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投稿日:2019年07月19日

投稿日:2019年07月19日

業界最大級のクラウドワークスに見る、プラットフォーム型ビジネスの現在と未来 ――グロービス経営大学院・公認クラブ「ビジネスモデル研究会」 イベントレポート

クラブ活動
ビジネスモデル研究会 活動レポート

グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。

前回の代表幹事インタビューに続き、先日行われたグロービス経営大学院・公認クラブ「ビジネスモデル研究会」が主催する発表会の内容をお届けします。

国内のクラウドソーシング市場は、2020年には2,950億円に達すると予測されている(2016年11月 矢野経済研究所調査)。複業やテレワークなどの働き方改革が進む日本において、クラウドソーシングのニーズは今後ますます増加することだろう。

3ヶ月ごとに選定企業の分析を行っているビジネスモデル研究会の幹事団は、第21回目を迎える発表会の題材として、国内最大級のクラウドソーシング企業である株式会社クラウドワークスを選んだ。ここでは2019年3月に行われた発表会の模様をレポートする。

クラウドワークスの事例から学ぶ3つのポイント

これまでに求人情報メディアのリブセンス、宿泊予約サイトの一休、100円ショップのセリアとワッツ、障がい者支援のLITALICO、RIZAPグループなど多様な企業の分析を行ってきたビジネスモデル研究会。各社の成長戦略とビジネスモデル構造を独自にまとめており、本日のスピーカーであるクラブ幹事からは最初にその解説がなされた。

成長戦略は、事業が立ち上がった際の破壊力がどこにあるかを分析したもので5つに分類される。イノベーションにより新たな価値を創出する「Rule Maker」、すでにいる競合をリプレイスする「Rule Breaker」、異業種企業が参入し事業を奪取する「Break & Make」、垂直統合し多角化を図る「祖業進化」、蓄積資源を活かす「横展開多角化」という5区分のうち、今回の題材であるクラウドワークスは「Rule Maker」に位置づけられた。

また、グーグルやクックパッドのように顧客グループをつなぎ合わせて仲介を行う「マルチサイド」、アマゾンなどのEC事業に見られる「ロングテール」、24時間対応サービスやワンストップショップなどの「顧客インタフェース強化」といったビジネスモデル構造がある中で、クラウドワークスは「クラウド(多数大衆)」に区分された。

クラウドプラットフォームを使った従来にないビジネスモデル創出の例は、過去に化粧品クチコミサイト『@cosme』を運営するアイスタイルの分析発表会でも紹介されている。投稿者と閲覧者が生み出す好循環、広告収益にとどまらない多角的なマネタイズ(収益化)などに成功しており、「プラットフォームモデルは一旦確立すると強い」というイメージが浸透した。拡大再生産、収穫逓増(ていぞう)の法則ともされるビジネスモデルだが、はたしてどの程度強固なのか。本当に強いといえるのだろうか。本日はクラウドワークスを例にその点を深く掘り下げていくという。

「幹事団で3ヶ月間議論し、学ぶ意義のありそうなポイントを3つにまとめました。1つ目は、新しい労働のあり方をビジネスモデルとして確立したベンチャー戦略について。2つ目は、黒字転換までの道筋から学ぶプラットフォーム型ビジネスの強みや課題について。3つ目は、今後の日本の労働力市場などをふまえたマクロ視点での考察。この3つの観点から分析発表を進めていきます」

事業セグメントと株価推移

まずは、企業分析の基本中の基本である会社概要のおさらいから。2011年11月設立、2014年12月マザーズ上場というスピード上場を果たしているクラウドワークス。事業セグメントは①ダイレクトマッチング、②エージェントマッチング、③ビジネスソリューションのほか、まだ売上が立っていない新事業である④フィンテック、⑤投資育成から構成される。

