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投稿日:2024年06月21日

投稿日:2024年06月21日

田川欣哉氏と考えるデザイン経営の本質―生成AIがもたらす価値創造の変化

田川欣哉氏と考えるデザイン経営の本質―生成AIがもたらす価値創造の変化

昨今、AIやテクノロジーの進化など社会変動は過去に例を見ないほど激しくなっています。この激動の「テクノベート*時代」を、私たちビジネスパーソンはどのように捉え、何を学び行動していく必要があるのでしょうか。

「テクノベートセミナー」では、第一線で活躍し次代を築いているビジネスリーダーをお招きし、テクノベート時代を生き抜くための様々な知見をお伺いします。ビジネスパーソンとして必要なスキルとは何か、テクノロジーを活用し社会にイノベーションを起こすにはどう行動することが望ましいのか。これからの学びやキャリアに関わるヒントをお届けしていきます。

第4回のテクノベートセミナー「デザイン経営の本質 -生成AI時代におけるデザインの価値と未来-」には、田川 欣哉氏(Takram株式会社)をお招きしました。テクノベート時代の中でこれからの経営の中枢にデザインはいかにして寄与するのか、詳しくお聞きしました。

本記事は当日の書き起こしです。動画版はこちらよりご覧ください。

*テクノベート:テクノロジー(Technology)とイノベーション(Innovation)を組み合わせたグロービスの造語。詳しくはこちらをご覧ください。

スピーカー

田川 欣哉氏(Takram株式会社 代表取締役)

田川 欣哉氏(Takram株式会社 代表取締役)

デザインを駆使したイノベーションやブランディングを多く手掛けるTakramを代表として率いる。経済産業省・特許庁の「デザイン経営」宣言の作成にコアメンバーとして関わった。グッドデザイン金賞、 iF Design Award、ニューヨーク近代美術館パーマネントコレクション、未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ認定など受賞多数。東京大学工学部卒業。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2015年から2018年まで英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授を務め、2018年に同校から名誉フェローを授与された。日本デザイン振興会理事、東京大学総長室アドバイザーなどを務める。

モデレーター

井上 陽介(グロービス経営大学院 教員)

井上 陽介(グロービス経営大学院 教員)

大学卒業後、消費財メーカーを経てグロービス入社。大阪オフィスで顧客開拓に従事した後、名古屋オフィス新規開設リーダーとして事業立ち上げを推進。その後法人部門責任者を経て、デジタル・テクノロジーで人材育成にイノベーションを興すことを目的としたグロービス・デジタル・プラットフォーム部門を立ち上げ責任者として組織をリードする。

また、創造(ベンチャー、新規事業)領域の研究・開発グループの責任者も担い、自身もグロービス経営大学院や企業研修において「クリエイティビティ」「イノベーション」等のプログラムの講師を担当する。加えて、現在、公益財団法人日本サッカー協会の審判委員会に外部委員として参画している。

「デザイン経営」宣言のねらい

デザインと経営との関係を明らかにして経営者に発信

デザインと経営との関係を明らかにして経営者に発信

井上陽介:田川さんも策定のコアメンバーとなり、2018年に経産省と特許庁から発表された「デザイン経営」宣言は、どのような問題意識から生まれたものだったのでしょうか。

田川欣哉氏(以下、敬称略):当時はデジタル化が進みメルカリのような企業が上場しはじめた一方、「大量につくって安く売る」というビジネス潮流も根強い時期でした。その中で当時、経産省と特許庁の主催で15名ほどが民間委員として招かれ、デザインは今後どのように活用できるのかという議論が何度か行われることになりました。

議論の当初は「デザインの本質的価値とは」といった内容だったのですが、それが徐々に「それをひとつにまとめて経営との関係を明らかにすべきでは?」という話になっていったんです。政府側からも、「国をよくすることにデザインがどう関係するのか、経営というキーワードでブリッジさせよう」という話が出てきました。

それで、経営とデザインの掛け合わせで生まれる意味や文脈について深く議論した結果、それを集約する言葉として「“デザイン経営”がぴったりでは?」という話になり、そこから議論が一気に進んでいきました。その上で、「これをアジェンダとして強く発信しよう」と、当時特許庁の長官だった宗像直子さんのリーダーシップのもと、政府として宣言を出すところに最後はこぎ着けました。メインターゲットを経営者に据え、「経営者が関心を持てるようなレポートにしよう」と決めて、ビジネス的な言語でまとめたのも同宣言のひとつの特徴だったと思います。

まずスタートアップ、続いて大企業や政府もCDOやCXOを設置

井上:「デザイン経営」宣言を受け、新たなチャレンジに向かう経営者やビジネスパーソンが増えたと感じます。当時と比べて現在はどのような変化を感じていらっしゃいますか?

