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ZOZOSUITはなぜ無料なのか?テクノベート時代の課題解決法を考える

2018年07月05日

  • テクノベート
  • 創造
  • 変革
鈴木 健一 グロービスAI経営教育研究所 所長

2017年の11月22日に発表され、ほどなく私も発注したZOZOSUIT(身体サイズの採寸用スーツ)がやっと手元に届きました。半年以上待ったことになります。


ZOZOSUITは当初のスーツにセンサーが織り込まれた伸縮センサー内蔵のものから設計変更がなされ、水玉模様のマーカーに覆われたスーツをスマホで撮影して測定する現在の形となりました。見た目のデザイン的には初代の近未来的なデザインからモジモジくんのような親しみやすい(?)デザインになっています。


このスーツ自体の変更により、ZOZOTOWNの運営会社であるスタートトゥデイは2018年3月期決算で計43億円にのぼる特別損失を計上しました。11月に発表した初代のスーツから設計自体を180度転換し、特別損失を計上しながら5月には2代目スーツの出荷にこぎつけた、社長・前澤さんの意思決定と実行力の迅速さには驚くばかりです。


ちなみに、ZOZOSUITは現在無料(送料200円のみ)で配布されていますが、前澤さんのプレゼン(2018年3月期通期決算発表&アナリスト説明会@4月27日)では、スーツの原価は1000円程度と発表されています。ということは、スタートトゥデイではこの採寸スーツからあがってくる身体データに少なくとも1000円相当の価値を見ている、1000円払ってでもデータが欲しい、とも考えることができます。


それではそもそもこの身体データをつかってスタートトゥデイは何をしようとしているのでしょうか。まずは、前述した前澤さんのプレゼンを見てみましょう。


・スタートトゥデイは10年でグローバルアパレルTOP10入りを果たす
・そのためには3つの革命からなるファッション革命が必要
・服の買い方革命:ZOZOTOWNによりほぼ半ば達成
・服の選び方革命(自分にあったものが試着なしで何も考えなくても自動で届く):実現のためには自分サイズの検索が必要でZOZOSUITの計測データが必要
・服の作り方革命(自分の体形に合ったあらゆる服が注文するとすぐにオーダーメイドで製造され数日後に届く):ZOZOSUITの計測データをもとにオンデマンド生産
・さらに商品戦略として、顧客の体型と商品満足度の関係性を機械学習し、デザインやパターンに反映させ商品開発の精度を上げる。また、なるべく在庫を持たず、早く安く対応できるパーソナル生産ライン(パターン作成、最新の機械設備)を確立する


前澤さんのプレゼンは、一言でまとめると「データをもとに一人ひとりにピッタリの服を提供する仕組みを作るよ」ということでしょうか。

テクノロジーによって個別化した課題を解決する

グロービス経営大学院の人気授業科目の1つに「テクノベート・シンキング」という科目があります。AI、IoTをはじめとするテクノロジーをどのようにビジネスの課題解決に使っていくのか、その思考法を学ぶ科目なのですが、この科目の主たるメッセージの1つが「テクノロジーにより課題解決を個別化する」というものです。表現を変えるとAIをはじめとするテクノロジーは個別化のためのツール、と言ってもいいのかもしれません。


前澤さんのプレゼン内容「データをもとに一人ひとりにピッタリの服を提供する」もまさにこの考えにそったものになっています。そして、この個別化した課題解決には、最適化するアルゴリズムはもちろんのこと、顧客のデータが不可欠なのです。


このような個別化した課題解決はまず、データが集めやすいネット上で先行しました。現在、ネット上で圧倒的な存在感を示しているアマゾン、グーグル、フェイスブックといった企業は、商品やサービスのレコメンデーション、検索、広告事業といった分野でまさにユーザーの閲覧履歴や属性などの個人データとアルゴリズムを使ってサービスの個別化、最適化に取り組んできたのです。


そして、いま、まさにこのネット上で先行した、ユーザーに個別化した課題解決の動きがリアルな世界に滲み出そうとしており、リアルな世界でのデータ収集が次なる戦いの場となりつつあります。そこに自ら名乗りをあげて飛び込んでいったのがスタートトゥデイに他なりません。


ただ、リアルな世界での個別化した課題解決は、アルゴリズムとデータだけで完結しないところがネットに閉じた課題解決と異なります。スタートトゥデイの例ではまさにオンデマンドでオーダーメイドに服を生産するという今までにない生産システムを作らなければならず、「服の作り方革命」という部分がそれにあたります。


また、「服の選び方革命」についても実はアパレルではメーカーごとに採寸方法が異なっており、そのままではユーザーの身体データがいくら手に入っても最適な服を選ぶことが困難です。実際、私自身もZOZOSUITで測定したデータをもとにZOZOTOWNで服を選んでみたのですが、ブランド間はもちろんのこと、同じブランドであっても服によって私へのジャストサイズがMだったりSだったりと変わることに驚きました。


ZOZOTOWNにアクセスするとわかりますが、商品のサイズ詳細には「※ZOZOTOWN独自の方法により採寸しております」という表記があります。搬入される商品をスタートトゥデイサイドで手間暇をかけてZOZOTOWN基準で採寸しているからこそ、ZOZOSUITで採寸した身体データが生きてくるのです。


このような個別化した課題解決、という考え方は今後他のリアルな分野でも拡がっていくことが期待されます。その際、リアルなデータをどのように獲得していくのか、ネット分野で米系企業に先行された多くの日本企業にとって、ZOZOSUITのチャレンジは多くの示唆を与えてくれているように思います。

鈴木 健一グロービスAI経営教育研究所 所長

東京大学大学院工学系研究科修了、米国シカゴ大学経営大学院修士課程修了


野村総合研究所を経た後、A.T.カーニーにてマネージャーとして経営コンサルティング業務に従事。メーカー、通信事業者の新規事業戦略、マーケティング戦略、オペレーション戦略などの分野で幅広いコンサルティング経験を有する。グロービスでは2006年の大学院設置認可と開学、さらに2008年の学校法人設立など、開学から2016年3月まで10年にわたり事務局長として大学院運営にたずさわってきた。現在は専ら教員として、ビジネス・アナリティクス、クリティカルシンキングをはじめとする論理思考系科目の科目開発、授業を担当するほか、2017年2月より新設したグロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)の所長としてAIの経営教育への応用について研究開発を進めている。

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