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Evernote創業者が語る、テック系スタートアップが意識すべき4つの基準 

2018年06月05日

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Phil Libin Evernote創業者/All Turtles CEO

前回に続き、2018年2月28日にグロービス経営大学院公認クラブ「グロービス人工知能研究会」とグロービス経営大学院英語MBAプログラムの共催で行われた、Evernoteの創業者・現All Turtles CEOであるPhil Libin氏 のセミナーの一部を翻訳してお届けします。英語の動画版はこちら⇒「Evernote Founder: How Tech Startups can Break Through in Japan

スタートアップを支援する際の4つの基準

私たちには、プロジェクトをやるか決める基準が4つあります。


1つ目の基準は、「真の問題」を解決すること。基本的なことに思えるかもしれませんが、私たちに提案されるアイデアの95%はこの点で不合格になります。通常、私は年間3,000のスタートアップのアイデアに接しますが、面会するのは500人ほどで、その中で仕事をするのは3人です。この基準で大多数の提案が消えてしまいます。なぜなら、ほとんどのアイデアが真の問題が何であるかを見極めておらず、何も解決しないからです。例えば昨今、AI プロダクトを提案する人の多くは、自分たちが解決しようとしている問題が何なのかが分かっていません。ただ、面白そうだから何かをやってみたいのです。ダメなスタートアップは、自分たちが解決すべき問題が何であり、現実的に誰がそれに悩まされているのか考えたことがないことが多いのです。


2つ目の基準は創業者です。必ずしもそのアイデアを思いついた人である必要はありません。そのアイデアに没頭し、問題に熱中し、その解決策を考え繰り返し試すことを厭わない人です。そして、その問題にあまりにも長い間取り組んできているために、それに関して世界で最も熱中した専門家のような存在です。つまり、自らの問題としてオーナーシップを持ち、天職だと思える人が必要なのです。


3つ目の基準は、本質的に収益を上げられること。シリコンバレーのベンチャーキャピタルと違い、「100億ドルの成果」は問いません。大手ファンドのベンチャーキャピタリスト時代、私は100億ドルの成果を上げられない事業とは面会も許されませんでした。ただ実際には、早い時期に100億ドルのアイデアを予測できる人などいないのです。私は Travis と Uber の創業時に面談に参加しましたが、どちらも数十億ドルの成果をあげると考えた人はおらず、誰も真剣に取り合いませんでした。


チャンスは気まぐれです。こうした制約による限界がある状態で、大きな案件しか取り組まないのであれば、シリコンバレーのベンチャーキャピタルは多くの人材やアイデアを失ってしまうでしょう。これはとても非効率です。ですから私たちは事業が巨大になるかは問わない代わりに、本質的に収益を上げられるかどうかを問うのです。一か八かの賭けではなく、すぐに現実のビジネスになり得る、確かなものに取り組みたいのです。


4つ目の基準は、12~18か月で市場に出せるものです。というのも、3年もかけて開発に取り組むことは現実的ではないのです。3年間でテクノロジーが飛躍的に進歩するからです。この4つ目の基準は、最も重要な基準です。スタートアップの成功には2つの大きな要素があるとよく言われます。成功するスタートアップに共通するのは、「タイミングの良さ」と「実行力」。実は、正しいタイミングを掴むことはとても重要なのです。


スタートアップを始めるべき最良のタイミングとは、解決しようとする問題が、解決不可能な状態から、難しいながら解決の可能性が出てきた時です。その難しさを乗り越えて、それを解決するのです。あまりに早く物事に取り掛かれば、解決できないままたくさんの時間とお金を無駄にし、遅すぎれば誰でも解決できてしまうでしょう。その絶妙なタイミングを見計らうことが重要です。


そしてこれが、私たちが実用的な AI に取り組む理由です。なぜなら私たちが取り組んでいるプロダクトを3年前に作ろうとしていたら、 Google ほどの多くの研究者と数百人のエンジニアが必要だったと思います。しかし、今ならGoogle が TensorFlow を開発し、新しいプラットフォームができたおかげで優秀なエンジニア10人ほどで実現できてしまうのです。私たちは、以前は不可能だったけれど、今だからはじめて実現できる可能性があるものを見つけ、そういうプロダクトを作りたいのです。


私にとって、このようにタイミングを見計らって事業をはじめるのはこれが3回目です。最初の起業は1997年から1998年にかけて始めました。その時のテーマはドットコムでした。それより数年早く、例えば1994年にインターネット企業を始めることもできたでしょうが、その時点ではまだとてもニッチでした。しかし、1998年にはブラウザーはすでに存在し(Mosaic、Netscape)、インターネットで成功できるような土壌は整っていたのです。