田川:「デザイン経営」宣言に最初に反応したのはスタートアップ企業たちで、その先駆者的存在がメルカリだったと思います。彼らはチーフエクスペリエンスオフィサー(CXO)を置いた最初の企業のひとつでした。当時は僕もメルカリのアドバイザーとして当時の経営陣と議論しながら、CXOの設置、リブランディング、デザイン組織の設計やコーチングなどを担当しました。そして、スタートアップのお手本的存在であるメルカリをフォローする形で、ほかの有力スタートアップがチーフデザインオフィサー(CDO)やCXOといったデザイン責任者を置き始めたという流れだったと思います。

そこから6年ほど経った今、主力のスタートアップはたいていデザイン統括責任者を執行役クラスとして置くようになりました。創業期からデザイナーをファウンダーに入れてデジタルプロダクトをつくるということも、スタートアップの常識になってきました。

その後、いわゆる日本のトラディショナルカンパニーも執行役クラスにデザイン統括者を置くようになり、今はその動きが政府にも波及しています。デジタル庁ができたとき、7つほど置かれたチーフクラスのひとつがCDOで、初代は浅沼尚さんが入りました。彼は今、デジタル庁の事務方トップであるデジタル監を務めています。こうしてデジタル庁は、デザインを積極的に活用する役所になりました。

そして今、「デザインを経営リソースとして見ているか」「デザインに投資しようと思っているか」といったアンケートを取ってみると、今はキャズムを越えるぐらいの数値が出ます。イノベーターやアーリーアダプターたる経営者たちが何かしら興味を持つところまで来たという感じですね。

井上:デザインが経営に与える数字的インパクトについてはどう捉えていらっしゃいますか?

田川:「デザイン白書2024」では、デザイン経営の積極度が売上増加率・従業員満足度を押し上げているという調査結果が示されました。デザインに積極的な企業の時価総額は10年間で一般企業の平均に比較して2倍程度に高まるという調査もあります。肌感覚としては、今デザインに積極投資している経営者はすごくセンスのよい方々だと感じます。そういう方は、社会からのさまざまなシグナルを受け止め、デザインと同じようにマーケティングやガバナンスの改革、あるいは健康経営などにも取り組んでいる場合が多い。ホリスティック経営というか、経営メカニズムという全体設計の中にデザインを組み込んで、他の要素と関連させながら機能させることができているのだと思います。

企業経営もどんどん複雑化・高度化して、10年前の経営に必要だった7色の絵の具セットが、今は12色ぐらいに広がっています。鼻の効く経営者は、そうして追加された5色のひとつがデザインであると分かっているのだと思います。

デザインで企業経営を変えていくために

繰り返される歴史。生成AIによる代替で人間は新たな価値創造へ

繰り返される歴史。生成AIによる代替で人間は新たな価値創造へ

井上:最近は生成AIの登場で「デザイナーの仕事の一部が奪われるのでは?」といった議論も出てきました。テクノロジーの進化とデザインとの関係についてはどうお考えでしょうか。

田川:体験デザインやUXというレベルでも、生成AIは久しぶりに出てきた革命的技術。UI/UXは、基本的には人工物と人間をなめらかにつなぐということを目指します。居住性を高めた車のインテリアデザインだったり、使い勝手のよいスマホアプリのUIデザインだったり。

で、まだスマホは人間のように言葉を使えないから、代わりに僕らはボタンをタップしたりしています。でも、生成AIがもっと日常レベルで使えるようになり、僕らとコンピューターの間を取り持つアシスタントのようになるとどうなるか。人間同士でやり取りするように、コンピューターや、インターネットの向こう側にあるサービスとやり取りできるようになるかもしれない。ここは確実にAIが取って代わります。

