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投稿日:2020年03月16日
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トレーナー吉田輝幸氏が提唱、「ビジネスアスリート」が重視すべき三原則 ――グロービス経営大学院・公認クラブ「グロービス・スポーツマネジメントクラブ」 イベントレポート
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グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。
前回の代表幹事インタビューに続き、先日行われたグロービス経営大学院・公認クラブ「グロービス・スポーツマネジメントクラブ」が主催するセミナーの内容をお届けします。
名だたるトップアスリートや経営者のトレーナーを務め、またEXILEフィジカルトレーナーとしても活躍する株式会社PCP代表の吉田輝幸氏。豊富な専門知識と経験をもとに、正しい体の使い方で最高のパフォーマンスを引き出す「コアパフォーマンス®︎」メソッドを提唱している。
グロービス経営大学院の2019期生でもある吉田氏は、6年ほど前から「ビジネスアスリート」という言葉を用いている。自身の身体のメンテナンスに意識を向け、アスリートのように常にベストパフォーマンスを発揮するための体づくりを徹底するビジネスパーソンのことだ。
日本のスポーツビジネスの変革・発展を目指すグロービス・スポーツマネジメントクラブは、2019年9月に吉田氏を招いてセミナーを開催。そこで同氏はビジネスアスリートが重視すべき3つの基本について、簡単なトレーニングの実演を交えながら語った。
ビジネスアスリートに必要な「運動」「食事」「睡眠」とは
中学から大学まで陸上競技を続け、インターハイや日本選手権で上位入賞するほどの実力者だった吉田氏。だが怪我により選手の道を断念し、渡米してパーソナルトレーナーとしての経験を積んだのち帰国した。25年のトレーナー人生で指導した人数はのべ3万人以上。自身の会社PCPではパーソナルジム運営、出張トレーニング、講演などを手がけ、メディア出演や書籍執筆の実績も数多くある。
「世界で活躍するアスリートをサポートしたいという想いを抱いて渡米し、メジャーリーガー、ナショナル・フットボール・リーグやナショナル・バスケットボール・アソシエーション選手をサポートするインターンを経験しました。その施設で導入していたコンセプトを日本向けに発展させたのが『コアパフォーマンス®︎』です」と吉田氏。
吉田氏が提唱するコアパフォーマンス®︎システムには「トレーニングギア」という概念がある。パフォーマンスの歯車をうまく回すには、以下のポイントを押さえ小さい歯車がすべて回っていることが重要だ。そのポイントは「アセスメント」(問題点を明確にする)、「コレクティブ」(アセスメントで見つかった問題点を解決するための補強運動)、「ストレングス」(動ける体を目指す筋トレ)だ。パフォーマンスが上がらないときは、いずれかのポイントがうまく機能していないケースがほとんどだという。
今回紹介されたのは、ビジネスアスリートがこの歯車をうまく回すために重視すべき3つの基本、「運動」「食事」「睡眠」についてだ。
「運動」=機能的に使える体をつくる
「運動をする時間がない」と悩むビジネスパーソンは多いかもしれない。だが、ここで吉田氏が提唱したのは「機能的に使える体をつくる」こと。ジムに通ったりスポーツを始めたりする前に、自分の身体の仕組みを知り根本原因がなにかを捉える必要があるようだ。
「機能的な体をつくるポイントは『関節』。関節には、柔軟に動くべき関節と安定すべき関節があります。たとえば足の指は地面をぐっと掴むので安定性が重要で、足首はぐるぐると回せるように可動性が重要。膝は着地するときにぐらついてはいけないので安定性、股関節は可動性が重要です。それぞれの役割を理解し、適切なトレーニングをすれば、正しい体の使い方ができるようになります」
