン、英語MBAの学生1,500名が浜松に集い開催しました。

令和元年は、アグリテック元年

農業に新たな風を吹かせるアグリテック。金融業界のFinTech(フィンテック)や教育業界のEdTech(エドテック)などと並び、テクノロジーによって大きく変革しつつある分野だ。世界では地球温暖化や新興国の人口増などによって地球規模で食糧問題が深刻化し、ますます農業分野のイノベーションが急務とされている。


日本国内においても、農業従事者の高齢化や減少による労働力不足や農業の低収益化など課題は山積みだ。そんな中、日本のアグリテックスタートアップのトップランナーたちが見据えている未来とこれからの成長戦略について議論した。


モデレーターの株式会社GRA代表取締役CEOである岩佐大輝氏は「現在、農業市場は毎年約10%伸びており、2030年には1,300兆円市場になると予測されている。挑戦するには面白い市場だと考えられている一方で、純粋に農業をやっている企業で上場企業はほぼなく、プラットフォーマー的存在もいない。日本のアグリテックはユニコーンとは程遠い現状にあるように見えるが・・・」と述べ、パネリストらに近年の国内のアグリテック市場をどのように捉え事業を展開しているのかを問いかけた。

株式会社ルートレック・ネットワークス代表取締役社長の佐々木伸一氏は、日本の現状と事業の着眼点について語った。


「“令和元年=アグリテック元年”ではないかと思っている。なぜなら、世代が変わって、デジタルネイティブな人材が入ってくるからだということ。また、政府がスマートアグリテックに力を入れ始めていることも大きい。そして、クラウドや通信網の発達が進み、日本の生産技術、味覚の高い生産物が高く売れており、アジア全体に進出できる環境が整ってきているからだ。私の試算では、日本の約200倍の面積がアジアにはある。アジア全体を市場として考えて、日本の技術を展開することがとても重要で、あとは何をやるか。私が目をつけたのは農業には必須である『水と肥料』。これを自動化すれば世界で戦えるユニコーン企業を目指せると思っている」

岩佐氏は、「水と肥料を提供しているプラットフォームは他にもたくさんある中で、どのように競争優位性を見出しているのか」と問いかけた。


「我々には少ない肥料で生産性を上げるノウハウがあり、自社試算で300年節約できる。土耕栽培は物凄く難しい領域で、その土地によってまったく育ち方が違う。水が土にどのくらいのスピードで吸収されるのかをデータ化を収集し、制御の仕方を変えている。肥料もやりすぎると塩類集積という現象が起き、収穫量が低下もしくは収穫できなくなる。それだけではなく、この腐敗物が地下水から海に流れていくとアジアの子供たちの健康被害にもつながってしまう。環境の観点からも非常に重要なことだ」


農事組合法人和郷園の代表理事であり株式会社和郷 代表取締役の木内博一氏は、佐々木氏の土耕栽培に対し水耕栽培の可能性についてこのように述べた。


「近年、LEDなど人工光型の植物工場はスマートアグリテック元年の象徴とも言える。苗から大体2週間という速さで出荷され、その工程のデータを収集・分析し、PDCAを回しながら改善を続けていく。150gのレタスであれば1日に2万個収穫することができる。何が元年かというとまずコスト面。例えばカット野菜の場合、土の上で栽培されたレタスは付着している菌を加工食品の規定に合わせて殺菌するのに膨大な水を使用し衛生管理がとても大変で、膨大な資金を投じる必要がある。一方、植物工場では初めからその規定の数値をクリアしている野菜の栽培が可能だ。そうすると、加工工場では殺菌する必要はなくなりカットだけで済む。労力も設備投資も減り、コンビニなどでの廃棄ロスも軽減にもつながる」


ITを活用してデータ分析を行い、農家を支援するテラスマイル株式会社代表取締役の生駒祐一氏は、今年になってから情報の質が圧倒的に変わってきた実感を述べた。


「国内の生産者135万人のうち、規模を拡大しマネジメントして『工業化』を目指していく方々は約3.4万人と試算していて、そこをターゲットとしている。最近は、環境センサーという土壌、気温、CO2、ハウス毎の出荷量、収量の情報などのデータを細かくつける傾向にある。それらを分析して、稼ぐために必要な質の高い情報をフィードバックしできるようになってきた。また出荷データをより詳細に分析することで、マーケットとの需要と供給のバランスを予測することができるようになってきた」

