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投稿日:2019年09月02日

投稿日:2019年09月02日

都市と農業をつなぐ。アグリメディアの事業から学ぶ農業ビジネスの可能性――グロービス経営大学院・公認クラブ「農業ビジネスの会」 イベントレポート

クラブ活動
「農業ビジネスの会」活動レポート

グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。

前回の幹事インタビューに続き、先日行われたグロービス経営大学院・公認クラブ「農業ビジネスの会」が主催するイベントの内容をお届けします。

アグリメディア代表・諸藤氏が語る創業ストーリー

2019年1月に開催された講演会では、株式会社アグリメディア代表の諸藤(もろふじ)氏が登壇し、自社の事業や農業ビジネスの可能性について語った。本講演は、農業ビジネスの会の幹事である松田氏・平澤氏が諸藤氏へ直々にオファーしたことがきっかけで実現した。松田氏と平澤氏は現在、グロービス経営大学院の「研究プロジェクト」という科目で同じチームとして新規就農者向けのビジネスプランの立案を行っている。その一環として都市近郊の農地の取得についてリサーチする中で、アグリメディアのビジネスモデルに興味を抱いたという。

(株式会社アグリメディア代表:諸藤氏)

2011年の設立以来、「都市と農業をつなぐ」をコンセプトにさまざまな農業ビジネスを展開しているアグリメディア。基幹事業の「シェア畑」は、都市部の遊休農地(耕作の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作の目的に供されないと見込まれる農地)をリメイクし、都市住民が気軽に野菜作りを楽しめる農園として月額でサービスを提供。スタートから約7年で利用者は約2万人にのぼっている。

農業をビジネスにした理由を諸藤氏は次のように語っている。「変化と課題が多い業界だからこそビジネスチャンスがあるし、やりがいを持って取り組めそうだと思いました。単に収益を上げるのではなく、農業全体にインパクトを与えられるようなビジネスにしたい。創業当初の思いは今も変わっていません」

専業農家である高校時代の同級生と二人でアグリメディアを立ち上げ、社員80名・アルバイト250名(2019年1月現在)の企業にまで成長させた諸藤氏。農家の収益性を改善することが、農業の発展における重要課題のひとつであると捉え、都市部から農家にお金が流れる仕組みの構築に取り組んでいる。

都市部の人が農業と接点を持つには、農家になる、直売所で農産物を購入する、マルシェで農家の人の話を聞くなど、さまざまなルートがある。農業に興味を持つきっかけを作るビジネスとして諸藤氏が着目したのは、「体験」という付加価値だった。

「農産物の流通ビジネスは、一定の事業規模がないと収益が上がらないので候補から外しました。一方、観光農園や市民農園などの農業体験型ビジネスは近年伸びてきています。1,000円の農産物を5,000円で売るには、『自分で収穫できる』『農家の話が聞ける』などの付加価値をつけることが必要。その付加価値をどんなものにするか、実際にニーズはあるかといった実験・検証を行うために、まずはイベントをやってみることにしたのです」

創業後3ヶ月は、300軒にものぼる農家を地道にまわり、現状や課題のリサーチを行ったという諸藤氏。電話ではなかなかアポイントが取れないため飛び込みで訪問し、「勝手に入るな」「忙しい」と怒られることも多々あったという。それでも農業にふさわしい服装や相手に歩み寄るコミュニケーションを意識することで、徐々に話を聞いてもらえるように。体験イベント開催時には数軒の農家が協力してくれるようにもなった。

最初は集客に苦戦しつつも、結果的にのべ2,000人が参加。参加者はみんな体験に満足し、「この内容で◯◯円(参加費)は安い」という声も多く寄せられた。しかし継続的に集客し収益を上げていくには課題が多いということで、イベント事業は基幹事業に成長することなく終わった。

「立ち上げたもののうまくいかなかった事業はたくさんあります。でも複数のサービスを一つひとつ成長させて相互作用を生むことで、農業全体に大きな影響を与えられると思うので、新しいサービスにも積極的に挑戦していくのが当社のスタンスです」

都市部の遊休農地と住民をつなぐ「シェア畑」

その次に挑んだのが、現在の基幹事業である「シェア畑」。使われていない農地や、農業生産だけでは利益が得られず人にも貸せない農地を持つ人が多いことは、農家300軒への訪問で把握していた。また、野菜を作ってみたい非農家が多いことも、イベントなどを通じて実感があった。関東近郊では特に、農地の所有者と耕作者が異なるケースが多く、遊休農地と趣味で農業をしたい人を繋ぐビジネスは実現可能と考えたのだ。

まず諸藤氏は農林水産省に通い、農地法などの規制について知見を深めた。そして体験イベントの際に協力してくれた農家の中から農地を貸してもらい、「シェア畑」ローンチのための準備に取りかかった。

「商品企画のキモは『やりたいのにやれない理由を全部つぶす』こと。厳選した苗・種・肥料を用意する、農作業で使う道具を置いておく、栽培の方法を教えるアドバイザーを配置するなど、企画はかなり作り込みました。前職は不動産会社でビル賃貸業をしていて、長期間の提供が収益の安定化に繋がることを理解していたので、年間を通じて15〜20種類の野菜を作れるという『飽きさせない』工夫にも注力しました」

