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投稿日:2023年12月20日 更新日:2024年04月18日
投稿日:2023年12月20日
更新日:2024年04月18日
ファイナンスとは?意味や会計との違いを分かりやすく解説
- 大島 一樹
- 株式会社グロービス
ブランディング&マーケティング・コミュニケーション本部
書籍・GLOBIS学び放題×知見録編集部 マネジャー
ビジネスにおいてファイナンスという言葉は、ともすると財務部や経理部といった部門の中に限られた話と捉えられがちです。しかし、ファイナンスに関する理論や考え方は、もっと幅広く、経営上の意思決定に深く関係してきます。ファイナンスの正しい理解なくして、適切な経営はできないといっても過言ではありません。
ファイナンスとは、文脈によって多様な意味で使われる言葉です。企業・ビジネスの世界においては、財務管理、資金調達、投資戦略といった意味合いを持ちます。この他にも、金融市場、金融商品の文脈で使われたり、家庭においては家計のやりくり、借入金の管理といった意味で使われたりします。
本記事では、企業経営におけるファイナンス(コーポレート・ファイナンス)に焦点を当てて解説します。
企業経営をおカネの面から見ると、株式投資家や銀行などからおカネを集め、事業活動に投下し、売上としてリターンを得て、それを事業活動に再投資するか投資家に還元する、といった流れがあります。
コーポレート・ファイナンスとは、この流れの中で、①いかに資金を集めるか(資金調達)、②何にいくら投資するか、③事業への投資と投資家への還元の配分はどうするかを判断することと言えます。
家庭におけるファイナンスと企業のファイナンス
個人の家庭におけるファイナンスと企業のファイナンス(コーポレート・ファイナンス)とは、一見すると似たものに思えるかもしれません。確かにおカネの出入りを扱うという面では共通する部分はありますが、以下の点で明確な違いがあります。企業のファイナンスを考える際には、一家庭人としての感覚から意識的に切り替える必要があるのです。
①投資の目的
家庭においては、住宅など有形資産への投資にせよ資格取得のような無形資産への投資にせよ、その目的は、金銭的価値ばかりでなく幸福感や安心感といった心理的価値も重視されます。一方、企業のファイナンスでは、金銭換算された「企業価値」の増大が一義的な投資の目的となります。ブランドや顧客満足といった無形のものを目的とする投資でも、結局は「それによって将来の儲けを産むこと」が目的となるのです。
②リスク管理
投資を判断する際に、リスクとのバランスを考えるという点では家庭も企業も共通です。しかし、家庭ではあくまで自分のリスク感覚が基準になるのに対して、企業のファイナンスでは、株主や銀行といった資金提供者がリスクをどう見ているかが基準となります。経営者は、資金提供者の代理人としてリスク管理する意識を持たねばなりません。
③時間軸
家庭では、短期的な家計のやりくりがメインで、時折大きな買い物をする際に長期的な視点で考えるくらいの感覚の人が多いでしょう。企業では、取引先へのちょっとした接待から、工場の新設、企業買収に至るまで、大小さまざまな投資案件の連続で、常に長期的な視点に立って判断する必要があります。
ファイナンスと会計の違いは?
