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日経新聞による、コンテンツプラットフォームサービス「note」への3億円出資を検証しよう――「第2回ネット業界ファイナンス勉強会」イベントレポート

2020年03月04日

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クラブ活動 「グロービス・ファイナンス・クラブ」「グロービス デジタルマーケティングクラブ」 活動レポート

グロービスの学生が、共通の目的や問題意識を持つ仲間と自主的に取り組むクラブ活動の活動事例紹介。

前回の代表幹事インタビューに続き、先日行われたグロービス経営大学院・公認クラブ「グロービス・ファイナンス・クラブ」と「グロービス デジタルマーケティング クラブ」が共催する勉強会の内容をお届けします。

「グロービス・ファイナンス・クラブ」と「グロービス デジタルマーケティングクラブ」の合同イベントとなる、「第2回ネット業界ファイナンス勉強会」が、2019年2月22日にグロービス経営大学院・東京校で開催された。この日のテーマは、日経新聞とコンテンツプラットフォームサービス「note」を提供する株式会社ピースオブケイクの資本業務提携について。事業シナジーやファイナンスの視点から、このディール(売買や取引)を定量評価することでファイナンスへの勘どころを高め、感覚をアップデートすることが本イベントの目的だ。


日経新聞の3億円の出資をnoteがどのように戦略に落とし込むのかという、まさにファイナンス×マーケティングの観点から議論が進んだ様子をレポートする。


モデレーターを務める大石雅彦氏は大手新聞社に入社後、新規事業の開発やベンチャー投資の実務を経験し、マーケティング支援を生業とするIT企業の買収を推進。PMIの一環として買収した企業へ取締役として出向し、経営・統合を牽引した経験を持つ。大企業とベンチャーとの架け橋になりたいと言う。冒頭、大石氏からピースオブケイク社の概要説明と両社のビジネスモデルやKPIツリーについて示された。そして、各社のシナジーと資本提携がもたらす価値をグループワークから考察するスタイルで勉強会は進行した。

メディアは、一方通行型から双方向型へ

最初に行われたのは、参加者のファイナンス感覚の確認である。日経新聞がピースオブケイク社に対して行った3億円の出資をどう見ているのか。「安い」「まあまあ安い」「妥当」「高い」「高すぎる」の5段階で評価をしてもらった。


「最初の感覚からどのように考えが変化するのかを楽しみましょう」と声をかけ、大石氏は資本業務提携における事業シナジーを考える上での「思考のプロセス」を説明。

その後、Step1の事業資産の理解として話題はピースオブケイク社のビジネスモデルへと移った。ピースオブケイク社は、250万部以上を売り上げたベストセラー『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海著・2009年 ダイヤモンド社)の編集を務めた加藤貞顕氏が2011年に創業。現在、クリエイターや出版社のコンテンツを配信するサービス「cakes(ケイクス)」と、クリエイターの情報発信プラットフォーム「note(ノート)」を運営している。


noteは、文章、写真、イラスト、音楽、映像などを誰もが手軽に投稿できる情報発信プラットフォームである。投稿者は自分のコンテンツに自由に価格を設定して販売できる。


インターネットの世界は、通信性能が上がるにつれ、デバイスやソフトウェアも変化している。情報収集の方法もGoogleの検索エンジンからソーシャルへと変わりつつある。こういった中で、メディアが変わるのは必然のこと、とは大石氏の談だ。では、メディアはどのように変わってきたのだろうか。


「これまでは、情報の送り手から受け手へと一方通行の関係でした。しかし、スマホの普及により、いまや誰もが投稿できる環境になったのです。メディアビジネスも当然、発信するユーザーを巻き込んだサービス設計を意識するようになりました。実際に、影響力のある著名人がニュースを取り上げてそこから拡散されていく『NewsPicks』のようなメディアも誕生して拡大しています。時代の流れが、強い発信ユーザーと共にメディアを作る方向へ進んでいることを考えると、日経新聞がnoteに興味を持った理由が自然と見えてくるのではないでしょうか」