ランニングで膝を痛める人は多いが、それは膝が弱いからではなく、股関節の柔軟性が足りないからかもしれない。ランニングでふくらはぎや太腿が太くなってしまうのは、股関節を使わず脚ばかり使って走っているからかもしれない。腰痛は腰が弱っているのではなく、首が回りにくいゆえに振り返るときなどに腰の筋肉を使いすぎているからかもしれない。
使うべき関節が動かない場合に、別の関節を使って体を動かす人体の現象を「代償動作」と呼ぶ。つまり、代償動作に頼らず体を正しく効率的に使えるようになれば、自然と体つきが変わってくるし疲労や怪我も防げるというわけだ。
関節をうまく使えるようになると、自ずと姿勢も良くなるという。良い姿勢とは、耳・肩・腰骨・膝・くるぶしが横から見たときに一直線になっている状態。歪んでいる部位によって、「お腹が固められていない(安定性がない)」「肩甲骨が硬い(可動性がない)」といった原因を探れるのだとか。
また、呼吸の重要性についても吉田氏は言及する。胸式呼吸ではなく正しい腹式呼吸ができると、背骨の安定性が高まり横隔膜も機能しやすくなるため、姿勢が良くなるのだそうだ。吉田氏が渡米していた2000年代前半の日本は、とにかく筋トレし体を大きくすることがよしとされていたが、その頃のアメリカではすでに呼吸のトレーニングが重視されていたという。
「正しい腹式呼吸ができているかは、仰向けに寝てチェックするとわかりやすいです。胸とお腹にそれぞれの手を置き、まずこれ以上吐けないところまで口から息を吐き切ったあと、これ以上吸えないところまで鼻から息を吸います。そして、ろうそくを吹き消すように口から優しく息を吐きます。チェックする点は、息を吸ったときに最初にお腹の前と横側が風船のように膨らんで、最後に胸が膨らめばOK。ビジネスアスリートはがんばって働きすぎるとつい呼吸が浅くなることがあるので、普段から腹式呼吸を意識してみてください」
このあと、参加者を交えて実際にストレッチが行われた。その名も「肩甲骨体操」。
両腕を直角に曲げて前に出し、腕が「W」になるように肩甲骨を寄せるイメージで横に開く。両腕を「Y」のように上にあげ、肩甲骨が動いているのを意識しながらゆっくり戻す。両腕を「T」のように真横に伸ばし、正面に閉じたり開いたりを繰り返す。…など、どのストレッチも仕事の合間に気軽にできそうである。
「食事」=糖質はしっかり摂るべき
「糖質ダイエットという言葉をよく聞きますが、痩せたい場合でも糖質はしっかり摂りましょう。人間にとって糖質はガソリンみたいなもので、摂らなければ体を動かせません。糖質が足りないと、筋肉の中のアミノ酸を糖質に似た分子に化けさせてエネルギーにするため、確かに体重は減ります。でも、同時に筋肉も減ってしまうのでリバウンドの原因になり、実は逆効果なのです」と吉田氏。
美容のために果物を多く摂る人も多いと思うが、果物の「果糖」は炭水化物の糖とは別物。果糖はエネルギーとして使われず、脂肪と同じように体に蓄えられてしまうのだそうだ。特にお腹まわりの脂肪や内臓脂肪になりやすいため、ビタミンを摂るなら野菜をおすすめするという。
栄養コンシェルジュ協会監修の『食品カテゴリーマップ』によれば、食品の栄養成分は以下に分けられる。
- 主食(でんぷん、糖質)
- 主菜(たんぱく質+脂質)
- 副菜(食物繊維+ビタミン+ミネラル)
- 乳製品
- 多脂性食品(脂質)
- 嗜好食品(果糖含有)
- アルコール飲料
本来は1〜3のみの摂取で必要な栄養は網羅できる。あとは摂取する順番を3・2・1にすることが重要だという。いわゆる「ベジタブルファースト」という考え方で、食物繊維を先に摂取するとそのあとに摂取する糖の吸収を遅らせることができるのだ。「懇親会や接待ではいきなりサラダを頼みにくいでしょうから、そういうときは事前にこんにゃくゼリーを仕込んでおくのがおすすめ」と吉田氏。