企業経営をおカネの面から見るという意味では、会計(アカウンティング)も重要です。ファイナンスと会計の違いについて、目的、時間軸、意思決定の関与の観点から見ていきます。
①目的
会計の目的は、経営状況を適切な数値によって記述、評価することです。これに対して、ファイナンスでは、将来にわたって企業価値を効果的に高めていくためにおカネの調達や配分を考えるのが主な目的であり、ここに大きな違いがあります。
ただ、会計によって経営状況を適切に評価するのも、広い意味では企業価値を高めていくためとも言えますし、ファイナンスで投資や資金調達を判断していくには会計によって導かれた毎期の数値が欠かせません。両者は明確に分かれるというよりは、密接に関わりあって不可分のものと言えます。
②時間軸
会計は、基本的には1年間と期間を定めてその中での活動を記録し、また1年ごとに締めた決算時での状況を記述していきます(半期や四半期ごとの報告もありますが、基本は1年サイクルです)。
一方、ファイナンスで投資の意思決定をする際は、1年ごとのキャッシュフローを見つつも、何年にもわたってその投資の効果が続く限り考慮に入れていきます。現在という時点から将来の一定期間にわたって考える点がファイナンスの特徴です。
③意思決定の関与
会計においては、客観的に明示されたルール(会計基準)があらかじめ定められており、それにのっとって処理することが求められます。ただし、個別の資産評価や会計処理などにおいては、一定の選択肢の中で選ぶ余地があります。
一方ファイナンスは、基本となる理論こそ世界共通ですが、会計基準のように定められた規則があるわけではありません。とくにリスクの見積りや将来数値の予測については唯一客観的な正解はなく、当事者が一定の前提を置いて評価していくことが多いです。
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企業におけるファイナンスの活用場面
実際に、企業経営の中でファイナンスの考え方はどのような場面で使われるのでしょうか。代表的な場面である、投資、資金調達、企業価値の向上について見ていきます。
ここでいう投資とは、株式や金融商品を買うことにとどまりません。工場や店舗などの設備投資、システムや無形資産への投資、研究開発投資、関連会社への投資など、あらゆる局面の投資を含みます。そして、企業として「ある投資を行うべきか否か」を判断するのは、要するに「それで儲かるかどうか」にほかなりません。
儲かるかどうかを測るための基本的な考え方が、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)と呼ばれるものです。投資対象が将来もたらすキャッシュフローを予測し、それをリスクに応じた割引率で現在価値に換算するのです。
原則はシンプルですが、キャッシュフローとは何か、どの範囲まで予測に含めるのか、リスクに応じた割引率とは具体的に何%なのかなど、派生する論点は多岐にわたり、それぞれ適切な判断が求められます。
②資金調達
資金調達において重要な概念が「資本コスト」というものです。企業の資金調達手段は大きく負債(デット)と株主資本(エクイティ)に分かれますが、それぞれコストがかかると考えるのです。
負債のコストは比較的分かりやすいでしょう。銀行借入であれば、借入利息を指します。一方で、株主からの調達(エクイティ)にも実はコストがかかっているのです。配当や値上がり益などで株主が期待するリターンを返さなければ、株式を売却されてしまうからです。
したがって、経営判断としては、負債と株主資本のどちらの手段でいくら調達するかだけでなく、負債コストと株主資本コストの両方を考慮したとき、最も効率的な調達額の比率はいくらかというテーマも重要になってくるのです。
なお、上記①投資の判断においても、資本コストは重要な判断材料になります。投資の収益率は、企業の資本コストを上回る必要があるからです。
③企業価値の向上
①で述べたDCF法を企業に応用すると、企業が将来生み出すキャッシュフローをその企業のリスクで割り引くことで企業の価値を算定することができます。企業経営は、この企業価値を向上させることが極めて重要なテーマとなります。
基本的には、投資を適切に行い、効率的な資金調達に配慮すれば企業価値は高まっていきますが、急速な成長を企図したり経済環境の激変に対応したりする場面では、より抜本的でダイナミックな経営判断がなされることもあります。
例えば、マイクロソフトはソフトウェアのパッケージ販売からサブスクリプションへと主となるビジネスモデルを変換しました。また、ソフトバンクはこれまでネット広告、携帯電話、半導体チップ設計と買収を通じてグループの事業範囲を拡大してきています。こうした施策の背景には、これによって企業価値がどの程度向上するか、目指す企業価値向上を実現するにはどのような仕組みでの買収や資金調達が必要かといった観点からの検討が欠かせません。
これからの時代におけるファイナンスの重要性
近年、グローバル化やデジタル化の進展により、企業を取り巻く環境は急激に変化しています。このような状況において、ファイナンスの知識は、経営の意思決定においてますます重要な要素となっています。