2018年9月期売上の66億3,500万円のうち、業務発注者とワーカーをWeb上でマッチングさせて手数料を収益にする①ダイレクトマッチング事業は、意外にも約15%の9億9,200万円(損益5,300万円)。

自然なマッチングではなく専任スタッフの介入によりマッチング率向上を図る②エージェントマッチング事業も展開しており、それは約55%の36億7,600万円(損益2,300万円)を売り上げている。また、③ビジネスソリューションは、M&A先であるシステム受託開発企業の株式会社電縁とその子会社が抱える事業で、売上は約30%の19億8,400万円(損益7,900万円)。

設立以来、売上は急拡大しているが、利益面では赤字が継続。2017年の株式会社電縁の子会社化を機に黒字転換に踏み出し、2018年度決算で初の黒字化を果たしている。一方で、登録ユーザー数は200万人を突破し、サービス自体は国内最大級規模となった。

株価推移にも着目すると、上場直後は高値1,900円・時価総額243億4,600万円にまで伸びたが、1年後には上場来最安値342円・時価総額45億4,000万円にまで急落。クラブではこの要因について、損益下方修正の発表とベンチャーキャピタルによる大量売却を挙げた。ただ、それ以降は赤字ではあるものの株価は上昇しており、2018年7月には上場来最高値2,029円・時価総額290億4,900万円を記録。2019年2月8日現在(分析時点)でも時価総額259億円をキープしている。

赤字でも上方修正を出すとマーケット的に好感を持たれ、株価が上がるといういい例でしょう。ちなみに、上場直後の株主はIT系ベンチャーキャピタルが30%ほど占めていましたが、すぐにいなくなり、現在は経営陣33%・資本提携企業15%・外国人投資家11%という構成です。通常、マザーズで250億円規模の企業だと外国人投資家はなかなか入りませんが、同社の場合は上場1年ほどでポンと入ってきています。戦略的パートナーと機関投資家の支えがあったからこそ、赤字続きでも株主安定工作で需給を維持できていたようです」

後発のクラウドワークスの勝因とは?

日本の働き方とHRサービスは、正社員やアルバイトなどの「雇用」から「派遣」、「業務委託」「委任」へと流動している。クラウドソーシングの普及は、ITによる技術革新の他に社会事象の影響も大きく、アメリカではリーマンショック後に失業者が増え、結果的にフリーランスや起業家が増えた。また、日本では東日本大震災を経て、労働への考え方や価値観の変化が起こり、個人個人の働き方にも変化が見られるようになった。アメリカでは2011年時点ですでにクラウドソーシングがポピュラーな働き方となっており、現在のフリーランス人口は5,370万人(労働人口の34%)。海外のクラウドソーシングサービスの代表企業であるUpworkの時価総額は23億ドルにものぼる。なお、日本のフリーランス人口は1,064万人(労働人口の16%)である。

では、日本のクラウドソーシング業界はどのようになっているのか。実は2012年に事業を開始したクラウドワークスは後発参入で、2007年には『shufti(シュフティ)』を運営するうるる、2008年にはランサーズが事業をスタート。しかし現在では、登録ユーザー数や契約実績数においてクラウドワークスが2社を上回っている。

その勝因のひとつとしてビジネスモデル研究会が挙げたのは、積極的な資金調達と先行投資。上場までの3年で調達した資金総額は14億9,100万円にのぼり、プラットフォームモデル確立のために惜しみなく調達・投資したことがうかがえる。採算度外視で発注者とワーカーを集めユーザビリティを改善し、リーダー企業となったことで、「クラウドワークスを見れば仕事を発注できる・仕事をもらえる」という認知が拡大再生産された。この発注者とワーカーの好循環こそが、プラットフォームを成長させる秘訣というわけだ。