現在、アグリメディアの売上の5割は「シェア畑」によるもの。関東に約80カ所、関西に8カ所ある「シェア畑」を運営し、利用者は約2万人。30〜50代をメインに幅広い年代の人々が利用しており、個人利用だけでなく、法人の福利厚生をはじめ、老人ホームやマンション管理組合による利用も多いそうだ。

実績がなかった当初は、JAや農業委員会の信頼を得られず苦労したことも多々あったそうだが、実績を重ねるにつれて農地活用の相談が寄せられることも増えた。今では全国から年間約2,000件もの問い合わせが届いているという。

菜園アドバイザーとして活躍するスタッフの約7~8割は、 65〜73歳のリタイア後のシニア層。実家が農家であったり、市民農園で野菜を作っていたというような経験豊富なスタッフが在籍している。「スキルがあるだけでなく、教え方やお客さまのモチベーションの上げ方がうまいアドバイザーが人気」と諸藤氏。年末にはスタッフを集めて総会を開き、表彰や事例共有を行ってスタッフの質向上に努めているという。

農業の収益改善を目指す、多様な事業展開

「シェア畑」の他にもさまざまな事業を展開するアグリメディア。どこに収益となるポイントがあるかまだわからない業界ゆえに、事業の数は積極的に増やし、見極めを行っているという。

農業求人サイト「あぐりナビ」は、もともと別の農業ベンチャーが立ち上げたサービスだが、のちに関連会社となったことで現在はアグリメディアも運営を担っている。北海道から沖縄まで4,000軒の農家と取引しており、常時1,000件の求人を掲載。登録者数は4万人にのぼる。求人広告上でのマッチングの他、人材紹介も行っている。

最近ではベトナムやモンゴルなど海外から来た就業者の紹介もしているという。酪農家に必要な獣医の人手不足が日本国内では深刻だが、たとえばベトナムの国立大学から北海道の酪農家へ人材の紹介を行った例もあるそうだ。

自治体や企業との連携事業も多い。千葉県柏市では農業公園の活性化を目的に、収穫体験つきBBQ場「ベジQ」や地元農産物を活かした「農家食堂」の運営を手がけている。神奈川県大井町では、体験農園利用や地元の農産物の収穫体験などをセットにした「里山シェア」制度をスタート。神奈川県清川村では、集客と運営に課題を抱えた道の駅のリニューアルを請け負い、リニューアルオープンした月の単月売上は前年比150%を記録した。

「アグリアカデミア」は、座学と実践で農業を学べる農業学校。より体系的に学びたいという「シェア畑」利用者の声や、いきなり法人で就農するよりまずは学校やインターンで見極めたいという「あぐりナビ」利用者の声をもとにスタートしたという。「あぐりナビ」で取引のある農家の協力を得て、インターン就業や直売所への出荷体験の機会を設けるなど、まさに各事業の相互作用が活きたサービスだ。

質疑応答の一部を紹介

農業ビジネスにおいてさまざまなチャレンジを続ける諸藤氏に、参加者から多くの質問が寄せられた。その一部を紹介したい。

自宅の近くに「シェア畑」がオープンし、さっそく申し込んだという参加者からは、地域のコミュニティとしての「シェア畑」のあり方について質問があがった。「利用者もアドバイザーも地域住民なので、地域に浸透している農園は多いです。満足度の高いユーザーが新しいユーザーを呼んでくれたり、収穫祭などのイベントに知人を連れてきてくれたり、地域団体が運営に関わってくれることも。契約者だけでなく、地域に広く認知されているケースが多数あります」と諸藤氏。

「シェア畑」のユーザーのペルソナを知りたいという質問には、次のように回答した。「まず61歳の夫婦。夫の定年退職を65歳に予定していて、夫に趣味がないことを妻が懸念している。野菜作りは奥が深く時間が使えて、かつ『作った野菜を食べられる』『健康につながる』といった対価もあるので、そういう夫婦には最適です。夫婦の会話が増えたという声も実際にありました。もう1パターンは、35〜36歳の夫婦と、3歳〜小学校低学年くらいの子どもの3人家族。食育への意識が高く、『オイシックス』を利用しているような層です」。実際のユーザー比率は半々くらいだという。

また農業ビジネスと密接に関わりのある行政や規制との向き合い方については、「創業期からの大事なテーマ。こういう事業をやっても問題ないか、自治体をまわって回答を集め、最終的には農水省に通って確認をとるような形で進めました。4年ほど前からは、政策に関して農水省から当社にヒアリングが来るようになりました」と回答した。

「農業を活性化・効率化する優れたプラットフォーム(場)の提供により、日本の農業の発展に貢献する」をミッションに掲げ、チャレンジングな事業展開を進めるアグリメディア。なかでも「農家=儲からない仕事」という公式をなくし、農家にとってもこれから就農する人にとっても明るい未来を提示していきたいというのが同社の思いだ。「まだまだ模索中」と諸藤氏は控えめに言うが、同社の成長やチャレンジを見ていると、農業ビジネスが持つ大きな可能性を感じずにはいられない。

※数字などはいずれも2019年1月時点のものです。

「農業ビジネスの会」とは

農業界の動向や先進テクノロジーなど、農業ビジネス全般に関わる情報の共有や意見交換を行うクラブ。講演会だけでなく、今後は実践ベースの取り組みも強化していく予定。これからの農業のありかたについて議論し、少しでも日本の農業の発展に寄与できるような場とネットワーク作りを行っています。
※現在は公認クラブとしての活動は行っていません。

クラブ活動とは

社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。

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