2回目はそのちょうど10年後、私は Evernote を立ち上げました。2007年から2008年は、誰もがモバイルについて話していましたが、5年後には誰も「モバイル」を口にする人がいなくなりました。なぜなら、全てがモバイルになったからです。2005年にモバイルアプリを作ろうとしていたら、とてもニッチだったでしょう。しかし、2008年には10億人に届けることができました。Evernote を始めてからの3年間でプラットフォームが飛躍的に進歩したのです。iPhone やApp Store に支えられ、Facebook なども大きく成長しました。


そしてさらに10年後、今が3回目です。それが AI なのです。ですから 2018年における AI は2008年のモバイルや1998年のドットコムと同じです。あと5年で、「AI」を口にする人はいなくなるでしょう。なぜなら全てが AI になるからです。まさに今があらゆる場面に導入するAI プロダクトを作るのにふさわしい時なのです。

スタートアップの4つの結末

私たちは多くのスタートアップ(既存チーム、シード段階、事業初期)と仕事をします。もし、4つの基準にかなっていれば、それを受け入れ、参加し、スタジオで机を並べ、動き始めます。私たちはスタッフ、サービス、サポートを提供します。私たちは、まさに自分たちが起業するプロジェクトと同じように、スタートアップを支援します。


また時には、まだスタートアップ(会社形態)ですらない、アイデアだけを持った人とプロジェクトに一緒に取り組むこともあります。そして我々が自社企画で事業アイデアを考えて、私たち自身で会社を作って全てを行うこともあります。私たちは特に日本では企業パートナーとも仕事をします。なぜなら優れたアイデアの多くは大手企業の中で行き詰まっているからです。彼らのアイデアの一部を取り出して、事実上のスタートアップを作ることもにも大きな可能性があると考えています。


プロジェクトの最初の数ヶ月の導入プロセスを経ると、どのような経緯でプロジェクトがはじまろうと、全てが同じプロセスとメソドロジーで運営されます。つまり、自社企画だろうが、パートナー企業のアイデアで始まるのかは問題ではありません。そして、ハリウッドのスタジオがやるように、四半期ごとにプロジェクトの KPI を計ります。


私たちのプロジェクトには、4つの結末があり得ます。1つ目は失敗、事業の停止です。これを上手くやることが私たちの最大の武器です。私は、失敗を上手くすることはとても重要だと考えています。なぜならスタートアップの多くは無残に失敗し、非効率だからです。


例えば私が会社を経営していて、初期投資に300万ドル獲得できたとします。企業は何としてでも存続しようとするので、上手くいかなくても獲得したお金を最後まで使い切ってしまいます。最初の100万ドルを使ったあと、誰も喜ばない愚かな事業だと気付いてもなお、お金を使ってしまうのです。会社を作ったのですから。実際には、つなぎや延長資金を投資家にお願いし、さらに多くのお金を使うでしょう。投資家はさらに100万ドルを用意してくれます。こうして、存続するために最初の資金と合わせて400万ドルを無駄にしてしまうのです。


スタートアップの失敗は資金面でも感情的にも非効率です。私は失敗が原因で人生を無駄にしてしまった人たちを知っています。多くの才能ある人たちが、すでに熱意を失ったプロジェクトでくすぶってしまっています。これは悲劇です。大手企業での失敗ならば、評判やキャリアも危うくなります。


誰も上手く失敗できないのですが、それでもなお失敗は何かを学ぶ方法として重要です。あなたの失敗をもとに、何を教えてくれるのか。All Turtle でのすべての失敗は、他の全てのプロジェクトに大事なことを教えてくれるような、そんな失敗であってほしいのです。


では、失敗が上手い人はいるのでしょうか。ハリウッドのスタジオ、HBO、Netflix、Pixarなどはどうでしょう。彼らは数百のパイロット番組を毎年製作します。継続するのはそのうち10~20%程度です。上手くいかなかったものは失敗ですが、利口な人はそれを再利用し、優れたアイデアは残されます。


2つ目の結末はプロジェクトの成功と事業の自立です。プロダクトが支持を得ることです。それにはより大きなチームが必要です。もはや10人では足りません。200人あるいは2,000人が必要です。そのように成功した事業は自立した企業になります。いずれはIPOなどすることでしょう。


3つ目の結末は、大企業などに買収されることです。買い手はスタジオから直接プロジェクトを買い取り、スタートアップを買い取るような煩雑さやドラマ抜きで、プロダクトを手に入れることができます。


4つ目の結末は、スタジオにとどまり、私たちが育て、事業部門として収入を得ることです。私たちが支援し、プロダクトを私たちのものとして販売します。


私たちと、インキュベーターやアクセラレーター、他のタイプのスタジオと称するあらゆるものとを分ける最も大きな違いは、個人やスタートアップ、そして大企業を含む、テクノロジー産業にいる誰もが対象だということです。私たちは会社化にこだわらずにプロダクトを作ります。私たちはこの事業全体のために2000万ドルの資金を調達し、さらに必要なときにはプロジェクト毎に個別にファンディングを行う投資家とも協力しています。