そうした流れの中、デザイン自体の役割やデザイナーの仕事も、ある部分は生成AIで代替されると思います。ただ、テクノロジー進化の歴史を巻き戻すと、自動化と人間の関係は1850年頃から同じことを繰り返している。第1次産業革命で自動織機が出てきたときもラッダイト運動という機械の打ち壊しがありました。でも、今は洋服工場を打ち壊そうとする人はいません。

新しいテクノロジー導入でなくなった仕事とは別に、社会ではほかの新しい領域が莫大に開拓され、一時的に職を失った人たちも、流動性の中、別の場所で職を得ていきます。AIについても同じ。代替される部分はあるし、代替された方がいいものもたくさんあります。気候変動やエネルギー問題、日本なら少子高齢化など、今は課題山積でみんなが人手不足に陥っている。ですから計算機で置き換えられる部分は置き換え、手付かずの課題領域にシフトしていくことも大切です。

デジタルかつエンドユーザーがいる企業はデザイン経営の効果あり

井上:これからデザイン経営に向かう多くの企業は、どのように企業経営を変えていけばよいのでしょうか。

田川:「デザイン経営」宣言では、デザインの使い方を2つに分類しようと提案しました。ひとつがイノベーション、もうひとつがブランディングです。イノベーションは、企業にとって特に重要です。難しく考える必要はなく、プロダクトやサービスをつくることだと思っていただいて結構です。

ただ、デザイン経営が効くタイプのビジネスとそうでないビジネスがあり、それを僕は4象限で考えています。横軸はデジタルか否か。縦軸はエンドユーザーの存在の有無。エンドユーザーが「いる」を上に、「いない」を下にしてプロットします。

横軸はデジタルか否か。縦軸はエンドユーザーの存在の有無。エンドユーザーが「いる」を上に、「いない」を下にしてプロットします。

この中でデザインの効き目が最も大きいのは、デジタルかつエンドユーザーがいる右上の象限です。ビジネスユーザーでもエンドユーザーがいれば効きます。次が、エンドユーザーはいるけれど、デジタルをあまり含まない左上の象限。ここも結構効き目があります。無印良品やユニクロがここですね。非デジタル系のコモディティ商品などを扱う、プロデザインな会社で成果を出しているところは山ほどあります。

一方、デザインが効かないのはエンドユーザーがいない下の象限です。かつ非デジタル。装置産業や部品産業など、企業バイヤーが部品をバルクで買うような領域ですね。日本にはそういう企業も非常に多く、オーディエンスの皆さんの中でも「自社は左下だな」と感じている方はいらっしゃると思います。端的に言うと、エンドユーザープロダクトを持っていれば導入の意味はあるし、収益にも効くでしょう。

デザインの基礎はユーザー理解。徹底的なインタビューと観察を

デザインの基礎はユーザー理解。徹底的なインタビューと観察を

田川:では、そういう企業が1歩目に何をすればよいのか。最初におすすめしたいのは顧客理解です。デザインの効能を、僕はよく2階建ての建物で捉えます。1階の基礎部分はユーザー理解、顧客理解ですね。その上で、2階は美しさ、格好良さ、使い勝手など、もう少しスペシフィックなデザインスキルの話になります。この構造が逆になることはなく、顧客理解ができていない企業はよいプロダクトがつくれないし、よいブランディングもできません。

そうした顧客理解に必要なのが徹底的なユーザーインタビューと現場観察です。それによって自分たちのプロダクトを使う人々を100%理解する。天才的なマーケターの方々はこれに近いことをやっているように思います。N1インタビューをたくさんやったり、3ヶ月べた付きで競合店舗を観察し、その様子をありありと頭の中で再現できるようにしたり。そういうことをやれる人たちは、かなりの打率で真っ当な案を考えるようになります。

