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投稿日:2022年08月03日
投稿日:2022年08月03日
「社会的な設定」で生まれる性差―心理学の研究データに見るジェンダー#2
- 若杉 忠弘
- グロービス経営大学院 教員
前回は、男性と女性の違いは、あまりなく個人差のほうが大きいという心理学の研究結果を紹介しました。本稿では、それでも我々が感じる男女差は、どこからきているのかを明らかにします。(全3回、2回目)(#1はこちら)
性別の差は社会的な要因で生まれている
前回、脳には男女差は少なく、ジェンダーレスだという心理学の研究結果を紹介しました。そうであるならば、男女が同じように活躍していてもいいはずです。ところが、管理職に着目をしてみると、帝国データバンクが全国2万3,680社を対象に調査したデータによると、2020年の「女性管理職比率」は全国でわずか7.8%です。これはひとつの例ですが、男女の活躍には大きな差が厳然とあるのです。
なぜなのか。端的に言えば、その理由は社会的な要因です。組織でいえば、組織の文化がこのような結果を生んでいると言えます。「男性はこうあるべき、女性はこうあるべき」という設定が社会や組織にはあります。そして、それに従うことがよしとされているのです。ひとつの例として、日本を含め、多くの社会や組織では、男性は「力強さや自己主張」を、女性は、「協調性や思いやり」を体現することが求められています。
こうした社会的な要因があるので、男性は力強さを体現するヒーロー的な行動をとることがよしとされています。実際、ある実験では、人が見ている状況下では、男性の方が女性より人を助ける傾向がありました。ところが面白いことに、人が見ていない状況下では、男女ともに人を助ける行動に差がなくなったのです。つまり、本来はヒーロー的な行動には、男女の差はないのですが、社会的な目が入ると、途端に男女差が浮かび上がってくるのです。
次のような例もあります。女性の方が共感の方が得意と思われがちですが、これも社会が女性は、協調的で思いやりにあふれているべきだという設定があるからです。実際、人の感情を読んでもらうテストを行うと、確かに女性の方がより正確に感情を読むことができる。ところが、「正確に感情を読むことができたら報酬をあげます」といって、同じテストをすると、男性は女性と同じように感情を読み取ることができたのです。つまり、男性は共感する気がなかっただけで、やる気さえ出せば、女性と同じ能力をもっていたというわけです。
社会的な設定が大きな理由となり、男性は「力強さや自己主張」を、女性は、「協調性や思いやり」を発揮しているわけです。そして、この社会的な設定こそが、女性リーダーを現れにくくしている理由だと解明している研究があります。バッファロー大学のバデューラらの研究グループは、過去の関連する論文をもとに、なぜ女性の方がリーダーになりにくいかを調査しました。
そこで分かったことは、組織の中でも、男性の方がより「力強さや自己主張」を発揮し、結果として会議で議論により参加していました。一方、女性の方はより「協調性や思いやり」を発揮し、会議でも議論に控えめに参加していたというのです。
つまり、男女の違いが議論の参加度合いに影響を及ぼしていることが分かりました。さらにここで分かったのは、議論により積極的に参加している方が、リーダーになりやすかったのです。
したがって、より議論に参加している男性の方がリーダーに選ばれやすいという構図が生まれていたのです。リーダーの出現の男女の違いは、「力強さや自己主張」と「協調性や思いやり」の差によって説明されました。
ジェンダー差をつくるのは「組織文化」
この研究グループは、リーダーを選ぶ際に、「自己主張する人を過大評価し、協調性や思いやりを発揮する人を過小評価する」傾向に気をつけなければならないと警鐘を鳴らしています。つまり、本来的には男女で能力の差はあまりないはずなのに、多くの場合において、男性の昇進に有利になるような意思決定がなされています。関連して、エール大学の研究では、男性が怒りの感情を表すと、力強く有能とポジティブに評価され、女性が同じように怒りの感情を表すと、感情的とネガティブに評価されるという報告もあります。
現状では、組織の文化という社会的な要因が、女性より男性の活躍を促しているのです。組織の文化は、戦略、経営陣の態度、採用育成などの人事制度、上司のコミュニケーションスタイルなどがすべて複合的に絡んで作り上げあげられています。
余談になりますが、バッファロー大学のデータによれば、女性の方が会議では議論に控えめに参加していると言えます。したがって、この観点からいえば、(前編の)冒頭で述べた「女性が入る会議は時間がかかる」という森元首相の発言は適切でないと言えるかもしれません。
ここまでの議論をまとめましょう。第一に、男女の差の能力や資質の差はそれほど大きくありませんでした。第二に、もし組織の中で、ジェンダーによる活躍があるとしたら、社会的な要因であり、組織の要因によるものであることが分かります。女性活躍推進の際に、「そうは言っても、昇進させる女性がいないのです」という声が聞かれますが、そういう状態になっている原因は、女性側にあるのではなく、組織にある可能性がかなり高いといえます。
では、我々はどうしたらいいのでしょうか。次回、解決策を紹介します。
<参考文献>
Badura, K. L., Grijalva, E., Newman, D. A., Yan, T. T., & Jeon, G. (2018). Gender and leadership emergence: A meta‐analysis and explanatory model. Personnel Psychology, 71(3), 335–367.
Brescoll, V. L., & Uhlmann, E. L. (2008). Can an angry woman get ahead? Status conferral, gender, and expression of emotion in the workplace. Psychological Science, 19(3), 268–275.
Eagly, A. H., Johannesen-Schmidt, M. C., & Van Engen, M. L. (2003). Transformational, Transactional, and Laissez-Faire Leadership Styles: A Meta-Analysis Comparing Women and Men. Psychological Bulletin, 129(4), 569–591.
若杉 忠弘
グロービス経営大学院 教員