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投稿日:2024年10月03日 更新日:2024年10月04日
投稿日:2024年10月03日
更新日:2024年10月04日
好調のドン・キホーテ 「逆張り」の突き抜けたマーケティングで勝つ
- 山本 知子
- グロービス・ファカルティ本部研究員
ディスカウントストアのドン・キホーテの業績が好調だ。
ドン・キホーテを展開するパン・パシフィック・インターナショナル・ホールディングスは、8月16日、2024年6月期連結売上高が2兆951億円(前期比8.2%増)、日本国内小売業では5社目となる2兆円超えになったことを発表した。
海外への出店も加速しながら、既存店の売上も伸長している。ドン・キホーテのどのようなところに、顧客は魅力を感じているのだろうか。そのヒントになるのが、小売業の常道にあえて「逆張り」をするマーケティング手法だ。
逆張りその①:目的買いにあえて配慮しない店作り
ドン・キホーテを訪れたことはあるだろうか?
知らない方のために店内の様子を説明すると、所狭しと並んだ商品はメーカーから届いた段ボールのまま高く積まれ、通路のど真ん中にアイランド陳列している場合もある。通路は、他の客とすれ違うのがやっとだ。POPは、カラフルで特徴的な手書きの「ドンキ文字」で書かれ、店内のいたるところにぶら下がっている。一体なにをウリにしたいのか、わからない。商品がどこに陳列されているか、わかりづらく、顧客がお目当ての商品にたどりつくのは容易ではない。店舗で流れるオリジナルBGMに「ジャングル」という歌詞があるが、言い得て妙である。
一般的なスーパーマーケットやコンビニエンスストアは、陳列棚に商品が整然と並び、商品カテゴリーが書かれた案内板がある。通路もゆったりと設計されていて、店の奥まで見通しが良く、何が売られているかがわかるようになっている。
長年、小売りに従事してきた筆者からすると、ドン・キホーテの店作りは、訪れる度に、目的買いに不向きだなと感じる。このような店作りは珍しく、同じような小売店は、サブカルグッズを扱うヴィレッジヴァンガードくらいではないだろうか。
かく言う筆者もジャングルのように入り組んだ店内で、目的の商品を探しているうちに、目移りして、気が付けば最初の計画より長く滞在し、買うつもりのなかった商品を衝動的に買ってしまうことがよくある。
またわかりづらいが故に、目を凝らして探した陳列棚の中から、目的の商品を「ようやく見つけた!」、「こんなのあった!」という感覚が宝探しに似ていて、娯楽施設に来たようなワクワク感とエンターテイメント性を演出しているように感じる。
逆張りその②:顧客の不満までも差別化に取り込む商品展開
もうひとつ、ドン・キホーテで特徴的なのは、プライベートブランド商品(以下、PB商品)だ。
一般にPB商品とは、小売企業が、企画・開発し、自社で販売する独自ブランドの商品を指し、メーカーが作る商品と比べて安価に販売できる。メーカーに生産委託し、小売りの配送網活用や宣伝費をかけないなどのコスト抑制策で、メーカーが企画製造したナショナルブランド商品よりも利益率が高いことも特徴だ。
こうしたメリットがあるため、PB商品は、今や多くのスーパーマーケットやコンビニエンスストアで見かける。
かつてのドン・キホーテのPB商品は、ナショナルブランド商品より少しお買い得という、多くの小売りで見かけるものと変わらないものだった。転機になったのが2021年に実施されたPB商品のリニューアルで、ここから現在の大きい「ド」というロゴと商品説明をパッケージいっぱいに盛り込んだデザインが目を引く現在のスタイルになった。
通常、商品説明といえば、雑誌やWEB広告に掲載したり、陳列棚の傍らに説明を記載したPOPを付けるなど、商品自体には詳しい記載をしないことが多い。
しかしリニューアルしたパッケージには、売上額、開発担当者の想い、開発秘話など、情報が盛りだくさんに記載されている。例えば、多くの小売店でも売っているミックスナッツの外装には、お客様から寄せられた不満を掲載。「味が濃すぎる」や「ジャイアントコーンはいらない」「パッケージがダサい」などだ。こうした声を基に改良した商品を<ダメ出し新ミックスナッツ>として販売しヒットさせた。
企業目線で考えると、顧客からの不満を晒すのはブランドの恥であり、隠したい部分だ。それを公に、しかも商品に掲載してしまうのが、ドン・キホーテらしい。
たくさんの文字が並んだ商品は陳列されている段階で目を引き、実際、読んでみると、くすっと笑ってしまう。顧客の声を取り入れているという態度を示しているようにもみえる。
リニューアルしたPB商品は、従来のブランドデザインの枠を破ったと評価され、2022年には、グッドデザイン賞を受賞した。
また最近は、弁当や惣菜にも力を入れているが、ここでも競合とは一線を画した商品が並んでいる。目を引くのは、担当者の個人的な好みや想いで開発された、<偏愛めし>だ。フライドチキンの皮だけが入った弁当や、とことん昆布が味わえる昆布丼など、実験的な商品を企画し、話題を呼んでいる。他の小売ではためらってしまうような企画でも、大胆に商品にしてしまうのがドン・キホーテなのである。
スーパーマーケットやコンビニエンスストアとは、訴求ポイントが異なることがわかるだろう。食料品や日用品を扱う小売店でありながら、ワクワク感や個性を価値として、顧客に新しい小売業の形を示しているのだと考えられる。
ただし、一見、突き抜けたマーケティングばかりが目立つが、しっかり幅広い顧客ニーズにも対応する商品も充実させ、顧客の心を掴んでいるからこそ、2兆円を超える小売業となったのだ、ということは忘れてはならない。
常識に囚われない逆張りのマーケティングで、幅広い顧客を魅了するドン・キホーテの進化に、今後も注目していきたい。
山本 知子
グロービス・ファカルティ本部研究員