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ディープテックで戦う企業に必要な仕組みとは?

2020年01月17日

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田久保 善彦 グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

投資家として日本のディープテック領域を牽引し、直近では大企業との協業によって新規事業を生み出すスタートアップスタジオを始めた中島徹氏。前編に続き、日本の大企業がディープテックを強みにしていくためにはどうすればよいのか、話を伺った。

注目したいディープテック領域

田久保:中島さんは、ディープテックの中でもどの領域に注目されていますか。


中島:「ヒューマンオーグメンテーション」に関する領域です。あまり聞いたことがない言葉だと思いますが、日本語で言うと「人間拡張」です。AI、ロボティクス、電子工学、AR、VR、ブレイン・マシン・インターフェース、バイオサイエンスなどの要素技術を複数組み合わせることで、身体能力を向上させ、健康寿命を伸ばしたり、不可能であった様々なスキルの習得を実現したりする分野です。


人生100年時代といわれていますが、当然ながら健康寿命は100年にならないですよね。早い人は50代でガタが来ます。それでは100年生きても幸せではないですよね。その健康寿命をもっと伸ばして、人がより生き生きと暮らせる世界を実現させていく。


そして、100年も生きるのであれば、いろんな仕事をやっていくべきだと思っていて。いろんなスキルを覚えるところを、ロボティクスや他の様々な技術を組み合わせてサポートをしていく、それによって人生の選択肢を増やしていく世界を創る。


そういったところに注目していて、ファンドではこの分野を中心に投資をしようと思っています。


田久保:5年後、日本はどんな状況になると思いますか。


中島:日本がどうなるか語れるほどでもないので、我々のファンドとスタジオの活動の5年後に関してお話しさせて下さい。ファンドのほうは、いくつかExitが出ていて、もう少し大きな規模の2号ファンドを新たに組成できていて、まだ投資できないような領域にも投資している。


スタジオのほうは、今は非常に仲のいい企業が会員になってくれているのですが、まだ業種の幅が狭い。5年後は、いくつかスタートアップ化出来た事例が出てきていて、かついろんな業種の人たちを混ぜてプロジェクトをやれる形になっていくといいなと思っています。


僕らは、ベンチャーキャピタルという仕事自体が、もうそんなに長くないんじゃないかなと思っています。「ハンズオンでやりますよ」と言っていても、フルタイムでやっているわけではないですし。国内の投資家でいうと、自分で起業して成功した人というのは少ないし、エンジニアリングのバックグラウンドがある人も少ない。


そういう意味で、将来的にはスタジオという形がもうちょっと出てくるんじゃないかなと思っています。それ自体は別に競合だとは考えていなくて、そういうスタジオがいっぱい出てきて一緒に日本を活性化していきたいです。


田久保:スタジオに人があふれるぐらいの状況になったら、日本はテクノロジー強国に戻れるかもしれないですよね。

大企業はどう変わるべきか?

中島:能見さん(産業革新機構の前CEO)が以前、こんなことを言っていました。事業というのはリスクをとって形にしていくことが大事なのに、日本の経営陣はみんなリスクを取らなくなった、だから日本に閉塞感が漂っているんだと。そこが変わってくれるといいなと思います。


田久保:先日あるメーカーの技術部長が「最近の若いエンジニアはすごくかわいそうだ」と言っていて。働き方改革という名の働かない改革が行われ、闇研が一切できないと。部品も1個単位で発注管理されるから、実験用に余計に買うことができない。これじゃあエンジニアの能力が高まらないと。リスクをとらず管理を強化している日本企業に対して、何か建設的な提言はありませんか。


中島:NANDフラッシュとかDVDが出てきた頃に働いていた東芝の研究所の人は、「昔はよかった」とよく言っていたんですよね。すぐに結果がわからないいろんな研究に自由にお金を使わせてもらえたと。NANDフラッシュのときなんて100億規模の損を出して何年も赤字でも「いいじゃないか、やらしてやれば」と見守ってくれていたらしいんです。


昔はある意味、NANDフラッシュのような賭けをたくさんやっていたとは思うんですね。今はその賭けをやれというと、「賭けのバジェットをつくってその中でやる」みたいな話になるけど、そうじゃなくて。研究所の中の人たちがやりたいと思うかどうかが大事、と思っていて。


