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Withコロナ時代に勝負する:大企業での「安定」から、地方発の「挑戦」へ

2020年07月17日

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  • リーダーシップ
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  • 新型コロナ
土橋泰輔氏 株式会社萬坊 取締役総務経理部長

大手企業の中間管理職から、中小企業の経営者に。

コロナ禍、多くの企業が予期せぬ壁に直面し、それらをどう乗り越えようかと試行錯誤している。九州でお馴染みの味、“いかしゅうまい”発祥の地、そして日本初の海中レストランとして知られる、佐賀県唐津市にある株式会社萬坊(以下、萬坊)も例外ではない。自粛ムードが続く中、飲食・観光業界には強烈な逆風が吹いた。


同社は、2019年12月に九州旅客鉄道株式会社(以下、JR九州)の子会社となった。2代目社長であり、創業者の娘でもある太田順子氏と共に会社を率いるため、JR九州から土橋泰輔氏が出向した。

萬坊に出向してすぐの土橋氏。

200近い応募があった新規事業コンペで、最優秀賞に。

サラリーマンとして粛々と仕事をこなしていた中、訪れた転機。


―JR九州では、どのような仕事に関わっていましたか。


土橋:私は2003年に新卒で入社して以来、長らく財務部で予算編成や決算、資金運用に関わってきました。30代中盤になり、専門分野を持ち、順調にキャリアを重ねていましたが、今振り返ると、やや受動的でした。情熱や使命感といった青臭いものとは少し距離を置きながらサラリーマンとして粛々と仕事をこなしていました。



―仕事の姿勢が変わったきっかけは何でしたか。


土橋:2014年、会社の指示で、グロービス経営大学院(以下、グロービス)で1科目だけ受講したのがきっかけです。最初は前向きでなく、「ある程度の成績を残したら人事評価につながるかな」という、打算があったぐらいです。でも、授業を受けるたびに変化が起きました。成長の手応えを感じはじめ、それまで仕事で関わってこなかった分野へ興味が広がっていったのです。



―受講が転機になったのですね。


土橋:授業の内容はもちろんですが、業界や職種・役職を越え、情熱をもって必死に学ぶ仲間たちとの出会いも刺激的でした。グロービスの教員は実務経験豊富な第一線でご活躍されているビジネスパーソンです。実際の仕事で起こる事例を授業の中で盛り込んでくださるので、ストンと腑に落ちる機会がとても多いのです。受講開始当初は消極的でしたが、1科目が終わる3カ月経った頃には、「これで終わったらもったいない」と思うようになっていました。グロービスには大学院入学前に1科目(3カ月)から受講できる制度があるのですが、こちらを利用して2科目目からは自費で受講することを決めその後、大学院へ進学。3年かけてMBAを取得しました。

忘れかけていた「志」が、うずきはじめた。


―MBAプログラムを修了してからも何か変化はありましたか。


土橋:マインドの変化ですね。もともと自分の意見を積極的に言うタイプではなかったのですが、グロービスで出会った仲間と過ごす中で、「興味のあることに前のめりでいることは楽しい」「興味があることはやったもん勝ち」だとポジティブな思考に変わっていきました。加えて、忘れかけていた「志」がうずきはじめ、情熱や好奇心に従って動こうと考えるようになりました。



―新規事業提案プログラムへの応募もそうした背景が関係していますか。


土橋:そんな時にちょうど社内で新規事業提案プログラムがはじまりました。以前の自分だったら応募しなかったと思いますが、「入るなら一番風呂だ」とチャレンジすることにしたのです。新規事業のアイデアを考えていたとき、グロービスで出会った事業承継を控えた仲間の悩みを思い出しました。地方における人材や経営資源の不足という生々しい危機意識に対して、JR九州の資源を生かせば一緒に課題解決に取り組めるのではないかと考えたのです。



―改めて、どういうプログラムだったのか教えてください。


土橋:そもそもJR九州は、「地域を元気にする」という使命のもとに、九州全域に駅やまちをつくってきました。これまで築いてきた九州全域でのネットワークや、大企業ならではのスケールメリットという強みがあります。それらを活用することで、地域の中小企業を応援できるのではないかと考えました。これまでは財務部なので、毎日パソコンに向かって仕事をしていたのですが、最終審査では大会議室で、大勢の役員の前でプレゼンテーション。とても緊張しましたが、九州を盛り上げていきたいという情熱が伝わり、最優秀賞に選ばれました。



