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数字で人を動かす――KPIの威力

2020年09月10日

  • 書籍
  • マーケティング・戦略
  • 思考
嶋田 毅 グロービス電子出版発行人 兼 編集長、出版局 編集長

今年8月発売の『KPI大全ー重要経営指標100の読み方&使い方』と関連して、数字、KPI(Key Performance Indicators)で人を動かすということについて考えてみます。

数字を測定されると人は大事だと思い込み、行動が変わる

数字というのは非常に面白いもので、それを測定・公開することにより(さらにはそれにインセンティブをつけることにより)人々の行動を大きく変えることがあります。

たとえばかつて「レコーディングダイエット」というダイエット手法が話題になりました。これは単に毎日体重をつけるだけといういたって単純な方法なのですが、その数値を見ることで、ダイエットが必要な人は「この体重ではマズイ。痩せなくては」と思い、痩せる努力をするようになるのです。そして数字が毎週減っていくとそれが楽しくなり、さらにダイエットが進みます。単に測定するというだけでも、数字にはこのように人を動かす威力があるのです。


企業でも、ある経費項目について測定し関係者に共有すると、「この経費は下げなくてはならない」と皆が考え、その数字が減っていく傾向がみられます。人は何かを測定されると「大事なものだから測定して数値化しているのだろう」と思いこむ習性があり、それがこのような結果につながるのです。


それまで測定されていなかったものが数字として明確に測定されることで、人々の動きが変わることもあります。例えばプロ野球では、筆者が子どものころは「セーブ(リリーフ投手がリードを守り切って最後まで投げた時に与えられる記録)」という概念はありませんでした。しかしある時期からそれが公式記録になったことで、それまで日陰の存在だったリリーフ投手に脚光が当たるようになり、優秀な投手もリリーフという役割を受け入れるようになったのです。初期に江夏豊投手というロールモデルが登場したこともそれを加速しました。もしセーブが公式記録にならなかったら、「ハマの大魔神」こと佐々木主浩投手、「死神」こと岩瀬仁紀投手などの名リリーバーは生まれなかったかもしれません。


数字にインセンティブ(ご褒美)がつくと、人々はさらにその数字に注目するようになります。わかりやすいのは営業担当者の売上げに応じたインセンティブでしょう。経営者であれば株式報酬を与えられることも多いですが、そうした経営者は、株式報酬を持たない経営者に比べ、やはりより株価を上げるように業績を上げたり、投資家を惹きつけるようIRを徹底するように動機づけられるのは必然と言えるでしょう。

適切なKPIを考える―警察署長に住民のために働いてもらうための数字は?

ビジネスに関するKPIは今般出版した『KPI大全』に100個紹介しました。これらはいまどきのビジネスパーソンなら知っておきたいものばかりです。


今回は頭の体操として、警察署長に住民のために働いてもらうためのKPIは何が適切かを考えてみましょう。ここでは典型的な市町村や区の警察署を考えます。


現時点で署長が気にするのは以下のような数字でしょう(もちろん、他に定性的な項目もありますが、ここではいったん捨象します)。


・犯罪件数
・検挙率
・不祥事数
・殉職者数
・交通事故件数
・交通違反取り締まり件数


気になるのは最後の交通違反取り締まり件数でしょうか。これはなぜか罰金の予算があるらしく、ときどき強化期間があるようで、それがドライバーにとっての不満につながっています。


また、筆者はかつて盗難事件の相談で地元の警察署に行ったのですが、「これは事件性が薄いから受理できません」と言われたことがあります。言葉は慇懃でしたが、無駄な仕事は減らしたい、検挙率が下がるのは嫌だという態度が見えて良い気持ちはしませんでした。


不祥事についても、ニュースにでもならない限りは普通は隠される傾向があるので、正確な数字が補足できているかは非常に疑問です。


警官が不審者(と見えた人)に職務質問をすることも多いですが、しばしば態度が高圧的で、市民に圧迫感を与えるとの意見も見ることがあります。明らかに抜けているのは、住民からの評価の視点でしょう。企業であれば顧客満足度やNPS(推奨意向)をとるのは常識ですが、警察に限らず公的機関は往々にしてこの観点がありません。


これらを勘案したうえで、警察に住民の安全や治安のためにしっかり働いてもらう上で、署長の評価以下のようなKPIとするというのはどうでしょうか(ここではいったん必要な投資は無視しています)。


・住民の警察署に対する満足度
・都道府県警からの評価(相互)
・署内の360度評価
・犯罪件数
・検挙率
・検挙数(犯罪のレベルに応じて点数化)
・不祥事数(ニュース級)
・不祥事数(告発件数、オンブズマン報告数)
・殉職者数
・交通事故件数
・警察署に対する「いいね」数


最後の「いいね」は、例えば見づらかった交通標識を見えやすくして住民から感謝された、振り込め詐欺を未然に防いだなどに対するプラスの評価です。人間をプラスの方向に駆り立てるためにはこのような指標は非常に大事ですので入れてみました(実際にネットで集めるのか、ハガキなどで募るかというテクニカルな問題はありますが)。


こうすれば、多少「上から目線」になりがちな警察も、より住民目線で仕事をしてくれる可能性は増すのではないでしょうか。


皆さんも、「どういう数字を測定したり、それにインセンティブをつけると人の動きが変わるか」ということを思考実験的に考えてみると、いざ自分の会社でKPIを活用する際にも応用力は高まります。ぜひ今回の例、あるいは別の例(例:国会議員のKPIなど)で考えてみてください。

嶋田 毅グロービス電子出版発行人 兼 編集長、出版局 編集長

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。


グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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