中の人たちも変わってきていると思います。昔は給料がどうかというより、面白いものがつくりたくてNANDフラッシュとかできたんだと思うんです。でも今の若い人たちって、面白いから作るというより、自分に対するリターンとかインセンティブが何であるか考えるようになっているので。


そういう意味だと、バジェットをつくった上で、「これが成功したらこんなリターンがある」というのを設定してあげるといいと思います。投資的な発想かもしれないですけれども。今は「みんな平等」で個人へのインセンティブが全くないですよね。

「やりたい」という想いを持ち続けるために

田久保:エンジニアがスピンアウトしてディープテックのベンチャーを立ち上げ、10億の資金調達をしても、すごく余裕があるわけではない気がします。


中島:確かに、ディープテックのスタートアップは、資金調達に成功したとしてもお金はシビアですね。企業にいる方がお金に余裕はあるはずです。ただアップサイドもあるし、実現に向けた本人のやる気が全然違うと思いますよ。


Mistletoeで副業をテーマとしたプロジェクトをやっていたときに、メーカーの人たちにあるスタートアップを手伝ってもらったんです。そのときに言われたのが、「ここにいる人たちの爪の垢を煎じてうちの部下に飲ませたい」と。全然本気度が違うと。


お金がなくなって死んじゃうかもしれないという切迫感は当然ありますが、これをやることによって、自分たちがやりたいことができるんだという想いをものすごく強く持っていると。企業側は、そういった想いをどれだけ強く中にいる人に持たせられるか。それは「みんな平等」という仕組みの中ではできないと思います。


僕が東芝にいたとき、半導体の設計の中でもレイアウト設計ができる人は数人かしかいませんでした。その人たちがいないと事業が成り立たないのに、給料はみんなと同じだった。それでは本気度は上がりませんよね。


田久保:この構造にいまだ日本の大企業はちゃんと正対しておらず、みんな似たような給料でやっていると。差が付き始めましたといっても数百万程度ですし。

MBAを学んだ先に何をするか?

田久保:最後に、中島さんにとって、グロービスってどんな場所でしたか。


中島:大きく変わるきっかけをくれたところだと思っています。投資を始める前の最低限のお作法が学べました。ただ実際に投資家としてやるには、当然それだけでは足りない。エンジニアリングでもマスターを取った後、そこからが本当のトレーニングですよね。MBAも同じだと思うんです。


だから、貪欲に学び続け、自分を高め続ける卒業生をたくさん輩出して、早晩、アジアナンバーワンのビジネススクールになってほしいですね(笑)。


田久保:投資サイドも重要ですが、スタジオのプロジェクトメンバーとして、MBAを学んだエンジニアの人たちがどんどん参画してくれるとよいですね。そういう意味では、グロービスの卒業生にはエンジニアも多いので、個人的には大いにそこに期待したいです。


中島:そうですね。実業としてリスクを取ってやっている人のほうが、当然ながら成功したときのリターンは大きいですし。そういった仲間をもっと増やしたいなと思いますね。

田久保 善彦グロービス経営大学院 経営研究科 研究科長

慶應義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了。スイスIMD PEDコース修了。株式会社三菱総合研究所にて、エネルギー産業、中央省庁(経済産業省、文部科学省他)、自治体などを中心に調査、研究、コンサルティング業務に従事。現在グロービス経営大学院及びグロービス・マネジメント・スクールにて企画・運営業務・研究等を行なう傍ら、グロービス経営大学院及び企業研修におけるリーダーシップ開発系・思考科目の教鞭を執る。経済同友会幹事、経済同友会教育問題委員会副委員長(2012年)、経済同友会教育改革委員会副委員長(2013年度)、ベンチャー企業社外取締役、顧問、NPO法人の理事等も務める。著書に『ビジネス数字力を鍛える』『社内を動かす力』(ダイヤモンド社)、共著に『志を育てる』、『グロービス流 キャリアをつくる技術と戦略』、『27歳からのMBA グロービス流ビジネス基礎力10』、『創業三〇〇年の長寿企業はなぜ栄え続けるのか』(東洋経済新報社)、『日本型「無私」の経営力』(光文社)、『21世紀日本のデザイン』(日本経済新聞社)、『MBAクリティカル・シンキングコミュニケーション編』、『日本の営業2010』『全予測環境&ビジネス』(以上ダイヤモンド社)、『東北発10人の新リーダー 復興にかける志』(河北新報出版センター)、訳書に「信念に生きる~ネルソン・マンデラの行動哲学」(英治出版)等がある。

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