例えば、新規事業への投資やM&Aを進める際には、企業価値評価や資本コストの計算をもとに合理的な判断が迫られます。また、経済の不確実性が増す中で、為替リスクや金利変動リスクを適切に管理することも、持続可能な経営を確保する上で不可欠です。
とくに日本企業において、ファイナンスの重要性を示す象徴的な動きが、2014年の「伊藤レポート」による企業価値向上への提言と、近年の東京証券取引所による市場改革です。伊藤レポートでは、日本企業が低い資本効率(ROE)にとどまっていることが指摘されました。これを受け、多くの企業がROEやROICを意識した経営に移行しています。
さらに、2022年の東証市場再編や、2023年以降の「資本コストや株価を意識した経営」への要請も、大きな影響をもたらしています。具体的には、PBRが1倍を下回る企業に対し、株主価値向上のための具体的な施策を求める動きなどです。
こうした市場環境の変化に対応し、投資家やステークホルダーに対して適切な説明責任を果たすためにも、ファイナンスの知識を中心に据えて経営していかなければなりません。
ファイナンスは企業の持続的成長や競争力向上に直結するものであり、今後ますます重要性を増していくことでしょう。
「グロービス経営大学院」でビジネスに必要なスキルを身に付けよう
上記のとおり、企業経営におけるファイナンスの重要性や活用場面を見てきました。現在マネジメントに関わっている、または将来マネジメントを志す全てのビジネスパーソンにとって、身に付けておくべき考え方であると言えます。
では、どのように学べば、効率よくファイナンスの知識や思考が身に付くでしょうか。主に3つの習得方法があります。
①書籍で学ぶ
書店には、初学者にとって手に取りやすいさまざまな種類の書籍が並んでいますので、まずは興味に沿ったものを読んでみましょう。例えば、『[新版]グロービスMBAファイナンス』など、実践に役立つよう、事例を交えた解説が豊富な書籍がおすすめです。
②動画で学ぶ
最近は、無料や安価でビジネススキルについて解説する動画も増え、映像を通じて学ぶビジネスパーソンが増えています。効率的に知識をインプットできる一方で、書籍と同様に基本的に受動的な学びのため、知識を定着させるには繰り返し反復して学ぶ努力が必要なのですが、それを行わずに「学んだつもり」になってしまうこともあります。
③ビジネススクールでケースを元にディスカッションをして学ぶ
ファイナンスを集中して学べる講座を受けるのも方法のひとつです。「使える」学びを手に入れたいのであれば、より現実的な経営判断の論点を抽出したケースをもとに、投資の採算性や企業価値評価などを実際に手を動かして計算し、その前提条件の取捨選択や結果の解釈について、他者とディスカッションする形式の講座を選ぶのがよいでしょう。ビジネスで成果を出すためには、以下の4つのポイントを押さえなくては、効率的に仕事で活かせる学びになりません。
①知識をインプットする
②知識をつかいアウトプットする
③アウトプットに対し他者からフィードバックを受ける
④フィードバックを踏まえて、自分の思考を改善する
グロービス経営大学院でも、さまざまな人とディスカッション形式で学べるファイナンスに関連する講座を用意しています。こちらの講座では、基本的な役割、準備、現場で意識すべきことなど再現性のある実践的なネゴシエーターの考え方やスキルを学ぶことができます。
<こんな方におすすめです>
・ファイナンスの基本的な理論を身に付けたい方には「ファイナンス基礎」
・上記ファイナンス基礎の知識をベースに、投資の意思決定や資金調達(財務)に関する意思決定の力を磨きたい方には「ファイナンスI(事業戦略と企業財務)」
詳しくはこちら:ファイナンス基礎、ファイナンスI(事業戦略と企業財務)
まとめ
企業経営にとって、成長を目指す(企業価値の向上を目指す)ことは切っても切れない永遠のテーマと言えるでしょう。そのためには将来に役立つ投資を行い、必要な資金を調達する必要があります。ファイナンスの知識と思考は、この点で企業経営をおカネの面から支える、ビジネスリーダーに必須のスキルと言えるでしょう。
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「体験クラス&説明会」にぜひお気軽にご参加ください。
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大島 一樹
株式会社グロービス
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東京大学法学部卒業後、金融機関を経てグロービスへ入社し、思考系科目の教材開発、講師などに従事。現在はブランディング&マーケティング・コミュニケーション本部にて、書籍・GLOBIS学び放題×知見録・グロービス経営大学院のオウンドメディアの企画、執筆、編集を担当する。共著書に『MBA定量分析と意思決定』、『改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング』、『グロービスMBAで教えている 交渉術の基本』(以上ダイヤモンド社)など。公式X:https://twitter.com/kazu_ct