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投稿日:2022年08月02日

投稿日:2022年08月02日

男性脳女性脳はもう古い。ジェンダーレスな脳の世界―心理学の研究データに見るジェンダー#1

若杉 忠弘
グロービス経営大学院 教員

男性のほうがリーダーに向いている、女性のほうが共感力が高い――これらは本当なのでしょうか?本稿では、心理学の研究結果から明らかになったジェンダーの捉え方を紹介します。(全3回、初回)

ジェンダーバイアスは誰もが持つ

今、世界的にジェンダー平等が叫ばれています。裏を返せば、それだけジェンダー不平等が発生しているということです。やっと不平等について声が上がるようになったと見ることもできます。日本に目を向ければ、課題は山積しています。世界経済フォーラムが今年2022年7月に「ジェンダーの格差に関する調査」の結果を発表しました。これによれば、日本は調査対象146か国中116位です。主要7か国では最下位です。特に評価が低いのが、政治と経済の分野です。女性議員の数が少なく、企業においても女性管理職が圧倒的に少ないのです。

ジェンダーのテーマは、「男性だからこうすべき、女性だからこうすべき」というように、主観や印象で語られることがあります。たとえば、森喜朗元首相が「女性が入る会議は時間がかかる」と発言し、物議を醸しました。この発言は森元首相の印象にもとづいた発言です。ジェンダーに関しては、人それぞれ、様々な意見や思いがあるでしょう。これらをお互いにぶつけあっても、どうしても議論が平行線になってしまいます。

では、どうするとよいか。個々人の印象、意見、想いを語る前に、ジェンダーの差に関してデータは何を語っているのか。それをまず虚心坦懐となって理解することではないでしょうか。

私たちは、どうしてもジェンダーに関してはステレオタイプをもっており、それを通してしか人を見ることができないのです。誰もが少なからずジャンダーに関するバイアスをもっているという事実を受け入れる必要があります。もし、「私はそんなバイアスはもっていません」と思う人がいたとしたら、それこそがバイアスであるわけです。

心理学者がすでに、ジェンダーの差に関して、膨大な調査を行っており、ある程度のコンセンサスができつつあります。本稿ではそれを紹介したいと思います※。ビジネスパーソンであるならば、これらの研究結果を頭に入れていただくだけでも役に立つと思います。

※ジェンダーとは多様なものであり、男女の枠だけで語られるべきではありませんが、現在入手できるジェンダーの差に関する研究が主に男女にフォーカスしているものが多いため、以降男女の差に関する研究を紹介していきます。

男性脳と女性脳は違うのか?

男性脳と女性脳は違うのでしょうか。この問いはすでに100年ほど論争が続くくらい多くの人の興味と関心を惹いてきました。最近の研究にもとづけば、結論はこうです。男女の差はあまりなく、個人の差の方がよほど大きい。もちろん、生物学的な男女の違いはあるのですが、その違いは、私たちが思うよりは大きくはないのです。詳しく見ていきましょう。

ウィスコンスン大学のハイドは、男女の違いと共通点を調べた論文100本以上にもとづいて、以下のように述べています。

まず、男女差が小さい、もしくはない分野としては、数学、言語能力、社交性、誠実性、報酬に対する感度、利他行動、ネガティブになりやすい気質、攻撃的な性格、断定しない話し方、自己肯定感、リーダーシップのスタイルなどが挙げられています。じつは、理系科目については、1990年代の高校生に対する調査では男性の方が得意でしたが、少なくともアメリカでは2000年代に男女差はほぼなくなっています。

次に、男女差があった分野としては、次を挙げています。空間把握能力は男性が高い。協調性は女性が高い。物への関心は男性が高く、人への関心は女性が高い。乱暴な動作は男性が高い。このようにいくつかの分野では、男女の差が認められました。

「リーダーシップ」に男女差はほとんどない

さて、ほぼ男女差がない分野として、リーダーシップのスタイルも挙げられています。この差はビジネスにおいては重要ですので、さらに詳しくみていきます。ノースウエスタン大学のイーガリーらの研究グループは、リーダーシップのスタイルに関する男女差を調べた論文45本を分析しました。その結果、リーダーシップのスタイルの男女差はそれほど大きくないが、女性の方がむしろ男性より、組織の変革を実行するのに望ましいスタイルをとる傾向があると結論づけています。

イーガリーらは、女性が男性より発揮していたスタイルとして以下を挙げています。

<女性が男性より発揮したリーダーシップスタイル>

①メンバーに尊敬と誇りの気持ちをもってもらえる資質がある

②ミッション、目的、価値観を伝える

③未来に対してポジティブでわくわくしている

④問題解決に新しい視点をもたらす

⑤個人のニーズを踏まえて、成長を促している

⑥個人のパフォーマンスに応じて、リワード(報酬)を与えている

では、逆に男性が女性より発揮していたスタイルは以下が指摘されていますが、これらのスタイルは、残念ながらあまり効果的でないとされています。

<男性が女性より発揮したリーダーシップスタイル>

①いつもメンバーを管理し、間違いや失敗をすぐに注意する

②問題が大きくなるまで放っておく

③大事なときにその場にいなかったり、関与しなかったりする

男女差は小さいものの、女性の方がむしろ今求められているリーダーシップのスタイルを発揮していることが分かります。

以上をまとめると、ジェンダーによる能力や資質にあまり差はないということです。そう、脳はジェンダーレスなのです。ジェンダーの差があったとしても、その差は大きくありませんし、リーダーシップに関してはむしろ女性に有利に働いているくらいです。

#2に続く

<参考文献>

Eagly, A. H., Johannesen-Schmidt, M. C., & Van Engen, M. L. (2003). Transformational, Transactional, and Laissez-Faire Leadership Styles: A Meta-Analysis Comparing Women and Men. Psychological Bulletin, 129(4), 569–591.

Hyde, J. S. (2014). Gender similarities and differences. Annual Review of Psychology, 65(June), 373–398.

若杉 忠弘

グロービス経営大学院 教員