ただ、エンドユーザープロダクトを持つ会社がなかなかそれをやらず、「長年こうしてきたから」と、前任者から受け継いだことを続けます。新しいことを考えるにしてもユーザーリサーチなどの訓練をしていないから、「こういうのが売れるでしょ」と、自分の想いだけで投入して、結局は全然だめだったとか。で、それを繰り返した結果、誤学習してしまい、「やっぱり新しいものは難しいから既存のものを小幅に改善するのが王道だよね」と、変化できない組織になっていきます。

これに対し、デザインリサーチの手法には顧客理解のメソッドが数多く蓄えられています。どのようにインタビューするのか、回答の中からどのようにパターンを見出すのか。ペルソナについても、質的リサーチとして、例えば100人ぐらいにインタビューをした結果、「代表的なペルソナが3種類あるね」と、アンケートでなくインタビューから見出したりします。

カスタマージャーニーも同じです。「いろいろな人がいるけれど、あるポイントに着目すれば皆が同じような行動を取ると分かった」と。顧客のモデル化ですね。それができたら、あとはモデルにフィットするソリューションを考える。そうしてプロトタイプをつくり、丁寧に検証して失敗を繰り返し、プロダクトの仮説精度を高めていきます。それで100%成功するわけではないですが、丸腰でやるより相当打率は高めることができます。

それを、汎用化してプロセスにまとめあげたのがデザイン思考のエッセンスだと思っています。僕は「ユーザー理解」という言葉を好んで使っていますが、とにかく大切なのは観察やインタビューを通してユーザーを理解すること。頭の中にユーザーモデルができて、ユーザーの考えや行動をありありとシミュレートできる経営者やビジネスリーダーは間違いなく強い。実際には多くの人がそうした準備運動をせず、いきなりプランニングを始めるのですが。

成功するプロダクトやサービスをつくる人は大体2パターンに集約できます。ひとつは自分自身がユーザーというパターン。例えば自分がお医者さんで病院経営の課題もひしひしと分かっていて、それを解決するプロダクトをつくるような人ですね。ユーザーとして、適正な価格帯、備えるべきスペック、顧客とのタッチポイントなど、全て分かっている。

もうひとつは、「現場」「現物」「現人」でユーザー理解を達成している人です。スマートニュースCEOの鈴木健さんがそうです。彼はアメリカで何百人ものユーザーにヒアリングしていました。真っ当だなと思います。彼はデザインをやっているつもりはなく、「そうしないとプロダクトなんてつくれない」と考えている。

企業のデザイン導入に向けてミドルができること

週に1回のユーザーインタビューで現場感覚を身に付けよう

週に1回のユーザーインタビューで現場感覚を身につけよう

井上:問題を企業に落とし込む「ファウンダー・プロブレム・フィット」のようなことを、大企業でミドルが回すためのヒントは何かありますか?

田川:企業でミドル層がデザイン導入を目指すのでしたら、最も簡単なのは週1で、みんなでユーザーインタビューすることではないかなと思います。

現在、とある急成長中のスタートアップで経営者のメンターをしています。今、その企業は一気に人が増えて、経営者の方は権限の大半をスタッフに委譲したそうです。その結果どうなったか。その人は起業当初、毎日ユーザーと会っていて、商品を考えるときも「これは使わない」「これは20円下がったら使う」なんてことがありありと分かっていましたが、1年ほど現場を離れた結果、それが分からなくなってしまった。

そうすると、プロダクトの進化が止まるんですね。で、プロダクトを磨くより認知獲得のほうを優先させたくなってくる。こちらは投資対効果が分かりやすく出てくるので。でも、プロダクト力が目減りしているのに、販売優先で無理にリフトアップすると、最初こそ売上は伸びますが、離脱が激しかったり、損益分岐点が高まってしまったりと副作用も出てきます。そして、その投資を止めた瞬間、売上はガクっと下がります。

そういう展開が見え始めていたとき、僕はその経営者の方に週1でいいからユーザーインタビューをするようアドバイスしました。現場感覚の基盤はユーザー理解。ユーザーの振る舞いは結構なスピードで変わりますが、週1回ユーザーインタビューするだけで、それを鋭敏に感じことができます。

それで少し手応えが出たら、次は仲のよい人を巻き込んで、2人でオンラインユーザーインタビューをやってみる。これは簡単。謝礼をお支払いすると普通にインタビューに協力してくれる人がたくさんいるので、どんどん聞いていくと年間で数十人に話が聞けます。

