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当事者に学ぶ中国デジタルマーケティング。日系企業は中国越境EC市場でどう戦うか ――グロービス公認クラブ「実践ITビジネス勉強会」 イベントレポート

2019年12月19日

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クラブ活動 実践ITビジネス勉強会 活動レポート

グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。


前回の代表幹事インタビューに続き、先日行われたグロービス経営大学院・公認クラブ「実践ITビジネス勉強会」が主催するセミナーの内容をお届けします。


自国以外の消費者に物品やサービスを販売する越境ECの市場は、世界中で拡大傾向にある。中でも中国は人口規模が大きいだけでなく、巨大プラットフォーマー(インターネット上で大規模なサービス提供をしている企業)が存在することから、大きなビジネスチャンスが眠る市場となっている。しかし一方で、日本とは異なる商習慣や購買特性に阻まれ攻略は容易でないという課題もある。中国越境ECにおいて実際に成果を出している企業は、どのようにして戦っているのだろうか。


3ヶ月ごとに、実践的な「IT×ビジネス」に関する勉強会やセミナーを主催する実践ITビジネス勉強会の幹事団は、第6回目を迎えるセミナーのテーマに「中国越境ECから学ぶデジタルマーケティング」 を選んだ。ここではそのセミナーの模様をレポートする。

本セミナーでは、プラットフォーマー、インフルエンサー、クリエイティブエージェンシー、メーカーの立場にある4名を講師として招き、越境ECに挑戦する日系企業の課題や市場の攻略法をディスカッション形式で解説いただいた。

中国EC市場の概要

まずは中国EC市場の概況について、実践ITビジネス勉強会幹事でありファシリテーターの田村氏から説明がなされた。田村氏は普段、登壇者の一人である塚田氏と同じく、中国で450社以上との取引実績を持つクリエイティブエージェンシー「メタフェイズ上海」に所属し、プロジェクトマネージャーを担っている。

中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、2018年6月時点で中国のインターネットユーザーは8億166万人、ネット普及率は57.7%。2019年はさらに伸び、ネット人口は9億人を突破すると予測される。増加の主要因は、スマートフォンなどモバイルの利用者数増加だ。現在、インターネットユーザーの98%(7.87億人)がモバイルを利用している。今やすべてのITサービスやツールはモバイルファーストが前提だ。反面、実店舗の効率化はまったくなされていない。結果、実店舗で商品を買うよりも、好きな時間に購入でき自宅などに配達してもらえるECに消費者は圧倒的な利便性を感じている。なお中国EC市場のシェアは、アリババグループの「Tmall」、京東商城の「JD.com(以下JD)」の2社が約85%を占めている。


一方、越境ECはどうか。2018年時点で中国における日系企業の越境EC市場規模は1.5兆円を超えており、2022年には2.5兆円規模まで成長すると予測されている。


中国における 越境 EC 売上高シェア1位は考拉海購の「Kaola.com(以下コアラ)」、2位がTmall、そのあとをJD、オニオングループの「O'MALL(以下オニオン)」が続く。越境ECの利用者数は伸びているものの2018年時点で0.9億人。国内ECの利用者数と比較すると圧倒的に少ない。


日本貿易振興機構(JETRO)の資料によると、中国において越境ECから日本製品を購入しない人の64.5%が越境EC以外のチャネル(国内EC、実店舗など)から購入しており、さらに日本製品に魅力を感じていないユーザーも35%いるようだ。

田村氏の話によると、中国市場に魅力を感じて進出を試みる日系企業は多い。しかし言語をはじめ、物流やプロモーション活動で困難にぶつかり頭を抱えてしまうケースが少なくない。中国越境EC市場は日系企業にとって本当に魅力ある市場なのだろうか。

中国越境ECのトレンド

2019年4月にオニオングループの日本法人「OceanInfinity」を立ち上げた田日明氏は、中国越境EC市場のトレンドを3つ語った。

田氏 「1つ目は、ユーザーの購買活動が検索型からプッシュ型に変わっていることが挙げられます。これまではユーザーがサイトやアプリを訪問し、買いたい商品を購入する流れでしたが、2018年以降は興味のあるユーザーに対し、企業側がプッシュ通知を送る方法が主流になりつつあります。2つ目は、ユーザーが商品の品質よりも認知度を優先するようになったこと。3つ目は、日系大手企業の多くがすでに中国に支社を持っており、越境ECでの販売に否定的なことです。実際、コアラも当社も日系大手企業との直接取引がほとんどありません。」


これらに加え、2019年1月に施行された「中華人民共和国商務法(電子商取引法)」により、代購(定価価格で小売されている商品を購入し他者に転売する行為)が規制され、プラットフォーマーのビジネスにも影響を与えたという。


