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投稿日:2022年08月04日

投稿日:2022年08月04日

チームレベルで文化を変える―心理学の研究データに見るジェンダー#3

若杉 忠弘
グロービス経営大学院 教員

脳にフォーカスすると、男女の違いはあまりないことが心理学の研究結果からわかっています。けれども、男らしさ女らしさのような社会的な「設定」により、実社会では男女の活躍に差が出ています。そうした活躍の差を解消するために、組織と個人は何ができるのでしょうか。(全3回、最終回)(#2はこちら

我々は何ができるのか―全員の支援と能力開発

もし自社にこうした状況があった場合、是正するためにどのようなアクションが考えられるでしょうか。

まず、組織の視点でいえば、前編で紹介した研究にもとづけば、自己主張する人を過大評価し、協調性や思いやりを発揮する人を過小評価していないかを点検することです。組織の中では、どうしても自己主張が強い人に組織の意見は引っ張られますから、協調性や思いやりを今まで以上に強調し、バランスをとるのも一つの手です。

もうひとつ大事な点があります。女性のリーダーが少ないからと言って、女性を支援する施策だけを行うのではなく、それに加えて、全社員を支援する施策を展開することです。すべてのジェンダー、さらにいえば、国籍や年齢などに限らず、だれもが活躍することのできる組織を目指すことが目的です。

そのためには、経営陣のメッセージ、フェアな昇進・昇給、社員満足度サーベイ、不満などを伝える仕組み、会社の業績の社員への開示、トレーニング、各種人事制度などあらゆる面で、だれにとってもフェアな施策になっているかをチェックし、必要なところは変えていくと効果的です。

実際、ある研究によれば、ある特定のグループを支援する施策だけではなく、全社員を支援する施策を展開すると、その特定のグループの社員もモチベーションが上がることが分かっています。

読者の中には、自分は経営陣でもないので、組織を変えるのが難しいという方もいるかもしれません。けれど、ハーバード大学のエドモンドソン教授が指摘するように、組織の文化まで変えなくてもチームの文化を変えるだけで効果があります。自分が所属するチームの文化から着手しましょう。

すぐできるアクションとしては、この記事で紹介したデータなどジェンダーの差に関するファクトをチームメンバーと共有することです。その上で、どのようなチームを作りたいかについて、チームメンバーと対話することをおすすめします。

ジェンダーを気にせず、自分のやりたいことをやる

次に、個人の視点に移りましょう。分かっていることは、能力や資質によるジェンダーの差はなく、仮に差があったとしても、必要であればその能力や資質を鍛えればよいだけの話です。昔、『話を聞かない男、地図が読めない女』という本がベストセラーになりました。たしかに、データによれば、男性の方が、人より物に関心があるので、話を聞かない傾向があるかもしれません。また、女性は、空間把握能力が低いので地図を読むのが苦手という傾向はあるかもしれません。

そうだからといって、男性は人の話を聞けないのかというとノーです。聞くという練習を重ねればいいのです。空間把握能力についても、訓練次第でいくらでも伸ばすことのできる能力です。むしろ、能力や資質は、ジェンダーの差より個人の差の方が圧倒的に大きいので、自己認識がとても大切です。自分はどんな資質をもっていて、何に向いていて、何をしたいのかをしっかりと自己理解することが重要です。結論はシンプルです。ジェンダーの枠にとらわれることなく、自分がやりたいことを歩んでいけばよいのです。

もしかしたら、上記に示したようなジェンダーに関わるバイアスに遭遇し、めげることもあるかもしれません。でも、このバイアスを逆手にとることも可能です。

たとえば、ある研究によれば、あなたがもし女性であれば、何らかの前向きな改善提案をする際、少し力強く提案することで、より賛同を得られやすいのです。ステレオタイプから外れることで意外性を生み、賛同を生むのです。おすすめしたいのは、同じような境遇をくぐりぬけた先輩やメンターを見つけることです。きっとこのような実践的な知恵を授けてくれることと思います。

もちろん、その他にも様々なアクションが必要でしょう。ジェンダーの差に関するファクトとデータを虚心坦懐に理解した上で、みなさんがそれぞれの持ち場で、だれもが活躍する組織を目指すべくアクションをとられることを願っています。

<参考文献>

Edmondson, A. C. (2018). The fearless organization: Creating psychological safety in the workplace for learning, innovation, and growth. John Wiley & Sons.

Kulik, C. T., Perera, S., & Cregan, C. (2016). Engage Me: The Mature-Age Worker and Stereotype Threat. Academy of Management Journal, 59(6), 2132–2156.

Hyde, J. S. (2014). Gender similarities and differences. Annual Review of Psychology, 65(June), 373–398.

McClean, E. J., Kim, S., & Martinez, T. (2021). Which Ideas for Change Are Endorsed? How Agentic and Communal Voice Affects Endorsement Differently for Men and for Women. Academy of Management Journal, 65(2), 634–655.

若杉 忠弘

グロービス経営大学院 教員