企業パートナーとの協業は、特に日本では重要です。なぜなら多くのアイデア、才能とテクノロジーは日本企業の中に閉じ込められているからです。私ははじめて日本に来てから15年になります。これまで様々な日本の大手企業(Evernote ではドコモ、ソニー、日経等と協力しました)と一緒に仕事をしました。誰もが「日本の企業は動きが遅くて交渉が大変」と言っていましたが、それは真実ではありませんでした。日本の企業と仕事をするのは米国の大企業よりはずっと順調でした。


大手企業は、社内にトラブルメーカーを抱えています。このような人たちはある問題に没頭している人たちで、革新的ですが、周囲に馴染みません。企業は彼らの扱い方を知りません。彼らは自分の才能に気づいていますが、どうやってその才能を表現すれば良いかを知りません。こうした有能な人たちは大手企業の中にいるのです。


理想は、私たちが企業パートナーになったときに、彼らが実質的なスタートアップを作れるような土台を提供し、大手企業が持っている問題を解決することです。企業の意思決定から切り離し、スタートアップとして運営すればずっと効率的です。そして、シリコンバレー流の方法や資源を私たちが提供するのです。

そのアイデアは5年で世界を変えるものか?

最後に、私たちが持っている2つの会社の例をご紹介します。

まずはSpotです。Spotは職場での嫌がらせや差別の情報を記録するための AI です。嫌がらせや差別は、企業文化に根ざし、多種多様で、職場の大問題であるにも関わらず、誰もがそれについて話したり報告することが苦手です。実際、独自の調査を行ったところ、職場の嫌がらせや差別の事例の約97%は報告されていませんでした。それでは問題を正すことはできません。


これは、私たちが作りたいと考える種類のプロダクトの一例です。世界中で現実の問題を解決し、本質的に役立つ可能性があります。基本的にユーザーは AI と話をします。AI は面談の中で一連の質問をします。その質問は実際に起きたことを正確に記録するように設計されています。これは認知科学と呼ばれるプロセスで、完全に自動化された AI によって行われます。そのため、人に話す必要はありません。報告は秘密で、あなたにのみ管理権限があります。希望すれば雇用主に送られます。自分の希望通りに管理できるのです。


もう1つはDiscoです。Discoは既存のコミュニケーションチャンネル(Slack、Google他)にプラグインし、チームメンバーがお互いを評価しているような言葉を探します。「よくやった、フィル、契約を結んだんだね」「調査ありがとう、スーザン」など、従業員がお互いに賛辞を送るところをAIが認識します。それにスコアをつけ、従業員の感情に訴えます。誰が、誰の何について褒めたかについてのデータを保存します。とてもシンプルかつ実用的で、大きな問題を解決します。従業員が職を離れる一番の理由は自分が認められず、評価されていないと感じるからです。Discoはその評価を支援することから、すでに2万社以上で使われています。


これらは私が実用的 AI の拡張知性と呼んでいるもののほんの2例にすぎません。


私たちの目標は、All Turtles を世界中の最高のプロダクト起業家たちにとってのプランA(第一選択肢)になることです。もしあなたが5年で世界を変える製品のアイデアを持っているのなら、私たちが一番の選択肢です。私たちは起業家たちに「All Turtles に行ってこれを作りたい。ただそれだけ。グリーンカードは欲しくない、サンフランシスコにも引っ越したくない、シードファンディングも欲しくないし、会社も作りたくない、役員会もいらない」と言ってもらいたいのです。


私たちは今後、8箇所に拠点を構えたく思っています。まずはサンフランシスコ、東京、パリです。次はメキシコシティーで、あと4つはこれから考えます。それぞれの拠点が常に10のプロダクトを支援します。失敗も多いでしょうから、目標は拠点ごとに1年に1つの重要で成功するプロダクトをマーケットに送り出すこと。5年後には毎年8つの重要な製品を世界で送り出すことです。その頃には、支援先のメンバーを含めると、数千人規模になっているでしょう。今、およそ160人です。8ヶ月で0から160人に成長したのです。これから半年で1,000人規模に成長することでしょう。

Phil LibinEvernote創業者/All Turtles CEO

シリコンバレーを代表する連続起業家の一人であり、現在は All Turtles のCEO。同社は2017年に自身が創業した、ベンチャー支援や新規プロダクト創造をするユニークなスタートアップ・スタジオ。All Turtles 創業以前は、世界的なクラウド・サービスである Evernote を含む IT 企業3社の創業者・CEO として、起業から商業的な成功に至るまで事業拡大を牽引。またその後は、米シリコンバレーの大手ベンチャーキャピタル General Catalyst の Managing Director として、そして多くのスタートアップ支援の実績を有す。起業やスタートアップ、AI を含むIT関連トピックのオピニオン・リーダーであり、世界中のカンファレンスで情熱的に講演をしている。

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