―それを機に社内での立ち位置も変わったそうですね。


土橋:これを機に、経営企画部というM&Aに関わる部署に異動しました。そこで弊社とタッグを組む地域の優良企業を知る機会を得たのです。魅力的だと感じた企業に投資をし、M&Aの提案をしていくのが私のミッションでした。その中で出会ったのが、今出向している萬坊です。



―萬坊の第一印象はいかがでしたか。


土橋:当時の萬坊は、2代目の社長が就任後、不採算部門を整理するなど、将来を見据えた経営改革の真っ只中でした。いかしゅうまい発祥の店であり、日本初の海中レストランを営む企業で、「日本初」の称号を2つも持っていることは大きな強みだと思いました。社長と直接お話をした際、「地域を盛り上げていきたい」という強い信念があり、すっかり惚れ込んでしまいました。規模こそ大きくはないものの、ポテンシャルは計り知れない。財務面から見ても伸びしろが大きく、ワクワクする要素がたくさんありました。一緒に仕事がしてみたいと感じたので、パートナーに選んでいただけた時はとてもうれしかったですね。

普段は自ら作成した萬坊オリジナルTシャツを着て、仕事をしている。

順風満帆なスタートから3カ月後、危機的状況が訪れた。


―JR九州から萬坊に出向し、社長の右腕として動きはじめたのが2019年末でしたね。


土橋:40代のスタートという節目に、大企業の中間管理職から中小企業のNo.2の経営者として出向することが決まり、傍から見れば順風満帆なキャリアチェンジに見えるだろうなと思っていました。実際、出向直後は、事前の計画通り、JR九州のネットワークを生かして、主要駅のお土産販売店にいかしゅうまいを卸して販路を拡大し、商品の生産過程を見直して効率化を図るなど、テコ入れもうまくいっていました。



―コロナの影響が出はじめたのはいつ頃でしたか。


土橋:20年3月まではまだお客さまにお越しいただいていましたが、4月からぱったり客足が遠のきました。営業していたら叩かれるという状況が飲食業界に降りかかり、レストランはもちろん、百貨店の中の直営店も全て休業するなど、経営的にはかなりきつかったです。しかし、JR九州・萬坊両社の考えとして、「従業員は絶対に守る」と決めていました。給与も払い続け、萬坊の社員全員で今やっておくべきことを必死に考え、商品開発などを手がけました。そして、5月中旬ぐらいから徐々に営業を再開しました。



―営業再開後の変化はいかがでしたか。


土橋:営業再開後は、以前の半分ほど戻ってきたかなという印象ですね。もちろん、もっと増えてくれるとうれしいのですが、指をくわえてそれを待っているだけでは仕方がないと考えています。

コロナ前に戻すのではなく、コロナをきっかけにビジネスを進化させる。


―戻るのを待つのではなく、新しいやり方で乗り越えていくということでしょうか。


土橋:そうです。人は、元に戻ろうとする「正常化バイアス」があるので、従業員も頑張って元に戻そうとさまざまな努力をしてくれています。でも、私はリーダーとして従業員にこれからの方向性を示していく立場にあるので、解釈を変えていく必要があると考えました。例えば、コロナ禍はネガティブな文脈で語られることが多いですが、見方を変えれば、デジタル化を急速に進められる良い機会でした。リモートで福岡・東京・海外のビジネスパーソンやお客さまにすぐアクセスできるようになり、心理的距離も変化したのです。実際、いかしゅうまいもECショップは好調な動きをするなど、困難の中にも光は見えました。



―解釈を変えて、ネガティブをポジティブに変換していくのですね。


土橋:まさにその通りです。大企業では何か変化を起こす際に時間がかかるものですが、中小企業は、フットワーク軽く新しい試みを素早く実践できるのが強みです。これまで萬坊は、高級路線・ギフト需要でしたが、それに加えて、もっと日常生活の中にある需要にも応え、ご自宅で楽しんでいただける方法はないだろうかと模索しています。これは私たち経営陣だけの話ではありません。厨房で働く従業員も、今までレストランでしか提供できなかった「いか活造り」のようなメニューをご自宅でお楽しみいただけるようにできないか、など試行錯誤を重ねて意欲的に提案してくれています。実際、「いか活造り」は20年6月下旬にはECショップ限定で販売開始にもこぎつけています。



