GLOBIS Articles

  • 会計・財務
  • グローバル
  • リーダーシップ
  • イベント

投稿日:2020年09月15日

投稿日:2020年09月15日

「SDGsが導く新しいビジネスと投資 ~新時代の価値観とビジネスの創り方~」 特別セミナーレポート

渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
コモンズ投信株式会社 取締役会長

2020年7月、グロービス経営大学院は、参加者約1,500名の特別セミナーをオンラインで開催した。本記事では、その様子を一部ご紹介したい。

スピーカーは、コモンズ投信株式会社 取締役会長の渋澤健氏。高祖父であり「日本近代資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一の著書『論語と算盤』をヒントに、SDGs投資を説く著書『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献(朝日新書)』を今年5月に出版している。

お金の流れを“ME”から“WE”へ

日本は、タンス預金50兆円、銀行預金1,000兆円以上もの現預金を抱える稀有な国である。『論語と算盤』で渋沢栄一が「真に理財に長ずる人は、よく集むると同時によく散ずるようでなくてはならぬ」と説いたように、お金は手元に置いておくだけでなく“使う”ことではじめて社会は活発化する。

では、どう使うべきか。コモンズ投信が親子向けに開催する『こどもトラストセミナー』では、お金の使い方として①使う ②貯める ③寄付 ④投資 の4つを教えているという。

①②は自分のため、つまり“ME”の使い方。一方で③④は社会のため、つまり“WE”の使い方です。コロナ禍を受けて、よりいっそうMEからWEへのお金の流れを世の中に作る必要性を感じています。経済はありがとうの連鎖。④の投資は、その連鎖を応援する行為なのです」

企業が今、SDGsに取り組むべき理由

渋沢栄一は「経営者一人がいかに大富豪になっても、そのために社会の多数が貧困に陥るようなことでは、その幸福は継続されない」「正しい道理の富でなければその富は完全に永続することができない」とも説いた。

「高祖父が伝えたかったのは、サスティナビリティ(持続可能性)とインクルージョン(包摂性)の重要性ではないか」と渋澤氏。立場も才能も意欲の程度も異なるすべての人が、結果の大小は違えど能力をフルに活かして社会に参加することで国力は高められる。経営においては、0か1、白か黒を選別する「か(or)」の力と同時に、一見関係のない事柄を忍耐強く考え続けて新しいクリエイションを生み出す「と(&)」の力をもつことが求められると語った。

2015年に国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)は、17のグローバル目標と169のターゲットで構成される。これは人類にとって大きな挑戦であり、実現には壮大な「と」の力が求められている。

そのSDGsこそ、今の企業が取り組むべき課題であると渋澤氏。「SDGsは人道的な観点から取り組むべきものであると同時に、バックキャスティング(未来から逆算して施策を考える思考)を通じて、企業が新しいバリュークリエイションを実現するきっかけにもなる。いわば『論語』と『算盤』の両立です」

社会的インパクトと経済的リターンの両立

渋澤氏は現在、官民連携でインパクト投資の一種であるSDGs投資ファンドの設立に取り組んでいる。途上国や新興国に進出したいけれどリソースが足りない中小ベンチャー企業に対し、エクイティ投資(返済期限の定めのない資金のこと)を通じて、日本から海外諸国への新しいお金の流れを作る担い手を育むようなエコシステムを構築したいという。

社会的インパクトと経済的リターンの両立は、まさに「か」ではなく「と」の考え方だ。そしてインパクト投資とは、渋沢栄一が提唱した「論語と算盤」の現代版であると言える。

最後に、次代のリーダーに向けて激励のメッセージを贈った渋澤氏。「日本人は真面目なので『できる』『できない』で判断しがちですが、大切なのは『何を成し遂げたいか』『どんな社会にしたいか』。そこに常にベクトルを向けていれば、いずれ『できる』にシフトしていくので、ぜひ『やりたい』ことを貫いてください」

渋澤 健

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社 代表取締役
コモンズ投信株式会社 取締役会長

1969年父の転勤で渡米。1983年テキサス大学 BS Chemical Engineering 卒業。1984年(財)日本国際交流センター入職。1987年UCLA大学MBA経営大学院卒業。1987年ファースト・ボストン証券会社(NY)入社、外国債券を担当。1988年JPモルガン銀行(東京)を経て、1992年JPモルガン証券会社(東京)入社、国債を担当。1994年ゴールドマン・サックス証券会社(東京)入社、国内株式・デリバティブを担当。1996年ムーア・キャピタル・マネジメント(NY)入社、アジア時間帯トレーディングを担当、1997年東京駐在員事務所設立。2001年シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業し代表取締役に就任、2007年コモンズ株式会社を創業し、代表取締役に就任(2008年コモンズ投信へ改名し、会長に就任)。