田氏 「代購の規制により個人輸入がほぼ不可能になったことを受け、コアラやオニオンではその担い手であったソーシャルバイヤーをECモール(インターネット上の仮想商店街)の店長として取り込み、彼らに販売活動を依頼しています」


各店長は、WeChat(10億人以上のユーザー数を持つ中国のメッセージアプリ)上に複数のグループを持っており、それぞれが多くの会員を有している。このグループで商品を勧め販売につなげるのだ。仕入れは店長ではなくECモールが行い、各店の取り扱い商品は店長が決めているという。


田氏 「おもしろいのは、商品に関心があるから買うというよりも、勧められたから買う会員が多いことです。店長もいきなり売ったりはせず、最初は話題づくりから始めます。ここでの情報は会員間でも共有されています。話題の規模が最大化したタイミングで商品をプッシュするのです」

この販売スタイルは新しいものではなく、かつてソーシャルバイヤーであった店長たちが従来取っていた販売スタイルを、そのままECモールに応用しただけなのだ。


では日系企業が中国越境ECに参入するとなった場合、TmallやJDのようなトッププレイヤーのプラットフォームと、コアラやオニオンのようなアフィリエイトモデルのプラットフォームでは、どちらのほうがスタートしやすいのだろうか。


「大手企業でない限りはコストや広告運用の難しさから後者を選んだほうが得策。さらに上述のように「種まき」から行う方が結果も実りやすい」と田氏は語る。


このほか、「淘宝網(タオバオワン)」のようなCtoCモデルと広告運用を合わせて市場でテストを行う手も考えられる。とくに1990年代以降生まれのユーザーは品質よりも話題性で商品を選ぶケースが多いため、日本では知られていない商品でもプロモーションがうまくいけば成功への道は開けるようだ。

中国で増え続けるニューリテールとは?

中国では昨年からニューリテールが注目されている。テクノロジーとデータを駆使し、オフラインとオンラインを融合した小売りビジネスであり、日本で言うO2Oの概念に近い。とくに力を入れているのがアリババグループだ。


同社が出資するスーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマー・フレッシュ、以下フーマー)」は、TikTok(モバイル向けショートビデオのプラットフォーム)のインフルエンサーと組み、フーマーで取り扱う食品のプロモーションを展開している。動画を見たユーザーが店頭に足を運び、その食品を買う。買ったユーザーが動画や写真でソーシャルに拡散し、それがまた話題を呼ぶというスキームだ。

田氏 「エリアによってサービスレベルの格差が大きかった時代に、質の良いサービスを平等に受けられる手段として広まったのがECです。しかし今や各都市が成熟し、質の良いサービスにこだわる必要がなくなってきました。これからは、ECでの活動をリアル店舗にどう落とし込むかにテーマが移っていくでしょう。その片鱗がニューリテールです。ECは今後、販売だけでなくプロモーションを兼ねた場所になっていくと思います」

課題の残るKOL施策。うまく活用するには

前述したアリババグループのインフルエンサー施策のように、中国では消費者の購買意欲を高める策として、Key Opinion Leader(KOL)と呼ばれる影響力を持つ著名人を活用したマーケティングが盛んだ。中国でタレント活動をしながらKOLとして活躍する浅井悠介氏は、中国越境EC市場をどう見ているのか。

浅井氏 「僕は中国に8年いますが、行ってすぐのころの中国の人は、本物かどうかよりも安く買うことを重視しているように感じました。しかし今は、本物主義の傾向が年々強くなっていると感じます。とくに如実に感じたのは2018年の「独身の日」。


淘宝網(タオバオワン)から、日本のコンタクトレンズを紹介するライブコマース(タレントやインフルエンサーがライブ動画を配信し、視聴者はリアルタイムに質問やコメントをしながら商品を購入できるEコマースのかたち)の仕事を受け、上海などで2時間のライブを2回行いましたが、そのときの報酬が予想以上に高くて驚きました。


これは『日本人が良いと言うなら間違いない』というお墨付きを与えたことへの対価だったのだと思います。今の中国は、売り手も買い手も商品の信頼性を非常に大切にしています」


中国企業がKOLを相次いで起用する背景には、広告表現の厳格さがある。そう話すのは「メタフェイズ上海」で総経理(取締役)を務める塚田貴之氏だ。

塚田氏 「中国は、日本では認められている広告表現のほとんどがNGのため、商品の独自性を出すのが非常に難しい。だから自分たちでは広告できない言葉をKOLに代弁してもらうのです。つまりKOLを起用する目的は、商品の良さを法に触れない方法でユーザーに伝えるためなのです」