ちなみに、同社のクラウドソーシング事業のマネタイズは2種類。サイト上で発注者とワーカーをつなぐダイレクトマッチング事業では、成約金額の5〜20%をシステム利用料として得る。ただしこの手数料は人材派遣マージンよりも低く、高収益事業とは言いがたい。マッチングを促進する工夫も必要だ。それをカバーするのが専属スタッフの仲介によるエージェントマッチング事業で、契約締結時と案件進行管理を対象に手数料を得る。「エージェントマッチングを生み出したのは当然の帰結」と幹事の方もコメントを添えた。

プラットフォーム型ビジネスは強いのか

プラットフォーム型ビジネスの成否を判断する上で、ユーザーの継続率と案件単価は重要なファクターとなる。ビジネスモデル研究会では、公表されているワーカー数・クライアント数や契約平均単価はもちろん、実際のサイト上の案件数や単価、募集職務などを細かくリサーチし現状の分析を行った。

実在企業のため具体的な分析結果への言及はここでは差し控えるが、今後の課題として推測されたのは、ハイクラス案件の成約率向上とミドルクラス案件の獲得。現在のボリュームゾーンは低安価案件とワーカーのマッチングであり、プラットフォームとして収益を確保し進化し続けるためにはさらなる質的向上が不可欠なのではないかと分析した。

また、ミドルクラス案件については、日本の労働特性にも課題があると指摘。ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が明確化されているアメリカに対し、職能型雇用(ゼネラリスト採用)が定着している日本では、ミドルクラス案件に該当する職務の外部依頼が難しい。たとえば大手企業の事務系職種が日本のクラウドソーシングでほぼ発注されないのはそのためだ。

2017年は1億2,671万人(うち生産年齢人口7,596万人/60.0%)であった日本の人口は、2030年に1億1,638万人(うち生産年齢人口6,656万人/57.2%)へと減少。今後の日本経済はある程度成長はするものの、2030年には644万人・9.1%の労働力不足が生じるとされている。女性・シニア・外国人の労働者を増やすことももちろん重要だが、それだけでは不足分には到底足りない。地方在住ワーカーや副業ワーカーの労働機会を増やし、生産性を上げることが必要となってくる。

ビジネスモデル研究会で算出したデータによると、職業別の労働需要・供給バランス予測は、1位が専門的・技術的職業従事者で15.0%不足、次いで事務従事者の11.2%不足となっている。ハイクラス・専門技術職のマッチングにも打開策が必要だが、多数派であるミドルクラス・事務職のクラウドソーシング活用を促進することが今後の事業展開のカギなのではないかと考察した。

参加者とのディスカッション

最後に設けられたディスカッションタイムでは、

「電縁のM&Aによりシステム運用業務の案件化なども見込めるのでは」

「低単価の案件が多い一方で、趣味の延長でお金をもらえたりプロになるための実績を積めたりする仕組みがあるのはいい」

「習い事サービス『サイタ』の運営を通じ、ワーカーのスキルアップ支援も行っている。発注者からだけでなくユーザーからの収益も見込めるのはプラットフォームとしては重要」

「確定申告支援など、ワーカーが離れない戦略も必要なのでは」

といった意見や感想が参加者から寄せられ、幹事団の分析をより深く掘り下げる有意義な時間となった。

ビジネスモデル研究会のイベントは、在校生だけでなく卒業生の参加も多い。代表幹事の太田真氏も卒業生であり、「グロービスでの学びを再び活性化させる役に立ちたい」とクラブ運営の想いを語っている。リスナーとしての参加はもちろん、幹事団の企業分析に加わることも可能とのことなので、興味のある方は手を挙げてみてはいかがだろうか。

「ビジネスモデル研究会」とは

グロービス経営大学院での学びをベースに、成長企業や業界の代表企業を取り上げてビジネスモデルを分析することにより、より実践的なビジネススキル(新規事業開発、事業再構築等)を身につけることを目指すクラブ。3ヶ月ごとに1社〜複数社のビジネスモデルを幹事団が分析し、参加者を交えた発表会を定期的に行っている。

クラブ活動とは

社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。

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