また、2の主菜の中でも脂肪の少ない順から、A(枝豆・納豆など)、B(エビ・貝など)、C(魚・練り製品など)、D(鶏肉・卵など)、E(牛肉・豚肉・肉加工品など)に分かれている。基本的に、足が少ない生物、たとえば魚介類や鶏肉のほうが牛肉や豚肉より脂肪が少ないそうだ。
1日の摂取カロリーの目安は、目的によって異なる。痩せたい場合は【目標体重×25キロカロリー】、筋肉をつけたい場合は【目標体重×35キロカロリー】が理想。それを朝昼晩=3:4:3の比率で割り、食事に適用する。
「3食がいい理由は、炭水化物が定期的に体内にないと筋肉が削られていくから。お腹が鳴るのはホルモンの関係ですが、それは『エネルギーがなくなりました』という合図。それ以上断食の状態が続くと代謝が下がってしまうので、いいタイミングでエネルギーを摂取しようとすると1日3食がちょうどいいのです。最も代謝がいいのは昼なので、昼のカロリー比率を高めにします。夜間はガソリンが必要ないので、夕食が遅くなる場合は1.の主食を抜いてもかまいません」
「睡眠」=週1時間増えると生産性が1.1%上がる
「日本人の睡眠時間は少なすぎる」と吉田氏は指摘する。睡眠が週1時間増えると、生産性が短期的に1.1%向上するそうで、韓国ではすでに国策として導入し成果をあげているという。
良質な睡眠をとるためのポイントは「体温」と「脳」。いい睡眠に入れる条件は体温が低下しているときであり、入浴してすぐに寝てしまうと実は熟睡できないのだとか。また、寝ることをあらかじめ脳に教えてオン・オフのスイッチをうまく切り替えるために、「パジャマに着替える」「アロマを焚く」といった準備・儀式をルーティン化することも重要。寝る前にスマホやパソコンを見ると、つい仕事のメールを見てしまったりして脳が興奮状態に陥るため、就寝時間の前にはリラックスタイムを設けることを意識するといいそうだ。
日本のフィットネス人口は3%台。フィットネスブームが来ている近年でさえ3.7%にとどまる。一方でアメリカなどは15%近くにのぼるという。
「人間の適正体重は20歳の頃の体重と言われています。社会人になって運動をしなくなった人が急に運動を始めると体を壊しかねないので、まずは適正体重に戻して動けるようにすることが大切。その後、『腿上げを高速で5秒間続ける』『垂直跳びを思いきり飛ぶ』といった『全力で動く』練習をすると、以前のように機敏に動けるようになります」
吉田氏はさらに、ジムやスポーツに時間を割くことが難しい場合は、先ほどの「肩甲骨体操」のようなストレッチを意識的に続けるべきであること。また、1週間に21回(7日間×3食)もある食事を変えるだけでも、トレーニングの第一歩になることなどを語った。
「世の中にはいろんなトレーニングの情報が出回っていますが、人間の性質を正しく理解していれば、誤った情報に惑わされることはありません。人間の体は単純。今日お伝えした正しい運動・食事・睡眠を意識することが、世界で活躍するビジネスパーソンに必要な体づくりの基本になります。身近な人たちにもぜひシェアやアドバイスをしていただき、『ビジネスアスリート』の概念を広めていただけたら嬉しいです」
「スポーツマネジメントクラブ」とは
スポーツビジネスの固有の特徴を様々な切り口から分析し掘り下げ、スポーツビジネスに関わっている実務家から直接学ぶ場を設けて、MBAの知識を実践的に使えるヒントを探ることを目的としたクラブ。日本のスポーツビジネスの発展に向けて、グロービス経営大学院の学生たちが何等かのアクションを起こすきっかけを得られるよう、現役のアスリートやスポーツビジネスの第一線で活躍する方々をゲストにさまざまなイベントを開催している。
クラブ活動とは
社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。
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