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投稿日:2024年01月29日

投稿日:2024年01月29日

好きな仕事をしながら成長するために必要なこと

嶋田 毅
グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

昨年11月発売の『経営を教える会社の経営』から「CHAPTER9 理想的な企業システムの実現 2.社員に起点を置いた理想追及」の一部を紹介します。

「働きやすさ」と「働きがい」はしばしば混同して使われています。実際には重なる部分もありますが、基本的には異なる概念です。グロービスが強く意識しいているのは「働きがい」の方です。働きがいのある仕事を従業員に提供することで、成長や幸福を感じてもらうことができるからです。働きがいのある仕事は楽な仕事とも異なります。むしろ大変な仕事であることも少なくありません。しかし、そうした仕事に前向きに取り組むからこそ、人は成長しつつ、自己実現を図れ、ますます働きがいのある仕事に挑戦できるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

「成長」と「幸福」の二兎を追う

社員の「働きがい」については、非常に重要なテーマにつき、もう少し解像度を高めて考えていきたいと思います。皆さんは、どんな時に「働きがい」を感じるでしょうか? 私がこれまでに多くの人に聞いてきた「働きがい」を感じる仕事は、「成長を実感する仕事」か「幸福や喜びを実感する仕事」の2つに大別することができるように思っています。

「成長を実感する仕事」というのは、自分の知識が拡がることで、これまで見えなかったことが見えるようになるだとか、新たなスキルを習得することで、できなかったことができるようになるといった性質の仕事です。こういった自分の自己効力感や達成感に繋がる仕事に働きがいを感じる方は多くいらっしゃると思います。

また、「幸福や喜びを実感する仕事」というのは、その仕事に携わっていること自体に満足感や充実感を感じられるような性質の仕事です。これは、自分の仕事が他者や社会に対して有意義な影響を及ぼせていることが実感できる仕事であったり、日々感謝の言葉をもらえたりするような仕事に携わっている方が多く感じやすいものだと思います。

「成長を実感する仕事」も、「幸福や喜びを実感する仕事」も、自身が大切にしたい価値観と繋がっている限り、いずれでも「働きがい」はしっかりと満たされることでしょう。よって、いずれか一つが満たされれば十分と思う方もいらっしゃるかと思いますが、この「成長」と「幸福」の両方を満たすことができれば、きっとその人の「働きがい」は倍増することでしょう。なので、私は社員の「働きがい」を最大化するためにも、この両面を同時に満たすことを推奨しています。

ただ、この「成長」と「幸福」を同時追及することに対して、疑問をもたれる方も一定割合いるようです。実際に私はこれまでに何名かの方から受けたことがある質問は、「好きなことを仕事にしていれば確かに幸福度や喜びは高まりそうですが、好きなことばかりやっていたら成長しないのではないでしょうか?」というものです。また、似たような趣旨で「好きなことを仕事にできるのであれば苦労はしない」「好きなことだけやっていて生活できるとは思えない」といったコメントを聞くこともあります。

これらの質問やコメントには一理はあると思いますが、私には一つ大きな視点が欠けているように感じるのです。それは、「『働きがい』を感じる“好きな仕事”とは、決して“楽な仕事”を指しているのではない」ということです。要は、仕事としての好きか/嫌いかという話と、仕事としての楽か/大変かという話は、イコールではなく全く異なる切り口だということです。

それにも関わらず、この2つの切り口を混同してしまうと、先のような誤解が生じてしまうのではないかと感じています。「好きこそものの上手なれ」という言葉の通り、本当に自分が好きなこと(極端に言えば、寝食を忘れてでもやりたいこと)に打ち込めれば、誰でもその分野におけるひとかたならぬ人物になれるのです。しかしながら、「成功」することに意識が向きすぎてしまうと「成長」ばかりに目が偏り、自分の価値観とは相容れない辛い日々を送ることになってしまうことがあるので、この点は気を付けなくてはなりません。

私が思う「成長」と「幸福」を両取りする最善の方法は、【自分の価値観が満たされる“大好き”で“大変な”仕事に取り組み続けること】だと考えています。私自身、まさにこの16年間、グロービスにおいて大好きな仕事ばかりに携わらせて頂きましたが、そのいずれも楽な仕事はなく、いずれもなかなかに大変な仕事でした。

更にもう1つ付け加えさせて頂くならば、自分の仕事を「誰かに仕える事」として捉えるのではなく、「志を実現するための事」として捉える視点も重要です。よって、「働きがい」を最大化させるために大切なことは【自分の価値観が満たされる“大好き”で“大変な”志事に取り組み続けること】と表現しておきたいと思います。

経営を教える会社の経営: 理想的な企業システムの実現

著:グロービス、内田圭亮 発行日:2023/11/8 価格:1,980円 発行元:東洋経済新報社

嶋田 毅

グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長