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投稿日:2020年06月19日
投稿日:2020年06月19日
「量子コンピューターとAIの最前線 ~2つのテクノロジーの進化が創る未来の社会とは~」 特別セミナーレポート
スピーカー
- 森本 典繁
- 日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 研究開発担当
2020年5月、グロービス経営大学院は、参加者約1,400名にも及ぶ大規模な特別セミナーをオンラインで開催した。本記事では、その様子を一部ご紹介したい。
スピーカーは、日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 研究開発担当の森本典繁氏。AIや量子コンピューターの分野で活躍する第一人者である。
テクノロジーによるイノベーションが加速する現代において、AIや量子コンピューターは、多くのビジネスパーソンが知見を得るべき分野の筆頭だ。ずばり量子コンピューターとは何なのか。森本氏は、以下のように説明する。
「これまでのコンピューターは、1と0のどちらかに固定されたステート(状態)しかなく、演算するにも順番に行うしかありませんでした。一方、量子コンピューターは、たくさんのステートを同時に表現できるため、複数の演算も同時に行えます。いわば、従来のものとはまったく異なるロジックで動く、計算処理が非常に速いコンピューターだと言えます」
この量子コンピューターの性能が生きるビジネスシーンについて、森本氏は以下の3つを挙げた。
1.量子化学シミュレーションやゲノム解析
化合物の性質分析や解析を含む、量子化学分野での活用。数多い物質の中から必要なものを見つけ出す設定や、分子・エネルギー状態の組み合わせシミュレーションが量子コンピューターにより可能になれば、新薬の発見や創薬の迅速化につながる。
2.AI/機械学習
これまで膨大な時間がかかっていた、複雑度の高いニューラルネット解析(※1)におけるリソース負荷の緩和や、大幅な学習時間軽減の可能性が見出されている。
※1 数学モデルの一つ。脳の神経細胞であるニューロンのネットワーク構造を模したもの
3.金融におけるリスク解析やロジスティックにおける最適化
現在も、サンプリング済み数値を使用したリスク予測は可能だが、さらに精密かつ多くのポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)を厳密に計算できるようになり、誤差率も軽減される。このほか、複雑な回路を量子制御で安定化させることや、ロジスティクスにおける巡回セールスマン問題(※2)の解法も期待される。
※2 組み合わせ最適化問題の一つ。セールスマンが現地点を起点に、いくつもの都市を訪れて帰着するにあたり、移動総距離が最小となるルートを求める問題
このように、さまざまな分野での活用が期待される量子コンピューターだが、そのすべてを理解するのは至難の業だ。ただし、若手の将来の可能性をつぶしてしまわないよう、マネジメントサイドもある程度は知っておくべき、と森本氏は話す。
「たとえ、量子コンピューターのもつ潜在的な可能性や将来性が分からずとも、分からないなりに理解しようとする姿勢や、センスをもつこと。そして、知識をもつ技術者が誰なのかを見極めることが重要です」
森本氏いわく、量子コンピューターの発展の鍵を握るのは、“量子ネイティブ”世代なのだという。
「量子コンピューターを活用する上で欠かせないのは、我々が“量子ネイティブ”と呼ぶ、これから社会に出てくる若い方々です。初めてコンピューターに触る瞬間から量子コンピューターがある彼らは、制約のないフレッシュな発想のもと、我々の世代には想像もつかなかったアプリケーションを生み出してくれるでしょう」
量子コンピューターが開く新しい未来。それは、かつてデジタルネイティブだった人にとっても、知るには遅くない世界だ。量子コンピューターに触れる機会をもち、その未来をぜひ体験してみてほしい。
スピーカー
森本 典繁
日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員 研究開発担当