―解釈を変えるというのは意識してやらないと難しそうですね。


土橋:グロービスで何百ものケース(企業事例)について議論し、さまざまな業界や職種、役職の立場に立って、意思決定のトレーニングを行ってきました。それらがそっくりそのまま参考になるとは限りませんが、グロービスで学んできたさまざまな問題解決方法を応用することはできます。例えば、東日本大震災後の経営者のケースから、有事の際の経営者が持つべきマインドやどういったリーダーシップを発揮するべきなのかを学んでおり、大いに役に立ちました。



―グロービスでの学びが今の仕事につながっているんですね。


土橋:学んだ知識を応用する力があれば、学びに費やしたコストの何十倍ものリターンを得られると実感できました。また、グロービスでさまざまな業界の仲間と出会えたので、例えば工場の修繕や法律的な悩み、広告展開についてなど、実際の経営の現場で生じた悩みを率直に相談できる人たちを多く得られたことも大きな収穫でした。ただ名刺を交換しただけの知り合いとは全く違う、頼もしい同志をたくさん得ることができました。

どんなに苦しい状況でも、社員は絶対守ると固い意志を示す。

今後はスーツを着て、出勤するだけでは給料は出ない。個人としての力が試される。


―コロナを機に、社会全体も変わっていきそうですね。


土橋:組織も個人も、価値観や当たり前が大きく変化しそうですね。会社員だって、スーツを着て出勤するだけで給料がもらえる時代は終わったといえるでしょう。リモートワークが当たり前になりつつある今、極論すると評価軸は「成果」のみ。会社員であっても個人としての成果を目に見える形で示していく必要があります。



―個人の付加価値を高めていくためには何をしたらいいと思いますか。


土橋:変化の激しい時代ほど、とにかく思考停止に陥らないことが大切ではないでしょうか。何をすべきか、情熱を向ける矛先がわからない時もあるかもしれませんが、とにかくワクワクするものに向かって動いていれば、新しい人や刺激に出会うチャンスにつながります。そして、そうしたチャンスに直面した際に、全てのことをポジティブに捉える姿勢を持っていれば、解釈力が磨かれて、新しい仕事に挑んでいけるはず。人は偶然の出会いや学びから人生が大きく変わったり、成長するきっかけを得たりします。私は、その偶然は、意識的に興味や情熱の矛先に向かって動いていれば、自然と引き寄せられると考えています。

グロービスで得たレジリエンス(折れない心)が、未来を明るく照らしてくれる。

「自ら率先して踊るリーダーになりたい」と熱く語る土橋氏。

―土橋さんもご自身の付加価値を高めることを意識されていますか。


土橋:私が目指すリーダーは、「自ら率先して踊れるリーダー」なんです。集団の中で誰か1人が変な踊りをしていたら、徐々に真似する人が増えていって、それがチームや仲間になるのだと思います。萬坊でも、私がその1人目になろうと、萬坊マークのパーカーを着はじめました。最初は私だけでしたが、徐々に着てくれる人が増えていきました。暑くなってきたので夏はTシャツにしていますが、みんなで着ることで新しい萬坊を見える形で示していきたいんです。まずは小さいところからコツコツと。



―土橋さんのこれからの夢を聞かせてください。


土橋:私自身もまだ高い壁を乗り越えている最中に過ぎませんが、見えている未来は明るい光に満ちています。それはグロービスで圧倒的な量のケースを議論することで訓練された解釈力や知識をビジネスに生かすための応用力、共に進んでいける仲間の存在、自分の中に燃えはじめた志の探求など、学びを通じてレジリエンス(折れない心)が高まったからだと思います。これからは身につけた力を周りにも伝えていきながら、JR九州というフィールドを使って、九州全体を盛り上げていきたいです。(終)

土橋泰輔氏株式会社萬坊 取締役総務経理部長

九州大学経済学部卒業後、2003年九州旅客鉄道株式会社に入社。香椎駅の駅係員にはじまり、2006年から13年に渡って財務部に在籍し、予算、決算、資金運用などを幅広く経験。2015年4月にグロービス経営大学院に入学し、2018年3月に卒業。2019年からは経営企画部でM&Aを担当。同年12月に自らM&Aを手がけた株式会社萬坊に出向し、現職に就く。日本証券アナリスト協会検定会員。

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