結構複雑なプロダクトでも100人にインタビューすれば代表ペルソナの整理は終わると思います。「7人に聞けば十分」といった話を僕はあまり信用していません。分かったと思えるようになるのは50人ぐらいからで、100人ぐらいになるとモデルができたという意味で、「もう学びはない」という感覚になります。これ、部署の数人で手分けすれば年間数百人できますし、インタビューしたユーザーが300人のチームと0人のチームなら差は明らかですよね。

テクノロジーや顧客ニーズなど、複数の視点から最適解を見出せるか

テクノロジーや顧客ニーズなど、複数の視点から最適解を見出せるか

井上:ミドルであっても顧客に触れ続けていけば周りからの見方も変ってくるかもしれない、と。

田川:そうですね。ユーザーの言葉はパワフルです。ですからエグゼクティブに提案するとき、何か言われても膨大なユーザーインタビューの結果をもとに自信を持って話ができます。また、ユーザーインタビューは仮説検証にも使えます。自分たちが掴んだインサイトをベースにつくった事業プランを、ユーザーに簡単なやり方で当てる「コンセプトテスト」を行い、そのフィードバックで仮説を修正し、再び立てた仮説を当てに行ったりする、と。

そうした顧客理解のテクニックが、ビジネステクノロジーの結合体に加わると、かなり強力になります。顧客理解だけで全て上手くいくわけではありませんが、顧客の声をまったく聞かず何かつくることもできない。当然、一方では「自社の強みの活かし方として、これはチョイスに入らない」「テクノロジーとして実装するコストがかかり過ぎる」などの考えもあり、そうした話と行ったり来たりするわけです。BTC型人材とは、そうしたビジネスの成立性、テクノロジーの実装可能性、顧客ニーズといった視点で、それぞれ異なる審判が「グッド」と言えるところを探す人なのだと思います。

なので重要なのは、BTCの3つの要素が、太陽系の全ての惑星がたまに直線上に並ぶ「惑星直列」のようにピタっと揃うものを見抜く力量だと思っています。

結果を示してデザインの重要性を伝えよう

デザイン経営には“全員野球”がしやすくなる効果も

会場:国内の有力なスタートアップがグローバルで今ひとつ存在感を発揮できない理由を、デザイン経営の見本になるような海外テック企業との違いと併せてお伺いしたいと思っています。

田川:特に北米はカルチャーやビジネスマナーがまったく違いますし、人種や文化が違えば顧客理解の射程も変わるので。大切なのは現地化。日本の有力スタートアップも今は基本的に日本ドメインですが、海外でも日本と同じように力をかける必要があると考えています。

会場:デザイン経営を学ぶ上で田川さんがおすすめする書籍を教えてください。

井上:私からは、田川さんの著書『イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き』をおすすめしたいと思います。ほかはいかがでしょう。

田川:デザイン関連ではないですが、ジリアン・テットの『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』という本をよくおすすめしています。内部がサイロ化して経営が失敗する事例を集めた本ですが、これがデザイン経営の学びにもなる。みんなで顧客を見るとポジショントークが消え、価値の統合へ向かいやすいという意味で、デザイン経営導入には“全員野球”がしやすくなる効果もあります。企業の価値を統合しようとするデザイン経営は、サイロ・エフェクトを突き崩すひとつの処方箋として機能し得ると思います。

もう1冊は『AFTER STEVE アフター・スティーブ 3兆ドル企業を支えた不揃いの林檎たち』。ジョブズ亡きあと、ティム・クックが、CDOだったジョナサン・アイブとどのように協業してApple Watchをつくったのかといった話が克明に書かれています。アップルでデザインがどう捉えられているのかという話を含め、ケーススタディーとしても非常に面白い本です。

BTC人材に今後求められるスキルは何か

会場:経営トップにデザインの重要性を理解していただくために、現場からはどのような働きかけをしていくべきでしょうか。

田川:経営者は成果が出るならやるし、その見込みがなければやらない。規模の大きなプロジェクトの場合には、まずはスモールスタートで成功事例を積み上げて、結果で信頼を獲得していくことも大切です。仕事の中にユーザー理解やプロトタイピングなどのデザイン手法をきちんと導入し、マーケットから支持されるものをつくってみる。そこで結果が出てくれば「これは効き目があるからもっと展開すべき」という流れが経営的にも生まれてきます。