では、KOLの活用が中国越境ECの成功にすぐ結び付くのかというと、そう簡単ではない。


塚田氏 「KOLに限らず日系企業がプロモーションを行う場合は、必ず中国の代理店と組むことになります。過去にどれだけ実績のあるKOLであっても、カテゴリーが違っていたらまったく効果がないし、中にはフォロワーをお金で買う人もいます。かつて230万人のフォロワーのいる女性KOLにプロモーションをお願いしたものの、購入したのはたった4人だった、という事例も知っています。このようにKOLは選別が非常に難しいのです」


有効なKOLの選別方法について浅井氏は次のように語る。


浅井氏 「実力のあるKOLを見つけたいのなら、代理店の言うことを鵜呑みにせず、百度(バイドゥ。中国最大の検索エンジン)で調べたり、詳しい人に確認したりといった地道な作業が不可欠です。


メディア出演経歴やSNSでの発信内容、制作したクリエイティブなどKOLの作品にもしっかり目を通し、どの層に向けて発信したものなのか確認した方がいいでしょう。日本の製品を中国に持っていくのだから、大切なのはやはり信頼性。消費者が本物を求めているならKOLも本物を使うべきでしょう」

中国市場では、世界中の企業が競争相手となる。ブランディングに長けた韓国企業やアメリカ企業に立ち向かうのなら、クチコミを介した品質訴求を提案したい、と田氏は話す。


田氏 「オニオンでは2018年10月に、タイの王族が使っている枕の情報を1ヵ月間ネット上に発信し続けました。その結果、現在でも毎月1,000万元前後を売り上げています。年齢層や地域のターゲティング、発信から購買までのルート整備、ユーザーとのコミュニケーション、購入者へのフォローなど、きちんとしたプロモーション戦略があれば勝機はあるでしょう。私から見た日本の商品の強さは、信頼性、品質、使用感の良さ。これらは強みになると思います」


一方、日本に近い文化を持つ台湾で海外ビジネスの勘どころを磨いたのちに、中国に進出するという別のアプローチから道筋を示すのは、台湾やタイ向けに越境EC支援事業を展開する「株式会社人々」代表取締役の石川真也氏である。


石川氏 「単品通販(1種類の商品だけに注力し販売する通信販売の形態)を行う中小企業が、海外ビジネスの登竜門としてまずは台湾に進出するケースをよく見かけます。ここで月商数億円の実績をつくってから意を決し中国へ、という流れです。ただ、台湾と中国では文化や商習慣が異なるので、“台湾モデル”をそのまま展開するのはむずかしい。しかし海外ビジネスのノウハウを磨き肌感覚を養うという視点では、ひとつの方策になると考えています」

質疑応答タイム

2時間にわたるセミナーも終盤を迎え、質疑応答では参加者から多くの質問が飛び交った。その中から2つを紹介する。

1つ目の質問は、「日本で人気の商品、日本の雑誌で紹介された、といった表現が中国で通用するか」という内容。田氏曰く、信ぴょう性があれば響く層はいるかもしれないが、あまり魅力に感じる表現とは言えないと話す。著名人を起用したプロモーションも同様に不作に終わるケースが多いそうだ。塚田氏もまた、日本の化粧品や健康食品以外の商品は、日本というキーワードは出さないほうがいいと話す。


塚田氏 「中国で成功している企業を見ると、『実は日本のものだった、だから良かったのだ』という見せ方のほうが良いように感じます。実際にこの反応が得られた商品はよく売れています」

2つ目の質問は、「日本のグッドデザイン賞を獲得した中国デザイナーの商品が中国で売れていると友人から聞いたが、実際はどうなのか」という内容。


塚田氏 「たしかにグッドデザイン賞を取った商品は人気です。ただし重要なのは、誰がグッドデザイン賞を取ったのか。日系企業が取ったからといって中国で売れるわけではありません。あくまで中国の企業が評価の厳しいと言われる日本の市場で認められた、という点が、うまくいった理由だと思います」


ディスカッションから質疑応答にいたるまで、一筋縄ではいかない中国越境EC市場の独自性を十分に理解できた今回のセミナー。実践ITビジネス勉強会が主催する勉強会やセミナーは、テーマを深く掘り下げながらも、はじめて参加する人にとっても理解しやすい。それは、その筋のプロフェッショナルたちが「実践」や「経験」にもとづいて、ていねいに説明しているからに他ならない。


明日から実務に活用できる「IT×ビジネス」のトレンドについて学びたい方は、ぜひ参加してみてはいかがだろうか。

「実践ITビジネス勉強会」とは

IT技術やナレッジのインプットだけに留まらず、ビジネスで実践し課題解決することを目的としたクラブ。「IT×ビジネス」をテーマに、業界の取り組みや成功談をパネルディスカッション形式で紹介する勉強会やセミナーを開催している。

クラブ活動とは

社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。


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