日経新聞とnote。それぞれのロジックツリーを分解してみる

続いてStep2、3へとそれぞれの売上構造の理解や、それを踏まえたシナジーの考案へと展開。


日経新聞のIR情報を読み解くと、売上は「販売収入」「広告収入」「その他(イベント収入など)」に大別できる。このうち販売収入を「紙版」と「電子版」に分解することができる。


有価証券報告書(2019年1月1日時点)には、紙版は「購読者数が微減した」「月額購読料金を値上げした」とあり、売上は微減している。これを好調に推移している電子版がカバーしており、全体として増収で着地している。全体で300万人と言われる有料会員のうち、電子版の会員が60万人であることを踏まえると、紙版と電子版それぞれの売上高や割合も算出が可能だ。


大切なことは、数字を大づかみで捉えるのではなく、なるべく分解して「規模が大きな指標」と「その傾向」を理解すること。ビジネスオーナーの視点に立って「今は、どの数字を改善するために、特にどこに注力すべきか」を想像していくことだという。

一方、noteはどうか。会員も20~30代を中心に若い世代が多いという。集客チャネルもSNSからの流入が多いのが特徴的だ。


以上を踏まえ、大石氏は日経新聞とnoteの資本業務提携について考察を深めた。


「日経新聞は、電子版の有料登録者数をさらに伸ばしたいと思われます。特に20代が牽引していて、そこへのエンゲージメントを高めたい。若い世代で発信力の高いユーザー層を多く抱えるnoteとの相性は良さそうですよね。また、若いうちに読者を囲うことができるとLTV(Lifetime Value:顧客が将来にわたって企業にもたらす利益の現在価値)も高くなることが想像できるので、本取り組みはデジタル戦略の中でも重要な位置づけなのではないでしょうか」

両者がシナジーを生むためのアセット

ここまで進行したところで、1回目のワーキングタイムが設けられた。お題は、noteの売上を伸ばすために活用できる日経のアセットを考察しよう、というもの。チームになってワークを行った参加者からは、以下のような意見が発表された。


「アセットの1つは、日経新聞の既存顧客です。noteに流入させるために日経電子版から導線をはることで閲覧者も増えると考えます。また、日経の記者がnoteの投稿ユーザーになればメディアの質が上がり、日経の宣伝にもなり、noteの有料記事をいくつも買うことでユーザーの購買単価も上がります」

良質なユーザーがnoteの存在を認知してから、ファンになり読む・買う・書くという顧客の体験価値を高める仕掛けとして、「投稿者の意欲を高めるために、日経の記事を題材にnoteのコンテンツを書いてもらうなどの企画も考えられるのではないか」という発想も生まれた。


さまざまな意見が出たところで、今度は大石氏が自身の考えを述べる。


「日経の持つネットワークを使って、著名人にnoteでの発信を依頼することはできそうですよね。結果、noteでの質の高いコンテンツ増えることになります。これにともない著名人の記事を購入するユーザーも増えていけばnoteの売上も向上するでしょう。また、noteは現在(2019年2月時点)、クリエイティブ系の投稿者が多いですが、一般的に売れやすいビジネスコンテンツの投稿ユーザーや読者の流入を実現できれば、ARPU(ユーザー1人当たりの平均売上単価)の向上も見込めるかもしれません」


加えて、出資金の使い道についても言及した。


「noteは出資金をデータサイエンティストの体制構築に充て、レコメンドエンジン(ユーザーにコンテンツをおすすめするツール)の改良を重ねるのではないかと思います。投稿が増えるにつれ読者は見たいコンテンツが探しにくくなります。この出資提携により、日経IDとの連携が進めば、ユーザー一人一人に合わせたコンテンツのレコメンドがしやすくなります。こういったアセットの使い方も考えられそうです」

反対に、noteのアセットを日経新聞が活用した場合はどうなるのか。大石氏は、noteのコアユーザーである20~30代のビジネスパーソンに日経電子版の存在をアピールできれば、そこから購読につながるかもしれないと考察する。さらに、両社が2019年2月から共同運営するコミュニティ『Nサロン』も、日経電子版の購読継続率アップにつながるのでは、と述べた。