会場:BTC型人材を目指すべく、それぞれB側、T側、C側で身につけるべきスキルや学びは最近変化しているのでしょうか。または、そこに新しくAIのAが入ってきたりしているのでしょうか。

田川:生成AIに関連して、あらゆる領域で今後は学びの再定義が起きると思います。人間がやらなくてもいいことは出てくるので。ただ、世の中でてんでばらばらに存在するさまざまな機能がAIで結びつけられることによって、旧来型の機械や人工物のほうが先にAIにディスラプトされるのではないでしょうか。AIについては実際に使ってみて、肌感覚を常に掴んでおくことが大切だと思います。

デザインのエッセンスをビジネスリーダーの武器に

デザインのエッセンスをビジネスリーダーの武器に

井上:グロービス経営大学院は2025年にエグゼクティブMBAとテクノベートMBAを開始します。エグゼクティブMBA、テクノベートMBAをこれから学ぶ人々、あるいは今後のMBA人材に期待する点を教えてください。

田川:企業における価値統合がトップの仕事だと考えています。なので、皆さんにはそういうことができる人材に成長していただければと思っています。志というものを掲げるグロービスは、人々を束ね、結集させることが本当に得意だと思うんですね。日々の業務に埋没していると、気づいたら狭いサイロに囚われていた、ということがあります。グロービスに集まる人々は価値の統合者。グロービスが掲げる「変革と創造」にも通じると思いますが、ぜひ、バラバラになっているものをひとつにまとめて大きな価値を生み出す人材になっていただきたいと思っています。

井上:田川さんにはグロービスのリブランディングでもお力添えをいただいています。

田川:僕自身もG1に参加したりグロービスで授業を持たせていただいたりと、グロービスコミュニティには長くお世話になっているので、お話をいただいたときは、とても光栄に感じて「おお!しっかりやらなきゃ」と身が引き締まりました。井上さんはじめグロービスのチームの皆さんは、グロービスらしく熱量と冷静さを併せ持つ方が多く、この1年半、すごく濃密にご一緒できました。皆が想いを投影できる、とても良いシンボルマークとデザインができたのではないかと思っています。

井上:最後に、田川さんからオーディエンスの皆さまにメッセージをいただきたいと思います。

 田川:ビジネスやエンジニアリングの領域にいる方々に、ぜひデザインのエッセンスを武器として手に入れていただきたいと考えています。デザインの入口は顧客やユーザーの理解。人を理解することであり、“聞く力”にも通じるという意味で、マネジメントにも活きるかもしれません。そのメソッドが、デザインの世界には数多く蓄えられています。ぜひ、グロービスの授業をとっていただいたり、著書を読んでいただいたりして学びを深めていただきたいと思います。

執筆:山本 兼司

体験クラス&説明会日程

体験クラスでは、グロービスの授業内容や雰囲気をご確認いただけます。また、同時開催の説明会では、実際の授業で使う教材(ケースやテキスト、参考書)や忙しい社会人でも学び続けられる各種制度、活躍する卒業生のご紹介など、パンフレットやWEBサイトでは伝えきれないグロービスの特徴をご紹介します。

「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。

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    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催) ※卒業生スピーチあり
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

  • 11/5(火) 19:30~21:30

    体験クラス&説明会

    開催:オンライン(Zoom開催)
    本科(MBA)への進学を検討している方・進学を視野に単科で1科目から学び始めたい方向け

  • 11/9(土) 14:00~16:00

    説明会のみ

    開催:オンライン(Zoom開催) ※体験クラスはありません。
    エグゼクティブMBAプログラムへの進学(出願)を検討している方向け

該当する体験クラス&説明会はありませんでした。

※参加費は無料。

※日程の合わない方、過去に「体験クラス&説明会」に参加済みの方、グロービスでの受講経験をお持ちの方は、個別相談をご利用ください。

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