海外で「MADE IN JAPAN」の実現を目指す

海外におけるアグリテックはどうなっているのか。ベトナムのダラット、タイ、上海にも進出し、海外事情にも詳しい佐々木氏が、現場を通じて見えてきた日本と海外の違いについて語った。


「ダラットを調査して分かったベトナムと日本との類似点は、家族経営で、面積も作っているものもほぼ同じ、そして山間地域をうまく活用している点。決定的に違う点は、彼らが新しいものに対して貪欲だという点。アグリテックは道具なので、それを彼らが使い倒してくれることで、多くのデータが集まりフィードバックしていくことで効率があがっていく。海外のアグリテックに対する意欲は、感覚的に日本より3~5倍ぐらい強いので、アジア全体を見据えて事業展開することでユニコーン企業となれる可能性もあると思っている」


また海外からの農作物の輸入の理想像についても述べた。


「私の描いているのは、日本のアグリテックスタートアップと農家の皆さんの生産技術を持って海外に出て、日本品質の野菜などを作ること。そして、海外市場だけ売るだけではなく、海外で作ったものを日本に輸入する『MADE IN JAPAN』の形もあっていいのではないかと思う。これらを実現するには、流通とブランド力も同時に必要になってくるのでパッケージングして他の国にまた展開していくといいと思っている」

サプライチェーンからデマンドチェーンまで一気通貫で行い、ベトナムでサツマイモを生産している木内氏は、進出先の選定について「何を作るかによって、その国や地域に魅力があるかどうかが決まる」と述べ自社の成功事例をあげた。


 「我々はベトナムでサツマイモを生産し、シンガポールで60ヶ所ほどに焼き芋のフランチャイズを展開している。日本の供給量では限界があるので、ベトナムに日本の技術をもって生産している。実際にベトナムの本来よりも品質の高く生産量も2倍となり、収入にして7~8倍になる試算だ。サイズやグレードによって異なるサツマイモをすべて販売できるようにしていることが自社の強み。これから全世界に展開したいと思っている」

アグリテックスタートアップが農家と上手くタッグを組むためには

生駒氏は近年の技術革新による農家支援の可能性について言及した。


「国内の産地レベルで見れば、品質面で大きな変化がある。例えば、業務用加工品は規格外のものを使うというイメージが潜在的にあるのではないでしょうか。今、加工用や業務用の野菜の品質はすごい勢いであがってきていて、ここに『工業化の支援』というアグリテックの可能性がある。農業の工業化に取り組む方々を支援できる技術とノウハウ、データの利活用などをしっかりできるところが今後伸びていくと思うし、我々もそこで伸びていこうとしている」

自動散水などは労働時間の4%しか占めていない。たったそれだけのコスト削減のために300万円ほどの投資となると、小さな農家にとっては厳しい。しかし、佐々木氏の会社のデータ分析に携わった生駒氏がその結果を例に挙げ、アグリテックが持っている大きな可能性を示唆した。


「データを分析したところ、面積あたりの収穫量が2割上がっていた。農業経営者が朝から晩まですっと考えていることは『水をいつやるか?』。それをテクノロジーの導入によって自動化させ、収穫に専念することで、収穫スピードが効率化された」


加えて、佐々木氏はアグリテックの導入障壁を下げるため、今後は金融業界と組んだサブスクリプションモデルの導入など、国とも協力した仕組み作りが重要だと述べた。

「農家の平均年齢67歳と言われていて、これから更に高齢化が加速する。皆さんアグリテックに興味は持ってくれているものの、どのように使ったらいいのかが分からずにいる。これを解決するには、民間企業だけではなく国も含めて取り組むべきだと思う。農業試験場や全農の圃場に様々なアグリテックを導入し、そこを農家の方がいつでも見学できるようにして、自分に向いたものを見つけられるようにすることが重要」


長年丹精を込めて農作物を育ててきた農家にとって、アグリテックの存在は脅威となるのか、救世主となるのか。これは、スタートアップだけでなく国をあげてのテーマであり、アグリテックを牽引していくリーダーたちは、改めて志やビジョンが問われるだろう。

「あすか会議」は、グロービス経営大学院の教育理念である、能力開発、ネットワーク、志を培う場を、在校生・卒業生に継続的に提供することを目的として、各界で活躍する経営者や政治家、学者および教員などを招待して開催するビジネスカンファレンスです。

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