「Nサロンでは、デジタルネイティブの若手と各業界のエグゼクティブをクロスさせ、いままでにない視点や議論を創出するような展開をみせています。おもしろいのは、noteに作ったNサロンのページに発信力のありそうなユーザーを集めて投稿を促しているようにみえることです。投稿記事はオフィシャルで拡散するなど、バックアップもしています。それを見た人が、またSNSで反応する。このサイクルをぐるぐる回してロイヤルカスタマー(投稿力もあり、かつ、購買額も大きい顧客セグメント)をつくることが両社の目的の1つではないでしょうか」


なお、この先noteは、法人顧客の獲得や海外展開を目指すのではないかという。実際に、法人アカウントは増加傾向にあり、noteを活用したマーケティングの支援ニーズは出てきていると大石氏は解説した。

日経新聞とピースオブケイク社の資本提携の考察が進んだところで、「両者のアセットを使うことで、どの指標がどれだけ伸びるのか?数字に落として考えてみましょう。特に、両社が重要だと考えている指標が何パーセントあがり、それをキャッシュフローに落とし込んで考えると…。正解はないので、数字を作ってみて、キーパラメーターをいじることで、感覚がアップデートしていくと思います」と大石氏自身の考察を交えながらワーキングタイムが進められた。

ロジックに触れて、感覚を研ぎ澄ます

勉強会もいよいよ終盤になり総括へと移る。大石氏は、改めて今回のディールについてみなさんの感覚値をもう一度確かめたいと参加者に声をかけ、再び5段階で評価を尋ねた。その結果を見て大石氏が「みなさん、感覚アップデートおめでとうございます」と述べると、会場からは笑いと拍手が起こった。


 「事業やシナジーを指標に分解して理解することで、この提携ではお互いのどこをどう高めたいのかを見極める力がつくと思います。これは一長一短ではできない。筋トレと同じで、回数を重ねることで感覚を研ぎ澄ましていけると思っています。色んなビジネスモデルがどんどん出てきますから、わたしもまだ発展途上。日頃の業務の中でファイナンス系のニュースに触れたとき、ぜひ数分間だけでいいので頭の中で分解してみて大まかなシナジーを想像し、このディールは妥当なのか否か、考えてみてください。繰り返し磨いていくと感覚はさらにアップデートしていくと思います」とコメントし、勉強会は終了した。

このように「ネット業界ファイナンス勉強会」は、大石氏のようなファイナンスとデジタルマーケティングの両方に実務経験があるプロフェッショナルがリードしていく。テーマをわかりやすく深堀りできることはもちろん、普段はまったく異なるフィールドで活躍する両クラブメンバーが一堂に会し、議論を交わせる点も大きな魅力である。新たな学びと気づきは、明日からの本業に活かす手立てとなるはずだ。

「グロービス・ファイナンス・クラブ」とは

「ファイナンスの理論と実践の融合」 「シカゴ大学やペンシルバニア大学ウォートン校に負けないファイナンスMBAの創出」を目的に継続的に勉強会を開催。直近の資本市場で起きているリアルケースをもとに参加メンバーと知識と知恵を共有し、メンバーのファイナンスレベル向上をめざすクラブ。

「グロービス デジタルマーケティング」クラブとは

今や企業や社会のデジタル対応は当たり前。進化の早いテクノロジーとビジネスをつなげるための橋渡しとして、デジタルマーケティングの有識者を招いた大規模イベントやクローズドな講演会・勉強会などを定期的に開催。「しっかりデジタルマーケティングを活用できる」状態をめざすクラブ。

クラブ活動とは

社会の「創造と変革」に貢献することをテーマに掲げ、グロービスの学生が自主的に取り組む活動です。共通の目的や問題意識を持った同志が集い、それぞれのクラブが多彩なテーマで独自の活動を展開しています。学年の枠を超えて、在校生と卒業生が知識や経験を共有し合うクラブ活動は、志を実現につなげるための場として、大きな意味を持つものとなっています。


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クラブ活動「グロービス・ファイナンス・クラブ」「グロービス デジタルマーケティングクラブ」 活動レポート

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